3,0 絶望の日
2015.02
この世の地獄だった日の話しをしよう。
その日、私は仕事だった。
時刻は18時、就業時間を終えて、携帯をみた瞬間に電話がかかってきた。
蓮からだった。
ゾワッと鳥肌がたったのを覚えている。
「お疲れ様」
「夏目、落ち着いて聞けよ」
慧が事故にあった、っていう報告だった。
時間が止まってしまったかのようだった。
世界が暗くなっていく。
私の光が消えてしまう感覚だった。
「○△病院にいる。入れるように名前は」
ぶちっと電話を切って、私はタクシーを呼んだ。
何も気にしてなんかいられなかった。
心臓が痛いくらい鳴ってる。
気持ち悪い。
世界がグルグル回っているみたい。
慧が遠くへ行ってしまう感覚が消えない。
大丈夫だよ。
絶対また会える。
また泣いていたら慰めてくれるよ。
また抱きしめてくれる。
震える手が、
身体が、
怖いと叫ぶ。
お願い、神様。
私から慧を奪わないで。
タクシーが止まって、病院の中に勢いよく入ると
そこに蓮が待っていた。
「夏目」
「蓮、慧は?」
「こっち」
蓮はゆっくり歩き始めた。
ねえ、どうして急がないの?
早く会いたいのに。
ポタポタ、涙がこぼれてくる。
待っていてくれた蓮の顔を見た途端
私には全部わかってしまった。
目を真っ赤にして、
何事もなかったらそんな顔にならないよね。
「入って」
開かれた扉の向こうで
私は初めて神様を恨んだ。
まだ温かい
ただ眠っているだけじゃない
「30分前なんだ、事故にあったのも」
蓮の震える声が後ろから聞こえる。
私は慧の手をそっと握る。
そっと、頬に触ってみる。
知っている匂い。
私の大好きな人だ。
「慧」
反応してくれないのは初めてだ。
どんなに怒っていても絶対に答えてくれた。
あなたの顔を見ておかなきゃ。
今しかないこの瞬間を
私の中に刻んでおかなきゃ。
ねえ、私のこと泣かさないって
そう言ったくせに、最後の最後で破った。
お願い、いかないで。
私を一人にしないでよ。
この日
慧はこの世界から居なくなった。
私の人生でもっとも絶望した日だ。