破壊神への胎内回帰
トーマス・ケンブリック男爵は、病の床に臥せっていた。
ベッドで一冊の本を読んでいる。
それは、仏教の教えを紹介している本だった。
その中に、こんな記述があった。
誰しも生きている以上、四つの苦しみからは逃れられない。
生きる苦しみ。
老いる苦しみ。
病の苦しみ。
死の苦しみ。
「ふぅ。確かにそうだ。私は人生を懸けて色々な物を手にして来た。しかし、それも、もう終わりだ。この最期の時を迎えても私は自分の人生に満足するどころか、失う事が恐ろしい。死ねば全ては水の泡だ。何一つとしてあの世に持っていける財産はない。私の人生は何のためにあったのだろうか?虚しい。余りに虚し過ぎる。人は何のために生まれてくるのだろうか?死ぬためか?生きるためか?人よりたくさんの何かを手にするためか?地位や名誉や偽善などつまらぬものだ。金で命を買うことは出来ない。時間だけが無情にもどんどんと流れていき、あっという間に老いさらばえた。もう、終わりだ。全てが終わりなのだ。虚しい。虚しすぎる。」
ケンブリック男爵は今までの自分の人生を振り返っていた。
確かに若い頃から、家が裕福だった事もありお金には不自由した事がなかった。女性とも派手に遊んだ。欲しい物は手にしてきた。地位も名誉も権力もそれなりに持っていた。
しかし、死ぬ間際まで来たときに、ふと気づいた。
自分の人生は何のためにあったのだろうか?と。
何故、自分は満足出来ないのか?
一体、何が不満なのか?
自分の人生で足りない物は何なのか?
わからない。わからなかった。どうすれば自分は満足して死ねるのか?
今、一番知りたいのは、それだった。
何を手にすれば、自分は満足して死ねるのか?
考えても考えても、答えは出なかった。
誰か!誰でもいい!教えてくれ!
人生とは何なのか?
私とは何なのか?
何のために生まれてきたのか?
私がすべき事とはなんだったのか?
自問自答を繰り返せば繰り返すほど、ケンブリック男爵の苦しみは増すばかりだった。
「失礼します。」
執事のワトソンが部屋に入ってきた。
「見つかったか?」
「申し訳ありません…。まだです。ご主人様の仰った通りに、その道に噂は流したのですが…。」
「やなり、噂は噂なのかもしれんな…。あの石があると言ってもロクな奴が来ない。いないのかもしれんな…。」
「ご主人様、本当にその人物はご主人様の望む事ができるのですか?」
「わからん。私も噂で聞いただけだからな。すまないが、引き続き探してくれ。」
「かしこまりました。それと、ご主人様宛に手紙がきておりますがいかがされますか?ご覧になりますか?」
「差出人は誰だ?」
「ロマーニ・プレッツィオという方からですが…。」
「何だと!」
ケンブリック男爵は慌てて、その手紙を受け取り封を切った。
すると、ケンブリック男爵の手はワナワナと震え、しばらくするとニヤリと笑った。
「やったぞ!ついに現れたぞ!本物だ!間違いない!ワトソン、すぐにこの人物を迎えに行け!急ぐんだ!」
「かしこまりました。すぐに手配します。失礼します。」
ケンブリック男爵は今までの病気が嘘のように体が軽くなるのを感じた。希望の光が見えてきた思いだった。とうとう現れたのだ。ケンブリック男爵が求めていた魔導師が!
今まで偽物ばかりだった。しかし、今度は違った。それは手紙を読めば明らかだった。その魔導師はこの家に伝わる緑色の石を何か言い当てたのだ。勿論、噂を流したのは男爵だ。しかし、謎の緑色の石があるらしい、という事までしか噂は流してない。
それをロマーニ・プレッツィオという人物は、「破壊神の記憶」という名前まで言い当てたのだ。今度こそ間違いなかった。このロマーニという人物は本物に違いない。ケンブリック男爵の胸は期待で高鳴るのだった。
一週間後、その人物はケンブリック男爵の屋敷に到着した。
頭はスキンヘッドで目が鋭く、紫色のローブを着ていた。
召し使い達が彼の色々な荷物を受け取ると車から下ろした。
ロマーニは気前よく、チップを召し使い達に払った。
執事のワトソンはロマーニをケンブリック男爵の寝室に案内した。
「失礼します。プレッツィオ様をお連れしました。」
ケンブリック男爵は、起きて待っていた。
「初めまして。ロマーニ・プレッツィオです。」
「トーマス・ケンブリックだ。初めまして。遠い所をわざわざありがとう。」
「いえいえ、こちらこそ。体が悪いのですか?」
「いや。今日は気分がいいから大丈夫だ。ワトソン、君はあれを持ってきてくれ!」
「かしこまりました。すぐに。」
執事のワトソンは部屋を出た。
ケンブリック男爵が尋ねた。
「なぜ、私の家に伝わる石が「破壊神の記憶」だと思ったのですか?」
「理由はいくつかあります。但し、本物ならですが…。」
「と言うと?」
「まず、本物ならその石は緑色の斑模様をしているはずです。そして、動物の内臓と血を満たした容器に入れて温度を四十五度に保つと変化が現れるはずです。」
「ほう!あの石がねぇ…。」
「ご主人様、お持ちしました。」
執事のワトソンが厳重に鍵のかかった箱を持ってきた。
何やら、見たことのないマークや記号で封印されている。
「これが破壊神の記憶が入った箱です。」
「開けていただけますか?」
ケンブリック男爵は首からぶら下げている鍵をロマーニに見せた。そして、箱を開けた。
中にも魔方陣のような模様が描かれ、その中央に緑色の斑模様の石が置かれていた。
ロマーニが手を伸ばそうとすると、ケンブリック男爵が声を荒げた。
「まだ、お前を信頼したわけではないぞ!気安く触るな!」
そう言うとケンブリック男爵は箱を閉めた。
ロマーニは少し、ムッとした表情でケンブリック男爵を見つめた。
「わかりました。しかし…手も触れずに本物か偽物かを判断するのは無理ですな。なんなら、失礼しましょうか?」
「いや…。失礼した。まずは手を触れずにご覧頂きたい。」
「かしこまりました。」
ケンブリック男爵は箱を開けると、ロマーニに緑色の斑模様の石を見せた。
「古い言い伝えなのですが、この石にむやみに触ると死ぬと言われてましてな。」
「いや…。このまま触っても何も起こりませんよ。寝ている状態なので。」
「寝ているとは?」
「伝説をご存知ありませんか?この石にまつわるものです。」
「いや、出来れば是非ともお聞かせ願いたい。」
「それもテストのうちですかな?」
「まぁ、そういう事です。」
「よろしい。それではお話しましょう。」
そう言うとロマーニは話を始めた。
時は神話の時代にさかのぼる。
現在のエジプトにある日、異世界の神々が降臨した。
異世界神達は青黒い霧を撒き散らしながら、世界を破壊して行った。その勢いは凄まじく、人間達は暗闇に怯え、洞窟の中に隠れていた。
いよいよ世界も終わりかと思われた時だった。
空から光と共に舟に乗った輝く神が現れた。
その神は銀の羽根に生き残った人間達を乗せると、次々と異世界神達を雷で焼き払った。
そして、殆どが殺された。しかし、生き残った夫婦の異世界神がいた。
ヨーグ・シュトゥルスとアザートゥルス・シュトゥルスだ。
二神は仲間が殺られた事に怒り狂い、光の神に戦いを挑んだ。
しかし、夫のヨーグ・シュトゥルスはバラバラにされ、妻のアザートゥルス・シュトゥルスは二度と異世界神を産めないように子宮を取り上げられ、異世界に送り返された。
バラバラにされたヨーグ・シュトゥルスは二度と生き返らないように厳重に埋められた。
しかし、時を経てそれらは盗掘され、バラバラにされて世界中に散らばった。
「まぁ、ざっとこんな伝説ですな。そのバラバラにされた破壊神の一部がその石だとされています。如何ですかな?ご満足頂けましたかな?」
「ふむ。確かに当家に伝わる伝説とほとんど一緒だ。しかし…。それだけかな?」
「おっと、そうでした。後日談がありましたな。」
そう言うとロマーニはまた、話を始めた。
何世紀か後に、再び破壊神の妻のアザートゥルス・シュトゥルスが夫のヨーグ・シュトゥルスの体を返せとやって来た。
しかし、夫の体は世界中にバラバラにされて散らばっており、もはや全てを探し出すのが不可能と知ると、異世界の神々を崇める人間達にその復活のさせかたと呪文を授けていった。
しかし、その本も時と共に失われた。
「如何ですかな?」
「ふむ。間違いない。それで?君はあの石を復活させる呪文を知っているのかね?」
「試したことはありませんが、知ってはいます。但し、本物ならですが…。」
「ふむ、儀式に必要な物は何なのか?」
「まずは広い場所が必要です。それと動物の内臓、動物の血、それから大きな鏡が必要ですな。」
「当家の地下室では駄目かね?執事のワトソンに案内させるが?」
「わかりました。それでは私は準備がありますので街中に買い物に出かけます。少しばかりお値段が張るものもありますが…。」
「ふん!早速、金の無心か?まぁいい。ワトソンに用意させよう。」
そう言うと、ケンブリック男爵は執事のワトソンを呼び鈴で呼んだ。すぐにワトソンは来た。何かごそごそとケンブリック男爵が耳打ちしている。ワトソンは何度か頷くと言った。
「それではプレッツィオ様、こちらにどうぞ。お部屋に案内致しますので。」
「今日はゆっくりと休むがいい。明日からは働いてもらうぞ!ロマーニ!」
「かしこまりました。それでは失礼します。」
そう言うとロマーニと執事のワトソンはケンブリック男爵の寝室を出た。
ドアが閉まった。
ケンブリック男爵はニヤリとした。
どうやらあのロマーニという男は伝説の全てを知らないらしい。
しかし、あの破壊神の記憶を蘇らせるためには使えそうだ。
ケンブリック男爵は笑いを堪えるのに必死だった。
翌日から、ロマーニは準備を始めたらしい。
執事のワトソンに、あれやこれやらと必要な物を買ってくるようにメモを渡していた。
ワトソンはその内容を見て嫌な顔をしながらも使用人に命じて、手に入るように手配をしていた。
やがて、ロマーニが準備が整ったと告げた。
ケンブリック男爵はニヤリと笑いながら、地下室に降りていった。
地下室にはまるで肉屋かと思うような光景がひろがっていた。
牛や羊や豚等の肉や、血の入った容器など薄気味の悪い光景がひろがっていた。内臓の入った容器等もあった。
そして床には魔方陣が複数描かれ、その一つの魔方陣の中央には祭壇と大きな鏡が置かれていた。
ロマーニは得意気な顔をしていた。
ケンブリック男爵がロマーニに尋ねた。
「本当に準備が整ったのか?」
「大丈夫です。準備はぬかりなく整いました。破壊神の記憶を持ってきて頂けますか?」
「ここにある。ほら!」
ケンブリック男爵は箱を開けた。
すると、破壊神の記憶は部屋の中に立ち込めた血の匂いに触発されたのか、斑模様が隆起してきた。
ロマーニが驚いた顔で言った。
「間違いなく本物ですな!もう反応するとは!」
ケンブリック男爵も満足そうな顔で頷いた。
「どうやら君の準備は間違いがなかったらしいな!確かに反応している!さて、これをどうする?」
「はい。まずはその破壊神の記憶をこちらの羊の子宮が入った容器に入れます。そして、あとは呪文を唱えるだけです。」
「分かった。入れてくれ。」
そう言うとケンブリック男爵は箱をロマーニに渡した。
ロマーニは破壊神の記憶を羊の子宮の中に入れて、血をかき混ぜた。
「これで準備は整いました。では、始めますか?」
「その前に一つ尋ねるが、本当に破壊神のいる扉が開くんだろうな?」
「勿論です。運が良ければ、その姿を拝めるでしょう。」
「それで?私はどうすればいい?」
「この祭壇の上に寝てください。破壊神が入って来れない魔方陣が描いてあります。後は鏡をご覧になっててください。鏡から、この容器に入った破壊神の記憶を破壊神が取りにくるはずです。」
「なぜ、私が祭壇に寝るのか?お前はどうするんだ?」
「私はこちらの魔方陣のなかで召喚呪文を唱えます。私とあなたの姿は破壊神からは見えません。以前に、古代神を召喚した時はもの凄い風が吹き、青黒い霧が立ち込めました。祭壇に寝るのが嫌なら祭壇に座っていても構いませんが?どうされますか?止めますか?」
「ここまで来て止められるか!始めろ!」
そう言うとケンブリック男爵は魔方陣の描いてある祭壇の上に座った。ロマーニはそれを確認すると、自分も別の魔方陣の中に入った。
ロマーニが呪文の詠唱を始めた。。
「ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・クトゥルプトゥルフ・フタグン。」
ロマーニが呪文の詠唱を始めると、羊の子宮の中に入れた破壊神の記憶が変化し始めた。
何か触手のような物がゆっくりと緑色の石から伸びてきた。
それはまるで珊瑚のポリプのような形をしていて、触手の先に口のような物があり、その回りにさらに細かい触手があった。
「ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・クトゥルプトゥルフ・フタグン!」
ロマーニは何度も呪文を唱えた。
すると、容器に入った破壊神の記憶からしゅるしゅると数えきれない触手が伸びて、羊の子宮の内側で鼓動を始めた。
「来たれ!異世界の破壊神!ヨーグ・シュトゥルス!来たりて体の一部を受け取りたまえ!破壊神!ヨーグ・シュトゥルスよ受け取りたまえ!ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・クトゥルプトゥルフ・フタグン!」
やがて鏡から青黒い霧が出始めた。
「おぉ!鏡から霧が出始めたぞ!いよいよ破壊神が見られるのか?」
ケンブリック男爵は喜びを隠せなかった。
今まで生きてきた中で、これほど興奮した事があるだろうか?
いや、ない。この世ならざる者を見た事などある訳がない。
ケンブリック男爵は今まで生きてきた中で、最大とも言える興奮を感じた。
「ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・クトゥルプトゥルフ・フタグン」
ロマーニの詠唱が続く。
破壊神の記憶は容器の中で、まるで心臓のように激しく鼓動をしている。まるで、数千年の時を経て蘇ろうかとしているようだ。
しばらくすると、鏡にも変化が現れた。妖しいピンク色の光が溢れだしている。それと共に青黒い霧がますます勢いを増して地下室の中を吹き荒れる。
地下室は異様な光景に包まれていた。
幾つかの魔方陣からは青い光が溢れだし、青黒い霧が魔方陣の周りをぐるぐると回っている。そして鏡からはピンク色の光が溢れだし、その光は益々、強くなってきた。
ケンブリック男爵は喜びを隠せなかった。
「凄いぞ!破壊神の記憶が生き返ろうとしてるぞ!生き返れ!破壊神よ!」
すると鏡から赤い鋭い突起物が何本も出始めた。
まるで何かの膜を破るかのように、ぐりぐりと動いている。
「破壊神!ヨーグ・シュトゥルスよ!そなたの体を受け取りたまえ!生け贄と一緒にな!」
すると、ケンブリック男爵の顔色が変わった。
「なんだと!どういう事だ!ロマーニ!今のは何だ!」
「愚かなり男爵よ!お前は生け贄としてヨーグ・シュトゥルスに喰われるといい!わっはっはっはっ!死ね!愚かな爺め!」
すると鋭い赤い突起物が膜を破り、こちらの世界に入ってきた。
赤い突起物は爪だった。そう!破壊神の爪だったのだ!
その爪は容器の中で拍動している破壊神の記憶を器用に摘まむと、一度鏡の中に入った。
「何故だ?何故だ!何故、生け贄を受け取らない?何故だ!破壊神よ!ヨーグ・シュトゥルスよ!」
するとケンブリック男爵が大きな声で笑い始めた。
「何だと!何がおかしい!」
「愚か者め!お前は伝説をちゃんと読んでなかったようだな!わっはっは!」
「何だと!」
「お前が呼び出そうとした破壊神、ヨーグ・シュトゥルスは光の神によってバラバラにされたのだ!来るわけがなかろう!」
「何だと!どういう事だ!」
「お前は破壊神の記憶がヨーグ・シュトゥルスの体の一部だと思ってたようだが、さにあらず。あれはヨーグ・シュトゥルスの体の一部ではない。妻のアザートゥルス・シュトゥルスの子宮の一部だ!」
「何だと!馬鹿な!」
「愚かなお前はとっくに死んだ古代神、ヨーグ・シュトゥルスを蘇らせる呪文だと思って今の呪文を唱えた。しかし、本当はあの呪文はただ単に破壊神を近よせるための呪文にしか過ぎないのだ!愚かな魔導師よ!馬鹿な事にお前の読んだ本は偽物の本だ。私が今から本当の古代神、ヨーグ・シュトゥルスの妻、アザートゥルス・シュトゥルスを呼んでやろう!見ておけ!」
するとケンブリック男爵は手を何度か色々な形にして、最後に手を拝むような形にした。
そして、呪文の詠唱を始めた。
「ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・アザートゥルス・シュトゥルス・フタグン! ラー・ルルイエ・ザー・ノイエ・アギト・ブルクシュナフ・ヴォルクフォルク・アザートゥルス・シュトゥルス・フタグン!」
ケンブリック男爵がロマーニでも知らない呪文を詠唱し始めた。
すると、一度はおさまっていた、ピンク色の光が再び鏡から溢れ始め、また、長い赤い突起物が膜を破るかのように出てきた。
それは手だった。
長い赤い爪のある女性の手のようだった。
「馬鹿な!妻のアザートゥルス・シュトゥルスを召喚したというのか?信じられん!」
「勉強はちゃんとするもんだぞ!ロマーニ!お前のような三流の魔導師が本物の破壊神、アザートゥルス・シュトゥルスの一部を見られるのだからな!」
そう言うとケンブリック男爵はまた、呪文の詠唱を始めた。
地下室の中を風がびゅうびゅうと吹き荒れた。そして、ピンク色の光がいよいよ強くなった。
すると、鏡から出た赤い突起物の後に指が見え始めた。
指には沢山の宝石のついた指輪がはめられていた。
「見ろ!ロマーニ!これがアザートゥルス・シュトゥルスの指だ。お前はとっくに死んだヨーグ・シュトゥルスと思っていたようだが、この指こそがアザートゥルス・シュトゥルスなのだ!知っているか?ロマーニ?アザートゥルスは光の神に邪悪な神々を産めないように子宮を切られた。しかし、異世界に逃げ帰り無事だった。それに怒ったヨーグ・シュトゥルスは光の神に戦いを挑んでバラバラにされて死んだのだ!今、異世界に居るのは妻のアザートゥルス・シュトゥルスなのだ。」
巨大な指が鏡から出てきた。そして手の甲も出てきた。手首にはブレスレットをしている。金色のブレスレットが四本ある。
そしていよいよ腕が出てきた。それは異世界の破壊神とは思えないほど人間の腕に似ていた。禍々しい爪を除けば。
「馬鹿な!私が手にした本は偽物のだったと言うのか!ケンブリック!では何故、私を利用した。」
「最期に教えてやろう。私の家の本も完璧ではなかったのだ!お前の本がそうだったように。だから、召喚の仕方がわからなかったのだ!御苦労様!ロマーニ!これで私は異世界に行き、永遠の時を生きる。異世界神の子宮の中で新しい神に生まれ変わるのだ!その方法が我が家に伝わる本の内容だ。私の家にあるのは、ヨーグ・シュトゥルスの体ではない。アザートゥルス・シュトゥルスの子宮の一部なのだ。これを土産に私は異世界に行き、新しい異世界神として永遠に生きる。そうだ!永遠の命を得るのだ!ロマーニ!よく見ていろ!」
そう言うとケンブリック男爵は自分から、鏡の中から出ている手に捕まった。
鏡から出ている手にはケンブリック男爵が握られていた。
「さらばだ!ロマーニ!せいぜい人間として生きるがいい。貴様は神にも悪魔にもなれん!わっはっはっはっは!」
鏡から出ている巨大な手にはケンブリック男爵が握られ、それは鏡の中に消えていった。
「馬鹿な!破壊神の記憶とはアザートゥルス・シュトゥルスの子宮の一部だったのか!この私がはめられるとは!くそっ!破壊神として生まれ変わり、永遠の時を生きるだと?なんて事だ!それこそ私が求めていた物なのに!」
ロマーニは悔しかった。
自分がヨーグ・シュトゥルスに気に入られ、異世界に行けるものと思っていたのに、まんまとケンブリック男爵にヤられたのだ。
ロマーニは立ち去るしかなかった。