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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒使いの世界大戦

作者: 正夢

横に一閃。

「さあて、と」

ドロドロに溶けて消えたモンスターを横目に流して、ザクロは歩きだした。

足跡の残る彼の後ろ、不毛の土地と化した大地には黒く醜い水たまりが、地面を埋め尽くしていた。

「いつもながら、手応えが無いな」

左手に持ち替えた片刃の剣、【黒沼】と銘打たれた機械刀から太い筒状のガラス製容器を取り外して、中に黒い液体が入ったものと替える。

「はぁ……。ゲームやってる感がねぇ」

盛大に溜め息をついたザクロは、この状況に陥ったあの日を思い出していた。






ザクロは今、無限回廊四十九層第五の街【ヌヴェーン】に来ている。

ここは、49度目のアップデートで実装された史上最大の街である。

そこかしこから歓声や騒音が上がり、正に活気づいていると言って良いだろう。

協会の裏を通り抜け、路地を右に曲がって、目的の場所に到達する。

真黒な看板が吊るされた店。

一言で言うなら、そうとしか言いようが無い。

『ブラックショップ』

別に、違法アイテムが売っている訳ではなく、ただ単に店長の好きな色が黒だからこういう店名になった知る人ぞ知る名店。

そして、この店は大体なんでもそろっている。

店長がガチ職人のため、本当に何でも作る。

アイテム、武器、防具、何でもあり。

品揃えで、この店の右に出る店はないだろう。

しかし、何故かこの店を知っているプレーヤーは少なく、噂に出るとしても幻の店と呼ばれる。

店のドアを開け、中に入る。

少し商品を物色。少し奥に進みカウンターまで来ると、気色の良い顔をした好青年がいた。

ニット帽を被っているこの金髪の青年こそ、ブラックショップ店長『ベリー』である。

「ザクロ君じゃないか。今日はどんな用かな?」

「これを見てほしい」

言って、ザクロメニューからアイテム開示を選択する。




『黒腕甲【呪】』 右腕 呪禍

・【異常状態無効】付与。

・装備者ステータスを全て初期値に固定。

・装備解除不可

アイテムマスターが作り上げた呪いの黒腕甲。

レア???? 破壊不可



「ぷっ……あはははは! なにこれ。ねぇ、なにこれ?」

一通り目を通すと、ベリーは声を上げて笑い出した。

「笑うなよ! こっちは真剣に悩んでんだよ! 呪いでステータス初期値になるし、装備外せないし!」

「ごめんごめん。でも凄いね。これ、何処で手に入れたの?」

「悪質メールだよ。開いたら急に、強制装備していて」

「それは、災難だね。で、今日はどうするの?」




VRMMORPG『ワールド・ウォー・スタンダード』

通称『WWS』

3年前に発売されたこのゲームのキャッチコピーは「無限に進化する戦争」

その言葉通り、このゲームは何度もアップデートされた。

通算49のアップデートで、このゲームで実装されたシステムは100を超えた。

発売された当時からこのゲームをプレイして、トッププレーヤーにまでなったザクロ。

しかし、この装備の所為で最前線に立てないどころか、まともに戦闘すら出来ない状況なのだ。




一息ついて、ザクロは本題を話し始めた。

「この防具の呪いを解除してほしい」

ベリーは心底どうでも良さそうに欠伸をすると、告げた。

「力にはなりたいけど、解呪は無理だよ」

「はぁ!?」

「装備者でもレア度が見えないってことは、きっとまだ実装されていない五十層より上だ。そもそも、解呪スキルは持ってないよ」

「嘘付け」

「バレた?」

「当たり前だろ。お前の持っている防具の内、大半が元呪い装備じゃないか」

「うん。でも、この防具については、解呪スキルじゃあ意味が無いよ」

ベリーはアイテム説明欄の一番上の列、その右に書かれている文言を指差した。


「これは呪いじゃない。呪禍だよ」

アイテムの表記に『呪禍』と出ている。

ザクロは眉間に皺をよせると、ベリーの顔を見て「何だそれ?」と聞いた。

「呪禍はね。呪いの上位版だよ。これは、解呪の上位スキルでしか解けない。しかも、そのスキルの情報は、まだ無いんだ。実装されているかもわからない」

まだ無いか。だったら、この防具はどうして俺の元に届いたのだろう。

まぁいい。余計なことは考えないようにしておこう。

「じゃあ、解呪は」

「無理だね」

その言葉を聞いて、ザクロは肩を落とした。

つまり、このままずっと、全ステータスレベル1の状態でプレイしていくことになる。

この層のモンスターはレベル200超えが普通。つまり、ステータス的に言えば200倍強い。

レベル1からしたら巫山戯んなって位強い訳だ。

つまり、「無理ゲーじゃん」

ザクロは、頭を抱えて俯いた。

「はぁぁぁああああああああああああああああ」

長い溜息をついた後、俺はベリーに目線を向けた。

しかし、ベリーの顔は蔑むでも無く、哀れむでも無く、手を顎にそえて目を閉じ、何かを思い出すような動作をしていた。

すると、いきなり手を打って「そうでもないかも」と呟いた。

「どういうことだ?」

「ザクロ君は知らないだろうけど、君にしか使えそうにない死にスキルがあるんだよ」

「死にスキル?」

死にスキルとは、ゲームにおいて使いどころが微妙。若しくは使い物にならないスキルのことだ。ネタに使ったり、取得したいスキルがある為、止む無く取った等、実用性が皆無のため、このゲームで使う奴は殆どいない。


「【毒】ってスキルなんだけど、使うと自分も敵も毒状態になるってスキル。ザクロ君なら、使えると思うんだよ」

確かに、死にスキルで糞スキルだ。

「この『黒腕甲【呪】』の効果とセットなら使えると、そういうことか?」

「うん」

「取得方法は?」

「ここにスキルオーブがあります」

スキルオーブとは、それを消費するだけでスキルが手に入るというお得アイテムだ。

「準備良いな」

「これでも幻の店の店長ですからね」

「でも、武器はどうする?」

「君以外に倒せないボスがいます。それの素材を使います」

「都合よすぎない?」

「いるものはしょうがない」

ベリーはニコリと笑って、ステータスメニューを操作し始める。

「で、どんな奴?」

「四十九層第5の街地下大聖堂。ユニークボス【毒龍王ヨルムンガンド】」

「ドラゴンかよ」

「しかもかなり特殊な、ね」

言って、ベリーはネットから引っ張って来たらしい情報を開示した。




【毒竜王ヨルムンガンド】レベル999

種族:ユニーク

最上級モンスター。龍種の一体。

龍種の中でも、唯一毒を使い、毒しか使えない。

その体は、毒を扱う為に進化した為、他のステータスは軒並み1桁。攻撃を当てることが出来ればレベル1でも倒すことが可能だろう。

しかし、その毒はいくらレベルが高かろうと、一瞬でHPを攫いきる。

スキル:【毒魔法】【激魔神毒】【毒の波動】【毒の咆哮】【毒翼】【毒の息】

討伐推奨レベル???




「おい。こいつは何だ。ちょっと特殊なんて嘘じゃねえか」


ザクロは、無意識にベリーの顔を睨みつけていた。

「恐らく、君以外は倒せないだろう裏ボスだよ。因に、この情報はWWSのホームページから持って来たもの。どうだい? 凄いだろう」

「本当に倒せるのか? スキルとか無効化されそうな敵なんだけど」

「まずは、試しに行ってみたら? 倒せなかったら、他の方法を考えれば良いんだし」











『我々は、今から【毒龍王ヨルムンガンド】のレイド戦を始める!』

台座に立った大男がメガホンらしきもので声を張り上げる。

『今まで、運営が俺達に何をして来た? 思い出してみろ、あの屈辱を! それでも我々は、ここまで来た。さあ、この糞チートボスを倒して、運営に目に者を見せてやろうぞ!!!!!!!!』

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

大男の演説に、エリア全体のプレイヤー達が雄叫びを上げる。

どうやら、ヨルムンガンド相手にレイド戦をするらしい。

このゲームの運営は、とことん性格が悪い。

プレイヤーをえり好んで強制転移させたり、依怙贔屓が多かったり、このゲーム、よく続いてるよね。

こいつらが勝ったら俺は、どうすれば良いんだろう。

そして、何人いるかわからないが、大量のプレイヤー達はボスエリアに踏み入れた。

俺は、ベリーに他のプレイヤーが全滅したら入れと言われているので、ここに残る。倒されないか心配だが、ベリーの言うことは、何故か全て正しいのだ。

勢いよく、ボス部屋の扉が閉じらた。



『クラン“対運営反逆軍”が全滅しました。要因【毒】』


「ファッ!?」

数秒と経たないうちに流れたアナウンスにザクロは顔を引きつらせた。

全滅。10秒と経たずにあれ程のプレイヤー達が全滅した。

巨大なボス部屋の扉が開いた。

あれ程いたプレーヤー達は陰も形も無かった。

「これヤバくね?」と、ザクロは後ずさる。

そこには、骨と皮だけで構成されたような不気味な黒い龍がいた。

不気味は不気味だが、問題はそこじゃない。龍の体の至る所から、黒く濁った液体がドロドロと流れ出ているのだ。

それは、毒なのかもしれない。いや、毒だろう。

しかし、毒と呼ぶにはあまりにもグロテスクだった。

横には【毒龍王ヨルムンガンド】の表記と、HPバー。


『グルグギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


いきなり、ヨルムンガンドが咆哮し、当たりに黒い霧が散撒かれる。

状況からして、この霧は毒の霧だ。先ほどのプレイヤー達はこの霧にやられたのだろう。

HPは全く減っていない。

【異常状態無効】の効果だ。

ザクロは、腰に下げていたロングソードを抜いた。





いやぁ、楽勝でしたわ。

ザクロが近づいて一度斬ると、ヨルムンガンドは死亡エフェクトと共に消滅した。


ドロップアイテムを見て、ザクロは思わず頬を緩めた。



『毒龍王の爪』×18

『毒龍王の翼膜』×4

『毒龍王の鱗』×5

『毒龍王の骨』×12

『毒龍王の牙』×3

『毒龍王の宝玉』×1

『無限の毒袋』×2



ソロ討伐ボーナスとラストアタックボーナスを含めたドロップだ。

更に、ヨルムンガンドの持っていたスキル【毒魔法】を入手。

「もう色々と、うはうはですわ〜」

後は、これをベリーに渡すだけ。

ザクロは地下大聖堂を抜け、ブラックショップへと向かった。







昨日は、ベリーに「完成まで少し時間が掛かるから、明日また来てね」と言われたので、日を跨ぐことになった。

ということで、翌日。



『黒沼【呪】』 刀 機械剣 呪禍

・【異常特化】【異常強化】【進化】【可変式技能】

・カートリッジの入れ替えにより、属性変化する。

・装備者に常時毒付与。

・装備解除不可。

毒龍王の素材を使い、アイテムマスターが作り上げた呪いの黒刀。

装填:

装填効果:

レア???? 破壊不可



「なんだこれ」

その一言に尽きる。

黒いグリップに毒々しい紫色の刀身。

見る限り、ザクロの装備している『黒腕甲【呪】』と同じ系列に見える。

「見てわからない? 武器だよ刀だよ」

見ればわかる。

ザクロはギギギとベリーの方を向くと、ぽつりと呟いた。

「犯人、お前かよ」

「あ、バレたー?」

「バレるも何も無いよ!? やめて! 陰湿な悪戯やめて!」

「悪戯じゃないよ!」

ベリーは、右手でメニューをポチポチ操作して、

『メッセージが一件あります』

『強制開示されます』

『強制装備されます』

ザクロの手には、『黒沼【呪】』が握られていた。

「またかーーーーーーーー!!!!!!」

「失敬な」

『メッセージが一件あります』

『強制開示されます』

『強制装備されます』

「やめて、お願いやめて。俺のHPはもう0だ」

ザクロは思った。俺には疫病神でも憑いているのかと。

「気のせいだよ」

「疫病神が言うな! つーか、人の心読むんじゃない!」

ザクロは地面に膝と手のひらをつけた状態で一言……「詰んだ」と、呟いたのだった。






『無限毒の黒鞄【呪】』 アクセサリー 呪禍

・【アイテム収納】0/10

・収納アイテムの毒汚染。

・装備解除不可。頭装備不可。

レア???? 破壊不可


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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで見てきたVRMMO作品の中でもダントツに好きです。 いろんな作品を見てもこの作品を見たくなり定期的に戻ってきてしまいます。 VRMMO作品が数多くある中で中々出会えなかった毒と呪いさら…
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