彼は俺は綺麗に死ぬのだ
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何処か遠くを眺めていた。何もなかった。いや、何もないわけはないのだが、特別気を引かれるようなものがなかったのだ。
彼の死体を見ると笑いそうになる。どうも笑いが堪え切れない。そうして先程、不謹慎だと親戚の叔母さんに酷く怒られた。まあ不謹慎なのは間違いないけど。怒られて気分が悪くて、葬式から抜け出してきた。見えるのは川。向こう岸の住宅街。遠くの方には大きいビル。存外つまらないものだ。
「つまんねぇよなあ、葬式。はやく終わってくれねぇかなあ」
面白いのは彼の死体だけで、他は泣く親戚ばかり。面白すぎて泣いているのだろうか。
彼の死体は綺麗だった。あまりにも綺麗なものだから、思わず触れて見た。冷たい。冷たいけど未だ人間の肌。後一日するかしないかのうちに此れは骨になる。なんて面白いことだ。こんなに面白いことはない。以前母方の祖父が亡くなったときは、酷く目を赤くして泣いたものだ。曽祖母が亡くなったときは葬式に出ていない。何せ母と祖母が曽祖母を嫌っていたから、学校があるのを理由に俺だけ葬式に出られなかった。その時もまた不謹慎に「お年玉が減るじゃねぇかよ」なんて。此れこそこっぴどく怒られそうだ。
彼は死んだ、彼が死んだ。服毒自殺だ。
「服毒自殺はいいよな、綺麗に死ぬぜ」
「ああ、そうだな」
彼が死んだぞ、おい、俺よ。お前はどうする。このまま川に落ちて入水自殺か。それもいいけど彼に言うことがあったろう。
「じゃあな、愛してたよ○○」