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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第2章 100年後に魔術書として転生したから今度こそダンジョン攻略する
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71話 最後の四英雄は歴史を語る


「バラム……ネクロノミコンから聞いていると思いますが、魔法を生み出すこの世界のマナは有限です」


 ライラーは静かな口調で語り始めた。


「100年前、バラムが生きていた時代。マナが醒めるという現象を理解し、対策しようとしていた2人の魔術師がいました。それが“魔術三系の王”バラムと“大賢者”モウゼ。どちらも、当時最強の魔術師だと目されていましたね」

「今の歴史書には傲慢なるバラムと大魔王モウゼルとして、コーレシュに倒されたとされる2人か」

「ええそうです。それに加えてウガル強欲王も含めて3悪。これらを討ち滅ぼしたゆえに、コーレシュは名声を高め、魔術師ギルドの長になるきっかけの一つとなりました。魔術師ギルドが編纂している歴史書にはそう書かれていますわね。でも、そんなデタラメな本のことはどうでもいいのです。今重要なのは、バラムとモウゼ」


 ネクロノミコンはじっとライラーの言葉を聞いている。表紙に浮かぶ顔からは、かつてバラムと呼ばれた魔術師が何を思っているのか読み取れない。

 ライラーは、ここから口調をネクロノミコンと話しているときのような、気さくなものに変えた。昔のことを語るライラーの顔は、どこか穏やかで、そして寂しそうにシャドウには思えた。


「2人ともマナが醒めるという現象に対して、ダンジョンを攻略することで解放されるマナと、大地で人間が生まれ、魔法を使っていくことで消費されるマナのバランスに問題があることが分かっていたの。後者の方が圧倒的に多かった。地上からマナと、そして魔法が失われるのは時間の問題だった。

 根本的解決について、2人ですら具体的な方法を発見できてはいなかったけれど、方針は一緒だった。世界最古のダンジョン、どれだけ探索してもマナを使い果たすことのない“深淵”。その枯れないマナの源に達することができれば、地上でも同様のマナを無尽蔵に生み出す方法が手に入る。そう考えていた。そうよねバラム?」

「ああ、その通りだ。加えて言うのならば、深淵以外のダンジョンも、深淵から生まれたマナによって形成されている。たとえば今我々がこうして会話している、このダンジョンもな」


「どういうことだ?」


 シャドウは疑問をつぶやいた。ライラーは微笑を浮かべ答える。


「ダンジョンの発生傾向を研究する者も、100年前には大勢いたの。マナによって迷宮や、マジックアイテム、モンスターを作り出すダンジョン。そのマナが一体どこから生み出されるか。研究はミノタウロス達の協力もあり、膨大な観測データが得られたことで結論がでたわ」

「ミノタウロス……昔は魔術師と良好な関係だったとは聞いているけれど」

「ええ、昔はね。彼らの協力によって、魔術師達は、深淵から溢れたマナがダンジョンという形で地上に定着することが分かった。世界中に存在するダンジョンは、この深淵から生み出されたマナが源だったの。深淵のある私たちの大陸とは別の大陸であるアトランティスでマナが枯渇し、不毛のアルカディアとなってしまったのは深淵から海を隔てて離れていた地理上の問題ね。

 すこし脱線してしまったわね、話をバラムとモウゼに戻すわ。2人は弟子や、私たち冒険者を連れて何度も深淵を探索した。やがて2人の名声は高まり、魔術師ギルドの長に推薦する声も出始めた」

「魔術師ギルドでの地位などどうでも良かった。だが、魔法が失われることを防ぐために、魔術師ギルドの長という地位は都合が良い。俺もモウゼのやつもそう考えた」

「2人の目的は同じだった。2人は協力して功績を重ね、そして今も使われているマナの図書館の設計図をギルドへと持ち込んだ。その功績により、2人のどちらかがギルド長に選ばれることが確実となった……」


 図書館と聞いてシャドウは、以前ミュールとして図書館を利用しマナの少女に襲われた時のことを思い出す。あの時、ネクロノミコンに危ういところを助けられた。思い返せば、いつも自分はネクロノミコンに助けられている……。

 深淵にいるミュールは、手にしたネクロノミコンの背表紙を、指でそっと撫でていた。


「だけど、そこで問題が起きた。バラムとモウゼの意見が対立したの」

「対立?」

「ここからは俺が話そう」


 ネクロノミコンは、いささか面倒くさそうに話を引き継ぐ。


「俺は魔術師ギルドの権限を強化し、どのダンジョンに魔術師を派遣するのか、どのようなパーティーを組ませるのか、そういったダンジョンに関することをすべてギルドが管理し、ダンジョンの攻略を最適化しようとした。最適な魔術師を派遣することで魔法の無駄打ちいによるマナの消費を減らし、迅速にダンジョンを攻略することでマナが解放される供給を増やす。深淵の根源に到達する日がいつになるか分からぬ以上、地上でのマナの消費と供給に手を入れるのは必要だったからだ。

 だが、そうした魔術師を管理する方針は反発をまねいた。俺のことを、私利私欲のために魔法を専有する“傲慢なる”バラムだとな。

 そこでモウゼが方針を変えた。管理の大義名分を、マナの枯渇への延命ではなく、魔術師の最適な分配による事故率の低減とし、パーティーも自由意志で組んでいいようになった。ギルドが行うのは、仲間の紹介だけだ。実質、変わったところは、魔術師の実績によってレベルというランク分けがなされたことくらいだろう。それでは本来の目的であるマナの枯渇に対する延命処置としては不足していた」


「それでネクロノミコンはモウゼと戦ったのか?」

「いや、そのときは直接戦ったわけではない。俺に反発する魔術師達はこぞってモウゼのやつを応援した。そしてモウゼが魔術師ギルドの長となり、俺は役職を辞退して、自分の城へと戻り研究を続けた。思い通りにならなかったのは腹ただしいが、俺の言葉では魔術師達を動かせないことが分かっていた」

「バラムは頭はキレるのだけど、口も性格も悪かったものね。実力は認められても人望は無かった」


 ライラーはそう言って笑った。ネクロノミコンはライラーを睨みつけようとするが……シャドウと、深淵にいるミュールの顔を見てやめた。


「馬鹿者。100年も前のことだ。お前が怒ってどうする」


 ネクロノミコンは困ったように、だが少し嬉しそうに笑って言った。


「驚いたわ。あなたのためにこんな顔をしてくれる子ができたのね」

「ふん、話に戻るぞ……」

「ええ、じゃあここからはまた私から話したほうが良いわね。モウゼがギルド長となり、しばらくは平和な時が続いた。バラムの案ほど徹底はしていなくとも、モウゼの方針もマナの延命という方向ではあった。バラムは深淵の探索に集中し、モウゼは魔術師ギルドの管理を行う。何も言わずとも、2人にはそういう役割を理解していた……バラムが深淵の地下100階より奥へと進み、帰還してくるまでは」

「地下100階……」


 現在、ミュール達が目指しているのは地下50階。ここですら、現在の魔術師ギルドの基準を大きく上回る深度だ。地下100階ともなれば、どれほどの脅威が存在するのか。ミュール達、現代の魔術師には想像することも難しい。


「バラムが持ち帰ったあらゆる魔法を吸収する護符状のペンダント。その護符の力によって、バラムはモウゼを超えて最強の魔術師だと名声を高めた。孤立していたバラムにも弟子になりたいという魔術師達が現れ、傲慢派と呼ばれるバラムの派閥が魔術師ギルドで勢力を増やしていった。やがて、再びバラムを魔術師ギルドの長に推薦する声が、魔術師ギルド内から現れ始めた。

 昔のモウゼなら、バラムの復帰を喜んで迎え入れたでしょう。でも、長く権力の座にとどまり続けたモウゼは変わってしまっていた。自分の地位が脅かされることに恐怖し、バラムを痛烈に批判した。かつて同じ夢を抱いていた2人の魔術師は、道を違えてしまったの」

「それでどうなったのです?」


 これまで過去の話を黙って話を聞いていたランカースがたずねた。

 ネクロノミコンやミュールから少しは話を聞いていたが、今聞かされている話は、魔術師ギルドの歴史書には全く記載されていない、影の歴史だ。

 ランカースは生来の好奇心が胸の中でうずいているのを感じていた。

 そんなランカースの様子を見て、ライラーは微笑む。


「あなたのような冒険者を見ると、四英雄と呼ばれていた昔を思い出すわ。いくらモウゼが強力な魔術師であったとしても、護符を持ったバラムには太刀打ちできなかった。モウゼは口で批判するだけで、バラムと直接対決することは無かったわ……コーレシュがバラムに近づくまでは」

「そこでコーレシュが出てくるんですね」


 現魔術師ギルド長、千の魔術のコーレシュ。

 その名を聞いて、ネクロノミコンとシャドウは、表情を引き締めたのだった。

あと一話だけ歴史語りが続きますが、お付き合いください!


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