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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第2章 100年後に魔術書として転生したから今度こそダンジョン攻略する
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69話 少女/王子はダンジョンにて火巫ライラーの顔を見る


「誰も案内する人とかいないんだな」


 はしごを降りたシャドウはつぶやいた。

 魔法の光があたりを照らすと、石壁の通路が前と後ろに伸びているのが見える。

 動く者はシャドウとランカース以外、誰もいない。


「間違いない、ここはダンジョンですよ」


 ランカースが壁に触れて言った。


「まさかウルの城壁の中にダンジョンがあるだなんて」

「それもマナが十分に残っているようだ」


 ネクロノミコンがシャドウに言った。

 シャドウは漂うマナを感じる。深淵ほど豊富ではないが、ミュールとして最初に潜ったあのハカンの洞窟9の枯れた空気とは明らかに違う。

 通路の奥から漂う、土の匂い。真っ直ぐに切り出された石壁の直線。マジックアイテムやモンスターを生み出す神秘が、ここにはまだ豊富に残っていた。


 ランカースは手袋をぎゅっと引っ張り、拳の握り心地を確かめる。


「ダンジョンならばモンスターがあらわれてもおかしくありませんね」

「その通りだ」


 ネクロノミコンが肯定した。シャドウの顔にも緊張が走る。

 シャドウは腰の魔術書を手に持ち、周囲を警戒する。


「近くにモンスターはいないな」


 ディテクトライフで、生命反応も調べてみるがやはり何もいない。


「どうする? 上に戻ってどっちに進めばいいか聞きに戻る?」

「……いえ、このまま進みましょう。もしそれが必要ならば最初から説明されているはずです」


 ランカースはそう言ってから先頭に立って進む。

 シャドウはその後ろから後を着いていった。


☆☆


「ねぇラファエラ」

「なんだい私のミュール」

「今、ラファエラの言ってたお店の地下にあるダンジョンを進んでるんだけど、どっちに行けばいいの?」

「それなら大丈夫さ。あのダンジョンはどう進んでも中央の部屋に着くようになってるから」

「そうなんだ、でも不親切だよ。上にいた人が教えてくれれば良かったのに」

「ごめんごめん、秘密結社ってのは大体そういう風にやるものなんだよ」

「あー、確かにっぽい」


「ふ、2人ともずいぶん余裕だね!」


 ミュールとラファエラがキャッキャと話しているのを見て、アカド王子は悲鳴に近い声を上げた。


「き、来た来た!!」


 アカド王子が、今度は完全な悲鳴を上げる。

 両翼を広げて襲いかかるのは、3体のフェニックス。不死の幻獣とも呼ばれる、彼女たちは、血の一滴からでも炎と共に蘇る再生能力を持つ。

 ランク200とされるが、これはフェニックスの記録が少なく、僅かな文献に残る、出現するダンジョンの深度から推測されたものにすぎない。


(ヒドラよりもずっと威圧感がある! これがランク200だなんて冗談だろ!?)


 アカド王子は、もうダメだなどと呟きブルブルと震えている。


「アカド王子の様子が変だけど、どうしたの?」

「フェニックスのような大型モンスターは、実力が大きく劣る相手を恐怖させるオーラを発しているのだ」


 ミュールの腕の中のネクロノミコンが説明した。

 なるほどとミュールはアカド王子の様子を納得する。


「まぁ私もフェニックスを相手にして、地上のことを相談しだすのはどうかと思いますわよ」


 苦笑いを浮かべるエステルの言葉を聞いて、ミュールは「ごめん」と反省する。

 この状況でのんきに反省しているという行為自体が、アカド王子にはとんでもないことのように見えるのだが、王子以外は気にしていないらしい。


 ミュールはネクロノミコンを手に持ち、ようやくフェニックスに向き合った。


☆☆


「あちらに比べたら、こちらは平和なものだね」

「たしかにな」


 シャドウとネクロノミコンの幻影は、そう言って笑い合っている。

 どっちも深淵側と感覚を共有しているのに、というか深淵側に本体があるというのにこの2人はどうして気楽な様子なのかと、ランカースはエステルの表情によく似た苦笑いを浮かべた。


「向こうに扉が見えるな」

「扉ですね、ようやく人と出会えますか」


 シャドウが扉に触れようとするのを制し、ランカースが扉に触れる、

 ガチャリと音を立てて扉を開けると、開いた隙間から光が漏れた。それを見て、シャドウは首をかしげる。


「この明るさはシャンデリアでもあるのか?」

「魔法の照明だろうな」

「なるほど」


 ランカースが扉を完全に開くと、中は真昼の草原のような眩しい光にあふれていた。

 ダンジョンの中をランタン程度の光量を持つライトの魔法で進んできた、シャドウ達は、思わず目を細めた。

 光に慣れてくると、部屋の様子が見えてくる。

 ダンジョンにも関わらず、そこには人間が使うような家具や調度品が並んでいた。

 ベッドは、黒檀こくたん製で手触りの良さそうなシルクのシーツが敷かれている。

 タンスはウォルナット(くるみ)製で、飾り彫りが美しい。ドレッサーには磨き上げられた鏡が置かれている。ドレッサーの上に並べられているのはガラス製の小瓶だ。中身は香油や香水だろうか?

 魔法の光だと思っていた眩しい光の源は、天井から下がるシャンデリアのものだった。無数のロウソクがシャンデリアを輝かせ、部屋を煌めかせている。


「ダンジョンの中にこんな部屋を作るとは」


 シャドウは感心したように呟いた。もし、王宮に通う前のシャドウなら、驚きで圧倒されていただろう。だが今は、王宮や貴族の大邸宅で高価な部屋というものに慣れきっている。

 シャドウの声を聞き、部屋の奥の椅子に座っていた女性が立ち上がった。


「以前お会いしましたね、お互い今の姿ではありませんでしたが」


 女性は振り返り、シャドウ達へ顔を向けた。


「これは一体……!?」


 ランカースはその顔を見て驚く、

 シャドウも、そしてシャドウの向こうにいるミュールも言葉をなくしていた。だが、予感のようなものもあった。

 あのウルの訓練場で出会った時。顔は似ていないのに、なぜかミュールは、あの植木の手入れをしていた老婆をラファエラによく似ていると感じた時、ミュールは彼女の本当の顔をすでに知っていたような気がしていた。

 あの時の顔とは違う。魔法で偽装をしていたのだろうか。だが、シャドウの目を通して、ミュールはあのときの老婆が目の前の老婆と同一人物であることを確信していた。


「ラファエラ」


 シャドウの口から言葉が漏れる。


「いいえ違いますよ、私はあなたの友人であるラファエラではありません。ラファエラは私のようなお婆ちゃんでは無いでしょう?」


 確かにその通り。少女であるラファエラと違い、目の前の老婆は70は超えているだろう。顔にはシワは刻まれ、栗色だった髪は白くなってしまっている。

 だが、その顔は、ラファエラが歳をとったらこうなるだろうという想像に、ピタリと一致するものだった。


「ラファエラさんの祖母? いや違う、そんな生易しいものじゃない。あなたとラファエラさんは同一人物にしか見えません」


 ランカースがかすれた声で言ったその言葉に、シャドウはゆっくりとうなずいて同意した。


「私はライラー。四英雄の火巫ライラーなんて呼ばれ方もするわね」


 四英雄のライラー。

 彼女は、ラファエラのものと全く同じ、穏やかな笑みを浮かべて、シャドウ達へ椅子に座るよう促したのだった。

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