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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第2章 100年後に魔術書として転生したから今度こそダンジョン攻略する
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67話 冒険者ギルドの危機

 翌日、昼。冒険者ギルド。

 シャドウは応接室のソファに座っていた。

 その手には深淵にいるはずのネクロノミコンがある。メッセージ・アンド・イメージの魔法によって、ネクロノミコンの姿と言葉だけをこの場に投映し、会話しているのだ。


「申し訳ありません」


 ランカースはシャドウとネクロノミコンに頭を下げた。


「私が不甲斐ないばかりに、このような状況になってしまって」


 ランカースは普段の冷静そうな顔を崩し、苦しそうな表情を浮かべていた。


 事の次第はこうだ。

 先日起こした冒険者と魔術師の決闘騒ぎ。

 これは、ほとんど魔術師側から吹っかけたような決闘だったようで、冒険者としても自衛のために止むなくということだったそうだ。

 決闘自体は順当に魔術師が勝利し、冒険者は左腕に全治3ヶ月の骨折を含む怪我を負って入院している。


 騒動に対し、ランカースがすぐに自体の収集にあたった。

 冒険者達にも今は我慢して慎重な行動を取るように、次同じようなことがあったら悔しくとも衛兵の元へ行くようにと冒険者達に“頭を下げて頼んだ“。副ギルド長が冒険者達の前で頭を下げたこともあり、冒険者達は怒りを胸に秘めたまま、誰一人文句を言うこと無く、魔術師ギルドに対して沈黙を保つことにした。


 が、魔術師ギルドはこの決闘騒動を理由に、「冒険者側の規律が乱れ、ダンジョン探索に支障をきたしている」と冒険者ギルドを批判する声明をだした。

 さらには、冒険者ギルドの内部改善が行われるまで、ダンジョン探索における、ピッカー探索の魔術師2名制限を撤廃すること、そしてダンジョン探索の案件管理を一時的に魔術師ギルドに全権限を意向することを発表する。

 これにより、冒険者達は、実質的にダンジョン探索から排除された形になった。ピッカーであっても魔術師のみのパーティーで探索ができるようになるからだ。


「しかし魔術師の数が不足しているのでは? これまで通りのダンジョン資源の供給が可能なのか?」


 ネクロノミコンの疑問に対しランカースはうなずく。


「もちろん足りません。これまで冒険者が行ってきたことも魔術師ギルドと魔術師達だけで行うのですから」


 現在、この世界のインフラはほぼすべてダンジョンから生まれる資源に依存している。食料から衣料、薬、燃料、建材……毎日のように魔術師1人と冒険者数人のパーティーで探索済みダンジョンへ潜り、さまざまな資源を回収することで、このウルを始めとする世界は動いているのだ。


「すぐにさまざまな問題が発生するはずです。おそらくは魔術師ギルドの狙いはそこにあります」

「なるほど、現在民衆は、魔術師ギルドよりも身近な冒険者ギルド寄りだ。それを冒険者が不甲斐ないせいで、物資が不足していると喧伝けんでんして、冒険者ギルドに味方する声を弱体化させるのが狙いか」

「ええ、ズーラ姫の支持者には、多くの扇動者デマゴーグがいます。民衆は正しくない情報も大きな声で叫ばれると、つい信じてしまうものなのです」

「アカド王子の権限でどうにかできないのか?」


 今度はシャドウが聞いた。なんといってもアカド王子はいずれこの国のトップになる人物だ。法に関してもかなりの権限を持つはずである。


「魔術師ギルドは治外法権。特にダンジョン探索に関する権限は、王宮でも一切口出しできないでしょう」


 ダンジョン側では、アカド王子が少し悔しそうな顔をしながら、その通りだとうなずいていた。


「つまりは今できることはなにもない……と?」

「はい、もはやミュールさんが深淵50階の財宝を持って帰還し、その成果によって冒険者ギルドとアカド王子の立場を強化し、魔術師ギルドと対決するより他ないでしょう。それまでは、どうやって魔術師ギルドとズーラ姫の攻勢に耐えるかです」

「そこだよな」


 シャドウは大きなため息をついた。

 冒険者ギルドの後ろ盾があるから、ズーラ姫も魔術師ギルドも、まだあの程度の攻撃で留まっていたのだ。

 だがその後ろ盾が弱体化した今、これまで以上に強引な、力で道理を捻じ曲げるような方法を取ってくるだろう。


「でもまぁ、耐えるだけなら」

「甘く見てはいけません。アカド王子が戻ってくるまで、我々はアカド王子の王位継承権を守らなくてはならないのですよ」

「え、そんなすぐにどうにかなっちゃうものなの?」


 ここまでミュール達側はすでに地下20階半ば、半分ほどの行程を終えている。ここからよりモンスターが強大となり、探索に時間がかかることも予想されるが……。


「地上に帰還するまで長く見積もっても、あと一ヶ月はかからんだろう」


 ネクロノミコンの言葉にシャドウはうなずいた。


「権威を失うのは一瞬です」


 だがランカースの言葉は真剣だ。

 シャドウはますます気が重くなるのを感じていた。


☆☆


「お疲れ様」


 会議を終え、メッセージ・アンド・イメージを解除したミュールに、ラファエラがコーヒーの入ったコップを渡してくれた。


「ラファエラー、もう王子様なんて辞めたいよ」

「ははっ、でも辞めないために戦っているんだろ?」

「そうだけど」


 ミュールの泣き言をラファエラは笑って受け止める。

 王宮に対する愚痴も、ラファエラは嫌な顔1つせず、じっと聞いていた。

 ネクロノミコンも2人の話に口を挟むことなく、じっと黙っている。

 他の仲間達は、キャンプの準備をしている。ミュールの大変さを理解しているのか、2人に手伝えとは言ってこない。


「……ごめん、ラファエラ。こんな話ばっかりしちゃって」


 胸に溜まったものを吐き出せたのか、ミュールは少しは気が晴れた様子だ。


「気にしないで私のミュール。むしろ君と君の分身が大変な苦労をしているのに、何もできない我が身が歯がゆいよ」


 いつもの大げさな言い回しかとミュールは思ったが、ラファエラの顔を見ると、本当に悔しそうに歯噛みしている。


「だ、大丈夫だよ。地上にだって私の味方はいるもの」

「でも相手は魔術師ギルド。おそらく君が思っている以上に危険な状況だ」

「そうかもしれないけど」


 地上にいるのはミュールの魔力の一部に過ぎない。それでも一流の魔術師クラスの実力はあるが、ネクロノミコンも傍らにはおらず、味方達もランカースというごく一部の例外を除いてシャドウのことをアカド王子だと思って味方についている。

 本心から話せる味方ではない。


 ラファエラはじっと何かを考え込み、悩んでいる様子だった。


「ラファエラ、大丈夫だよ。それにこっちをさっさと終わらせて地上に戻れば全部解決なんだから」


 逆にミュールがラファエラを安心させるように笑ってそう言った。

 だが、ラファエラは深刻そうな表情のまま、わずかに躊躇したあと、決心した様子で口を開いた。そのささやき声は、ミュールとネクロノミコンにしか聞こえない程度の声量だった。


「ミュール。地上の君が本当にまずい状況になったら、4番街の炎の踊り亭という酒場にいって、そこの亭主に折れた角を持つラファエラの紹介だと伝えてみてくれ」

「炎の踊り亭?」

「魔術教団、紅蓮の従者の施設なんだ」

「紅蓮の従者ってハオン先生が参加している火の魔術教団? なんでそんなところをラファエラが……それに折れた角って?」

「紅蓮の従者のグランドマスターは火巫ライラー。ネクロノミコンであるバラムを倒した四英雄の1人だ」

「え、ちょ、ちょっと一体何を言って」


 ラファエラが何を言っているのか分からず、ミュールは不安そうにラファエラの目を見た。

 ラファエラはミュールに対して優しく微笑む。


「私達はそれぞれの方針はあれど、君のために行動している」

「私達って、紅蓮の従者のこと? ラファエラも教団だったの?」

「私は違う。私は火巫ライラーの仲間というべきだろう」

「で、でもでも、四英雄って、ライラーって、ネクロノミコンの敵なんでしょ?」


「もったいぶることはない、明日にでも行ってみろ。まずくなってからなど悠長なこと言っている場合ではない」


 それまで黙っていたネクロノミコンが、落ち着いた口調で口を挟んだ。


「ネクロノミコン……」

「確かにライラーは俺を殺した1人だ。だが、あの時、俺にも四英雄にもモウゼにも、そしてコーレシュにも、善悪では割り切れないそれぞれの思惑と信念があった。全員が、自分の行動が最良だと信じて行動した。恨んでないといえば嘘になるが、だからこそ利用できるのならせいぜい利用してやれ」


 ネクロノミコンがそう言って笑った。ミュールもつられて少しだけ笑った後、


「その時は、ネクロノミコンもメッセージ・アンド・イメージで呼び出すからね」


 そう言った。


「ああ、恨み言の1つでも言わせてくれ」


 ネクロノミコンの言葉にまたミュールは笑顔になった。ネクロノミコンの言葉はいつしかミュールにとって勇気を引き起こしてくれる言葉になっていた。

 2人の様子を見ながら、ラファエラは目を細めて微笑するのだった。

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