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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第2章 100年後に魔術書として転生したから今度こそダンジョン攻略する
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58話 魔術師は深淵を進む


 深淵1階。

 想定脅威度 ランク5。


 前回と違い、今回の目的は50階の踏破。

 モンスターとはいちいち戦う必要はない。


「今日は地下9階まで進む」

「一気に9階も?」


 ネクロノミコンの言葉に、エステルが驚いて言った。

 一般的に、現代では深淵10階の探索は片道4日で計画される。

 地下10階の守護者を倒す前に地下9階で野営し魔力を回復させるのはもちろんだが、地下4階、地下7階でそれぞれ休むのが一般的だ。


「これでも安全策だぞ。俺は地下10階まで一気に行けると思うんだがな」

「休憩なしで守護者と戦うのは無謀ですわ」

「無謀かどうかは戦ってみることだ。地下10階での戦いぶりで今後の予定を決めようと思う」


 ダンジョン探索の指揮はネクロノミコンが取っている。

 この中で最も深淵を知るのは彼だ。

 本の身でありながら、だれからも文句を言われずリーダーの役割を担当することになった。


 ライトの魔法で暗闇を照らしながら、石レンガで覆われたダンジョンを進んでいく。

 戦闘はできるだけ回避し、地下1階で戦ったのは天井から落ちてきたキラースパイダーと一回戦っただけだ。


 歩いている時、ふとラファエラがミュールのことをじっと見つめていることに気がつく。


「どうかした?」

「気づいているかいミュール」

「何のこと?」

「君のその美しい黄金色の瞳は、ダンジョンの中にいると、暗闇でも輝くんだ」

「…………」


 ミュールは思わず自分の目を押さえた。


「不思議な瞳だ。思わず見とれてしまったよ」


 そう言うラファエラのエメラルド色の瞳は、暗闇の中ではくすんだ灰色にしか見えない。

 ミュールはポケットから鏡を取り出し覗き込む。


 ラファエラの言うとおり、鏡に映る黄金色の瞳は、深淵に戻ってきたことを喜ぶかのように輝いていた。


「ネクロノミコン、これは一体?」

「瞳がマナに反応しているんだ。お前の瞳は特別で、強いマナを感じると今のように輝くんだ」

「特別……」

「暗闇では便利だぞ、ちょっと明るい」

「……それ、私には見えない」

「それもそうだな」


 からからと笑うネクロノミコンの表紙を、ミュールはそっと撫でたのだった。


☆☆


 深淵3階。

 想定脅威度 ランク12。


 前回の最終到達階だが、今回は余計な邪魔もないため問題なく進む。

 切り株のようなファニートレントがひょこりと顔を出し、ミュール達の様子をうかがっているが、気にせずにダンジョンを進む。


 途中、マナによって生成されたロングソードを一振り見つけた。

 刀身にうっすらと霜が降りている魔法の剣だ。


「これは、冷気爆砕のロングソードだな」


 冷気をまとった剣で、魔力を込めると冷気の爆発を引き起こす。


「昔なら戦士でもある程度の魔力があったんだが……現代の戦士には冷気爆発は使えんな」


 それでも魔法で強化された業物であることには変わりはない。

 剣はアルダッドに渡した。


「実戦中に武器を変えるのは不安になりますね」


 同じロングソードと言っても、刀身の長さや鍔の形状などが若干異なる。

 アルダッドは何度か剣を振りながら、感触を確かめていた。


 先へ進む階段は反対側の部屋にあった。


「次は4階。初めてのエリアね」

「敵は多少強くなるが、今のお前たちなら大した障害にもならん。本番は10階を超えてからだ」

「その10階が現代魔術師が目指す生涯の目標なんだけどね」


 深淵4階。

 想定脅威度 ランク24。


 階段を降りた途端、周囲を女性の上半身に蛇の下半身を持つレッドナーガに囲まれた。

 見た目は女性のものだが、肌がルビーのように赤く、口は耳まで裂けている。


「陣形!」


 フウゲツが叫んだ。

 ラファエラとアルダッドはすぐに円陣を組み、エステルと王子を守る。


「レッドナーガのランクは19! 凝視に気をつけろ、相手の目を見ると一瞬だが意識を失うぞ」


 レッドナーガの昏迷の凝視の効果は10秒。

 およそ10秒間だけ視線を合わせた相手の意識を奪う。だが戦闘における10秒は、致命的な時間だ。

 それに加えて。


『フレイム・アロー』


 レッドナーガには下級魔法相当の炎の矢を飛ばす能力もある。

 次々に飛び交う炎の矢をラファエラがアイス・ウィンドで防ぐ。

 

「うっ……」

「王子! フォーム・オブ・アニマル!」


 やはりというか、まずアカド王子がまず凝視に倒れた。

 エステルは馬の運搬力を得て、王子を抱える。


 フウゲツは腰に差した4本の刀を抜いた。


「やはり囲まれた状況じゃ不利だな、ミュール!」

「分かった!」


 フウゲツの目の前にいる3体のレッドナーガに対して、ミュールはサンダー・スウォーム(雷の群れ)を発動して一気に焼き払う。

 包囲の空いた隙間をアカド王子を抱えたエステルが突破し、ミュール、ラファエラもそれに続く。

 対して、突破させまいと、左右からレッドナーガが詰めてくるが。


『ギャ!?』


 フウゲツの4本の腕がブレたかと思うと、次の瞬間にはレッドナーガの腕や首に深い斬撃の跡が残っていた。


「首を落とすつもりで斬ったんだが、倒せたのは2体か」


 レッドナーガの頑丈な外皮は、魔法鋼の刀を持ってしても致命傷を与えづらい。

 それでもランク20近いモンスターを一撃で2体も倒せるのはフウゲツが尋常の剣士ではない証だ。


 レッドナーガが警戒して間合いを取った隙に、ミュール達は陣形を立て直すことができた。

 こうなれば、もう倒される心配はない。


☆☆


 地下9階。

 想定脅威度 ランク74。


「ファイアー・ボール!!」


 ミュールの魔法が3体のマンティコアを吹き飛ばした。

 残った1体が飛びかかってくるが、それをアルダッドが剣を振って牽制し動きを止める。


「メテオ・ストライク!」


 動きの止まったところをエステルの魔法が貫き、マンティコアは頭を砕かれ動かなくなる。


「ふぅ、ランク100以上が4体も」


 9階の想定脅威度を大きく上回る相手だったが、この程度の逸脱は十分にありえる範囲だ。

 ここは現代魔術師にとって、一瞬たりとも気が抜けない地獄なのだ。

 だが、ミュール達の目指すところに比べたら、ここはまだまだ浅い。


「階段はあそこだな。よし、今日は近くの部屋で野営しよう」


 ネクロノミコンに言われて、全員が安堵の息をついた。


「本当に1日で9階までいけるとは」


 ミュールの魔法で相手の数を一気に減らせるとはいえ、何度かヒヤリとする場面はあった。

 それでも目標を達成できたことは、パーティーの自信につながる。


「でも確かに、まだ魔力はかなり余裕がありますわ」

「ほとんどの戦闘で、魔法の使用は1~3回程度だものね」


 扉を魔法で施錠し結界も張ると、パーティーは無事、深淵での最初の1日を終えた。


☆☆


 時間はお昼ごろまで遡り、場所はウルの王宮。

 シャドウは貴族達の定例会議に出席している。


「…………」


 ここでシャドウがやるべき仕事は、座って椅子を温めることだけだ。


「では問題がないようですので、これも予定通りに」


 基本的に、貴族達は自分に関わる問題以外は発言しない。

 そして自分に関わる問題であっても、大抵の場合事前に根回しが行われているので、問題ないと頷くだけだ。

 ズーラ姫ですら、ここではつまらなそうな顔をしたまま黙っている。


「むっ」


 その時、国王が言葉を発した。

 進行をしていた宰相は話すのを止めて国王を見る。


「ぐぅぅぅ……」


 国王は目をつぶり、いびきをかいていた。

 それを誰かが咎めることもなく、宰相は何事も無かったかのように中断していた話を続けた。


 シャドウは、ここで行われている仕事が、物事を右から左へ動かすだけのものだと理解した。


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