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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
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35話 少女は教師に目をつけられる


 深淵の探索に向けて、ミュール達は準備をしている。

 地下50階まで到達したことのある者は冒険者はもちろん、魔術師ギルドにもいない。

 未踏エリアについては、ネクロノミコンの知識だけが頼りだ。

 そのため、学校が終わるとミュールはネクロノミコンの知識をノートに写し、仲間と情報を共有する作業をしている。


「それはいいけど、情報量多すぎ!!!」


 この一週間でミュールが書き込んだノートはすでに3冊分。

 授業と食事とお風呂の時間以外は、すべてネクロノミコンの言葉ををノートに写す作業を続けていた。


「もうやだ!」

「泣き言を言うな、あと半分くらいだ」

「もうやだ!!!!」


 ミュールは二度繰り返すレベルで嫌がっている。

 なにせネクロノミコンはただでさえ講釈好きで話が長くなる癖がある。

 さらに昔はダンジョンの専門家だったこともあり、よく話が脱線し専門的な考察に入ってしまうのだった。

 ネクロノミコン自身も、できれば必要なことだけを伝えたいとは思っているのだが……。


「こうして話しているとついついな」

「私にはどれが必要な情報で、どれが無駄な情報か分からないんだから、我慢してよ」

「これでも抑えているのだぞ。本当なら10倍は話したいのだ」

「深淵に行く前に私も魔術書になっちゃうよ!」


 ミュールとしても、最近はネクロノミコンの過去の話を聞くことを密かに楽しんでいるのだが、ひたすら手を動かし続けるとなると今は別だ。

 さらに学校の授業も、同じように魔法について黒板の文章を写すばかりなので、ミュールの精神的負担はなおさらだった。

 耐えきれなくなったミュールが、授業中集中力を切らせぼんやりしている事も増えている。


 マナに選ばれたとしか思えない魔力を持っているとはいえ、ミュールは14歳の少女だ。

 深淵から帰って1日休んだら、すぐに学校や冒険者ギルドとの交渉。

 休日も朝から晩まで資料作りをさせたのは無理があったかもしれないと、さすがのネクロノミコンも反省した。


「確かに少々根を詰めすぎたか……よし、ミュール」

「なーにー」


 ミュールは机に突っ伏して、ほっぺでネクロノミコンと出会ったあの日に焦がしてしまった机の感触をぐでーっと感じつつ、疲れた声で聞き返す。


「明日は休もう」

「本当!」

「ああ、その方が能率が良くなるだろう」

「やった、じゃあ学校も休むね」

「そうだな。しっかりと休め。明後日からまた手を動かしてもらうからな」

「はーい。じゃ、もうひと頑張りするよ!」


 休みと聞いてやる気を取り戻したミュールは、再びペンを取るとネクロノミコンの言葉を記録していった。


 深夜1時過ぎ。

 精も根も尽き果て泥のように眠るミュールの顔は、それでも明日の休みを楽しみに安らかな寝顔だった。


 だが、明日学校をサボったことで、思わぬ問題に巻き込まれるとは……まだ二人共知る由もない。


☆☆


 翌日は丸一日、ミュールは部屋でゴロゴロしていた。

 魔術学校は基本的に自主性を重んじる。

 別に休んだからといって文句を言われることもない。

 それで魔法の実力が落ち、昇級試験で落第して退学になろうが、それは本人の責任であるというのが方針だ。


 原則としてはだが……。


☆☆


 ゆっくり休んだことでミュールはすっかり立ち直っていた。

 学校に向かう足取りも軽く、朝の喧騒も心地良いBGMだ。


「朝日が昇る♪ 町が目を覚ます♪ 君の元へ行こう♪ 光踊る道を♪」

「なんだその歌は」

「流行ってるんだって」


 たった一日休んだだけでこの回復力。

 変なところでネクロノミコンはミュールの評価を一段あげていたのだが……。


「音楽の才能はないな」


 そうこっそりと呟くネクロノミコンの声は、幸いにしてミュールには届かなかった。


☆☆


 授業が終わり、ミュールは肩を回して疲れた肩をほぐしていた。


「ミュールさん、授業が終わったら職員室に来るようにってハオン先生が呼んでたよ」

「ハオン先生?」


 クラスメイトに言われ、ミュールは首を傾げた。

 ハオンは特別クラスを教える先生の1人で、教師になる前は優秀なマッパーだったらしい。


「ハオン先生から呼ばれるようなことあったかなぁ?」


 授業で会うことはあるが一方的に黒板の文字を写すだけで、ハオンとミュールが話したことは、一度しか無い。

 クラス分け試験のときに、攻撃魔法を見てもらったくらいだった。


「伝えてくれてありがと、今から行ってみる」

「私あの先生苦手、なんか見下されてる感じがして」

「あはは、たしかに」


 ハオンの評判はあまり良くないようだ。

 ミュールはちょっと不安になりながらも、職員室へと向かった。


☆☆


 ミュールが職員室に入るのは、実はこれが初めてだ。

 魔術学校の職員室は、学校の格に比例して壮麗な装飾が施されるのが常だ。

 サクス校の場合は、部屋の中央にサクス校の校章が彫り込まれた石英の柱が置かれ、壁には四英雄の勇姿が描かれた魔法鋼のレリーフがかけられている。

 床にも魔法で着色されたパネルが敷かれ、とても賑やかで明るい。


(よくこんなところで仕事できるなぁ)


 だがミュールの感想としてはこんなものだ。

 キレイだとは思うが、日々の生活する場としては、幼年学校時代の質素な板張りの床に、趣味で水彩画を描いていた教師の作品が壁にかけられている程度の職員室の方がよっぽど落ち着く。


「失礼します。ハオン先生に呼ばれてきたんですけど」


 ミュールは職員室を見渡したがハオンは見当たらない。

 近くにいた教師が、ミュールに気が付き声をかけた。


「ああ、ミュールさんね。ハオン先生は訓練所で待ってるって」

「訓練所? なんでまた」

「さぁ? 私もあなたが来たらあっちにいるって伝えるように言われただけで。もしあなたが来なかったらどうしようかと困っていたのよ」

「なんかすみません」

「それじゃ、確かに伝えたから」


 仕方なくミュールは校舎の外にある訓練所へと向かった。

 訓練所はクラス分け試験をやった、ダンジョンを模した施設だ。

 壁は普通の建材であるため、魔法の衝撃で壊れないように、衝撃を上に逃がすため天井が吹き抜けになっている。


「…………」


 そこには誰もいなかった。

 ただ、壁に魔法文字で何か書かれている。

 面倒に思いつつもリーディングの魔法で読むと、今度は『学校の外、魔術師ギルドの訓練所で待っている』と書かれているではないか。


「いやいや、何なの!?」


 さすがにミュールも意味がわからず声を上げた。


「嫌がらせなの!? 早く帰って深淵の資料を書き上げたいのに妨害工作なの!?」

「深淵の資料を作っていることは知られてないはずだぞ」

「うー、なんなのよもう」

「気が付かなかったことにして帰るか?」

「ここまでするからには、何か目的があるんでしょ。明日も学校で会うんだから、無視したら気まずいじゃない。はぁ……まさか本当に賢者の塔絡みじゃないよね?」

「前に会った時は、魔力は賢者の塔の魔術師程度も無かった、よくいる現代魔術師だったぞ」

「うーん……仕方ない、行くか」


 きっと面倒が待っている。

 そんな確信を持ちながら、ミュールは足取り重くトボトボと学校を後にした。


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