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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
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外伝1話 冒険者ミュールとお祭りの日 前編

少し気分転換に冒険者としてのミュールとネクロノミコンを主役にした一話完結の短編を書いてみました。

思ったより文量が増えたので前後編。


 ある日。

 魔術師ミュールは冒険者ギルドに併設された酒場でベリーパイを焼いてもらっていた。

 ウルでは小麦粉と水を混ぜたものを、網目に通して細い糸状にし、それをパイ生地として使うのが流行りだ。

 ミュールも都会に来てから、そのサクサクとした面白い食感の虜になり、こうしてちょくちょく食べに来ている。

 もちろんここ以外にも、飲食店であればどこでも販売されているものなのだが、冒険者割引が利くここで食べるのが一番、味と値段のバランスが良いとミュールは結論を出している。


「美味しいー」


 もきゅもきゅとパイを食べながら、ミュールは至福の時間を過ごしていた。


「学校帰りに食べるきつね色のパイ、飲み物は琥珀のようなコーヒー、すばらしい贅沢!」

「ダンジョン探索での成果で金持ちになったくせに幸せが安いな」


 皮肉を含む声がしたが、あたりにはミュール以外だれもいない。

 だがミュールは驚いた様子もなく会話を続ける。


「定期収入が増えたわけじゃないもん、無駄遣いはしないよ」

「みみっちいやつめ。魔術師というのは明日のことも考えずに高価な本を買って、次の一週間小麦と塩だけのクレープと豆のスープだけで生きていくもんだ」

「そりゃあんただけでしょ!」


 ミュールは机の置かれた、人皮装丁の本に向かって文句を言う。

 表紙に浮かぶ人の顔が口の端を歪めて笑った。

 この本はネクロノミコン、100年前の魔術師の死体を使って封印された本で、装丁になった今でも魔術師の意思は生きている。この不気味な本がミュールの魔術書だ。


 生前のネクロノミコンは節制が苦手だったらしい。

 たまに漏らす愚痴から、若い頃は貧乏暮しをしていたということをチラホラと漏らすことがある。


「乙女はちゃんと食べて美容と健康に気を使うのよ」

「オトメね」

「…………」

「別に何も言ってないぞ」


 ミュールはネクロノミコンの表紙をペチンと指で弾いた。

 魔法で守られたネクロノミコンにとっては別に痛くもないのだが、ミュールなりの意思表示のようなものだ。


 二人が食事を楽しんでいた時、がちゃんと音を立てながら初老の男性が冒険者ギルドに入ってきた。

 男は自分の立てた物音に驚いた様子で固まり、帽子を脱ぐとペコペコと頭を下げた。


「すみません」


 何か依頼を持ってきたのだろうか。だが、今は冒険者は全員出払っている。

 唯一ギルド内にいるのは暇そうにコーヒーを飲みながら本を読んでいた受付の女性と、ミュール達と、カウンターで皿を磨くマスターだけだ。

 目があったミュールは口にパイを頬張ったまま、ペコリとつられて頭を下げた。


「ベアさん。何かご用ですか」


 受付をしているギルド職員は本を置くと、声をかけた。

 名前を知っているところからすると、冒険者ギルドをよく利用する人物のようだ。


「はい、その、またゴブリンの野盗があらわれまして。昨日、やつらに見張り台を占拠され、それで冒険者の方々のお力をお借りしようと」

「またゴブリンですか。大変ですね……しかし困りました……現在冒険者は全員出払っておりまして、すぐに動けるものは誰も」

「そんな、やつらは明日には村を襲撃しにきます!」

「ゴブリンの野盗と戦えるだけの戦力をすぐに集めることは不可能です。今回は領主様に派兵してもらうしかないかと」


 男は顔に深いシワを作り、うろたえた。


「無理です、今の領主様は村の為に兵を動かしてはくれません」


 男は真剣な様子でそう言った。

 妙な話だ、とミュールは思う。

 領主の一番の仕事は領内の安全を守ることだ。

 あくまで理想で、現実的には、領内全域を守れるほどの兵力はなく、何か起きてから冒険者や傭兵を雇うことの方が多いのだが。


 今回の場合は『また』らしい。

 話しぶりからするに、半年以上前のことではないだろう。

 対応を冒険者に任せたにしろ、領主も自分の兵を率いてゴブリンが近づけないよう警戒を行うはずだ。

 また襲撃され、村を荒らされれば収入が減るからだ。


 だから、『また』というくらいの間隔なら領主はゴブリンの襲撃に対する備えができているはず……それが一般的なはずだ。


「そうでないとしたら、最低限の兵力すらない貧乏領主か、収入が減ることも分からぬ暴君か、どちらかだな」

「ちょっとネクロノミコン、聞こえたらどうするのよ」


 ミュールも同じことを考えていたのだが、それを口に出さないだけの分別はある。

 なにせここにはギルド職員を除けばミュールしかいないのだ、声を出したら目立つ。

 案の定、困っていたベアはミュールの方を見た。

 その顔は、酷く弱っていて、ミュールのような、若い女の子にすら救いを求めているように見えた。

 もちろん、たった一人の少女に助けを求めるほど、彼は愚かではなかったが。


「ワシはどうすればいいでしょうか?」

「私にはなんとも……」


 受付の女性は同情している様子だったが、ただの受付にできることは何もない。

 実際に冒険者はいないのだ。いくら助けたくともいないものは派遣できない。


「出払っている冒険者が戻りましたらすぐに依頼を伝えるようにはしますので」


 何の解決にもならないとは思いつつも、職員はそう告げた。

 ベアは肩を落とすと、もごもごとお礼を言うと、冒険者ギルドを去ろうとした。


「あの」


 ミュールは思わず声をかけてしまった。


「私でよければ行きましょうか?」

「お気持ちは嬉しいのですが、お嬢さんたった一人では」

「私、魔術師なんです」

「魔術師!?」


 ベアは驚いて受付嬢の顔を見た。


「は、はい確かにミュールさんは魔術師です。ここによく食べに来る常連さんで」

「そういうわけで私なら解決できると思います」

「で、ですが魔術師様に来ていただくほどの、その、報酬がお支払できそうになく」

「冒険者のみなさんと同じ額で大丈夫です」


 ミュールは手を振ってそう言った。

 受付嬢は喜び半分、困惑半分の表情でミュールに声をかける。


「ミュールさん、いいんですか? あなたには戦う義務なんてないのに」

「Aランク冒険者待遇で割引とかしてもらってますし、たまには協力しますよ」


 ミュールは魔術師ギルドに所属であり冒険者ギルドの会員ではないのだが、副ギルド長ランカースのとりはからいでAランク冒険者と同じ待遇にてギルドと関連施設を使わせてもらっている。

 それなりに感謝やら何やらを感じているのだ。


「すみません、助かります」

「私が好きでやることですから、気にしないでください」


 ネクロノミコンは不満そうだが、ミュールは何度もお礼を言うベアの様子を見て、声を上げてよかったと喜んでいた。


☆☆


 ベアの住む村はハルルート村という。

 農業と林業が主産業の小規模な村だ。

 最近領主が代替わりし、伐採した木々を運搬するための街道整備を行っており、そのための作業員にハルルート村の男が駆り出され、さらに足りない分は外から人を雇っている。

 野盗のゴブリンも、作業員のふりをして入り込んだならず者たちだ。


☆☆


 もちろん、二十人にも満たないゴブリンの野盗団などミュールの敵ではない。

 飛行の魔法で占拠された見張り塔にやってきたミュールは弓矢や投石で襲ってくるゴブリン達を、ライトニング・ボルトで一掃していた。


「ぐほっぐほっ!」


 勝てないと察したゴブリン達は、撤退の声をあげると、慌てて逃げていく。

 だがそれがミュールの狙い。


「よし、見張り塔を離れたね、それじゃあ……3連続ファイアーボール! 威力はだいたい30%!」


 爆発音が3回。悲鳴はたくさん。

 3連続で使われた破壊の魔法は、威力を十分に加減されていてなお、ゴブリン達を吹き飛ばし、壊滅させていた。


「見張り塔は無事よね。良かった」

「まっ、この程度の相手に苦戦してもらっては俺の主として失格だからな」


 得にならない仕事に不機嫌そうだったネクロノミコンも、あっというまに仕事が片付いたことで機嫌が直ったようだ。


「じゃ、村でベアさん待って報告しようか」


 ミュールはネクロノミコンを腰のバッグにしまうと、村の方へと歩きだした。


☆☆


「なんとお礼を申し上げればよいか!」


 村に戻った後は、少しだけ面倒だった。

 まぁ、こんな若い女の子が、依頼を受けたからゴブリンを一掃してきたといっても信用されないだろう。

 その上急いできたからベアもまだ到着していない。

 魔法を見せ、さらに村人と一緒に仕方なくまた見張り塔へと行き、ゴブリンの全滅を確認するハメになった。

 だがそれも終わり、こうしてベアや他の村人からも感謝と賞賛を受けている。


 報酬は銀貨160枚。

 安いが、一般人であれば160日分の食費と考えると、決して安すぎる額ではない。

 魔術師がダンジョンに潜るのはそれだけ儲かる花形仕事だ。


「いえいえ、村に被害がでなくて良かったです」


 報酬は安くとも、こうして村の人達から感謝されれば、それが足りない分の報酬になるんだなぁ……とか思っているミュールを、ネクロノミコンはジト目で見ながら、そのうち痛い目みるぞと呟いている。


「ミュールさんはすぐにウルへ戻るんですか? もしお時間があったらですけれど、明日は村でお祭りをやるんです。参加してもらえるのならば歓迎しますよ」


 報酬を受け取ったミュールに、ベアが声をかけた。

 何やら祭りをやるらしい。


「お祭り?」

「ええ、もうすぐ雨季ですので。雨を願うお祭りですね」


 ダンジョンからの資源で、乾季も深刻な水不足にはならないのだが、それでも雨季が遅いのは作物の出来に関わる。

 信仰の廃れた魔法の時代、特定の神に祈る人が少なくなったとは言え、こういう習慣は残っていた。人智の及ばぬ世界で、祈らずにいられるほど、人々はまだ達観してないのだ。


「今の領主様になってから、あまり余裕がなく質素なお祭りになるのですが、それでも歌や踊り、みんなで持ち寄った食材を使った料理など、この一年で一番贅沢する日なのです」

「部外者なのに、私も参加していいの?」

「もちろん! 魔術師様へ大したお礼ができなかった分、お祭りで楽しんでいっていただけたらと……その、魔術師様にとっては大した催しではないかもしれませんが」

「ありがとう! ぜひ祭りを堪能させて!」


 田舎育ちのミュールにとって、こうした村の祭りは故郷であるリナール村を思い出す。

 楽しかった子供時代の思い出に、ミュールは思わず微笑んだ。

 祭りには学校をサボる価値はある!


「まぁ俺は別にいいんだけどね、あの学校じゃ学べることなんてあまりないと思っているし」


 ネクロノミコンのぼやきをミュールは聞いていないふりをした。


後編も書き上がっているので、明日の朝8時に予約投稿しています。

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