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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
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34話 魔術師の弟子とマナの声


 コーレシュは琥珀のパイプをくゆらせながら、思考の海に漂っていた。


 モウゼが立案したこの計画も、ようやく終わりが見えてきたところで、かつて裏切った師の亡霊が蘇った。

 コーレシュはそこに何か、運命的な暗示を感じずにはいられなかった。


 あの時のような裏切りではなく、私が師を超えたことを証明しなくてはならない。

 そう運命はコーレシュに告げているかのように感じれた。


 かつて、師はどこまでも高い壁のように見えた。

 コーレシュより先に独立していった兄弟子達は、いずれ追いつけるという確信があった。

 彼らもまた優れた魔術師であったが、コーレシュはいつか必ず自分の理論によって打倒できると信じていた。

 事実、バラムを裏切ったコーレシュを批判した兄弟子達を、コーレシュは残らず葬り去っている。


「あの時、マナの意思に触れてから、私は変わったのだ」


 最近独り言が多くなった、そうコーレシュは自覚していた。

 自分の内面にどういう変化が起こっているのかまでは分からない。これが老いるということなのかもしれない。

 バラムやモウゼなどかつて力のある魔術師達がそうであったように、コーレシュは自分の寿命を魔法で引き伸ばしている。

 おそらくはあと30年は生きられるだろう。

 160歳を超えたあたりから、このマナの豊富な賢者の塔の中ですら、延命の限界に達すると予想している。

 その前には計画も終わっている予定だが、必要ならば師の残した不死化の魔法を研究しなくてはならないかもしれない。


 思考が逸れたことに気がついたコーレシュは、パイプの灰を落とし、新しい煙草をパイプに詰めると火を付けた。


 師もモウゼも、この世界の滅びに関し、あまりに呑気すぎた。

 自分の研究を公開し、魔術師達への教育を義務化することで質と不用意なマナの消費を避け、優秀な魔術師達によって対策を研究する。

 確かにもっともらしい方法だ。

 だが、いつ解決する?

 どうすればマナの枯渇を防げるのか、何の糸口もないこの状況でなんと悠長な策だろうか。


 コーレシュはマナの声を聞いた。

 師匠に命じられ、図書館の構築を手伝っていたときだ。

 凡庸な魔術師だったコーレシュは、あの瞬間から、自分がマナに選ばれし者であったと気がついたのだ。

 コーレシュは右手をかざし、魔力を込める。

 過去の魔術師達に近い水準を維持している賢者の塔の魔術師から見ても異常な程の魔力。

 バラムの弟子達を殺したあの時よりも、さらに強力な魔力がコーレシュの身体には満ちていた。


「仰せのままに」


 コーレシュはつぶやく。

 マナの声はあれからずっと聞こえている。

 自分が何を成すべきか“預言”が聞こえるのだ。


 ネクロノミコンとなったバラムは乗り越えるべき壁だ。

 マナの意思がコーレシュに師を超えて世界を救えとささやいているのだ。


 コーレシュは自分の魔術書に触れる。

 そのしっとりとした感触に口元をほころばせる。


「立ちはだかる最後の魔王を滅ぼし、私は英雄となる、例え師やモウゼの名が大地のマナと共に忘れ去られたとしても、私の名、私の偉業、私の名声だけは残る。ふふ、ふはははははははは!!!」


 防音された部屋の中で、コーレシュの哄笑が響き渡り、縞瑪瑙の彫像は怯えたようにほんの微かにその身を震わせたのだった。


☆☆


 冒険者ギルドでは、ミュールとランカースによる話し合いが続いていた。

 ミュールはコーレシュに会う為に、深淵の地下10階に冒険者ギルドを後ろ盾として向かうつもりだった。

 だが事態はより複雑になっている。

 ミュールは案を少し変更し、ランカースへと伝える。


「深淵で結果を出すことで魔術師ギルドからの圧力に対抗すると」

「魔術師ギルドが言い出している件は、ダンジョン探索が魔術師主導である以上、冒険者側でできることなどほとんどありません対応しようとするのならば、魔術師ギルドから独立して、冒険者が主導でダンジョン探索に意見できるような関係を構築するしかありません」

「ミュールさんの言うとおり、それで私もどうしようもないと頭を抱えていたのですが」

「はい。ギルドを独立させるというのは当初の目的を進めることが解決になるはずです。そのために、例え魔術師ギルドから一切の協力が得られなくなっても冒険者ギルドはダンジョンを探索できることを証明する必要があります。我々は魔術師ギルドが無くてもやっていける、我々を切ったところで損をするのは魔術師ギルドだと、そう他ならぬ魔術師ギルドに思わせなくてはなりません」

「それで深淵を」

「本来の予定では地下10階を探索する。そのつもりでした。ですが、今の状況となってはそれだけでは足りない。我々は魔術師ギルド以上の能力があることを証明しなくては」

「…………」

「賢者の塔の魔術師チームによる深淵の最奥到達記録は地下40階。我々はそれを超える50階を目指します」

「無謀です、いくらなんでも……」


 冒険者としても活躍してきたランカースは、深淵の10階への探索にも参加したことがある。

 命がけの冒険だった。

 仲間も1人命を落とし、地上に生還したときは涙が出たほどだ。


 それなのに地下50階だと?


「不可能ですよ、そんな無謀な計画に乗ることはできません」

「ランカースさんは私の実力を信用していると言ってたじゃないですか」

「深淵の最奥に挑めるかどうかは、私の理解の外にあります、それは……」


 背後からがたんと音がした。

 扉が開かれた音だ。


 そこには、ミュールが入ってきた時に出会ったガグと、訓練を終えたばかりなのか、汗で汚れている冒険者アルダッドの姿があった。


「ランカース君。この話、受けるべきだ」

「ぎ、ギルド長!」

「え? ギルド長だったの!?」

「名乗らなくてすまなかったね、私はフウゲツ。非才の身ながらこのギルドのギルド長を務めさせてもらっている」


 巨人ガグが冒険者ギルドの長をやっているとは、ミュールも思わなかった。

 ランカースが「交渉には向かない」と言っていたのも頷ける。


「ギルド長、無謀ですよ。とても成功するとは思えません」

「ならば他に方法があるのかい?」

「いえ、それはまだ何も……ですが、そんな無謀な探索に参加する冒険者なんていませんよ」

「います!」


 それまで黙っていたアルダッドが叫んだ。

 ランカースはぎょっとした表情でアルダッドを睨む。

 だがアルダッドは視線をそらすこと無く、迷いのない目でランカースへ言った。


「俺が行きます! ミュール様なら必ず探索を成功させ、冒険者ギルドを救うでしょう。これほど美味い話に乗らない冒険者はいません!」


 アルダッドは胸に手を当て、ミュールに対して敬礼をした。

 当のミュールは目を白黒させている。


「ミュール様だそうだぞ」


 ネクロノミコンは面白そうに笑うが、ミュールはなんでここまで持ち上げられているのか分からない。


「な、ネクロノミコン……」


 一回りも年上の男性から向けられる敬意に、ミュールは困って助けを求めた。


「今の状況では好都合だ。喋らせておけ」

「もう、他人事だと思って」


 これで冒険者ギルド側からも1人派遣することが決まったが、それだけではまだ数が少ない。あと1人は派遣して欲しいところだ。

 ランカースもそのことを理解しているが、その答えを避けるかのように何も言わない。


 ランカースの様子を見ていたギルド長フウゲツは、ごく親しい者にしか分からない……もちろん、ランカースには分かるものだが……笑顔を浮かべ、声を上げた。


「もう1人は僕が行く。冒険者ギルドの命運をかけた、栄えある探索に、僕がいかなければ何がギルド長か……そんな感じだね」

「あなたの身に何かあれば、それこそ冒険者ギルドは致命的な損失を支払うことになる」

「ここで何もしなければ、僕も君も死んだも同然だ。僕は戦いのスイッチを入れるのが遅い方だと言われるけれど、ランカース君。僕達はここで戦いに出なくてはならないんだ」


 フウゲツの言葉にランカースは俯いた。


「待たせてしまって申し訳ないねミュール君。我々二人が同行しよう。どこまでやれるか分からないが、僕らが前で立っている限り、君たちへの敵が到達することはない」


 フウゲツは4本の手のうちの1つをミュールに差し出した。


「よろしく頼む、魔術師ミュール君」


 ガグと握手をするのは初めてだったが、その手は大きく分厚く、そして温かかった。

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