30話 少女のパーティーは火の巨人と戦う
火の巨人はついにミュールのアイアンウォールを破壊し、ミュール達を視界に捉えた。
「エレメンタルフォーム・チェンジ!」
ミュールは炎の女王の姿から、氷の騎士へと姿を変える。
手には凍える槍を持ち、身体は蒼い氷で覆われ、髪は雪のような白いものへと姿を変えた。
「火の巨人は冷気に弱い、そうだよねネクロノミコン?」
「まぁそうだな」
ミュールの言うとおり、火の巨人は冷気に対して脆弱性を持つのだが、ネクロノミコンの言葉は歯切れが悪い。
だがミュールは気にすること無く、氷の槍を振りかざすと、巨人に向けて投げつけた。
投げた後にはミュールの手にすぐさま次の槍が生成される。
巨人から距離を取って、この極寒の冷気が結晶となった投げ槍でしとめるつもりだ。
だが槍は巨人の身体を傷つけずに弾かれた。
「えっ!? なんで!!」
「やはりか」
巨人はミュールに向けてグレイブを振り下ろした。
ミュールは地面を凍らせながら滑るようにして横に回避した。
振り下ろしたグレイブによって地面が砕け、石礫が横殴りの雨のようにミュールに降り注いだ。
顔を守りながら、ミュールは伏せてダメージを最小限に抑える。
「なんで冷気の槍が効かないの? どういうこと!?」
「確かに火の巨人は冷気が弱点だ。それを誰よりも火の巨人自身が知っている」
「それって、まさか……」
「レジストエナジーの魔法だ。事前に冷気に対する結界を張っているんだ」
「ず、ずるい!」
「ずるくはない、やつらは我々と同等以上の戦略的思考を持っているのだよ。弱点があれば補強する。当然のことだ」
4人の巨人が次々にグレイブを振り回す。
ミュールは慌てて距離を取ろうとするが、巨人たちはミュールの退路を制限しようと、1人が攻撃する間に残りが回り込み、少しずつミュールを追い詰めていった。
「わっ! わわっ!」
グレイブを振り回す火の巨人達の周りは、炎が竜巻となっているかのようだった。
その中を、氷の騎士の姿をしたミュールが嵐の中を踊るかのように飛び跳ねている。
吟遊詩人は素晴らしいシーンだと大いに喜ぶだろうが、本人は必死で逃げ回っているだけである。
「ディスペル・マジック!」
その時、魔法を唱える声がした。
「これなら私でもできますわ!」
「ミュール! 私達がレジストエナジーを打ち消すから、トドメを頼む!」
エステルとラファエラが、それぞれ解呪の呪文で巨人と冷気耐性の魔法を引き剥がしにかかっていた。
巨人たちは標的を変更し、エステル達へとグレイブを持って突撃した。
「サンダースウォーム(雷の群れ)!」
ミュールの放った無数の雷撃が巨人たちの足を止める。
氷のエレメンタルフォームのせいで、電撃の魔法は威力を減じていることもあるが、ミュールの魔法を浴びても致命傷にならず生き残っている火の巨人達は、さすが深層のモンスターと言うべきだろう。
だが足止めには十分な効果があった。
「よしこれで魔法は剥がしたわ!」
「ミュール!」
巨人を冷気から守る鎧はもうない。
ミュールは、これがパーティー戦だという実感に震えた。
戦うのは1人ではない、援護してくれる仲間がいるのだ。
ミュールは高く跳躍した。
エレメンタルの身体による跳躍は5メートルを超える巨人の頭上を軽々と超える。
ミュールは感覚的に次に何をすればいいかを知っていた。
「そうだ、エレメンタルフォームの強さは、格下のエレメンタルを従属できることにある」
ダンジョンのマナが集まり、ミュールの側に冷たい影が姿を現す。
それは氷の大鷲だった。
氷で構成されたその翼は美しく、澄んだ鳴き声はここが静かな雪原であるかのように響いた。
氷の大鷲はミュールを背中に乗せる。
ミュールは槍を構えた。
「いくよ!」
グレイブを構え、待ち構える火の巨人たちの元へ、ミュールを乗せた大鷲が急降下する。
火の巨人達は裂帛の気合を込め、再び炎の竜巻となってミュールを襲った。
一瞬の交差。
吹雪が竜巻を切り裂いた。
巨人たちはグレイブを持った姿勢のまま槍で貫かれ、倒れた。
その亡骸には白い霜が降りており、完全に冷え切ってしまっている。
「クアアアア!!!!」
氷の大鷲が勝利の雄叫びをあげ、ミュールは小さく安堵の息を吐いた。
☆☆
戦いが終わり、ミュールはエレメンタルフォームを解除した。
「ミュールさん!」
エステルとラファエラが駆け寄る。
集まった三人は、じっと口を閉じ、お互いを見つめる。
ミュールが右手を上げた。エステルとラファエラはその小さな手を見る。
やがて二人も右手を上げ。
パチン。
『やったああああ!!!!!』
ハイタッチをかわすと、三人はパーティーの初勝利、それも火の巨人という討伐例のほとんど無い、とてつもない強敵からの勝利を祝ったのだった。




