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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
23/76

23話 頑張るお嬢様と見守る少女


「ウェイブウォール!」


 エステルは魔法によって水の壁の壁を作り、炎の魔犬ヘルハウンドの吐いた火から身を守る。


「アイシクルストーム!!」


 続けて放った魔法によって、水の壁が崩れ、大量の氷柱つららと極寒の嵐が、4体のヘルハウンド達を貫いた。

 無力化できたのは2体、残った2体は大きなダメージを負ったが、倒すには至らず飛びかかってくる。


「アイシクルダガー!!」


 エステルが続けて、残った冷気と残った氷柱を使い、氷のナイフを生成してヘルハウンドに射出した。

 残り2体のヘルハウンドも喉を貫かれ、ようやく倒れる。


「はぁはぁ……」


 中級魔法2回と下級魔法1回。

 それぞれの魔法が次の魔法の負担を少なくするように使っているため、ある程度は魔力の消費を低減しているが、それでもエステルの顔には消耗の色が伺えた。


「どうですの? 私もこれくらいやれますのよ」


 ガジャンとポン・カーティスはわざとらしい拍手を送る。

 エステルが並の魔術師よりも優秀なのは間違いない。

 魔法の組み合わせを考えて使っているし、制御もかなりの腕前だ。

 だがそれでも並の魔術師と比べたらという枕詞がつくのは避けられない。

 ここにいる魔術師達は、誰一人として並の魔術師はおらず、そしてなにより賢者の塔の魔術師であることを考えれば、エステルの実力は劣等と呼ばれても仕方のないことだろう。


「……くっ」


 エステルは悔しそうに唇を噛み締めた。


 戦闘は5回。

 地下1階で戦うにしては多すぎるのだが、ガジャンたちは実力を見るために目についたモンスターすべてに攻撃を仕掛けた。

 もちろん、実際に戦うのはミュール達三人だ。

 ミュールは二人の様子を気遣いながら、援護に回ったのだが、エステルは自分ひとりの力でモンスターを倒そうと、魔法を連発していた。


「マドモアゼル、君が強い魔術師だということは良く知っているよ。だからこれからはお互いに負担を分け合おう。まだ1階だ」

「ご心配なく! 私だって、人より優れた魔力を持っているのですわ」


 なによりの問題は、パーティーの中で自分が一番劣っていることを、エステル自身が理解していることだ。


「まぁまぁ、階段も見つかった、次の階からは俺たちも参加する。少し休んだらどうだ?」

「結構です!」


 ガジャンの提案に対しても、かたくなな様子で首を振るエステルに、ポン・カーティスは舌打ちをした。

 ガジャン達にとっては、ミュールとラファエラを消耗させたいところなのだろうが、エステルの頑固さが、それを妨げていた。

 舌打ちされたエステルは顔を赤くするが……


「エステルのおかげで私はまだかなり余裕があるよ。これだけ温存できれば、これからも探索も大丈夫」

「ミュールさん、私は……」

「エステルがいるから、私は本当に必要なときに全力を出せる。ありがと、次の階も頼りにしてるから、バックアップは任せて」

「……もちろん、当然ですわ」


 エステルはガジャンの時とは別の意味で顔を赤くすると、先頭に立ち、階段へと進んでいった。


「なぁミュール、あんまり甘やかさないほうがいいんじゃないか?」


 ラファエラがミュールに耳打ちする。

 エステルのことだろう。


「甘やかしているわけじゃないわ。私達は魔力を温存できている」

「しかしこれではエステルはずぐに魔力を使い果たすよ」

「その時は私達がいるじゃない、フォローはできるわ。初めてパーティーを組んだよ? 最初から全部うまくいくものじゃないでしょ。まずはお互いやるだけやってみようよ」

「ふむ……まっ、君がそういのうのならいいだろう」


 ラファエラは肩をすくめた。


「ミュール、君は何か考えがあるようだね」

「それはあなたもでしょうラファエラ」

「確かに! まだお互い知らないことが多いようだ。今の問題が落ち着いたら、お互いもっと仲良くなりたいものだね」


 ラファエラはニコリと笑う。

 そして二人も階段を降りていった。


☆☆


 深淵地下3階。

 想定脅威 ランク12


 すでに魔術師抜きでは突破不可能。

 いまだ地下3階にして、深淵は魔法の力を使わなければ一つ一つの戦闘に対応できない域にある。


「はぁはぁ……」


 エステルの消耗は一段と激しかった。

 地下2階でも襲いかかるモンスターを次々に倒し、自分の力を周りに認めさせるために戦った。

 このままじゃまずいとは本人も分かっているのだと思う。

 だが、それでも戦ってしまう彼女のプライドこそが、今回の探索の原動力となっているのだから難しい。

 そう、ネクロノミコンは思った。


「あの若き魔術師の気持ちも分かるがな」


 ネクロノミコンが呟いた。


「あの感情はままならないものだ。人に言われて直るものではない」

「……私は、多分ちゃんと理解できていないと思う」

「馬鹿者、お前みたいな駆け出しの魔術師が、他の魔術師の気持ちなど分かるはずもないだろう」

「でも理解したいのよ!」

「一緒にパーティーを組んでいれば嫌でも分かってくるもんだ。焦る必要などない」

「ネクロノミコンはどう思う、エステルのこと」

「魔術の才能は劣等。とはいえ、いずれはそこのガジャンやポン・カーティスなどよりは強い魔術師になるだろうが、現代の僅かな魔力しか持たない魔術師達の域を超えてはいない。だがな、だからといって諦められるほど、我らの夢は安くない」

「我ら……?」

「そうだ、ガジャン達のように、ただ生きていくための手段として魔法を研鑽するのではない、魔術師であるがために魔術を研鑽けんさんする者こそが、我ら魔術師なのだ。確かにエステルに才能はない、大成することも無いだろう。だが俺の予想など若き魔術師の人生に何の意味があろうか。他者の宣告は魔術師の結末ではない。我らが膝をつき、我らが夢を投げ出すその日まで、我らは魔術師なのだ」

「ネクロノミコンにもあるの、そういう経験」

「もちろんだ、苦悩したことも、挫折したことも、涙を流したことも、幾度も……幾度もある」


 ネクロノミコンは吐き出すようにそう答えた。


「我らはそういうものなのだ。苦しみ、もがき、失い、それでも懲りず夢を見る。だから、俺にはあの若き魔術師の気持ちがよく分かる」

「……なんだ、ネクロノミコンもエステルのこと気に入ってたんだ」

「気に入ってなければパーティーなど組まんよ、最初に言っただろう? 即席のパーティーなどいない方がマシだと」

「ふふっ、そうだったね」


 エステルは性格が良いとはいえない。

 ミュールのことだって自分の野心のために利用するつもりなのだろう。


 ネクロノミコンはエステルと同じタイプの魔術師だ。

 だからこそ彼はエステルを魔術師だと認めているのだ。


 ならばミュールは?

 一体なぜ、自分と性格の全く違うエステルを助けようと思ったのか?


 ネクロノミコンは、変わりつつあるミュールの様子を面白そうに見ているのであった。

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