表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

風に舞う花

アルファ視点で一片。

「風花」という作者のハンドルネームの由来がここに。

「あ……。」

 仕事から帰る途中、私は足を止めた。

 気づくと、白くふわふわしたものが空から舞い降りている。

「もしかして……。」

 私は今まで、『それ』を見たことがなかった。

 急ぎ足で家に帰る。フィリスに聞けば、これが『それ』かどうか分かるはずだ。

「ねえっ、フィリス!!外見て。もしかして、これが、『雪』?」

 自分でも、声が弾んでいるのが分かった。このワインドの街に来て初めての冬。南方から来た私は、生まれて初めての『雪』を見るのをとても楽しみにしていた。

「あ、ほんとだ。降ってきたんだね。……でも、これじゃすぐにとけちゃうなあ。空、晴れてるでしょ。風上で降ってるのが、風に運ばれてここまで来てるんだよ。……うん、本降りじゃないけど、正真正銘、雪、だよ。」

 私の1番ほしかった答えを、長い説明の一番最後にくださったフィリスは、それを聞いて喜ぶ私を見て、にこりと笑った。私が雪を楽しみに待っていたことを、フィリスも知っているのだ。

「そっかぁ……。これが、雪かぁ……。きれいだねぇ……。」

 フィリスに話しかけているのか、独り言なのか、自分でも曖昧なままにつぶやいて、舞い下りる雪の下に歩き出す。

 空から降りてくる白いかけらを手のひらでそっと受け止めると、かすかな冷たさを残してフワリととける。そんな感覚がなんだか嬉しくて、いつまでも雪の中に立っていたい気分だ。




 その時。突然、風が吹いた。雪の中、たたずんでいた私の目に映ったのは、風に舞い踊る雪。それまでの静かな降り方と違い、風に流されていく雪は、私の記憶の隅をかすかにひっかいた。

 なんだろう、この感じ。雪を見たのは今日が初めて。それは間違いない。なのに、この風と踊る雪を見ていると、奇妙ななつかしさのような気持ちがわいてくる。こういうのをデジャヴというのか。心の中にある、確かな存在感と少しの違和感。

 そんな不思議な感覚を味わいながら、どれくらい雪の中に立っていたのだろう。家の方から、フィリスの声が聞こえた。

「アルファ~。寒くない?雪が嬉しいのも分かるけどさぁ、風邪、ひいちゃうよ。そろそろ家の中に入ったら?」

 その言葉を聞いた瞬間、私は、あ、とひらめいた。デジャヴの正体と、違和感の理由。私のよく知っている、この雪にも似た、風に舞うもの。それは、春のものだ。つまり違和感は風の冷たさ。デジャヴの正体は、……そう、風に散る桜の花びら、である。

 そうと分かったとたん、雪を見ながら、私の心は遠く故郷まで飛んでいた。街の中央公園にあった、桜の大木。風にひらひらと舞う淡いピンクの花びら。戦乱のために離れなければならなかった、私の生まれ育った故郷の風景。

 目を閉じると、まぶたの裏には故郷。目を開けると、風に舞う花のように、さらさらと降り続く、雪。私はとても暖かな、そして少し切ない気持ちになって、『雪』のことをとても好きになった。




 雪を堪能し、家の中に入ると、そこにはフィリスがいる。彼女は、あの桜の大木を、『風に舞う花』を知らない。

「……ねえ、フィリス。いつか戦争が終わったら、私の故郷に……ハウズフィルに、一緒に行こうよ。フィリスに見てもらいたいものが……とても、見せたいものが、あるの。」

 『風に舞う花』を見て、フィリスも『雪』を……故郷を、想うだろうか。そんな素敵な想像をしながら、私はそうフィリスに話しかけていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ