表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
3章 2回目のミッション
86/180

3-15

 階段を登って、登り切ったはずなのにまた似たような景色が見える。建物の中ならまだしも、地面も空らしきものも見える迷宮で『上の階』って。


 だけど同じ場所に戻って来たって事も無さそうだった。4階と似た様な道の先に、4階にはいなかった人達が立っている。


「ミーミル衛兵?」


「みたいだねぇ。それに、駐屯地みたい。駐在所の方が正しいかなぁ」


 階段を出たところからは、左右と正面に道がある。正面と左の道はその先までずっと続いているように見えたけど、右の道は少し広めの小部屋があって、そこで行き止まりみたいだった。で、その小部屋はマリアベルが『駐屯地』と評した通り、ミーミル衛兵が6人ほど詰めていた。奥には、食料や衛兵の装備の予備、それからけっこう立派な天幕とか調理器具まで揃っていた。


 バタバタと階段を上って来た冒険者にミーミル衛兵も気付いたんだろう。隊長っぽい人が手を挙げた。


「おぉ、さっきの。全員揃ったか」


「あ、はい。さっきの僕です。揃いました。えぇと、何かね、5階進むなら指令ミッション受けなきゃいけないんだって」


指令ミッション


「じゃ、大公宮まで戻んないといけないの?」


 怪訝そうにアランとマリアベルが言う。いいや、と首を振ったのはミーミル衛兵だった。


「ここで受領が可能だ。ただし、パーティ全員揃っていないとさすがにな……何だ、仲間に少しも説明しないで戻って来たのか」


「ちょっと事情がありまして。虫湧いた的な」


「あぁ……蜘蛛か」


 兜で表情は分からないけど、遠い目をしてミーミル衛兵は頷いた。


「生理的にな。あれは仕方ない」


「わりとあの蜘蛛珍しいんだね」


 グレイにだけ聞こえるような声量で、マリアベル。


 グレイが、みたいだな、と答えるのとミーミル衛兵が改めて説明を始めるのはほとんど同時だった。小声で良かった。


「さて、冒険者達。この5階を進むなら、ここで指令ミッションを受ける必要がある。もちろん、受けずに4階の探索に戻るのも、受けないままここを走り抜けるのも自由だがね」


 何となく、マリアベルを見てしまう。アランもマリアベルを見て、じゃっかん期待したみたいだった。


「走るか?」


「走んないよー」


 マリアベルは心外そうに杖を振った。


「人聞きが悪いなぁ。あ、ごめんなさい。それで、指令ミッションって、何をすれば良いんですか?」


「何だ、走らないのか」


「期待されてる……走る? 走るべき? 青春は規則からの逃亡にあり?」


 ミーミル衛兵にまで言われて、マリアベルは帽子を押さえて荷物を背負い直す。やめましょう、とローゼリットが手を引くと、にゅいにゅい呟いてから「じゃあやめるねぇ」と帽子から手を放した。短い青春だった。


「冗談はさておき、この5階にはキマイラと呼ばれる生き物がいる。フロア内に1匹しかいないようなのだが、冒険者が何度倒しても、何度も現れる。そういう生き物だ。そんじょそこいらの動物よりも遥かに凶暴で、頑丈だ。5階を進むからには、キマイラを討伐したことがある冒険者を含まないパーティの場合、キマイラ討伐の指令ミッションを受ける必要がある」


 マリアベルはにゅーん、と首を傾げた。


「つまり、指令ミッションっていうか、キマイラに気を付けましょうっていうお知らせ?」


「そうともいうし、指令ミッションとは全てそういうものだという説もある」


「にゅいにゅい。つまり何にしてもお知らせ肯定説でしかない様な。でも一応訊くのです――指令ミッション、受ける?」


「そら受けるだろ」と、アラン。


「そうだね。走るのも大変だし」と、ハーヴェイ。


 ローゼリットとグレイも頷いたのを見て、それじゃお願いします、とマリアベルはミーミル衛兵に向き直った。


「よろしい。では、冒険者証明証の番号を控えさせて貰う。指令ミッション成功の暁には、多少の報酬が出るからな」


 冒険者証明証を差し出しながら、ふと思いついたようにマリアベルは言った。


指令ミッションって、何度も受領出来るんですか?」


「同一パーティでは、一度に限る。ただし、メンバーに新人を加えた場合は、指令ミッションを再度受領することが出来る」


「あぁ、それでキーリ達、受けたんだ」


 ふんふんと鼻歌交じりにマリアベルは頷いた。グレイにはよく分からない。


「どゆこと?」


「トラヴィスさんとシェリーさんは5階より上に行ったことがありそうなのに、指令ミッション受けたような口ぶりだったから。何でだろうなと思って。キーリ達が新人だから、また受けたんだね」


「同じギルドのパーティの話か?」


 ハーヴェイからも冒険者証明証を受け取りながら、ミーミル衛兵が尋ねて来る。グレイとマリアベルは揃って首を振った。


「いいえ。俺達の……知り合い?」


「にゅーん、お友達? の冒険者の話です。あたし達、どこのギルドにも入ってませんし」


「珍しいな。どこかのギルドに入るつもりは? ……あぁ、新人では加入も難しいか。キマイラを倒して6階まで辿り着けば、それなりのギルドへの加入は認められるだろう」


 ミーミル衛兵は、一般的な常識に基づいて親切心で言ってくれたんだろうけど、グレイとかハーヴェイは変な顔をしてしまった。今、衛兵さんの前でにゅいにゅい言ってんの、“ゾディア”と“カサブランカ”から勧誘受けて、断ったんですよ……。


「どうした、妙な顔をして」


「してますか」


 グレイは顔に手を当てる。俺、そんなに顔に出る方だろうか。


「言いたいことがあるのに言えない顔だ」


「衛兵さん鋭いですね」


「ちなみに適当に言った。大人はそんなもんだからあまり素直に感心するな――さて、これで手続きは完了だ。キマイラを討伐した場合は、帰りにこの駐屯地で報告をするように。地図上で、討伐した場所を伝えて貰えれば、こちらの人員が確認する。確認が取れたら報酬が支払われる。まぁ、討伐の後も迷宮に来るだろうから、その時報酬を渡すことになるだろうな。何か質問は?」


「はい」


 にゅ、とマリアベルが手を挙げた。


「何だね」


「キマイラを倒さないで、6階に行っちゃっても良いんですか?」


「それは問題無い。運悪く何処かのパーティがキマイラを討伐した直後だと、探せども探せども見つからない事もあるしな」


「分かりました。ありがとうございます」


 ぺこりっ、とマリアベルはミーミル衛兵に向かって頭を下げて、さて、どうしようかと言う顔になった。


「4階戻る?」


「ちなみに魔法使いと仲間たち」


 ミーミル衛兵は、別にふざけてるとかからかってるとかではないんだろうけど、そんな呼称でグレイ達を呼んだ。


「仲間たち……」


 じゃっかん腑に落ちない顔をしたのはアランだけだった。グレイもハーヴェイもローゼリットも、まぁ仕方ないかなって感じだ


「ギルド名が無いのだから仕方ないだろう。で、冒険者達。希望するならこの奥の駐屯地で休憩することも出来る。他の冒険者が来るまでは、天幕を1つ使用できる。ちなみに料金は無料だ」


 マリアベルは2回まばたきした。


「女神さまの采配は?」


「獣避けの鈴を鳴らして対応する。万が一の場合も、階段に逃げ込むのに便利な位置だ」


 更に不思議そうに、マリアベルは首を傾げた。魔法使いの帽子が頭から落っこちそうになる寸前まで傾いでいた。


「大公宮がどうしてそこまで?」


「理由が無いと親切を受けられない性質か?」


「無料のランチは無いって言いますよね?」


「君は魔法使いと言うより商人のようだな」


 どっちかっていうと、ミーミル衛兵は感心したみたいだった。


「最近では減って来たが、一時期は冒険者同士が金銭や貴重な素材を奪い合う事件が多発してな。予防の為に、大公宮が休憩所を提供するようになった。どうしても、睡眠中は狙われやすいからな。大きなギルドに所属している場合は、ギルドの装飾品が抑止力になることもあるが、低階層を探索する冒険者には難しい。“桜花隊”や“パピヨン”、新しい所では“シェヘラザード”などのギルドは、自主的に悪辣な冒険者の取り締まりのような事を行っているがな」


 まぁそれも、傍から見れば冒険者同士の奪い合いだ、と吐き捨てるようにミーミル衛兵は言った。何となく、この人は元冒険者ではなくて、初めから衛兵だったんだろうなと思う。


「世知辛いですねぇ」


「その通りだな。それで、どうする」


 重ねて問われて、マリアベルは一同を振り返った。


「休憩したいひとは挙手ー」


 腕は5本上がった。お借りします、と代表の様にローゼリットが頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ