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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
3章 2回目のミッション
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3-10

 それから、南瓜の種を集めてまた歩く。迷宮は基本的に静かだ。2階だってこともあるけど、不安とか寂しさはあまり感じない。というかむしろ、今日までの経験からすると、静かな方が安全な気さえする。人の声がするとアレだ。暴れ大牛と戦うことになったり、ミノタウロスと戦うことになったりしてるし。


 2階はそのあと何事もなく通り過ぎて、3階では6匹くらい茸を狩った。ちなみに3階でよく襲い掛かって来る茸。正式名称を『爆発マッシュ』と言うらしい。アバンギャルドにも程があるというか、正直どうしてそうなったのか分からない。爆発、しないし。良く燃えるのは事実だけど。穴熊亭で酒飲みながら決めた様な名前だ。


 マリアベルは素手なので、革の手袋を付けてるアランとかグレイが、倒した茸の口っぽいところから牙っぽいモノを引っこ抜いて持ち帰る。この素材は『牙状の白石』と呼ばれていて、まぁ腑に落ちる感じだ。


 でも学者が調べたら、実際は石じゃなくて迷宮の中にだけ生える木の樹液が固化した物だったらしい。マリアベルが言っていた。腑に落ちる感じでも、正しくないこともある。それでも、素材や動物の命名権は発見した冒険者にあるから、これからもこの素材は『牙状の白石』と呼ばれ続けるだろう。


 で、4階。


 結局アランもグレイも、依頼クエストの詳細を話せなかった。だからまぁ、当然、ハーヴェイもマリアベルもローゼリットも花探すぜって気分になっているだろう。いや、なっていただろう。


「なん……だろ、これ……」


 4階に上がるなり、ハーヴェイが呻いた。「なになにー」とか気楽な声を上げてハーヴェイを押しのけたマリアベルも、それを見て絶句する。マリアベルをちょっと横に動かして、グレイもアランもその光景を見た。


「これは……なんつーか……」


「……随分、景色が変わったもんだな」


 兜を外してアランが、がり、と頭を掻く。一番後ろを歩いていたローゼリットが階段から顔を出して、立ち尽くしてる4人に「どうしました……?」と不安そうな声で言った。


「何かねぇ、これ、どうやったんだろうねぇ」


 マリアベルがローゼリットにも見えるように立ち位置を変えて、その光景を指差す。


「木が……」


 そう、木が倒れていた。


 たまたま年寄りの木が折れちゃいましたとか、そういうんじゃない。5本も10本も、迷宮の中で壁を形作っている木が、女神さま達の木が、グレイの身長くらいの高さの所でスパッと斜めに切られていた。切られた木の上半分は、道を塞いだり、逆に茂みの奥へ倒れていたりと、無残に放置されている。


 感覚としては、5、6歩歩くごとに、道の右側の木が切られている。時々左もやられている。冒険者がやった、わけではないだろう。何かこう、あんまり思い出したくないけど、ミノタウロスが逃げ惑う冒険者を斬ろうとして、勢い余って木を斬っちゃいました、みたいな感じだ。


「これ、どうしようねー?」


「ほっとくしかないんじゃねーの」


「やっぱり?」


 ハーヴェイはアランとまったり話してから、「ちょっと先見て来るよ」と荷物を置いた。待っててってことらしい。「気を付けてねぇ」とマリアベルが手を振る。


 ハーヴェイは律儀に手を振り返してから、道を塞いでいる木を乗り越えて歩いて行く。


「いつからこうなったんだろうねぇ。4階では良くあることなのかなぁ」


 マリアベルは再起動したのか、けっこう平然としている。アランが不思議そうに尋ねた。


「何でだ?」


「冒険者がいないから。あたし達の他にも、冒険者はみんなここを通る筈でしょ。階段から1本道なんだし。なのに、冒険者がいない。あたし達以外で、困ったねってここで立ち往生してる人がいない。っていう事は、4階では良くあることで、みんな『あぁまたか』って思いながら通って行ったのかなって思って。それに」


 と言ってから、ローゼリットに地図見せて、とねだる。まだそれほどの範囲を歩いたわけじゃないけど、4階の地図を広げてもらう。マリアベルはふんふん頷いた。


「4階は、道と道の間の通れない場所――迷宮の壁にあたる所が、厚いよね。1階とか2階に比べたら、倍くらいある。女神さまは、少しくらい壁が削られても大丈夫なように4階を作ったんじゃないかなって思ったの」


「削られても大丈夫って、何の為に」


 アランに問われると、マリアベルはにゅーん、と唸ってから続けた。


「つまり、壁を削っちゃう様な動物を、女神さまがこの階に住ませたんじゃないかなって」


 ふと思い出したように、ローゼリットは地図から顔を上げた。


「木に印をつけるような?」


「かもねぇ」


 マリアベルが黒い三角帽子の下で微笑む。


 でも、何が住んでたってマリアベルは進むだろう。そしたら、グレイは付いて行かないとなぁと思う。いや、義務ではないんだけど。何となく。


 “カサブランカ”のサブリーダーらしき男が言った通り、これは呪いか何かなんだろうか。そうだとしたら、多分ハーヴェイもローゼリットに呪われてるから、まぁ良くあることなんだろう。うん。


「ただいまー」


 そんな事を考えていると、そのハーヴェイが木を乗り越えて帰って来る。


「おかえりー。どうだった?」


 マリアベルに訊かれると、ハーヴェイは「大丈夫だったよ。しばらく木が倒れてるだけで、何にもいなかった」と答えた。


 それならって事で、倒れている木を登ったり潜ったりして進む。こんな時に蝶とか茸に襲われたらどうしようかとも思うが、幸い蝶も茸も寄って来なかった。


 魔法使いの癖に身軽なマリアベルはさておき、ローゼリットはけっこう大変そうで、途中からアランがローゼリットの鞄と錫杖を持っていた。従兄妹っていうけど、アランは何ていうか――何だろ。単に面倒見が良い性格なだけか?


「じゅう、に、ほーん」


 最後に道を塞いでいる木の下を潜って、マリアベルは歌う様に言った。数えていたらしい。


「で、おしまい」


 くるっとマリアベルが振り返る。


 うーむ。長かった。結構疲れた。普段使わない筋肉を使った感じ。


「けっこー倒れてたなー」


「ねぇ。ちょっと勿体無い気がするけど、でも持って帰るのは難しいだろうしね。階段が狭いから、仕方ないかなぁ」


「確かに。薪とかに使うのも、限度があるしなー」


「大体、乾かさないと」


「そうだよな」


 マリアベルに言われて、暑いな、と思う。気温がどうこうというより、4階は緑が濃くて、他の階とか、ミーミルの街より湿度が高い感じだ。


 少し歩くと小部屋っぽい場所があるから、そこで休憩にする。小部屋というより、行き止まり、という方が正しいかもしれない。2人が横に並んで歩けるくらいの太さの道の最後が少し広くなって、終わっている。地面には枯葉が積もっていて、それから岩の間から細く清水が湧き出ていた。


 乾いていそうな場所を選んで、全員で腰を下ろす。そういえば、という感じでマリアベルとローゼリットが辺りを見回した。


「んー……意外とお花、咲いてないねぇ」


「えぇ、1階や2階は、小さな花がたくさん咲いていたのですけれど」


 ローゼリットの言う通り、1階とかは何か雑草みたいな白いふわっとした花とか、4枚花弁の黄色い花とか、あと、ミーミルの商店で売れるような青い花とか色々咲いていた。木も白とか赤とかの花を咲かせていたり、蔓っぽくて、木に巻き付いて咲く紫とか水色の花もよく見た。


 だけど4階は、基本的に葉っぱの緑と、幹の茶色って感じだ。鮮やかな赤が目に入って、何かと思ったら小さな鳥だった。


「まぁでも、逆に見付けやすいかもよ。薄紅色の、派手めな花らしいし」


 水筒に水を汲みながら、ハーヴェイ。「そうだと良いですね」とローゼリットが微笑むと、ぼとっと水筒を落とした。おいおい、露骨すぎるっていうか――「何か、来る!」


 グレイ(と、多分アランも)が呆れかけると、ハーヴェイが弓に手を伸ばしながら叫んだ。


 アランが剣を抜いて、盾に手を伸ばす。グレイが立ち上がりかけると、小道からガザガザガザっと音がした。


 一本道、の行き止まりだ。退けない。やるしかない。

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