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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
2章 はじめてのミッション

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2-30

「Goldenes Urteil wird gegeben!」


「うぉらぁあああああっ!」


 マリアベルの『雷撃サンダーストローク』が、アランの『属性追撃』が、ミノタウロスを襲う。


 2人の連携技は、ミノタウロスにも効いた。よろめいて、下がる。ぶふぅっ、と、牛のような、馬のような、唸り声を上げる。だけど倒れない。続けざまに斬り付けたアランの剣を、半月斧ではなく腕で受ける。斬られた腕から鮮血が飛び散るが、まるで構わずにアランを殴り付けて振り払い、マリアベルに向かう。


「にゅっ……!」


 悲鳴を上げかけたマリアベルの前へ、ローゼリットに怪我を治して貰ったグレイが割り込む。


「う、らぁっ!!」


 スゴンっ、とまた凄い音がする。グレイは盾で半月斧を受ける。マリアベルを護る。ハーヴェイは放り投げてしまった短弓を拾って、震える手で矢をつがえる。練習と同じだ。こっちを向いてないミノタウロスを射るなんて、と無理やり思うと、不思議なくらい震えが止まる。


「えいっ!」


 2射、続けざまに放つ。背中と、肩に当たる。嫌そうなそぶりをして、ミノタウロスが振り返った。その隙に、アランとグレイが斬りかかる。マリアベルは下がって、詠唱をしている。ミノタウロスは、斬られながらもハーヴェイの方へ向かってくる。牛っぽいからか、突進が凄い。轢かれそうだ。っていうか、轢かれた……?


 よく分からないが、あちこちが痛い。何処からか血が出ている。ハーヴェイは気が付いたら地面に転がっていた。それでも起き上がろうと顔を上げると、半月斧を振りかぶるミノタウロスが見えた。


 あ、これ――ハーヴェイは走馬燈が見えかける。諦めてしまいそうになる。だが。


「――やぁっ!!」


 絶妙のタイミングで、ローゼリットが錫杖をミノタウロスの腕に叩きつける。軌道が逸れて、何とかハーヴェイは命拾いをする。だけど。だけど。


 ミノタウロスはうるさそうに太い腕でローゼリットを振り払う。錫杖で受けるが、ローゼリットは軽々と吹っ飛ばされる。すぐに起き上がるが、倒れた際に肩を強く打ったのか、錫杖を構える姿がおぼつかない。


 ハーヴェイは跳ね起きて、短剣を抜く。何するつもりだ。ローゼリットに何かしたら、絶対殺してやる。いや、ハーヴェイの方が死にそうだけど。


「こんのっ……!」


 『背面刺殺バックスタップ』を決めようとするが、気付かれた。振り返りざまに、横薙ぎに半月斧を振るわれる。ハーヴェイはまた、転がって避ける。避ける。


「Goldenes Urteil wird gegeben!」


 3度、マリアベルが『雷撃サンダーストローク』を使う。ミノタウロスが動き回る所為で、アランの『属性追撃』は惜しくも続かない。それでも、ミノタウロスに隙が出来る。グレイが『激怒の刃(レイジングエッジ)』で斬りかかる。


「ハーヴェイ、治療を!」


 マリアベルを護るように立つローゼリットが、ハーヴェイを呼ぶが「大丈夫!」と答えて短弓を探す。あった。アランとグレイが、前後からミノタウロスを挟むようにして、交互に斬り付けている。これなら、行けるかも、しれない――?


 短弓を拾って、矢をつがえる。アランの背後に隠れるようにして、ミノタウロスの上腕を狙う。やってやる。始めたんなら、勝たなきゃ、帰れないのだ。


 だが、不意にミノタウロスは動きを止めた。アランとグレイが、困惑しつつも斬りかかる。鮮血が飛び散る。それでも、ミノタウロスは仁王立ちになって、すうぅ……と息を吸っている。


 何だ? もちろんハーヴェイには分からない。だけど、背中が痒い。というか、首筋が痛い位に、盗賊の警戒心が何かを伝えて来る。


 仁王立ちのミノタウロスが、絶叫した。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!!」


 戦士には、『戦士の雄叫び(ウォークライ)』という、大声で敵を威嚇する特技があるらしい。まさに、そんな感じだろう。


 ミノタウロスのとんでもない大声に、アランもグレイも、硬直する。多少離れて、ミノタウロスの後方にいたハーヴェイでさえ、動けない。あと、ほんの少し指を動かせは、矢を放てるはずなのに。


 冒険者達の隙を見逃す筈もなく、グレイを撥ね飛ばしてミノタウロスが突撃する。進路の先には、やはり硬直しているローゼリットと、マリアベル。武器を使うだけあって、ミノタウロスには知性がある。弱いくせに、厄介な後衛から狙う程度の知性が。


 迫り来るミノタウロスに、マリアベルは頑張った。「にゅえいっ!」とローゼリットを横に突き飛ばして、半月斧を振りかぶるミノタウロスに向かって走る。ハーヴェイがやった事を真似るつもりだったのだろう。というか、それしか無さそうだからマリアベルは正しい。ただ、マリアベルは魔法使いだ。魔法使いとは思えないくらい勇敢でも、運動神経が付いて来なかった。


 ぎりぎりでマリアベルは半月斧の下をくぐるが――本当にぎりっぎりで、魔法使いの黒い三角帽子が切り裂かれた。足がもつれたのか、そのままその場に倒れ込む。それでもマリアベルは本当に頑張った。起き上がろうとしたが、無情にもミノタウロスに脇腹を蹴り飛ばされる。


「……っ!」


 悲鳴も上げられずに、マリアベルが真っ黒な猫みたいに転がる。ミノタウロスは半月斧を振り上げるが、偶然か、精霊の加護か、斧の刃に黒い三角帽子が絡み付いていて、ミノタウロスはそれを邪魔そうに振り払った。一振りの半分くらいの、ほんのわずかの時間だったが、ハーヴェイが狙いを定め直すのには十分な時間だった。


「えいっ!!」


 広い背中に、矢が突き刺さる。こっち向け。怖いけど。でも、こっち向けって――祈るようにハーヴェイは矢を放ち続ける。3本目を、ミノタウロスがとうとう振り返って、半月斧で振り払う。


 マリアベルは、ローゼリットに助け起こされたが、そうとう痛そうだ。実際に重傷なのか、マリアベルに『癒しの手(ヒール)』を使うローゼリットの方が、泣きそうな顔をしている。


「おおおおおおっ!」


 グレイが雄叫びをあげてミノタウロスに斬りかかる。ミノタウロスの反撃は、盾で受ける。その隙に、アランが斬りかかる。だけど――怪我は『癒しの手(ヒール)』で治っても、体力までは戻らない。グレイもアランも、既にそうとうきつそうだ。なのに、傷だらけのくせに、半月斧を振り回すミノタウロスは腹立たしいくらい元気だ。


 続けて矢をつがえようとして、もう矢が無い事に気付いてハーヴェイは青褪める。これ、やばいんじゃない? だって、見れば、マリアベルも、ローゼリットも顔色が悪い。青いというか、血の気が無さすぎて白く見える。そりゃそうだ。1日探索して、未知の3階まで探索して、帰り道だったのだ。帰り道での遭遇戦だ。2人は、あとどれくらい魔法を使える?


「ぐっ……」


「があっ……!」


 ミノタウロスが、その場で回った。半月斧を短く両手で持ちかえて、遠心力を使ってアランとグレイを弾き飛ばす。アランは防御し損なったのか、腕を深く斬られたようだった。


「Goldenes Urteil wird gegeben!」


 マリアベルが、1ヶ所に留まって回転するミノタウロスに向かって『雷撃サンダーストローク』を使う。ミノタウロスは避けられない。だけど、ハーヴェイが不安に思ってしまったからか、実際そうなのか、威力が落ちた、ように見える。まるで初めて迷宮に入った日に『噛みつきネズミ』に使った『雷撃サンダーストローク』のような、小さな雷。


「我らが父よ、慈悲のひとかけらをお与えくださいっ……!」


 アランの傍らで、『癒しの手(ヒール)』を使うローゼリットも、苦しそうだ。詠唱と言うより、本当に、ただの祈りのように聞こえる。


 あぁ、これ、やばいって。駄目だって。ハーヴェイは思う。逃げないと。でも、いっぺんに逃げたら駄目だ。昼食の後と同じだ。ミノタウロスは追いかけて来る。牛の突進力で追って来る。そして追いつかれて、背後から1人ずつやられる。じゃあ、どうする?

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