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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
2章 はじめてのミッション
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2-21

 案の定と言うか、他には誰もいないというか、ローゼリットが「ハーヴェイ、お久しぶりです」と扉を開けたハーヴェイに言っている。3人からはハーヴェイの背中しか見えないが、物凄い喜んでるのが見て取れた。尻尾とかあったら、ヤバいくらい振ってるに違いない。


「おかえりローゼリット。久しぶり」


「ただいま戻りました……あぁ、すいません。また私が一番遅かったようで」


 室内を眺めて、全員揃ってるのを見てローゼリットは恐縮したように言った。「良いんだよぉ」と言いながら、マリアベルが自分の横を叩く。おいで、とのことらしい。


 ローゼリットがマリアベルの横にちょこん、と座って5人揃うとほっとする。


 ほっとしたのもつかの間、さて、と咳払いをしてからアランは早速言った。


「“ミノタウロス、未だ討伐ならず”――だそうだ。明日から、どうする?」


 初耳だったらしいハーヴェイは、え? と間の抜けた声を漏らし、教会で聞いていたのか、ローゼリットは特に驚く様子もなく、顎に手を当てた。グレイも、戦士ギルドの様子から、やっぱりか……と思う。マリアベルは、チェシャ猫モードに入っていて、ただ笑っている。


「え、まだなの?」


 6日間街から離れていたらしいハーヴェイは、疑うようにアランに聞く。マリアベルがまったりした声で答えた。


「そうだよぉ。指令ミッションが発行されてすぐに、けっこうたくさんのパーティが挑んでねぇ。それなりに有名なギルドも、討伐隊を編成したんだけど……全滅か、半壊だって。で、一番有名な、“カサブランカ”、“桜花隊”、“ゾディア”――迷宮の14階まで到達してる、ミーミルの3大ギルドは、メインパーティが6日経っても迷宮に入りっ放しらしくてねぇ。まだ、指令ミッションの受領もしてないんだって。“カサブランカ”とか、“桜花隊”の、サブパーティは、もう受領したらしいんだけどねぇ」


 ギルドは、1パーティ、もしくはそれ以上の冒険者は集まった共同体だ。3大ギルドの中でも最も歴史の古いカサブランカは、参加メンバーが30人を超えるという。その全員が熟練という訳でもなく、ギルド内である程度の役割分担がなされているらしい。


 例えば、低階層を行き来して、高階層に挑む他のギルドメンバーに食料を届けたり、逆に彼らが入手した素材を持帰ったり。あるいはギルド内でも、職業ギルドの様に、先人が後継に迷宮探索のノウハウを教授していたりするそうだ。だから、メインで高階層に挑むパーティの他にも、幾つかパーティが編成されることになる。パーティの構成も、目的によって組み替えられるらしい。


 “桜花隊”も同様だ。“カサブランカ”ほどではないが、ギルドメンバーは多少の変動はあるものの、常に20人近くいるらしい。


 逆に、3大ギルドの中でも最も新しいギルド、“ゾディア”は、ギルドメンバーが1パーティ分。6人らしい。というか、噂によると、5人と1匹、とか言われている。よく分からない。ともかく彼らは単独パーティでひたすら迷宮を探索し続け、ついには3大ギルドに数えられるようになったとか。


 マリアベルと2人で、大公宮や、冒険者登録所、酒場など、冒険者が集まる場所を1日中歩き回っていたらしいアランは、ちょっと疲れたように続ける。


「つーわけで、14階まで登るようなギルドの話はさておき、2階を探索してる俺たちは、指令ミッションを受けるか、受けないか、どうする? って話だ」


 言われて、うーん、と全員で考え込む。マリアベルとアランは、既に1日中考え続けたのだろう。眉間にしわが寄ってしまっている。長いような短いような沈黙。それを破って落ち着いた声で話し出したのは、ローゼリットだった。


「正直、教会でもお葬式が多いので、明日すぐに迷宮に入りたいかと言われると、そうでもありません。ただ、現実問題として、そろそろ迷宮に入る必要がありますよね?」


「……だよなー」


 グレイは懐事情に思いを馳せて頷く。別に、全員の正確な残金を知っているわけではないが、収入額は知っている。いつだって、等しく5等分だからだ。そこから、宿代、食事代、今回特技を覚える為にギルドへ支払った金額、そういったものを差し引いて考えれば、大体は想像が付く。


 アランもハーヴェイも、仕方なく、といった感じで頷いた。そうだねぇ、とマリアベルも言う。ローゼリットは一同を見回して、1つ頷いてから続けた。


「でしたら、私たちは指令を受けるべきです。ただ……何階層を探索するかは、考えものですけれど」


「指令を受領したって、ミノタウロスに駆け寄って行って倒さなきゃいけないわけじゃないんだし、普通に2階を探索して、危なそうだったら逃げて帰れば良いんじゃない?」


 普段のマリアベルの代わりみたいに、楽観的な事を口にしたのはハーヴェイだ。にゅふ、とマリアベルが嬉しそうに笑う。基本的には迷宮に入りたくて仕方が無いのだろう。


「あー……多数決でも、取るか。メインで探索するのを1階にするか、2階にするか」


 考えすぎて疲れたのか、アランも多少投げやりな感じに言う。多数決、と言われて、グレイはそれとなく4人の顔を窺う。ハーヴェイ、マリアベル、は多分2階を推すだろう。とはいえ、2階で探索を進めるならば、件の扉の先に進むか、まったく逆方向に進むか。それも悩ましいが。


 1階で探索をするのなら、資金稼ぎがメインになるのだろうから、単価の良い青い花を摘んだり、蝶をマリアベルの魔法で倒して蝶の鱗粉の結晶を集めたりする事になるのだろうが――正直、地味だ。いや、グレイも危ない橋を渡りたいわけではないが。死者が出ているのは知っているが。とはいえ、迷宮で冒険者が死んでいるのはいつものこと、でもあるらしい。ということは、迷宮に入っている時点で全員命知らずの愚か者か。とかグレイは変に納得する。よし。


「多数決でも、いいと思う」


 グレイが言うと、マリアベルはますますチェシャ猫みたいに笑い、ローゼリットは、おや珍しい、みたいな顔をした。聡い女性陣2人は、グレイが2階を選んだ事に気付いたみたいだった。


「僕も良いと思うよ」


「あたしもぉ」


「そうですね。パーティの総意という意味では、分かりやすいですし」


 ハーヴェイ、マリアベル、ローゼリットも頷いて、それじゃあ、と多数決を言い出したアランが言う。


「2階を推すやつは、挙手」


 腕は5本あがった。俺たち冒険者なんて、全員アホだよな、とかグレイは思った。

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