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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
2章 はじめてのミッション
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2-20

 迷宮探索へ向かうのと対して変わらない早朝に起きて、マリアベルとアランとグレイの3人で猫の散歩道亭の朝食を食べる。マリアベルはこういう所は結構しっかりしていて、昨日の朝の内に、サリーに明日からは2人不在だと伝えていたらしい。


 アランと2人で戦士ギルドに向かう際に、サリーから「可愛いのに、しっかりした子よねぇ。あんたたち、戦士なら、ちゃんと守ってあげなさいよ」と、いかにも善良な小母さんらしいことを言われる。


 アランもグレイも、美人じゃなかったら守らなくて良いんですか、とかつまらない皮肉を返すような性質では無いので、「はぁ……」とアランと2人で煮え切らない返事を返すと、「しっかりね!」と念押しされた。


「……だってさ」


 猫の散歩道亭を出るなり、アランに言われて、「だから違うって。いや、違わないけど。戦士だけど」と、グレイは自分で言いながら何だかよく分からなくなる。アランはくくっ、と愉快そうに笑っている。お化けダメなくせに、とかグレイは思ったが、まぁ良いか、と思って黙る。


 戦士ギルドに着いて、中でアランと別れる。教官に、「貴様のパーティの僧侶は過保護なようだな!」と、服を着て防具まで着けているのに、怪我が治ってることが一発でバレて昨日以上にしごかれる。いや、別に悪いことはしてないんだけど。


 グレイはまた盾特技を選んだので、初めに型を教えて貰ってからは、とにかくボコられる。で、時々、癖や、タイミングのおかしいところを指摘される。ごっつい教官の指摘は、幸いなことに的確だ。教官曰く、「貴様のように愚直な方が戦士には向いている」とのこと。まぁ要するに、お互い相性が良いんだろうな、と思いグレイは痛む腕を揉みながら、「はぁ、ありがとうございます」と答える。


 教官はわずかに目を細めてグレイを眺め、低い声で言う。


「この修練が終わったら、指令ミッションを受けるつもりか」


 雑談じみたものは、珍しい。教官はグレイを愚直と呼ぶが、教官だって愚直と言うか、実直と言うか。まぁそういう感じだ。グレイは構えていた盾をわずかに下げて、ちょっと考えてから素直に答える。


「分かりません。修練が終わる頃には、どこかのパーティがミノタウロスを討伐し終わっていれば良いと思ってます」


「欲の無い奴だな! 名を上げたいとは思わないのか? 暴れ大牛を討ち取ったんだろう」


 豪快に笑って、教官は言う。おいおーい、暴れ大牛の件、こんな所まで知られてるのかよ、とかグレイは思うが。


「倒しましたけど、他のパーティと一緒にって言うか、向こうの戦闘中に割り込んだ感じで。で、その『他のパーティ』の戦士が凄かったって言うか、俺たちだけじゃ無理だった感が凄いって感じ、でして」


 言い訳がましくグレイが言うと、教官は苦笑気味に言った。


「そんな根性で、よく割り込んだな」


「俺たちのパーティの魔法使いがアホで、俺たちが止める間もなく全力疾走しやがりまして」


「魔法使いが、アホ……?」


 未知の単語を聞いたような顔をされる。グレイにとっては魔法使いのイメージはマリアベルそのものになりつつあるが、魔法使いって、本来は、そうだよなぁ、と改めて考え直す。考え直すが、マリアベルのにゅいにゅいした抗議の声が聞こえてきたような気がして、グレイはあっさりと諦める。分かったよ。お前は魔法使いだ。お前こそが魔法使いだ。


「アホですが、俺たちのパーティの、魔法使いです」


「そ、そうか……」


 じゃっかん引き気味に同意される。何となく勝利感。


 その後は、無駄話も無くボコられる。教官が持つのは訓練用のこん棒、グレイが持つのは、持ち込んだ盾と、訓練用の刃の無い剣だ。迷宮の敵は1体とは限らないし、正面からかかって来るとも限らない。とんでもないトリッキーな動きをする敵も、上層階にはいるらしい。ある意味、南瓜もそうだろう。どのような攻撃を仕掛けて来るか分からなくても、それでも盾役は前に出る。盾役の前衛は多分漏れなく全員アホだ。


 そんなこんなで修練は6日続いた。途中から嫌な予感はしていたが、6日目で修練が終わり、ともあれ晴れ晴れとした気分で1人、猫の散歩道亭に帰る。男部屋で迎えてくれたのは、困り顔のアランとマリアベルと、何だかよく分かっていない顔のハーヴェイだった。


「グレイ、おかえりー。むしろ久しぶり-」


「おー、ハーヴェイ久しぶり。ただいま。むしろおかえり? 盗賊ギルドの訓練、6日間だったんだな」


「そう。長かったー……アランとマリアベルは5日だったんだってね」


 ハーヴェイに話を振られて、アランは「おー」と頷き、マリアベルは「にゅー」と答えた。何だそれ。


「ローゼリットは?」


「まだだってさ」


 グレイが尋ねると、困り顔の2人の代わりにハーヴェイが答えた。そっか、と頷いてひとまず防具を外す。おそらく、アランもマリアベルも、ローゼリットが戻ってくるまで話をする気が無いのだろう。2人とも、ぼんやりと2段ベットの下の段に座っている。ハーヴェイは、5人集まる時の定位置となりつつある、2段ベットの階段に腰掛けている。


 基本的に寝るためと、多少の荷物を置くためだけの部屋だから、そんなに広くはない。グレイ達は4人部屋を3人で使っているからまだ良いが、例えば戦士ギルドの教官とか、トラヴィスとか、大柄な冒険者がこの部屋に4人集ったら狭いだろうなぁ、とグレイは思う。あ、だから安宿なのか? と納得もしかける。


 マリアベルは、今日は珍しく私服だ。私服というか、黒いローブを着ていないだけかもしれないが。ただ、ふわふわの金髪をお下げにしているから私服というか、魔法使いはちょっと休憩中、みたいな感じがする。杖は、いつもの通りしっかり握っている。荷物置きに使われている、2段ベットの下段の端っこに座って、2段ベットの柱に寄り掛かっている。考え事を――それも、マリアベルにしてはかなり深く考えているのか、時々、まばたきをする以外はほとんど動かない。


 昨日で修練が終わっていて、今日マリアベルと2人、街で情報収集に向かっていたアランも、ほとんど何も言わない。ハーヴェイも、何となく察したのか中途半端に微笑んでいるだけで、雑談をするような様子も無かった。


 気まずくは無いが、何となく暇だ。防具を外し終わって、やっぱり定位置となりつつあるアランの隣に座ると、こんこん、とタイミング良く扉が叩かれる。ハーヴェイがすぐに立ち上がる。


「……健気だねぇ」


 眠そうなチェシャ猫の顔で、マリアベルはぽそりという。ちょっとアランが苦笑した。

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