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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
2章 はじめてのミッション
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2-04

 その後も迷宮内の探索を続けると、2、3回南瓜に遭遇した。1度倒すと、何となく対処の仕様が分かるようになる。南瓜を見かけたら、とにかく蔓が伸ばされる前に走って本体を叩く。


 5人は迷宮探索を始めてから、実際のところ、まだ1月も経っていない。それなりに強くはなった筈だが、それよりも、この経験こそが自分たちを安全にしてくれるだろうな、とグレイは思う。


 感覚的に夕方っぽい時間になった気がしたので、出口を目指すことにした。


「カボチャの正式名称、何だろうねぇ」


 マリアベルが歩きながら、ほにゃっと笑って言う。


 何というか、初めに大公宮へ報告した冒険者、が付ける正式名称はどれもこれも見たまんまと言うか、雑と言うか、そんな感じだ。学者でも何でもない冒険者が付けるのだから、系統立っていないのは仕方ないことなのだが。


「『蔓カボチャ』とか、そんな感じか」


「にゅふふ、そうかもねぇ」


 グレイが思いつきで言うと、愉快そうにマリアベルが笑った。


「牛の報告どうするんだ?」


 最近ではすっかり役割分担が進んで、大公宮への迷宮内部の動植物の報告はマリアベルとローゼリットが、持帰った物品を売りに行くのはアランとグレイとハーヴェイの3人が行うようになっていた。


 アランに尋ねられると、マリアベルは、にゅ? とか首を傾げてから言う。


「しないよぉ。まだやっつけてないもん。でしょ?」


「冒険者の、矜持?」


 からかうようにハーヴェイが言うと、マリアベルはけっこう真剣な顔をして頷いた。


「そう。冒険者の、矜持……かな?」


 最後はやっぱりマリアベルだったが。


 もう既に何度か歩いている道のため、多少気安く話しながら歩いていた。の、だが、不意に前方の曲がり角の先が騒がしくなって、5人は表情を引き締めた。


「何だ?」


「他の、冒険者?」


 珍しい、というか、初めての事態だ。まぁ、グレイ達も迷宮で戦ったりしているのだから、他の冒険者が戦っているところに出くわしても、おかしくは、ないのだが。


 アランとグレイが顔を見合わせていると、ちょっと見てくる、とか言ってするりとハーヴェイが音の方に歩いていく。


「迷宮の動物同士が戦ってる、とかじゃ、無いよねぇ」


「じゃ、ないだろ」


 マリアベルが困ったように言い、グレイもやはり困りながら答えた。縄張り争いが絶対に無いかは分からないが、だんだん耳を澄ますと、人の話し声――というか、叫び声が聞こえるようになってくる。


 どうする、助ける? そもそも困っているのか? 自分たちで助けられるのか? グレイ達が視線だけでそう言い合っていると、ハーヴェイが慌てたように走って戻ってくる。


「牛! と、戦ってる冒険者がいる! 5人! その中で1人ヤバい感じだ!」


「――行こう!!」


 自分たちに何が出来るかはよく分からないが、グレイは即座に言った。アランとローゼリットはちょっと困った顔だったが、その前にマリアベルはもう走り出している。慌てて、アランとローゼリットも後を追って走り出した。


 最近マリアベルはますます器用になって来ていて、走りながらほとんど詠唱を終えている。そのまま三叉路に飛び出しそうになったので、さすがにグレイが腕を引いた。


「お前は後衛だろ!」


 言って、盾を構えながらグレイが先行する。詠唱を中断するわけにはいかないのでマリアベルは何も言わなかったが、チェシャ猫みたいに笑った。気がした。


 見ると、確かにあの巨大な牛と戦っている冒険者がいる。ハーヴェイの言った通り、5人。大柄な戦士の男と、狩人らしき女性が牛を足止めしている。牛と一緒に、兎も3匹見受けられた。


 ヤバい感じに怪我をしているのは盗賊っぽい軽装の少女で、血を流しながらわき腹を押さえて倒れている。グレイ達と同じくらいの年ごろの戦士と、僧侶がいるが、兎を追い払うのが精いっぱいらしく、回復に掛かれていない。


「まずは僧侶が持っている兎を!」


 ローゼリットが凛とした声で叫んだ。アランとグレイは言われた通り、僧侶の少年が相手取っている兎2匹の間に割り込む。僧侶の少年は驚いたようだったが、一瞬グレイたちに目礼をしてからすぐに下がる。


 グレイが力任せに盾で兎を押しやって距離が出来ると、マリアベルが完璧なタイミングで魔法を発動させた。


「Goldenes Urteil wird gegeben!」


 何がいるか分からなかったから、得意の『雷撃サンダーストローク』を詠唱してしまったのだろう。兎は直撃したというのに、ぶるんっ、と身体を震わせるだけで、倒れない。だが、アランが『属性追撃』を決める。2人の得意の連携技を食らうと、さすがに倒れて、動かなくなった。多少残酷だが、アランが再度剣を振り下ろして、確実に動かないようにする。


 その間に、ハーヴェイとグレイも、やはり得意の『背面刺殺バックスタップ』と『激怒の刃(レイジングエッジ)』を使って兎を挟み撃ちにして仕留める。最後の1匹の兎も、見知らぬ戦士の少年が仕留めたようだった。


「う、牛、どうしよう?」


 兎3匹を仕留めたのは良いが、短剣を仕舞って、短弓を構えながらハーヴェイは言う。


「どうって……」


 グレイは言いかけて、言葉を飲み込んだ。

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