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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
1章 はじめまして
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「……そうだった」


 真顔でアランが言い、マリアベルもふわふわ笑って、よく覚えてたねぇ、とか言っている。ローゼリットも、酔っているのかマリアベルにもたれかかって、ねー、とか笑っている。そういえば、地味に何回かお代わりをしていたかもしれない。それを見たハーヴェイが、余りの愛らしさにちょっと死にかけていた。


 席で会計を済ませて(全然食べた量に見合っていない気がするのだが、大皿を取り分けるような店の時は、料金は5等分だ。ローゼリットは全然気にしていないようだから、そうなっている)、奥のクエスト報告所へ向かう。報告所と言っても、カウンターに、店主がいるだけだ。グレイとローゼリットは、受領の時にいなかったから、初めて向かうことになる。


 マリアベルどころか、ローゼリットもふわふわした足取りで、奥へ進む。


「でも、これが奇跡の水だって、どうやって分かるんだろうねぇ」


 色々と、今回のクエストの根源に関わることを言って、マリアベルはにゅふふーん、と笑った。


「それはあれだろ。なんかあれで分かるんだろ」


「ぜんぜん分かりませんけど」


 アランが適当に答えて、ローゼリットがぴしゃりと言った。酔っていても、このコンビは健在らしい。


 クエスト報告所では、店の名前の通り、穴熊みたいに大きくて、髭と眉毛が立派な店主がカクテルを作っていた。


「こんばんはー。クエスト、報告に来ましたぁ」


 マリアベルが言って、クエストの内容が書かれた紙と、水筒を、ことん、とカウンターに置く。


「おぉ、お前ら、生きてたか。ちょっと待ってろ」


 けっこう物騒な事を言って、店主は作っていたカクテルをグラスに注いで給仕女に渡した。前掛けで軽く手を拭って、5人に向き直る。


「あんまり報告に来ないから、もう死んだかと思ったぞ」


「にゅー、本当ですかぁ?」


「いやまぁ、嘘だが。お前ら有名だしな」


 さらりと酒場の店主は言う。おや、とアランとグレイは顔を見合わせた。マリアベルはカウンターをぺしぺし叩きながら言う。


「え、有名なんですか。あたしたち」


「おー、珍しく新米だけのパーティで、若いもんばっかりで、で、連れてる後衛が2人ともえらい可愛いって有名だぞ」


「わーい、やったー」


 言葉通り嬉しそう――とは言い難い。かなりどうでも良さそうにマリアベルは言って、「で、これ、依頼の品ですー」と水筒を示した。どうでも良いのだろう。


「おぉ、どーでもよさそーだなー」


 酒場の店主はちょっと驚いたようだったが、水筒を受け取った。中身の水を、ちょっと店のコップに出して、飲んで、頷く。


「間違いなさそうだな。じゃ、報酬の盾持ってくるから、待ってろ」


 酒場の店主はそう言って、店の奥に引っ込んでしまう。「飲めば分かるんだ」とハーヴェイが呆然と呟いた。「あたしたち、飲まなかったねぇ」とマリアベルがのんびり応じる。俺、かけられた筈だけどな、とグレイは思ったが、あまり楽しい記憶では無いので黙っていた。ローゼリットは報告所に来てからずっと静かで、アランが見ると、錫杖に縋って寝そうになっていた。


「ロゼ、起きろ」「……起きています」


 アランに言われると、ローゼリットはかなり嘘くさいことを答えて、目元を擦っている。


「ほれ、持ってけ」


 そう言って、酒場の店主がどん、と置いたのは、報酬の盾だ。想像を裏切らない、かなり立派に見える金属製の円形の大盾だった。表面が銀で加工されている。ミーミルの冒険者の為に作られた物らしく、表面の意匠は緑の大樹だ。丁寧に手入れされてきたのか、多少くすんでいるものの、十二分に美しい。


「ほわぁ……」


 マリアベルが目をきらきらさせて盾を見つめている。確かに、かなり良い品のようだ。買おうと思ったら、相当貯金を貯める必要があっただろう。


「マリアベル、えらいです!」


 間違いなくだいぶ酔ってるローゼリットが、マリアベルを抱きしめて、飼い猫でも可愛がるみたいに頭を撫でた。


「確かに、偉い!」


「よくこの依頼受けたなー」


「にゅふふー」


 ローゼリット、ハーヴェイ、アランに口々に褒められて、マリアベルはご満悦顔だ。こっちはどうでも良くないらしい。


「で、誰が持つんだ」


 酒場の店主に言われて、4人の視線がグレイに向く。ちょっと照れながら、グレイが手を挙げた。


「……俺です」


「何で照れてんだ。ほれ、持ってけ」


 言われて持つと、ずっしりと重い。頼もしいが、いざという時にはマリアベルやローゼリットの命を預かることになる盾だ。そう思うと、この盾でもまだ足りない気がする。


「にゅっ、ふーん。だいじょうぶ、だよぉ」


 マリアベルが、グレイの肩をぺしぺし叩きながら言った。相変わらず、魔法使いは不思議な生き物だ。もしかしたら、マリアベルが不思議なのかもしれない、と思い直す。他の魔法使いをグレイはあまり見たことが無いわけだし。


「……何が?」


 いつかのように尋ねると、マリアベルはチェシャ猫のように笑った。笑って、答えない。魔法使いの杖を支点にするようにして、くるりとその場で回って、出口に向かう。


「さぁーて、帰ろうか。明日は、とうとう、あの階段、登っちゃうよぉ」


 ふわふわ笑いながら、ローゼリットの腕を引いて歩いていく。「登っちゃいますねー」と、ローゼリットはご機嫌に頷く。「ちょっと2人とも、2人で行かないで!」ハーヴェイが慌てて2人を追いかけた。アランとグレイは酒場の店主に一礼して、やはりマリアベルを追いかける。「死ぬんじゃねーぞー」と、酒場の店主が背後から言った。


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