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「え、なにそれ超見たい」
再び、夜。緑の大樹の迷宮の入り口へ、久しぶりに5人揃ってやってきた。
蝶にやられて敗走してから、かれこれ1週間ぶりである。マリアベルとグレイが冒険者証明証を見せに行き、丁度グラッドがいたのか、「お前ら無事だったかー!」と仕事中なのを忘れたようにグラッドは言って、マリアベルとグレイの頭をわしゃわしゃ撫でていた。他にも何人かのミーミル衛兵に話が伝わっていたらしく、良かった良かったと言われている。
マリアベルとグレイがわしゃわしゃされている間、アランが先日のマリアベル発光事件について話すと、ハーヴェイは目をきらきらさせて言った。ローゼリットは、ちょっと疑うような目をしていたが、光ったんだよ、と念を押すようにアランが言うと、仕方なく信じたようだった。
「マリアベル、すっごいなー。見たいなー。いつか見られるよね」
「たぶんなー」
アランが適当に頷くと、ちょうどマリアベル達が戻ってくる。
「なになに?」
ミーミル衛兵から貰ったのか、飴をポケットにしまいながらマリアベルが尋ねるが、行くぞー、とかグレイが言うとすぐに興味を失ったようだった。
「よーし、行こう!」
元気に頷いて、緑の大樹の迷宮に向かって歩き出す。
1週間のブランクがあったため、今日は『奇跡の水』を目指さず、まずは久しぶりの迷宮に慣れることに専念する、と決めていた。
ローゼリットが大公宮で報告して来たところによると、やはりあの日の蝶は『青い蝶』だけではなく『猛毒蝶』が混ざっていたらしい。正直、名前を聞くなり、ローゼリットも含めて全員何とも微妙な顔をした。
両者の蝶は、大きさは似ているが、猛毒蝶は紫色の羽をしているらしい。また、猛毒蝶の方が凶暴で、丈夫で、そして全員知っているが、鱗粉は強い毒性を持つという。あまり昼間には見かけない上に、1階では限られた場所でしか生息していないそうだ。
ランプを持って先頭を歩くハーヴェイは、今まで以上にかさりとも音を立てずに歩くようになった。ローゼリットは、『解毒』を覚えた安心感からか、辺りを見回す余裕があるようだった。
グレイは、今回のクエストの報酬が手に入ったら、アランに譲り渡す前提で、小型の盾を買った。木製の盾の表面に、獣の皮を張って強化したもので、縁取りだけ金属で補強されている。それほど高価なものでは無かったが、特技を覚えた為に懐が寂しくなっていたので、5人でお金を出し合って買った。グレイとアランが3割ずつ、他の3人が残りを3等分といった所だ。
マリアベルは結局、新しい魔法ではなく、効率良く『雷撃』を使う方法を習って来たらしい。本人曰く、「雷精霊ちゃんとねー。仲良くなったよー」とのこと。先日の発光事件と関係があるのかもしれない。ないかもしれない。
曲がり角に近づき、ハーヴェイが偵察に行く。戻ってくるなり、小声で言った。
「……さっそく、青虫が1匹いる。こっちに背中を向けてるから、不意打ち掛けられると思うよ」
青虫の正式名称は『糸吐き青虫』らしいが、この辺りになると、もういい! という気分だったので全員で今まで通り青虫と呼ぶことにしていた。
「……よし、やってみるか」
「うん、やってみよう」
アランとマリアベルが頷き合う。『雷撃』と、『属性追撃』の連携技を試してみたいようだ。全員で静かに武器を構える。マリアベルは、ランプをローゼリットに預けると、そっと呪文の詠唱を開始する。ハーヴェイが再度先行して、青虫の位置と向きを確かめる。ハーヴェイが頷いてランプを掲げるのを見るや、マリアベルとアランが走り出した。
「Goldenes Urteil wird gegeben!」
曲がり角を曲がり、青虫の位置を確認するなりマリアベルは『雷撃』を発動させる。中空からおもむろに光の束が発生して、青虫の背中を撃ち据える。ほとんど完璧にタイミングを合わせてアランが斬りかかる。一瞬、長剣が雷を纏うようにして輝き、青虫の背中を深く抉った。
ローゼリットは錫杖を構え、グレイはマリアベルを守るように長剣と盾を構えていたが、その一撃だけで青虫はあっけなく動かなくなった。思わず、全員でぽかんとしてしまう。
「……にゅ、ふふ」
マリアベルが変な笑い声を上げた。やはり、青虫の傍らで長剣を構えたまま凍り付いていたアランも、その声を聞いて動き出す。
「すっ……ごくない!? ねぇねぇ、見た? 見た?」
マリアベルがはしゃいだ声を上げる。
「見た! お前ら、かっこいいなー!」
「見た! 何か凄かった! っていうかアラン、あれ? 当たってない? 当たってないの? 大丈夫?」
興奮気味にグレイとハーヴェイも言う。アランは振り返って、当たってねーよ、とか偉そうに言うが、嬉しそうな声になってしまった。不意打ちとはいえ、この辺りで一番の大物の青虫を、一撃で倒せるというのが分かったことは収穫だ。
とはいえ、気を引き締めていきましょう、とローゼリットに言われて、改めて全員で頷き合って進むことにする。油断すると、油断しなくても、油断しかけただけで、大抵痛い目に合うのが緑の大樹だ。
ひとまず迷宮に慣れるのと、資金集めだ、という意見で一致していたので、青い花が摘める場所を目指して歩く。猛毒蝶に遭遇した場所へは、近寄らないような道を選んで進む。途中でモグラ2匹に遭遇するが、ハーヴェイが音も無く背後に回って『背面刺殺』で1匹仕留め、グレイが盾で止めている間に、もう1匹もアランが仕留める。
「調子いいねー」
うんうん、と頷きながらハーヴェイが言う。さすがのローゼリットも嬉しそうに、ねー、とかマリアベルと言い合っていた。
ほどなくすると、青い花の群生地点に辿り着く。マリアベルとローゼリットが、何本か蕾や、咲き始めの物を選んで摘んでいく。持ち切れないため、あまり乱獲はしない。男どもは、周りで辺りを警戒するように立っている。
マリアベルとローゼリットが、荷物の中に花を仕舞って歩き出すと、ネズミの群れに遭遇する。偶然だろうが、マリアベルが、マリアベルの足に噛みつこうとしていたネズミを逆に見事に蹴り飛ばして、ローゼリットが止めを刺した。アランとグレイも1匹ずつ倒し、2、3個牙が拾えたので持帰ることにする。
その後も、入り口付近をうろついて、モグラの爪や、ネズミの牙を集めていく。蝶を見かけた時には、反射的に全員足がすくんだが、ハーヴェイがランプを掲げて「大丈夫! 青いから!」と言うと、マリアベルがすぐに持ち直して『雷撃』を放ったため、鱗粉の結晶を拾うことが出来た。
荷物がだいぶ増えたので、宿に引き上げる事にする。帰り際に、マリアベルが元気にミーミル衛兵たちに手を振ると、彼らも安心したようにちょっと手を振り返してくれた。
「……これは」
「……明日は行くか」
アランとグレイは嬉しそうに頷き合った。いいねぇ、とハーヴェイが同意する。マリアベルは、もちろんだよー! と弾んで言った。ローゼリットも、錫杖を抱きしめて頷いた。
――明日こそ、『奇跡の水』を、持帰る。




