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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
1章 はじめまして
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 ハーヴェイはランプをマリアベルの傍に置いて、右手で口元を押さえながら、左手で一応短剣を構えていたが、ローゼリットに声を掛けられると、ばったりと倒れた。短剣を離して手を付く余裕も無いような、ぞっとするような倒れ方だ。ローゼリットは慌てて錫杖を放り出して手を伸ばす。ともかく、頭を、庇わなくては。


「ハーヴェイっ!?」


 何とか受け止めて、短剣を手放させる。様子がおかしい事に気付いたのか、マリアベルがランプを拾ってハーヴェイを照らし、「ひっ……!?」と悲鳴を上げかけた。ハーヴェイの口元に手をやったローゼリットも、一瞬気が遠くなる。どうして、いつの間に? と言いたくなるほど、ハーヴェイの口元は血塗れだった。


「おい、ハーヴェイもかっ!?」


 切羽詰まった声で、アランが言う。ハーヴェイ「も」。錫杖に手を伸ばして、手を、声を、震わせながらローゼリットは『癒しの手(ヒール)』を発動させる。


「ど、く……?」


 マリアベルは震える声で言って、ランプを1つ持ったままアラン達の方へ駆けて行く。『癒しの手(ヒール)』が効いているのか、いないのか、ローゼリットには全く分からない。ハーヴェイは動かない。一応、息は、ある。


 ローゼリットは術を発動させながらも、頭の中ではぐるぐると「どうしよう」の一語が巡り続けていて、どうしたらいいのか、全く分からない。青い蝶では無かったのか。ハーヴェイが、こうなら、グレイにも『癒しの手(ヒール)』を使うべきか、もうハーヴェイの治療を止めてもいいのか。やめる――あきらめる?


 自分自身の思考にぞっとして、ローゼリットは辺りを見回す。そうだ、他にも、またさっきの蝶が出てきたら? いつまでこうしていれば?


 もはやローゼリットが悲鳴を上げそうになった時。


 闇夜を切り裂くように。


 声が、響いた。


 

「うにゅあー!」


 

 マリアベルが変な声を上げて、ハーヴェイ、とローゼリットに水をかけた。


 驚きの余り、『癒しの手(ヒール)』の術も止まる。マリアベルはなぜか誇らしげだ。「にゅいっ!」と声を上げて、ローゼリットの傍にしゃがみ込んで、ローゼリットの頭を撫でる。



「――だいじょうぶ」



 魔法のように。


 マリアベルが言うなり、ハーヴェイが咳き込んだ。


「ハーヴェイ、ハーヴェイっ!?」


 慌ててローゼリットが名前を呼ぶと、「うぇーい……」と弱々しい声を上げて、ハーヴェイは笑ってみせた。


「だいじょうぶ、だよー……」


 何だかあまりそうは見えないが、それでもハーヴェイは言ってみせた。


 ローゼリットは生真面目に頷くと、ハーヴェイの頭を草の上にそっと置いて、立ち上がり辺りを見回す。


「グレイは……!?」


「ロゼ、出来たらこっちも『癒しの手(ヒール)』頼む!!」


 ローゼリットが声を上げると、アランがランプを掲げながら、手招きして言った。


 やっぱりしっとり濡れているグレイにも、『癒しの手(ヒール)』を使う。グレイの方は、効果が分かりやすかった。しばらくすると呼吸も落ち着いてくる。


 ほっとして、座り込みたいところだったが、ここは緑の大樹だ。たった今、よく学んだばかりだ。


「――アラン、グレイを連れて……」


 歩けますか、とローゼリットが言うまでも無く、アランは頷いて長剣を収めると、グレイの腕を持って担ぐようにして歩き出す。


 ローゼリットとマリアベルで、ハーヴェイを連れて歩く。身長差の都合で、半分ハーヴェイを引きずるような形になるが、如何ともし難い。


 所々で休んで、『癒しの手(ヒール)』を継続して使用する。1度、ネズミが3匹ほど噛み付いて来たが、ネズミ退治にはすっかり慣れたローゼリットが、『粉砕クラッシュ』の特技を使って錫杖でネズミ1匹の頭を叩き割ると、他の2匹は恐れおののいてすぐに逃げて行った。


 まず敵の現れない、迷宮入口の広場に辿り着くと、倒れ込むような勢いで、マリアベルとローゼリットは座り込んだ。「おい、あと、少しだから……」とアランは言うが、マリアベルが魔法使いの帽子ごと頭を抱えて、いやいや、と駄々をこねるように首を振った。


「ふ、う、にゅぇぇぇぇ」


 とうとうマリアベルが泣き出してしまって、アランも諦めたように――ついでに、アランも疲れたのだろう――グレイを寝かせてから、座り込んだ。ローゼリットは、最後の気力を振り絞って『癒しの手(ヒール)』を発動させる。うっすらと目を開けて、グレイが呆れたように言った。


「……泣き声まで、変なのかよ」

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