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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
1章 はじめまして
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 まぁ、駄目でもともと、あと、そろそろまた疲れたよね、ということで、次の日は1日緑の大樹に登らない日に決める。


 ハーヴェイの言う通り、マリアベルは緑の大樹に出入りする度に、ちょっとミーミル衛兵たちに声を掛けて、いつの間にか随分可愛がられるようになっていた。この前は、(多分)サリオンから飴を貰っていた。


 向こうが仕事中に、緑の大樹の前で聞き込みをするのは流石に教えてもらえないような気がしたので、街中をぶらぶらして誰かに会えないかな、作戦を決行する。何というか、雑だ。


「最後の手段としては、大公宮から情報を買うことも出来ますし」


 とは、ローゼリットの弁だ。『奇跡の水』が登録されているかは分からないが、マーベリックなら何となく知っていそうな、気がする。


 ミーミル衛兵がよく利用するという食堂に来たのは、マリアベルとハーヴェイの人懐こいコンビと、お目付でグレイだ。アランは目つきが悪いからダメ、ローゼリットは美人過ぎるからダメ、とか分かるような分からんような事をハーヴェイが言い出して、マリアベルまで同意し始めたからこうなった。ダメ出しされた2人は、明日の探索のための5人分の食料の買い出しに向かうことになった。


「つーか、俺たち、向こうの顔知らないよな……」


 店内はかなり賑わっていて、やっぱり途方もなく無謀だったんじゃないかと思いながら、とりあえず初めて来る店なので、看板に書かれていたおすすめのセットを注文する。マリアベルはミーミルに来てからかなり海老好きになったらしい。海老の殻を炒めて茹でて濾して作られるらしい、赤いスープとパンを頼んでいた。


 ハーヴェイはグレイと同じく、無難におすすめのセットを頼んでいる。捌いた小魚を、1匹丸ごと揚げて野菜と一緒にパンに挟んだものと、酢漬けの野菜が出てきた。


「にゅ、そっちも美味しそうー!」


 何か、本来の目的を忘れているような勢いでマリアベルが言う。「半分、分けたげるよ」とハーヴェイが言い出して、パンを半分に千切っている。


「ありがとー!」


 嬉しそうにマリアベルは言い、グレイはまぁ、駄目ならダメでも何でもいいような気分になってくる。思った以上に、揚げ魚のサンドイッチは美味いし。


「レモン汁、かけても美味いぞ」


 不意に上から声を掛けられて、驚いてグレイとハーヴェイは顔を上げる。マリアベルは、ちょうどパンを頬張った所で忙しい。


 顔、は始めて見るが、声はかなり聞いたことがある。想像通り、衛兵にしてはけっこう若い。ような気がする。グレイ達より、3つか4つ年長と言った所だろう。グラッドだ。


「あ、ども、はじめまして?」


 動揺してグレイが変な事を言うと、グラッドは愉快そうに笑った。


「そらま、顔見るのは初めてか。こんなとこで会うなんてな」


 いやいや、それがあなたに会いに来たんですよ、とかグレイは言いかけて、やめる。多分、野郎にそんなこと言われたら気色悪いだろうし。


「それがですね、あたしたち、グラッドさんに会えないかなと思って来たんですよー!」


 ようやくパンを飲み込んだマリアベルが言う。


「俺に?」


 マリアベルに言われて、グラッドはそう悪い気はしなかったようだ。うん、世の摂理だ。偉いぞマリアベル、と、グレイは思う。ハーヴェイも、そんな感じの表情で頷いている。


 ハーヴェイが、「まぁ座ってくださいよ」と空いていた席を引いて言い、1人で来ていたらしいグラッドは言われるままに座る。その辺りでぴんと来たらしく、苦笑気味に言った。


「何か迷宮で困ってるな、お前ら」


「「あ、ははー」」


 グレイとハーヴェイは半笑いで応じる。


「そうなんですよ。いま、困ってて。で、あたしたち、ミーミルで頼れそうな人なんて、グラッドさん達しか思いつかなくて」


 マリアベルは、質問したいのか、残りの魚サンドが気になって仕方ないのか、微妙なラインで言った。


「ま、そう言われるとな。仕方ない。俺の知ってることなら教えてやるから、とりあえず熱いうちに食っとけ、マリアベル」


「わぁい!」


 グラッドが呆れたように笑いながら言うと、マリアベルは嬉しそうに残りの魚サンドに、卓の上に置いてあったレモン汁をかけて食べ始めた。もさもさ頬張りながら、「あ、ほんとだレモン汁かけるとおいひい」と呑気に言っている。


「あー、ほんと、当てにしちゃってすいません」


 いたたまれなくなってグレイが言うと、グラッドは本当に気にしていないように手を振った。


「とりあえず、食ってからで良いか?」


 グラッドに言われて、願ったり叶ったりですといった感じでグレイとハーヴェイは頷く。グラッド曰く、ここの魚サンドは、ミーミル衛兵の昼食に“手早く食べられる”というだけの理由で人気なのだが、何故か非番の日にもやっぱり食べたくなるという、恐ろしい中毒性のある食べ物、らしい。「お前たちも、多分、今日でやられたな」とグラッドは笑う。


 マリアベルは、魚サンドと自分で注文したスープまで綺麗に平らげると、幸せな猫みたいに笑いながら、「それがですねー」と口を開いた。


「グラッドさん、奇跡の水ってご存知ですか?」


「知ってるよ」


 即答だった。


「……もーちょっと、勿体ぶっても……」


 何故か残念そうにハーヴェイは言い、「いや、いいことだろー」とグラッドは笑って言ってから続けた。


「実際に、モノは見たことないけどな。1階にそう呼ばれる水があるってのは、割と有名だ」


「やっぱり、1階にあるんだ……」


 マリアベルが困ったように、耳の後ろを掻きながら言う。猫か。


「何でも、ピンチになった冒険者を救ってくれる水、らしいぞ。それと、まぁ、あまり勧めたくはないが……」


 ちょっと困ったように言葉を切って、それでもグラッドは教えてくれた。


「深夜の緑の大樹で、採れるらしい」

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