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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
1章 はじめまして
18/180

18

 早朝から緑の大樹に入り、1階の地図を着実に広げていく。アランとグレイの連携は上手くなってきたし、ハーヴェイの探索や、採取の腕も上がってきた。何より、いつの間にか自然な形で、戦闘ではローゼリットが後方から全員に指示を出すようになって来てから、安定感がぐっと上がり、マリアベルとハーヴェイはほとんど怪我をすることが無くなってきた。


 グレイは基本的に目の前の敵でいっぱいいっぱいだったから気付かなかったが、全体を見て指示を出してもらえるとかなりやりやすい。


 グレイはあちらの敵を狙って、こっちのモグラなら後はハーヴェイだけで止めを刺せる、アランが怪我をしたから向こうのフォローを、追加のモグラが出たからマリアベルは魔法の詠唱を始めて、ひとまず青虫は私が引きつけます、等々。ローゼリットが、回復と、短い間ならば前衛をこなせるのも強い。


 ローゼリットがマリアベルから魔法の詠唱の全文を教わってからは、ローゼリットの退避の指示が的確になり、混戦の中でもマリアベルが味方を巻き込まずに魔法を使えるようになってきた。自然と怪我の回数がますます減り、探索を続けられる時間が日々じわりじわりと伸びていく。それでも、辺りが薄暗くなってくる夜の18時くらいには、出口付近に向かえるように調整は続けていた。


 おそらく1週間ほど探索を続けただろう。確か、途中で1日休みの日を作って、装備を買い足したりしたが。緑の大樹から帰ってくると、猫の散歩道亭で1か月分、追加で宿の前金を払って、その日は全員で猫の散歩道亭の食堂で夕食を取ることに決めて、席に着くなりマリアベルがくにゃん、と身体を倒して机に頭を付けた。


「……奇跡の水、見つからないねぇ……」


「2階への入り口は見つかったんだけどねぇ」


 苦笑気味に、ハーヴェイが応じる。ハーヴェイの言う通り、おそらく2階への入り口と思われる階段のようなものが、探索を続けるうちに見つかっていた。ただ、依頼クエストが未完なため、未だに2階へは進んでいない状況だった。


「にゅいー。どうしようかねぇ。依頼、破棄する?」


「それも手では、あるのですが……」


 ローゼリットが地図を眺めながら言う。歩けるところは、ほぼ全て回ったはずだ。それでも見つからないということは、どこかに見落としがあるかもしれない。そちらの方がローゼリットは気になっていた。


「別に、依頼クエスト破棄にペナルティは無いらしいけどねー」


 ハーヴェイはどちらでも良さそうに、呑気に言った。


「ただ、まぁ、出来れば盾、欲しいよな」


 アランが言い、グレイは深く頷いた。金属製の盾を買おうと思うと、かなり地道に現金を貯める必要があることに、最近気付いていた。鱗粉の結晶や、青い花を出来るだけ集めるようにはしているが、それでも日々の生活で――宿代や、食事代や、その他雑費で――減っていく金額は馬鹿にならない。上の階層に進めば進むほど、収入は良くなるらしいが、敵も強くなるらしい。そうなると、なおさら、良い装備は魅力的だ。


「盾欲しいなら、あたしもお金出そうか?」


 ふと思いついたように、マリアベルが言い出す。


「いや、それは……」


 アランが言うが、マリアベルが重ねて言った。


「だって、どうしたってアランとグレイの装備の方がお金かかるでしょ? あたしの杖なんて一生ものだし、最近はあんまり怪我もしないから、ローブも買い直さなくて済むようになってきたけど。金属の鎧とか、良いの買おうとすると相当お金貯めないといけないよね。1人で貯めるの大変だよね。だったらあたしも出すよぉ。アランとグレイが良い装備で前で頑張ってくれた方が、結局あたしも助かるし。でしょ?」


 ミーミルの街を歩き回る内に、戦士の装備の値段の相場を理解してきたのか、マリアベルが珍しく真面目な顔で言う。ハーヴェイが「おぉ……」と感心したように呟いた。


「確かにそれはそうかも知れないけど、マリアベルだって、護符とか買えば、魔力の底上げになるんだろ。買えば良くないか?」


 グレイが言うと、まぁねー、とかマリアベルは半分くらい頷いた。


 そこで丁度、サリーが料理を運んできたので話は中断される。食事の時は、美味しく食べるのが何より大事なのだ。


 相変わらず、マリアベルは良く食べて、ローゼリットは少食だ。アランは結構な酒好きで強い。ハーヴェイは、よく見ると、大抵視線がローゼリットの方を向いている。ローゼリットは多分気づいていない。食事中はどうでもいいような話が繰り広げられる。食べて、飲んで、一息ついて、マリアベルがふと思い出したように言った。


「あ、そうだ。聞き込み」


「どうしました?」


 ローゼリットが尋ねると、マリアベルは、うん、と頷いて、言った。


「奇跡の水って、冒険者の間では有名だって、依頼を受けるときに酒場の店主さんが言ってたでしょ? それなら、他の冒険者の人に、聞いてみればいいんじゃ、無いかなって、思ったり、思わなかったり、思ったり……」


 あまり正攻法では無い気が、マリアベル自身もしていたのだろう。だんだん小声になっていく。だが、ハーヴェイが力強く頷いた。


「マリアベル、ほんとに偉い! そうだよ、別に僕たち新米だし、何でも自分たちで謎解きしなくてもいいよ」


「って言っても、どこで、誰から聞く?」


 新米だけでパーティを組んで、今日までやってきたため、実はグレイ達には冒険者の知り合いがほとんど、というか、まったくいない。だが、ハーヴェイはやけに自信のある顔で、答えた。


「いやいや、僕たちには、マリアベルのお陰で、すっかり仲良くなった緑の大樹のプロがいるじゃないですか」


「にゅ?」


 名前を出されたマリアベルが首を傾げる。アランは気付いたのか、あ、とか声を上げた。


「もしかして……」


 ローゼリットが微妙な顔をして言う。


「……グラッドさん達のことですか」


 まさかの、ミーミル衛兵だ。

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