表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
4章 ギルド名は
138/180

4-30

 それは、そう、なんだけど。


「……僧侶無しで、行けるわけねぇだろ」


 自分自身の傷を抉る様な声で、アランが言った。マリアベルは頬を膨らませる。


「行けるよ」


「無理だ」


「無理じゃないよ」


「俺達に回復無しで、前線に立てって言うのか」


「にゅうぅ……」


 マリアベルは唸る。唸って、少し考え込んだ。


「……グレイが、聖騎士パラディンになればいい」


「他人任せか」


「にゅぐぐ……!」


 悔しそうに、でも返す言葉もなく、マリアベルは卵焼きにフォークを突き刺して頬張った。


「おやまぁ、いつも仲良しなのに。どうしたの今日は。それにローゼリットとハーヴェイは?」


 グレイとアランの分の朝食を運んできたサリーに問われて、マリアベルはもぐもぐと卵焼きを咀嚼してから平然と答えた。


「ローゼリットは……ちょっと、冒険者をお休みすることになっちゃったんです。だから、僧侶がいないと困るねって。でも、あたし達の僧侶は、ローゼリットだけなんです……だから、凄く、困っちゃってて」


「あらま。それは困るわねぇ。でも、喧嘩したってどうにもならないからね。可愛い子達」


 親戚の子供を叱るような調子でサリーは行って、朝食の皿を置いて去って行く。


 毒気を抜かれた様な顔で、マリアベルとアランはそれぞれ朝食を掻き込み始めた。


「……あと、ハーヴェイ死んでるからな。とても今日は迷宮行けねぇぞ」


「行くもん」


「無理だ」


「無理じゃないもん」


「だから喧嘩するなって」


 グレイが仲裁に入ると、マリアベルが真っ直ぐに見詰めて来る。


「じゃあ、グレイはどうしたいの?」


「え……」


 グレイは。


 平平凡凡たる、グレイは。


「飛び火させてんじゃねーよ。とにかく、今日は休みだ。休み」


「にゅぐー!」


 頭を抱えて、足をばたつかせて、でも、仕方ないってマリアベルは諦めが付いたらしい。


「……分かった。今日は、お買い物に行くことにするよぉ」


「ん」


「でもねアラン」


 マリアベルの目は恐ろしいくらい真剣だった。


「あたし達、迷宮を踏破するしか、無いでしょう?」


「……」


 アランは腸詰めにフォークを突き刺した。肉汁が溢れる。


「……まぁな」


 先に食べ始めた分だけ早く、マリアベルは朝食を食べ切って去って行く。その背中が、やけに小さく見えた。マリアベルの部屋は、寂しいことだろう。グレイ達の部屋には、アランもハーヴェイもいるけど、マリアベルは1人ぼっちだ。今日の夜は、こっちの部屋に来るか誘ってみても良いかもしれない。しかし、僧侶。回復――聖騎士、か。


「聖騎士って、誰でもなれるもんだっけ」


「真に受けてんのか。『癒しの手(ヒール)』だの『解毒リポイズ』は使えるようになっても、回復の本職は僧侶だぞ。僧侶無しなんて」


「……まぁ、そうだよなぁ」


 例えば、3階までと決めてしまうなら不可能ではないだろう。


 探索するのは3階までで、生活費を稼ぐだけなら、僧侶無しでも今のグレイ達ならやってやれなくはない。はずだ。3階までならそうそう大怪我もしなくなったし、グレイが聖騎士になって『解毒リポイズ』を覚えればかなり安全に探索を行える。


 けれど、グレイ達がしなくてはいけないのは、そういう冒険ではない。


「……そうなんだけど、ほら、聖騎士になる為には、初めにギルド通う事になるだろ。マリアベルが言い出しっぺだし、本当に俺が聖騎士になるって言ったら、大人しくマリアベルもギルドに通うだろうし……1週間くらい頭冷やせば、ちょっとは落ち着くんじゃないかな」


「1週間か……1週間の為に、聖騎士に鞍替えして、良いのか?」


「んー、まぁ正直、むしろ俺が聖騎士になりたいってのが本音かな。どうせ同じ盾役なら、戦士でも聖騎士でも良いし。ローゼリットにも、前に言われたんだよな。聖騎士どうだって。それでずっと考えてたんだけど、戦士から聖騎士になるデメリット、思い付かないし」


「金が掛かる」


「あー、そっか……」


 確かにそれは問題かもしれない。聖騎士になるのって、どれくらい払う事になるんだろ。初めて戦士ギルドに加入した時、加入金いくら払ったっけな。手持ちは、まぁそれなりにあるけど。でも足りるかな。


 グレイが真剣に考えていると、くっ、とアランが噴き出した。


「言っただけだよ。グレイが本当に聖騎士になってくれて、1週間稼げるなら、俺も助かる。ハーヴェイもな」


「ハーヴェイ、大丈夫かな」


 思わずグレイは天井を見上げた。今もハーヴェイは2段ベットの上に転がっている事だろう。


「食べ物、差し入れようか」


「甘やかさなくてもいいんだぞ」


「でも、しんどいよな……あんなに、ローゼリットの事が、好きなのに」


「……まぁな」


 アランが不承不承頷く。好きだった、と言わなくて良かったな、と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ