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剣と魔法と迷宮探索。  作者: 桜木彩花。
4章 ギルド名は
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4-09

「いったん引きましょう! ハーヴェイ、先頭を!」


 グレイ達の顔色に気付いたのか、マリアベルに半分肩を貸しながらローゼリットが叫ぶ。


 呼ばれたハーヴェイは、「ごめん、ここお願い!」とグレイに言ってから道の先に駆けて行く。


「――大丈夫! こっちは何にもいない!」


 ざっと道の先を確認したハーヴェイが言うなり、マリアベルが多少おぼつかない足取りで走り出す。転びそうで、転ばない。良かった。


 ローゼリットは後ろのカメレオンを追い払いながら「グレイも!」と声を掛けて来る。


「分かった!」


 手近なカメレオンに『激怒の刃(レイジングエッジ)』を使って思い切り剣を振り下ろす。逃げ損ねたカメレオンの死体を、悪いけど蹴飛ばして、他のカメレオンを追い払ってから一気に身を翻して走る。


 先頭はハーヴェイ。マリアベル、ローゼリットと続いて、アランとグレイが殿だ。カメレオンはそんなに足は速くないらしい。いったん混戦から脱すれば。


「ここで迎撃しましょう!」


 ある程度カメレオンから距離を取ったのを見て、ローゼリットが指示を出す。グレイとアランはすぐに足を止めて方向転換した。マリアベルが杖を掲げて詠唱を始める。


「Werden die Silbertragödie gewickelt!」


 氷の槍が、追いかけてきていたカメレオンに降り注ぐ。どうやら氷精霊ヘーレの術とカメレオンは相性が悪いらしい。カメレオンはあからさまに嫌がって、逃げようとしてカメレオン同士でぶつかったりしていた。


 グレイとアランは落ち着いて、倒せるカメレオンから斬り捨てて行く。逃げていくのは見送る。ハーヴェイも短弓をしまって、短剣で斬りかかった。


 今更声に出して頼むまでも無い。お互いがお互いの背中を庇うようにして、1匹ずつカメレオンを仕留めて行く。マリアベルも、危なげなく魔法で援護をしてくる。全体を見回したローゼリットが「あと2匹です! 頑張ってください!」と応援してくれて、目に見えてハーヴェイの動きが良くなった。


「これでっ!」


 最後の1匹にグレイが止めを刺すと、すぐにローゼリットが駆け寄って来る。


「我らが父よ、悪しきものを打ち消す力をお与えください」


 怪我を治す『癒しの手(ヒール)』ではなく、毒の浄化を行う『解毒リポイズ』だった。やっぱ毒でしたか、と思うとしんどくなってくる。


「ごめん、座っても……?」


「もちろんです」


 ローゼリットも膝を突いて、また別の祝詞を唱え始める。今度は『癒しの手(ヒール)』だった。


 比較的軽傷だったハーヴェイと、もう治療済みのマリアベルはまったりとカメレオンの傍にしゃがんで喋っている。


「びっくりしたねー。あんなに上手く? って言ったら変かも知れないけど、木そっくりになってるなんて」


「ねぇ。でもハーヴェイ、よく気付いてくれたね。助かったよー」


「ピンと来たんだよね。何かヤだなって。臆病なのかなー、僕」


「んー。そうかもしれないけど、迷宮ではとっても大事なことだと思うよぉ。ちょっとね、怖いなぁって思ってるくらいが、ちょうど良いんだと思うの」


「そしたら、マリアベルは勇敢過ぎるかもね」


「かもねぇ」


 同意しながら、でもあんまり気に病む様子は無しにマリアベルがカメレオンの傍から立ち上がる。持ち帰れそうなものは無かったらしい。


「アラン、グレイ、大丈夫? 少し休憩していく?」


 道のど真ん中だけど、他の冒険者は見当たらない。身体はちょっと怠い。


「休憩しても良いかな」


「良いよぉ」


 マリアベルがほにゃっと笑って、荷物を下ろした。ハーヴェイとローゼリットも異論は無いらしく、水筒を取り出したり、ハンカチを地面に敷いたりしている。


 さわさわ――と言うより、ガサガサと言うか、ワサワサと言う感じで風が木々を揺らす。風も、湿気を多く含んでいて、生暖かい。マリアベルは黒い三角帽子を取って、鍔で顔を仰いでいた。


「6階、暑いよなー」


 グレイがぼやくと、マリアベルは少し楽しそうに笑った。


炎精霊スルヴァちゃんが元気な気がする。火蜥蜴サラマンダーもいたしねぇ。でも、一番びっくりしたのはあの広間かなぁ」


「びっくりしたよな。ギルドもいっぱい集まってたし」


「ねぇ」


「ギルドと言えばさ」


 ハーヴェイが辺りを警戒しながらも、話しかけて来る。


「ギルド名、決めたりしない?」


「そうねぇ」


 マリアベルは居住まいを正した。


「あのねぇ。もしもだけどね、もしも良かったら――あたし、使いたいギルド名があるの」


「どんなだ?」


 何となくそんな気はしていた、って顔をしながら、アラン。


 マリアベルはうんと大切な宝物を披露する子供みたいにはにかんで言った。



「――エスペランサ。うんと南の国の言葉で、『希望』とか、『期待』って意味なの」


 

 エスペランサ。誰ともなく、呟いてその響きを確認する。マリアベルは静かに続ける。


「冒険者になることは、あたしにとってずうっと希望だった。魔法使いだしね。冒険者になって、迷宮を踏破するのは、あたしが魔法使いで在る限り、ずっと続く希望だと思う。それと同じくらい、あたしは冒険者になって、うんと大切な仲間が出来る事に、期待してた。あたしは、故郷ではグレイ以外の子とはあんまり上手く付き合えなかったから。冒険者になりたいなんて言い出す、変な女の子だったしね。仕方なかったとは、思うよ。でもずっと、同じように冒険者になりたがるような子達と、仲良くなりたかったの。その希望と、期待を、ぜーんぶ込めた、名前」


 マリアベルがほにゃっと笑うと、グレイの隣でローゼリットが顔を擦った。


 ローゼリットだって、思う所はあるんだろう。アランが以前言っていた。ロゼには今まで同性の友達がいなかったから、と。マリアベルの期待は、ローゼリットの期待でもあったはずだ。


「……とっても、良い名前だと思います」


 ほんの少し声を湿らせて、ローゼリットが微笑む。


「エスペランサ。まぁ言いやすいし、魔法使いと仲間達、よりはずっと良いな」


 アランも、アランらしい感じで同意した。


「素直じゃないなー。良い名前なのに」


 ハーヴェイがアランを茶化しながらも、満面の笑みを浮かべる。


「俺も、凄く良いと思う」


 グレイが頷くと、にゅふふ、とマリアベルはくすぐったそうに声を上げて笑った。


「そしたら、そうねぇ。あたし達はギルド“エスペランサ”を名乗ろうか。あたし達自身の――そうしていつか、誰かの希望になれると、良いねぇ」

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