架空批評「正義戦士 ジャスティスマン」第43話「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」
*注意*
当原稿は「存在しない作品の批評」と言うスタイルの作品です。以下の内容は全て創作であり、実在の作品や作者とは何の関係もありません。
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80年代に放送された「正義戦士 ジャスティスマン」は今ではほとんど顧みられることのない作品だ。
全46話。一年に渡って放送された。
タイトルだけ聞くと実写の特撮物であるかの様な印象を受けるが、れっきとしたアニメーションである。
ストーリーも目新しいものではなく「地球征服を企てる宇宙組織ヴィラン」が毎回毎回何故か日本の…定説では田無(当時)から立川付近、たまに上井草近辺…を襲う(推測)というもの。
あ、もちろんこれは冗談で一応基本的には「地球を襲う」ということになっている。ただ、どう見ても舞台は日本だけだし、当時のアニメスタジオ近辺としか思えない風景が多いことからそう揶揄されているだけだ。
ちなみに「ヴィラン」というのは「悪役」とでもいうような意味で、アメコミことアメリカンコミックに於いては珍しくない用語だ。
この時代にこんな用語を使っていた日本のアニメというのは珍しくはあるが、だからどうしたと言う感じではある。
この怪人たちが騒動を引き起こしては主人公の堂々正義が「ジャスティスマン」に変身し、出動して倒す…ことを繰り返す。
先に最終回のことを書いておこう。
最終回は唯一の前後編で、歴代中ボスが総出演して次々にジャスティスマンに倒されて行く。
遂に地球上に設置された「異界ゲート」に現れたラスボスこと「ザ・ヴィラン」を倒してめでたしめでたしで終わる。
ピンチに陥ることはあるが、堂々正義たちが所属する「科学正義隊」はほぼ犠牲も出さずに終わる。
視聴率そのものは夜7時という時間帯に放送されたこともあってか最高31.5%、平均24.2%を記録した。
現在においてはゴールデンタイムとはいえアニメ作品がこれだけの視聴率を叩き出せばちょっとした“事件”である。
だが、現在とは比較にならないほど「子供」の数が多く、実質的にマスの娯楽がブラウン管に映るテレビジョンしかなかった時代である。これだけの数字でありながら、同じ年のアニメ・特撮の視聴率ランキングでは7位でしかない。ここに紅白歌合戦、ニュース特番、ナイター中継まで加えた「総合ランキング」では圏外となる。
1年間の放送を全うしたことからもお分かりの通り、関連商品…要はおもちゃ…もまずまずの売り上げを記録。
ジャスティスマンの変身後の塩ビ人形、そして「超合金」の売り上げは特筆もので、メーカーにおいては臨時ボーナス、金一封が配られたんだとか。
この時代なのでジャスティスマンをプリントした靴や水筒、リュックなどの子供向けグッズも売れた。少なくともこの年においてはそれなりのポピュラリティを獲得していたのは間違いない。
80年代と言えばもうすでにアニメ界には「機動戦士ガンダム」が登場している。
「機動戦士ガンダム」の初放送は1979年。ギリギリ80年代ではない。その後の度重なる再放送でじわじわと人気を博し、遂には劇場版3作品の公開でブームとなる。
その後は「リアルロボット」路線が80年代前半から中盤を席巻することになる。
「正義戦士ジャスティスマン」はそんな時代に70年代の特撮イズムが蘇ったかの様な牧歌的な作風が持ち味だ。
ただ、これが当初の企画通り、特撮であったならばかなり安っぽさが残ったかも知れない。巡り巡ってアニメーションとなったため、中盤の最大の中ボス及びラスボス戦はかなり広い範囲を巻き込む大戦闘を実現出来た。
今見返しても、画面から伝わる気迫はかなりのものである。
これが現在では完全に忘れ去られたような扱いを受けている。
スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズがどれほど些細な作品であれ年表に留まり、歴代戦士一同集合ともなれば一応モブ扱いはしてもらえるのに比べると余りにも恵まれていない。
国会図書館において、当時の学年誌や子供向けテレビ雑誌を閲覧してみたが、それらの作品と比較しても負けないだけのページ数が維持されていることが確認出来た。
一応巻末にページ数の比較表を掲載しておいたので興味のある方は確認して欲しい。
現在「正義戦隊ジャスティスマン」に関してウェブ上で確認出来る情報は「Wikipedia」の番組ページ以外だとアニメ研究をしているホームページに年表の中の文字として登場している程度。
版権を持っている製作会社の公式ホームページにもタイトル名と主要スタッフが列挙してある程度で画像一枚も無しという有様だ。
現在画像検索をするとタイトル画面はヒットするが、これはヤフーオークションに出品された当時の特集号の表紙のものである。
ちなみに全くプレミアがついておらず、筆者が50円で落札した。振込手数料と送料の方が高くついたくらいだ。
盛り上がりそうで盛り上がらず、サビがありそうでない脱力系一歩手前のオープニングはYoutubeの120分に及ぶ「懐かしのアニメオープニング特集」動画の中に埋もれる形で一応閲覧は出来る。エンディングは見つけられなかった。
ソフト化であるが、VHS、DVD、そしてブルーレイにおいては発売されていない。
だが、狂乱のバブル時代の影響がまだ残っていた90年代初頭に全話LD化されたものがあるので、どうにか観ることが出来る。単体では売り物にならないと思われたのか数量限定BOXにて発売。
46話と話数が多いこともあって総重量は10kgに迫り、強気の値段設定もあって破滅的に低い売り上げを叩き出すことになる。歴代ワーストランキング2位である。
テレビ版の再編集に何故か新作カットがあったらしい「テレビ特番」と、同じく劇場版に再編集されて一部のアフレコがし直されている「劇場版」に関してはソフト化されておらず、一度もテレビ放送されたことも無い。
噂ではフィルムが散逸してしまって再見が不可能であるともされる。
放送直後には地上波の夕方に2回、全国枠で再放送されたことが確認されている。現在出回っているバージョンの1つはこの2回目のものと思われる。ビデオデッキ普及の始まりと同じ時期だったため、最初の再放送時にはVHSによる録画が難しかったらしい。
ソフトが発売されるまでその存在が有名だった「千葉テレビ」においてはなんと不完全なものも含めて5回も再放送がされており、余りにもしょっちゅうテレビで流れるので千葉県民はこのアニメがマイナーであることも知らなかったという。
その他全国6つの県のローカル局で1回ずつ(京都のみ2回)再放送されたことが確認されている。この時、岐阜県の深夜放送で録画されたものが現在出回っているもう一つのバージョンだ(コマーシャルカットに失敗して一瞬映るのが東海地方ローカルCMであったための推察)。
その後90年代から0年代に掛けてテレビ放送はデジタルとなり、専門局も多数開局したが、一度は一世を風靡した筈の「正義戦士ジャスティスマン」が放送リストに載ったことはない。
厳密にいうと一度だけある。放送リストに載ったことだけなら。
とあるチャンネルが開局直前の番組ラインナップに名前を掲載したことがあるのだ。
だがこれは単なる記載ミスであって、原版を確保したことはないという。
筆者は本稿を書くにあたって同人誌も調べてみた。
正式な記録など全く残らないジャンルであるため苦戦を覚悟したが、現実はそれ以上だった。
少なくとも一年間探し回っての収穫はほぼゼロである。例外については本論のラストにて述べる。こうなってくると本当に放送されたアニメだったのかと疑わしくなってくるが、手元にあるLDボックスを観ることでどうにか意識を保っている。「アニメ総論」的なものまで調べてもカタログデータ以上のものを得ることは出来なかった。
アニメ評論家の氷山虎介氏にインタビューすることが出来たのでその様子を掲載する。
‐「正義戦士ジャスティスマン」についてお話をお伺いしたいのですが
「懐かしいですね。80年代に一世を風靡した変身もののアニメですよね」
‐その割には現在では余り名前を聞かないのですが
「そうですか?同年代のオタクが集まった時にはたまに名前は出ますよ」
‐懐かしのアニメ特集なんかで紹介されたりはしないですよね
「いやーそういう扱いを受けるアニメとはちょっと違うでしょう。ああいうところで流れるのは言ってみれば当たり障りのない人畜無害のアニメばかりです。とはいえ、それでもディープなアニメファンもうならせるものも多いんで、わざわざ「ジャスティスマン」みたいな作品にフォーカスする必要が無いんですよ。それに民放の地上波のその手の特集は局のバイアスが酷いですからね。どうしても自局の番組が優先します。それに古い作品だと二次使用に関する契約が曖昧で簡単に紹介できなかったりしますから」
‐「二次使用」とは、再放送とかソフト化ですね
「そうです。曖昧なだけならいいんですが、古い作品だと権利者の多くがお亡くなりになっていたり、もっと悪いと行方不明だったりして権利をハッキリさせられないんですよ」
‐「正義戦士ジャスティスマン」もそんな作品であると
「恐らくは。ただ、当時のアニメにおいては珍しいことじゃありません。放送当時は大人気でも次の年にはケロッと忘れられていたりは良くあることです。そんな作品、10や20はすぐ思い当りますよ」
‐そんなに?
「当時のアニメは…言葉は悪いんですが『時計代わり』というところで、1話1話をパッケージして売る現在の「OAVの発売前公開」みたいな作品とはクオリティが全く違います」
‐質が低いと
「低い…でしょうね。ただ、この場合「質」が何を指すかは解釈でしょうね」
‐といいますと?
「80年代の後半にはもう『劇場映画なみのクオリティ』を売りにするOAVも登場します。製作費一億円とかね」
‐OAVで製作費一億円ですか
「といっても、日本基準です。ハリウッドなら「低予算」どころか「無予算」です。一億円じゃ予告編も撮れません」
‐そうなんですか
「流石に予告編云々は大げさですが、現在のテレビドラマは1話に1億円掛かってるなんて言われてますからね。「24-Twenty Four-」とか。それが洪水のように垂れ流されてる」
-はあ
「とはいえ、劇場公開すら前提としないのに億単位なんて破格なのは間違いないです。そういうOAVなんかは確かに絵は綺麗です。ただ…比較にならない人数が観るゴールデンタイムのアニメとどちらが『価値がある』かなんて誰にも決められないでしょう」
‐そうですか
「ここだけの話、80年代初頭なんて、子供向け勧善懲悪アニメなんて永遠に新しいのが次々に出て来るもんだと思われていたフシがあります。パッケージにして売るなんて発想そのものがありません。過去は振り返らないんです。当時の人にとって「去年のアニメ」なんて全くの無価値です。ご存じかも知れませんが、最初は雑誌に掲載した「マンガ」を単行本にまとめて再発売するという発想も無かったんですから」
‐え?じゃあ雑誌を買い逃したら?
「それっきりですね。マンガなんて基本は読み捨てです。下手するとアメコミなんて今もそんな発想ですよ。だから『バットマンの初回掲載本』だの『X-MENの初回掲載本』に目が飛び出る様なプレミアが付くんです」
‐でも、今じゃ「マンガの単行本」は出版社にとってはドル箱ですよね?
「ドル箱どころか屋台骨でしょう。大手出版社なんて偉そうに文化事業でございって顔をしてますけど、漫画の売り上げが無かったら全部潰れてるんじゃないですか?」
‐ですよね
「出版不況の中で、マンガだけはまだ売れてるなんていいますもんね。しかしとにかく『単行本』が注目されていなかったことは確かです。出版はされても別の出版社だったりしました」
‐え?そんなことがあり得るんですか?
「雑誌に連載されたコラムなんかだと今でもままありますよ。雑誌連載と単行本が別の出版社なんてことは。要は売れると判断してくれないと出版なんてしてくれませんから」
‐じゃあ「正義戦士ジャスティスマン」がその後恵まれないのも…
「確かに放送当時に高視聴率だったことは間違いありませんが、その後ある種『笑いもの』になるような際立ってヘンな展開がある訳でもないし、ファンには申し訳ないんですが設定や展開にそれほどの深みがある訳でもない。作画的には結構ツライ部類です。まあ、『よくあるアニメ』の『よくあるその後』としか言えませんね。先ほども申し上げましたが、似たような運命を辿ったアニメは幾らでもあります」
‐LDボックスだけは発売されたんですが…
「え?あれ持ってるんですか?」
‐はい
「そりゃまたレアなものを。ちなみにあのアニメってスタッフクレジットがムチャクチャなんで信用しない方がいいですよ」
‐え?
「あの頃の『何でもLDボックスにしちまえ』狂想曲の中で行われた一種の奇跡ですよね。確かボックスイラストの新規書き下ろしも映像特典の…それこそノンテロップOP・EDすらないLDボックスってこれとあと2つしかないんですよね」
‐…はい。本当に何もありませんでした。
「普通は監督インタビューとかメインキャストの座談会とか…まああんなに古いアニメにコメンタリーは無理でもCM集くらいあってもいいのにねえ」
‐そうなんですよ。資料的価値に期待したのにスタッフ一覧すら入ってませんでした
「数が少ない上に、税金対策で売れ残りを廃棄したらしいから物凄くレアですよ。といっても数が少なくても需要が無いからオークションでも原価割れしてますけどね。滅多に出ませんが」
‐…どうしてなんでしょうか?誰も知らないマイナーアニメならいざ知らず
「何とも言えませんねえ。ポピュラリティがありすぎて逆に誰も熱狂的にハマり狂わないアニメってところじゃないでしょうか。『ホーム・アローン』はあれだけヒットしましたけど、未だにファン活動している人なんて聞いたことありません。でも『ブレードランナー』とか『2001年宇宙の旅』とかは何かはカルト的なファンがいますよね」
‐それは監督(ジョン・ヒューズ、リドリー・スコット、フランシス・フォード・コッポラ)の資質なんじゃないですか?
「ジョン・ヒューズにはカルト映画の『ブレックファスト・クラブ』があります。監督の資質もありますけど、まあ作品そのものの資質でしょうねえ」
‐はあ…
「いやいや、そもそも基本的に映像作品は『空に消えて』行くものなんですよ。マスのテレビ、ラジオ放送が始まった頃は全てが『生放送』だったんです。ドラマですらね。残らないものなんです。80年代に放送された子供向けアニメなんて、逆に今語り伝えられているアニメの方が例外で『異常』だと解釈した方がいいと思います。「正義戦士ジャスティスマン」もその中の一本だったというところでしょう」
-そういうものなんですか
「ええ。映画が全盛の頃は映画というのもまた見逃したらそれっきりでした。再見するには名画座で再上映されるのを待つしかありません。ですから当時の映画ファンは「名画座」は未来永劫滅びないものだと思っていたそうですよ。そもそも二番館・三番館に降りて二本立て三本立てでの映画上映形態とか、ソフト化されるのなんて一年後だったりする情勢だって今のファンには信じられないでしょうね」
-放送当時にはVHSはもうありましたよね
「ありましたけど、VHS末期みたいに120分テープが1本100円切るなんて時代じゃなくて60分テープが5千円とかの時代です。当時録画した人も大勢いたでしょうけど、間違いなく上書きして消されてるでしょう。当時の録画機能ってのはコレクションに使うというよりも、外出時の見逃し防止みたいなものですから」
氷山氏にはこの他にも当時のテレビアニメ風俗などで興味深いお話を多数伺った。が、本稿には直接関係ないのでここでは触れない。
いずれにしても、筆者が本稿でこのアニメを取り上げる気になったのは一つのエピソードが余りにも異彩を放っているからだ。
第43話「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」
がそれである。
ちなみに「ポリモルフ」とは「姿を変える」と言うような意味で、「ポリモルフ・セルフ」だと「自分自身を変える」つまり「変身する」といった意味合いになる。
同じく「ポリモルフ・アザー(他者)」となると「他人を変身させる」という意味になる。
このアニメのパターンは毎回決まっていて、以下の様になる。
1 悪の組織ヴィランの幹部に「今度こそジャスティスマンを倒せ」と言う命令が下る
2 新しい怪人を開発する、或いは腕利きが登場する
3 その回の怪人が一般人に襲い掛かり、多くの犠牲者を出す
4 堂々正義たちの組織がそれをキャッチする
5 怪物との戦いになるが、一度は退散する
6 何らかの「解決策」を思いつく(相手はタコだからイカが苦手に違いない!とかそのレベル)
7 改めてその回の怪人に挑む
8 苦労するがどうにか倒す
9 敵幹部が歯ぎしりして「次こそ倒してやる」と言う
…まあ、こんな感じだ。
ごく稀に怪人を取り逃がして後の回で出てきたり、共闘したりすることもある。
だが、調べてみると2回出てきた怪人が3種、3回目に倒された怪人が1種だけ。
そして、共闘した怪人となると1種しかいない。
実はその数少ない「一度は撃退されたが逃げ延び、別の怪人と共闘」した怪人がこの回に登場するのである。
その話は後にして、ではいよいよこの回の誌上再現を試みよう。
第43話「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」
1 悪の組織ヴィランの幹部に「今度こそジャスティスマンを倒せ」と言う命令が下る
2 新しい怪人を開発する、或いは腕利きが登場する
この時点での幹部は三人いる。何故かメガネの「ヴェーン」と、ムキムキでバカな「ジョアック」、紅一点の「クィッス」である。
この回は「クィッス」が怪物担当。紅一点とは言ってもパンダみたいな悪夢的クマドリメイクのおばちゃんである。
ちなみにこの「クィッス」がごく稀に(全体で2回)ごく普通の人間の美女に化けて街に出て来る回がある。普段があんなにおばちゃん臭いのに、隣の花屋のお姉さんみたいなキャラデザインで、「正義戦士ジャスティスマン」で数少ないファン同士の盛り上がりポイントでもある。
もしもコメント投稿が可能な動画サイトだったら「あらかわいい」「抱ける」「ふぅ…」「結婚してください」系コメントが殺到するのは確実だ。
クィッス「わたくしめにお~まかせください!ジャスティスマンといっても男!男には弱点があるのです!…ポリモルフ!」
すらりとしたイケメンがアメカジで決めて(時代だねえ)出て来る。
ポリモルフ「お呼びですか、クィッスさま…」
クィッス「お前を呼んだのは他でもない、あのにっくきジャスティスマンを、お前の得意技でメロメロにしてもらうためさ!」
にやりとするポリモルフ。
ポリモルフ「お任せください」
うやうやしく礼をするポリモルフ。
ザ・ヴィラン『よし、今回はお前たちに任せたぞ』
クィッス「見ているがいいジャスティスマン!二度と立ち直れなくしてあげるわ!オーホッホ!」
ちなみにこの「ポリモルフ」は見た目がほぼ人間と変わりがない「人間型」とでもいうべき怪人だ。研究者もいないので分類名がある訳ではないが、「改造人間型」「完全に怪物型」など。だが、特殊メイクも何もしていないごく普通の人間タイプとなるとこの他には2種しか登場していない。
3 その回の怪人が一般人に襲い掛かり、多くの犠牲者を出す
ここがある種の見せ場ということになる。
ちなみに本来なら特撮物である「ジャスティスマン」だけに、展開はとても特撮的だ。また80年代的でもある。
ここの犠牲の出し方がかなりえげつない。
現在の「特撮物」は一般人の犠牲者はほぼ出さない。「きゃー」と悲鳴をあげて追い回されるくらいだ。「殺される」ことなどあり得ないと言える。
その為、「お互いの組織同士」で戦っているだけとなり、何ともクローズド(閉鎖的)な雰囲気を醸し出す。
閑話休題。
別の回の具体例を挙げると、まともに浴びるとドロドロに溶けてしまう溶解液を操る怪人メルト(第12話)の威力を誇示するために、ごく普通のOLさんがドロドロに溶かされてしまう。
モロな人体変形カットが延々映ったりはしないが、床に広がる肌色の液体と制服の残骸はトラウマものである。ちなみにこの後メルトは、サラリーマンと親子連れも毒牙に掛ける。
巨大な注射針みたいな腕をした毒注入怪人ポズ(第5話)なども、通行人や哀れな巡回警察官などの腹を刺し、全身が青い斑点みたいなのだらけになって苦しんで死ぬ。
非道いのはクイズに答えないと爆死してしまう爆破怪人バースト(第20話)。
とてもじゃないけど分からん意地悪クイズみたいなので、なんと職員のお姉さんが爆死する。
こんな調子で大変な数の犠牲者が出ている。
大抵のアニメにいる「熱心なファン」によるカウントなどが為されていないので画面に映った犠牲者の数だけでも分からないかと奮闘したのだが諦めた。
というのは劇中のニュースで「犠牲者は20人を超え、尚増加中」などと言っているのである。
46話殆ど全てで死者が出ているので仮に1話5人程度と控え目に数えても200人以上は被害に遭っている訳だ。
とはいえ、当時の特撮物においては珍しくない。
死ななくても深刻な被害もあって、怪物怪人ボルヘス(第30話)などは、町の人を次々に怪人に変えてしまう。それも戦力にもならない「単なる異形の姿」にだ。
最終的に倒されはするんだが、それによって変形させられた無辜の一般市民が元に戻れた描写が無い。
もっとひどいのが天然怪人ラリパッパ(第18話)で、ありていに言うと「キチ〇イ」になってしまうのだ。
実はここでセリフでモロに「キ〇ガイ」を言ってしまっていて、一時期はこの為に封印扱いされていると噂されていた。
そうそう、趣味怪人ファイペロ(第22話)というのもいた。こいつは人を子供にしてしまう能力がある。珍しく「倒すと元に戻る」描写が明確にある敵だった。ただ、戻ったのは主人公たちの関係者だけに見えるというオマケ付きだが。
全てがこの調子なのだ。ある意味において腹立たしいのは倒した後「これで平和が戻って良かった良かった」的な締めをするんだけど、その回で犠牲になった一般人へのフォローも何も無しなのである。いかにも80年代的な能天気さだ。
全員死んでいるんならともかく、えらいことになった状態で生き残った人が大勢いる回なんかもあるんだが…。
さて、今回の「倒錯怪人ポリモルフ」はどんな能力を持っているのだろうか?
結論から言うと「性別を逆転する能力」を持っているのである。
はっきり言えば「男を女に性転換する能力」を持っているのである。
まず、酔っ払いのサラリーマンが犠牲になる(ちなみに酔っ払いの帰宅途中サラリーマンの犠牲者はなんと46話中10回もある!)。
赤ら顔に乱れたスーツ、頭にネクタイを巻きつけて、寿司折りをぶら下げているというコッテコテの酔っ払いスタイルだが、これも80年代だ(それで全て押し通す気か)。
酔っ払いが暗い夜道をふらふらと歩いている。
酔っ払い「うぃ~飲んだ飲んだぁ」
どん!と何かにぶつかる。
酔っ払い「あぁ?すぃわせん…」
ポリモルフ「いえ…いいんですよ」
酔っ払い「…?ん…何だ?」
胸がムクムクっと膨らみ、お尻がむくっと丸くなり、髪の毛がバサッと伸びる。
酔っ払い「…あぁ!?」
もう顔は綺麗な女性のものになっていて、声も変わっている。
ポリモルフ「とっても綺麗ですよ」
酔っ払い「な…何を…」
と言った次の瞬間には唇を奪われている酔っ払い。会社員スタイルに男装した女性の姿。
酔っ払い「ん!…んっ!!」
次の瞬間、勢いよく服が破られる。
酔っ払い「きゃあああああっ!」
一気に股間を隠す布きれ一枚のほぼ全裸にされてしまう。
手で胸を隠そうとするが片方の乳首は見えてしまう。
次の場面まで一気に紹介しよう。
学ランの男子高校生3人が歩いている。
ポリモルフ「ふ…」
すれ違うと、真ん中の男の子だけセーラー服の女子高生になっている。
元・男子高生2「…ん?な、何だぁ!?」
次の瞬間、風が勢いよく吹いて来てスカートがめくれ上がってしまう。
元・男子高生2「きゃあーっ!」
必死に抑え込むがスカートの内側の白いスリップまで見えてしまう。
男子高生1「お…お前…」
男子高生3「どうしたんだよ」
元・男子高生2「わ、分からねえ…」
ガニ股で自らの身体を見下ろしている元・男子高生2(セーラー服姿)。
男子高生1「お前…こうしてみると可愛いな」
元・男子高生2「え…?」
男子高生3「ちょっと触らせてくれよ…」
元・男子高生2「おいバカよせ!何考えてるんだ!いやあああああ~っ!」
迫られたアップの顔。
ポリモルフ「…お前か。生きていたのか」
テベット「まあな。お前と俺の能力は相性がいい。クィッス様にもお許しをもらった」
ポリモルフ「ほう」
テベット「一緒に組んで暴れまわろうぜ」
ポリモルフ「よかろう」
はい、とりあえずここまで。
…凄いでしょ?これが噂の
第43話「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」
の展開なんですね。
怪人を名乗るイケメン男が、街ゆく人を…っていうかほぼ男ばっかり…を無差別に性転換させちゃあ毒牙に掛ける…はっきり言ってキスをして、それ以上…恐らくはレイプまでしちゃうという奴なのだ。
そりゃ人間をドロドロに溶かしちゃうようなのが毎回出て来る中にあっては「地味」とか「致命的じゃない」って言い方も出来るかもしれないが、ある意味これほど恐ろしい敵はいない。戻れない訳だし。
でもってこの「テベット」、こいつの初登場は4話前のこの回。
第39話「破廉恥!扮装怪人テベット」
それにしてもメインターゲットの子供は「破廉恥」とか読めたのだろうか。
色んな怪人いるなかである意味一番人畜無害な能力持ち。
分かったかもしれないが、一瞬にしてどんな相手でも好きな恰好に着替えさせてしまう能力を持っている。
80年代のアニメにこういう能力を出したらどうなるか?
そう、女装女装女装…。
このテベットの毒牙に掛かった人で純粋に「男装」させられた女性は画面上では2人だけ。後は「男女の格好入れ替わり」の目に遭うのが3組。残りの5例は全部男が女装させられる。
今回もいた酔っ払いのサラリーマンはOLの制服姿にされ…ってOLは会社帰りに制服は着てないと思うんだが…まあいい…学ランの男子高校生たちはみんなセーラー服にされ、結婚式場をテベットが駆け抜ければ、花嫁がタキシード姿になって、花ムコがウェディングドレス姿になって「きゃーっ!」…定番である。
ちなみに「男の娘」とか「これが…オレ?」或いは「これが…ボク?」展開は期待しないように。一部のキャラはかなりオカマっぽく演出されている。
名前から分かる通り、「ハレンチ学園」のブームに乗っかろうとしたらしいのだが、「スカートめくり」が社会問題になっていたので、「なら、男の子にスカート履かせてめくればいい」ってな結論になった…のかどうかは分からない。
分からないのだが、結果としてこの回においては「男のスカートめくられ」画が計6回も画面に映る異常事態となった。
実は全エピソードを通してもスカートが舞い上がる描写はあと2回(第3話、第45話)しかない。大半の描写がこの回に集中している…というより、このアニメにおいてスカートをめくられているのはほぼ男であると言い切っていい形なのである。
とはいえ、この「テベット」は「女装」とはいうが、「セーラー服」が大半だった。
これはしつこくて恐縮だが、80年代という時台背景が大きく作用していると思われる。当時においては「セーラー服」が正に性的アイコンであって、「女装と言えばセーラー服」だったのだ。
これまたアニメの特性としか言い様が無いのだが、仮に男が本当にセーラー服女装をするとしたならば、恐らくは軽く引っ掛けるだけでスカートの下はガラパンか下手すると半ズボンだろう。この「正義戦士ジャスティスマン」が実写だったならば間違いなくそうだったに違いない。
ところが、これはアニメなのである。それも80年代の。
結果、めくられたセーラースカートの内側には白いスリップが描きこまれ、あまつさえパンティが一瞬映り込むのである。
これはフェチどうこうというより…80年代後半のOAVではなくて、80年代初頭のゴールデンタイムテレビアニメなんだから…単に当時の「作画のお約束」に従っただけなのだろう。
だが、結果として犠牲者は「下着まで含めた完全女装」をさせられたことになる。
ちょっとシャレにならない生々しさだ。
…もっとも、そんな感想を持った視聴者はほぼおらず、現在までこの回がそう言う意味で話題になったという記録は無い。というかこのアニメ自体が存在は語られてもこまごまとした個々のエピソードのディティールが話題に上ることなどまあ、ない。
ポイント(?)はこの「強制女装」は主人公である堂々正義も犠牲になるということである。
直に「ジャスティスマン」に変身するので「女装状態」からは開放される。だが、テベットを倒した後、変身が解けたらセーラー服のままで「うわ~い!」状態になって、ヒロインである姫野恭子に追い回されて終わったりはするんだが。
この「破廉恥怪人テベット」は女装のバリエーションがほぼセーラー服に偏っている。また、確かにスリップとパンティは自明なんだが、ブラジャーまでしているかどうかは画面から断定できる証拠がない。まあ、していないと考える方が不自然なので恐らくしてはいるのだろうが。
…テベットが全体でも数少ない「倒さずに解放」で済まされたのは「単に服を着替えさせられるだけ」という犠牲の少なさからでもあっただろう。
だがここに、「相手を性転換出来る」という倒錯怪人ポリモルフという「最凶の」相棒が加わってしまった。
…後はどうなるか分かるな?
・とある学校に侵入するポリモルフ&テベット
ある教室に入り込むと学ランの男の子をセーラー服の女の子に、セーラー服の女の子を次々に学ランの男の子に変えて行く
阿鼻叫喚に包まれる教室を悠々と去る2人
・普通に歩いている青年をいきなり性転換させ、髪の長い美女にする
次の瞬間には、深窓の令嬢みたいな白いワンピース姿にされる
驚いて目を剥いている美女を抱きしめるポリモルフ(イケメン)
嫌がって身を捩る美女の唇を無理やり奪うポリモルフ(イケメン)
「よせ!やめろぉ!」とあくまで男性口調で抵抗していたが、徐々に「いやっ!やめてぇっ!」と女性的な口調に
ビリビリと全身の服を破られる。絹を裂く様な悲鳴。
露出するブラジャーとスリップ。
それすら破り取られてほぼ全裸に。
悲鳴と共にこの場面終わり
・一家団欒に突如踏み込む二人
「な、何だキミたちは!」
ニヤニヤするポリモルフの顔
次の瞬間には、5人のバレリーナが食卓の脇で可憐に回転している
「あ、あなたぁ…」「お前…」「お父さん!」「ぼ、ボク…身体が女の人に…」
ポリモルフ「それじゃ…一人ずつ順番に…」
元・父親であったバレリーナの腰を両手でつかんで持ち上げる。
元・父親「ああっ!」
こんな調子である。
実は書き起こしていて気付いたのだが、怪人たちは人を溶かしたり惨殺したり、果ては食ってしまったり(流石に明確には分からないが)と恐ろしいことを繰り返すのだが、実は「レイプ」は余りやっていないのだ。
とりあえず恐らくは男の子たちに観てもらうことが先決のヒーローアニメにおいて、「レイプ犯」は敵役としては「重すぎる」のだろう。
そもそもメインターゲットの「男の子」たちは「エロいもの」の存在は知っていても、「セックス」が何なのか知らない様な年代だ。
だが、この「ポリモルフ」回においてはどう考えても「この後美味しくいただきました」としか思えない描写だらけなのである。
深窓の令嬢にされた青年なんて本当に酷い。彼はただ歩いていただけである。
服を破り取られて膝下まである純白のスリップ姿にされる人物は…筆者の個人的な映像経験では…刑事ドラマで1回、昼ドラで1回観たことがあるだけだ。当然、さっきまで男だった人物ということになると彼だけである。
バレリーナ一家に至ってはもっと悲惨で、家族の前で父親がバレリーナにされて犯されるのを見せつけられるのだ。最も、恐らくは小学生程度であろう男の子に至るまで二十歳前後のバレリーナにされ、その後は同じ運命を辿ることになるのだが。
この「ポリモルフ」回がいかに狂っているかお分かり頂けただろう。これが夜の7時台にお茶の間を直撃したのだ。
もしかしたら「テベット」だけだったらシャレで済んだかもしれない。事実「テペット回」は女装させられた後のわざとらしいオカマ演技があるが、「ポリモルフ」回にはほぼ無い。
筆者はこの「ジャスティスマン」がアニメで良かったとつくづく思う。これが実写だったら完全にポルノである。
まあ、「元・男のブラジャーとスリップ姿」「元・男の乳房と乳首」が乱舞するこのアニメがポルノでないと言えるかどうかは分からないが。
4 堂々正義たちの組織がそれをキャッチする
どう考えても数十人が犠牲になったところで漸く主人公たちは街を襲う異変に気が付いた。
恐らくは一つの高校の生徒の男女の性別が制服…下着まで…含めてごっそり反転し、多くの家庭が崩壊し、そして多くの男性が処女を奪われた後にだ。
まあ、これまでも惨殺されたりドロドロに溶かされたり、異形の怪物にされたりと散々な目に遭ってきた住人達だから、男が女にされて女装させられたりする程度は何ということはないのかも知れない。
ただ、直後に二枚目の男に無理やり犯される…ということになれば穏やかではあるまい。
細かいことではあるが、この手の「相手の性別を反転できる」ギミックが登場すると決まって「男が女に」される。「女が男に」される場面も描かれることはあるが、大抵はオマケ扱いだ。
倒錯怪人ポリモルフの能力は「性別を逆転」させることなのだから、男ばかり女にするのはおかしい…と従来のアニメなら言えるかもしれない。
だが、ポリモルフに限っては違う。
彼は男である。少なくとも人間の男性である形状をしている。ぶっちゃけポリモルフが異星人なのか、怪人なのか、それとも特殊能力を持つ地球人なのかの言及はない。だが、「人間の男」と同じ機能と価値観、そして欲求を持っていることは間違いないだろう。
その「男」であるポリモルフの目的は「男を女にして、その女とセックスすること」である。
だからポリモルフが男ばかりを手に掛けるのは一応首尾一貫している。
もっとも、そうなると「生まれつきの女」を狙えばいいのに何故そうしないのか?
これまた明確な描写が無いのだが、恐らく彼は「男を女にして襲う」ことが好きなサディストなのだろう。単なる女では駄目なのだ。
元・男が女の肉体と表情で嫌がって身をよじり、涙を流して抵抗するのを見て興奮する性質なのだろう。そうとしか思えない。
来ている服を一瞬にして着替えさせるテベットというこの上ない相棒を得たのは単なる偶然に過ぎないが、お蔭で画面の馬鹿馬鹿しさを多少は減らすことが出来た。比較問題だが。
このアニメは話数的にはもう終盤なのだが、ここで通算で5回目の出番が与えられたキャラがいる。
パトロールの兵頭和夫である。ちなみに「和夫」という名前は本編には出てこず、学年誌の紹介ページにのみ記載されている。
ノリみたいにぶっとい眉毛が七十年代アニメみたいなごついおっさんである兵頭は、これまでもそれほど役に立っているとは思えないパトロールをしていて、いち早く異常事態を察知し、マイクみたいな通信機で連絡を送る。
兵頭「本部聞こえますか!本部聞こえますか!」
本部『こちら本部。どうしたか』
兵頭「何か大変なことが起こっているみたいです。町は大混乱です」
本部『具体的にどういう…』
ここで兵頭が手を引かれて車の外に引きずり出される。
ポリモルフ「これはこれは」
兵頭「き、きさま!ヴィランの怪人か!」
ポリモルフ「ああ。とりあえず女になるといい」
兵頭「な、何ぃ!?」
一瞬にして女になり、体型がくっきりと浮き出て背中がぱっくり空き、キャミソールみたいな露出度の高いドレスを着せられる兵頭。
兵頭「うわあああっ!」
テペット「ひぇひぇひぇ…」
ウェストを抱きしめられ、お尻を撫でまわされ、唇を奪われる兵頭(美女)。
兵頭「いやっ!いやあああああっ!」
本部『もしもし!もしもーし!』
ここでこの場面終わり。
ちなみにこの兵頭は元々出番が少なかったんだけど、この後最終回にも出てこないのでこのまま女にされていずこかに去ってしまったんではないかと勘ぐってしまう。
とにかく、子供向け番組とは思えない衣装チョイス。きっとスタッフにキャバクラ通いしてたのとかいたんじゃないかな。子供には「スカートだな」くらいは分かっても「夜の水商売」の意味合いまで理解させられたかどうか。
ちなみにこのアニメにおいては、「女に性転換」させられたキャラには軒並み女性の声優さんが声を当てられている。これは画期的…ではあるが、どの程度意図的に演出されたものなのかは何とも言えない。動物にされる回においても声優さんは変えられていたから、そういう方針だったのかもしれない。
ここでやっとジャスティスマンこと堂々正義が到着である。
5 怪物との戦いになるが、一度は退散する
これもありがち展開だが、一度は適わずに退散する。
これによって一本調子ではなくて若干のメリハリが付くことには一応なる。
ちなみに「テペット戦」においては、特に何の変哲もない「ただのスカート」としか呼びようのない恰好にされて退散した。それこそ「ドラえもん」でしずちゃんが着てるみたいな無個性な「女の子の服」である。
細かいことを言っても仕方がないが、ジャスティスマンの撤退の基準は毎回バラバラで、この第一戦闘で下手すりゃ瀕死になることもあれば、この回の様に女装させられただけで撤退したりする。
ジャスティスマンは単独ヒーローで、戦隊ものの様に団体ではない。
個性を味方に割り振ることが出来ないので「科学正義隊」の隊員に割り振ることになる。
まあ、どう考えても普通に学校に通っている男子中学生に「地球の平和」(?)を守る変身ヒーローの役割を押し付けるのは無理がある。せめて専業でしょ。
冗談はともかく、この時はヒロインである姫野恭子も一緒に出動していた。
これまた良く指摘されるが、二人とも中学生なのに普通に車を運転して来ている。時代だ。
恭子は不謹慎にもポリモルフを遠くから見て「あら格好いい」などと言ったりする。
姫野恭子と堂々正義は最終回まで付かず離れずの関係を続けることになる。何とも健全なアニメだ。…話を戻そう。
見た目が普通の人間にしか見えないポリモルフとテベットを前に訝しむ正義。
正義、車から降りて近寄る。
正義「お前がヴィランの怪人だな?」
ポリモルフ「…さあ」
ポリモルフ、キザなポーズを取る。
正義「うるさい!街の人たちに何をしたぁ!」
ポリモルフの胸倉を掴む正義。
(*二人の身長はかなり違う筈なので作画ミスか)
ポリモルフ「ふ…レディに乱暴な言葉遣いは似合わない…テペット、やれ」
テペット「がってんだ!」
正義がテペットの存在に気付く。
正義「お、お前は!」
テペット「そーれっ!」
正義「うわわわわあああっ!」
カメラが引いてみると、そこには膝下まである長いスカートのセーラー服少女(正義)。
白い三本ラインに赤いスカーフ、長い髪。
(*脚本には「黒いセーラー服」と書かれているが、作画の都合上黒と青の中間くらいの色合い)
正義「な、なんだぁああっ!?」
目の前に細い指を掲げて呆然と見ている横顔のカット。長いまつ毛。
(*テペット回は単なる女装だったので髪型も変わらなかった)
ポリモルフ「ふ…どうかな?女になった気分は?」
正義「て、てめえっ!」
(*ちゃんと女性声優さんが変身後の声を担当。この回のみのゲストに兼ね役を依頼)
恭子「せ、せいぎーっ!」
テペット「ほれっ!」
勢いよくめくれ上がる正義のセーラースカート。
形のいい脚の肌色が全てむき出しになり、パンティのフォルムまで見える。
スカートの内側の白いスリップまで見える。
正義「きゃあああああーっ!」
女の子みたいな悲鳴を上げてスカートを押さえつける正義。長い髪が舞う。
恭子「そんな…正義が女の子にされちゃった!」
ポリモルフ「くらえっ!ジャスティスマン!」
勢いよくセーラー服が破り取られる。ビリビリビリっ!と言う音。
正義「きゃああああーっ!」
セーラー服が切れ端と化し、プラひも、ブラジャー、スリップのみの姿となる。
ポリモルフ「そして…こうだっ!」
ビリビリビリっ!と言う音と共にスリップも切れ端となり、ブラジャーも引きちぎられる。
片方は手で隠せたが片方の乳房が露出し、パンティほぼ全裸美女にされる堂々正義。
正義「やめろおおおーっ!」
ポリモルフ「ふあーっはっはっは!これでジャスティスマンも最後だ!」
全裸の正義を脇に抱えて空高く舞い上がり、その場を去って行くポリモルフとテペット。
ポリモルフ「はーっはっはっはっはっはぁ!」
高笑いがこだまし続ける。その場に一人取り残されて茫然と空を見上げる恭子。
CM
…いかがだっただろうか。
これが大問題の回「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」のAパートである。
これまでもジャスティスマンがピンチになったことはあった。瀕死の大怪我を追ったこともあれば、拉致されたことも1回ある(27話)。
恭子に至っては3回も拉致されている。
ところが今回は主人公であるはずの堂々正義が拉致されてしまった。
それも、一瞬にして女へと性転換され、セーラー服を着せられ、スカートをめくられ、服を破り取られてほぼ全裸にされ、そしてさらわれたのである。
恐らく子供向けと言うカテゴリならばどのアニメのヒロインでもここまでヒドい目に遭わされることなどありえまい。
と言うか、ヒロインだからこそありえまい。
それを…その名前からお分かりの通り、コテコテの品行方正にして熱い熱血漢、まっすぐに正義を信じ、卑怯な勝ち方どころか戦い方もしない「ザ・主人公」である堂々正義が食らったのである。
Aパートラスト間際のこのカットを見て欲しい。
小脇に抱えられた全裸美女の丸い尻(女体化したむき出しのお尻しか映っていない)に脚線美!ちょっともうギリギリ…というかほぼアウトの構図だ。
6 何らかの「解決策」を思いつく(相手はタコだからイカが苦手に違いない!とかそのレベル)
本部に帰って顛末を説明する恭子。
リアルな(?)アニメなら泣きながら…とかなんだろうが、何故か淡々と。
ここで「相手が男を女にする能力を持つなら、女である恭子が戦いを挑んで倒せばいいんじゃないか?」という結論に。
なんかもう色々と投げやりになりそうな結論だけどまあ仕方がない。
ちなみにこの回以外だと恭子が役に立ったのは後ろでビーム砲で援護している回くらいで、メインで立ちまわったのはほぼこの回のみ。
さて、ここで場面が飛び、ちょっと驚天動地のカットが来る。
正義(女性姿)「…」
湯船に浸かっている正義。頭はタオルでまとめられている。
なんと、正義の入浴シーンですよ。当然女体での。
80年代は裸に関するテレビの論理基準が全く違うみたいで、横から見たそのおっぱいの形がハッキリ分かる…というか普通に乳首映ってます。
そして次のカットでは立ちあがって出て行く全裸の正義を背後から捉える。お尻の丸い形とかくびれたウェストとかモロ見え。
ヴィランにもお風呂の文化があるのかとか、まんまどこぞの温泉みたいだとか色々突っ込みどころはあるが、長い髪をタオルでまとめている小技にも注目したい。この生活感!
後の「らんま1/2」は「お湯をかぶると元に戻る」設定であるため、必然的に主人公が女体状態で入浴するシーンが頻発し、あまつさえ普通に乳首も映っていた。
それに先駆けること10年以上前のアニメである。
これまた推測なのだが、スタッフにはそういう方向での他意は無いだろう。要するに“普通の女性キャラの入浴シーン”として演出しただけだ。
確かにそれはそうなんだが、思春期以前の男の子がこれを見て性的アイデンティティが大混乱するとは思わなかったのだろうか。
まるで「クビすげ替えヌード」である。顔はほぼ正義のままなのに見事なプロポーションなのだから。
第一、同年代の中学生女子と解釈しても発育が良すぎだ。
そう、この「女正義」の年齢設定はどう見ても女子高生~女子大生くらいなのである。
ところが、その後、まだまだ視聴者に追い打ちを掛ける展開が待っている。
突如画面が暗転し、あのこってこての「結婚行進曲」が流れてくる。
スポットライトが当たり、タキシードで決めたポリモルフと…そう、純白のウェディングドレスに身を包んだ堂々正義が花嫁として入場してくるのだ!
今は胸のあたりまでしかないシンプルなドレスが主流らしいのだが、まだバブル以前であるこの頃はまるでモビルスーツみたいに大きな肩の「マトンスリーブ」と呼ばれる形状のウェディングドレスである。
正直「まさか!?」という思いでクラクラしてきた。
だが、メイクもバッチリ決まって俯き気味のその顔にはほんのり赤みがさして…はいない。この時代のセル画がそこまで表現できる訳もない。ただ、その「挙動」はまんま女性のものだ。
…普通はここに恭子たち「科学警備隊」たちが乱入して来て正義を助け出す…展開になるだろう。
ドン!と扉が開かれた…が入って来たのはテペット。
テペット「科学警備隊の連中がオレたちを探してるらしいぜ!」
ざわつく場内(ヴィランの戦闘員や怪人がびっしり)。
ポリモルフ「まかせた!」
一斉に動き出す場内。
画面奥でキスをする新郎新婦。
ここのシークエンスにおけるラストカット。
コマ送りの上、拡大しないと分からないくらいの画面の奥で間違いなく「誓いのキス」をしている。
ここから1分ほど、暢気にも近所に聞き込みをしたりする恭子を始めとした科学警備隊のカットが続く。
これだけの大参事を毎度毎度起こしてくれているんだから苦情の一つも言っていいと思うんだけどそういう形跡もない。この辺が時代だよなあ。
そして…まだ終わらないのだショックシーンが!
7 改めてその回の怪人に挑む
通信機らしきものが鳴る。
ポリモルフ「どうした?」
テペット(?)『(OFF)連中、来やがったぜ』
ポリモルフ「分かった」
ポリモルフ、通信機を切る。
ポリモルフ「支度しな」
?「…」
ここですぐに次のシーンに切り替わってしまうのだが、1カットだけ部屋の中が映る。
明らかにベッドと薄暗い部屋だ。
そして、少なくとも上半身は裸のポリモルフが、薄い布団をどけてベッドから起き上がる。
問題はこの奥の方に寝ている人物だ。
恐らく黒髪なのであろう黒い塊らしきものは確認出来るが、それ以上は判断が付かない。
だが、先ほどの結婚披露宴と恐らくは為されたであろう宣言、そして誓いのキス…つまりこの場面は「初夜」としか解釈の仕様がない。
つまり、ここで映っている人影は、「初夜の後」…新妻…の正義に違いない。
ある意味においてこれは強姦よりも恐ろしい。肉体的のみならず、精神的にも男女関係に無理やり持って行かれたということなのだから。
あくまで推測である。
ただ、夜7時台の男の子向けアニメの少年主人公が受容する運命としては過酷なのは間違いないだろう。
この次のシーンから、正義は長い髪と発育のいい女体を、元の野暮ったい変身前の男物に押し包んで人質状態で縛られた状態で科学警備隊の前に登場する。
それこそ何らかの女装させられた状態でも良かったと思うんだが、主人公の私服ってのは「記号」だ。この時代のアニメらしく、各キャラ「普段の服」は1種類しか用意されていない。
8 苦労するがどうにか倒す
この後ポリモルフは科学警備隊と戦いながら口論する(?)みたいなことになり、その流れで正義は元の身体に戻ることが出来る。
このアニメに於いて敵の能力は基本的に解除することは出来ない。唯一趣味怪人ファイペロによる年齢退行で戻った例があるくらい。
この回にも登場しているテペットもきっと戻らないだろう。戻らないったって着ていた服が男物は女物になり、女物は男物になるくらいだ。
まあ、結婚披露宴を襲われてウェディングドレスをタキシードにされたあのカップルはレンタルドレスの弁償費用として数十万円を負担させられたかも知れないが、人間自身がドロドロに溶かされてしまったり動物にされたりするのに比べれば被害は軽い。
恐らくポリモルフは「能力を解除」したのではなく、「女である正義を男にした」ということなのだろう。逆の属性に行き来させられる能力を持っていたのは全編通してこのポリモルフのみである。
晴れて男の身体に戻った正義は、満を持して「ジャスティスマン」に変身する。
ジャスティスマンにもピンチは数多く訪れ、「変身を妨害される」と判定できる回は5回あるが、いずれもその障害を乗り越えて変身を達成した際には微妙OPが勇壮にアレンジされて掛かり、かなりの盛り上がりを見せる。
別に女のままでも変身は出来るんじゃないかと言う気がするが、恐らくそのままポリモルフを倒してしまうと身体が戻れないということなのだろう。
最後には遂に決め技が決まり、ポリモルフはテペットと共に爆死する。
9 敵幹部が歯ぎしりして「次こそ倒してやる」と言う
ここから先には特筆すべきことはない。
ケバイメイク(?)でお馴染みクィッスさんが「おのれジャスティスマンめ~!」と言って終わるのみ。
定番の「終わった後のちょっとおふざけ」も無くいきなり本編がぶっつり終わる。
余韻も何もないが、要は本編中に詰め込み過ぎたのだろう。この様に戦闘終了からいきなり終わる回は全部で6回確認されており、特に珍しいことではない。
…ということで誌上再現を試みたのだが如何だっただろうか。
念のため、主人公がこの回でされたことを推測込みで列挙してみる
・女に性転換される
・セーラー服を着せられる
・スカートをめくられる
・全裸にされる
・女の身体のまま入浴させられる
・純白のウェディングドレスを着せられる
・花嫁として敵の二枚目と教会で結婚式を挙げさせられる
・誓いのキスをされる
・初夜(?)がてら同衾させられる
…幾つか推測も混ざってはいるが、ほぼ間違いない。
言うまでもないが、基本的には一話完結で、前後のエピソードのつながりは希薄だ。第一話や最終回、また中ボス撃退回などの節目の回は確かに順番に観なくてはならないが、それ以外の回は別にどういう順番で見ても構わない。
当然ながら、「ポリモルフ」のことに関して別の回、その後に言及されることは一度もない。
普通の男の子なら、“ここまで”やられてしまっては人格に多少の揺らぎが生じたり何らかのトラウマになってしまったりしてしまいそうだが、まるで健忘症に掛かったかの様に何一つ覚えていないのである。
実は、筆者は子供の頃に観たこのエピソードが忘れられず、LDを観返して確かに存在していることを再確認したのだが、同エピソードどころかこのアニメに言及される機会すらほぼ無い現状に愕然とした。
インターネットが登場した現在においても情報が極めて限られているのは紹介した通りだ。
どうにか当時のスタッフにお話を聞いたりしたいと調査を進めてみた。
古いアニメということもあってほぼ全員が引退なさっていた。明確な引退が確認出来なくても連絡を取ることが出来る人は極めて限られていた。
脚本家さんがこのエピソードのみのピンチヒッターであったことまでは突きとめた。
業界でも荒くれ者で知られる人だったらしく、人手不足で仕方なく…ということであったらしい。
「テペット」とは脚本家が異なっており、この他に「ジャスティスマン」で執筆した形跡はない。本来は放送作家であったらしく、仕事そのものは多いが「脚本」として現在確認出来るものは殆ど無い。
また、特にこういった女装や性転換が絡むエピソードを得意としていると言う訳でもないらしい。
たった一人だけ、当時現場で制作進行をしていた人に話を聞く機会に恵まれた。
だが、古い話ということもあり「覚えていない」の一辺倒だった。
実は先ほど「同人誌」に関しては収穫が無いと答えたが、あれはウソである。ごく僅かではあったが絶大なる情報を得ることが出来ているのでご紹介する。
一人目は「東北B子さん(仮名)」。
80年代に勃興していた同人市場において非常に珍しい「ジャスティスマン」のやおい同人誌を手掛けられた。当時の同人誌は連絡用に住所が最後まで書かれていることが珍しくなく、奇跡的に連絡を取ることが出来た。
既に結婚して2人の子供もいる。
配偶者も出世して今ではのんびり専業主婦暮らしだそうだ。
匿名と居住地も秘匿すると言う条件でインタビューを受けてくれた。自宅は見せられないとのことで近所の喫茶店にて。
約束の時間の15分前に現れた女性はふくよかで柔和な女性だった。
‐「正義戦士ジャスティスマン」のやおい同人誌のことについてお伺いしたいのですが
「うっわー懐かしいですね…これ、あたしも現物持ってないんですよ」
‐私も一冊だけです。ところで早速本題なんですが、どうして「ジャスティスマン」を題材に選ばれたんですか?
「別に深い意味はないです。やおいって“行間を読む”んで、火の無いところに煙を立ててカップリングにして楽しむものなんで」
‐別に「ジャスティスマン」だけではないと
「はい。友達と二人でやってたサークルですけど、基本的には別のアニメの活動がメインでジャスティスマン本を作ったのってこの一冊だけなんです」
‐では、その中で題材として選ばれたのは?
「ちょっと読ませてもらっていいですか?(しばらく読む)…そうそう、この回です。主人公の正義くん…ちょっとあんまりな名前ですよね…が女の子にされちゃって、しかも結婚させられる回を覚えてたんで、これは使えるかなと」
‐あの回を観てどう思いました?
「本放送では観てないんですよ。夕方だったかな?の再放送でたまたま観て『うっそーっ!』って」
‐衝撃だったと
「多分あたし小学生だったと思うんですよ、いや中学生かな?とにかくビックリして」
‐それで取り上げる気になったんですね
「いえ、同人活動をするようになったのは大学生の時ですからすぐにって訳じゃありません。でも、何となく記憶に引っ掛かってたんですよ」
‐同人誌を執筆するにあたって改めて観返したんですか?
「…その…申し訳ないんですけど、あたしって「ジャスティスマン」の熱心なファンって訳じゃないんです。ちゃんと観たエピソードなんて10回分も無いくらいで…最終回でどうなったかなんて未だに知らないくらいで」
‐90年代に入るともう再放送もありませんから無理もないです
「で、ちょっと同人活動もマンネリになってきてたんで何か目新しいことをしようかと思って、ヒーロー凌辱特集を始めたんです」
‐…それは…。
「まあ、子供には聞かせられない話ですけど、変身ヒーローになる男の子たちが怪人とかにやられちゃう…という」
‐やおいですもんね
「あたしはそういうテーマの方が好きなんです。隊員同士で仲良く…とかよりも敵なんだからってことで」
‐それで「ジャスティスマン」を思い出したと
「はい。やおいだと別に被害者を女にする必要とかないんですけど、丁度いいやって」
‐資料とか大変だったんじゃないですか?
「そうそう思い出しました。雑誌の“懐かしのアニメ特集”か何かで主人公の変身前と変身後の絵が掲載されてたんで、それで“あ、これなら描ける”って思い出して、それでピースがハマったんです」
‐それ以外の資料は当たらなかったんですか?
「まだインターネットも無いころだったし…結構人気あったアニメなのに関連書籍もぜんっぜん発売されてなかったんで…別に商業誌に載る公式マンガって訳でもないしいいかなって」
‐ということはこのポリモルフとか、姫野恭子とか隊長とかは…
「完全にうろ覚えです(きっぱり)。敵の怪人なんてイケメンだったことは覚えてたけどそれ以外全然覚えて無かったんですよ。名前も」
‐確かに敵怪人の名前に言及しませんもんね
「先日送ってもらった回を観て色々思い出しましたもん。制服とか似ても似つかないし、あっちゃーっていうか…申し訳ないです」
‐同人誌に於いてはかなり濃厚なベッドシーンが描かれていますけど本編中には断定できるだけの描写は無いんですよ
「でもやってますよね普通に(あっさり)。あたしが観たときは全裸で絡み合うシーンがあったみたいな思い出があるんですけど…改めて観返したら全然ないんで驚きました」
‐別作品とごっちゃになってるんですかね
「多分そうだと思います」
‐売り上げはいかがでした?
「50冊作って当日に30冊は売れたんでボチボチです。その後別のイベントにも持ってって完売しました」
‐買いに来たのって当時のファンなんでしょうか
「いやぁどうかなあ…あたしたちはモロにやおい島のど真ん中にいたから、純粋なファンブック買う積りで来る人はほぼいなかっただろうし…」
‐買って行ったのは女性が多かったと
「ていうかウチに来るお客さんのほぼ100%女性です。男性のお客さんは数えるほどしかいなかったと思います」
‐そういう人…女性…って元ネタ知ってるんでしょうか
「それは何とも…この同人誌描いたの結構前ですけど、当時でも古臭いというかレトロアニメの部類でしたから…物珍しさかネタで買ってもらえたんじゃないでしょうか」
‐じゃあ、余り元ネタは知らなかったと
「若い子が多かったんで、きっと再放送も観てないと思います。でも名前は聞いたことあるから…新刊って言えばとりあえず買ってくれる有難いお客さんも多いので」
‐この一冊以外にジャスティスマン本って作られたんですか?
「いえ。とにかく詳しくないんであんまり深入りするとちゃんとしたファンに申し訳ないですし」
‐でも、一応ストーリー的には「続く」感じになってますが…
「同人誌ですからね。あと、ダークエンド好きなんであたしの本にはそういうの多いんです」
‐アニメ本編の話に戻ります。このエピソードの放送当時、周囲の反応はどうでした?
「本放送…いや、最初の再放送かな?…の時にお兄ちゃんが観てたのは知ってますけど、余りそういう話はしませんでした。クラスの男の子が変身ポーズやったりもしてましたけど…」
‐この回について際立った反応とかは
「無いと思います。少なくともあたしはクラスの男の子が“スゲエアニメがあったぜ!男が女にされちまうんだ!”みたいなことを言っていたのは聞いたことが無いです」
‐改めて観かえしてみて如何でした?
「想像を超えたところと、思い出補正のところの両方がありましたね。結婚披露宴シーンとかもっと荘厳でしっかりやってた気がしたんですけど、割とあっさりしてるし」
‐30分しかありませんからね
「作画ももっさりしてるし。でも、Aパート最後の全裸に剥かれるところは妙な生々しさがあってうげっ!っとなりますね」
‐過激ですよね。
「ええ。あたしはもっぱら結婚披露宴の場面だけ覚えてたんですけど、あんなに被害者いたってのは知りませんでした」
‐女性としてこういう作品の印象ってどういうものなんですか?
「う~ん…まあ、改めて男の子って得だなあって思います。大げさな話になりますけど、男の子なんてスカート一枚履くだけで笑いが取れちゃうし…あたしも大学の学際で女装コンテストのメイク係をやらされたことありますけど、まあ男の子たちのはしゃぎぶりったらなかったです」
‐なるほど
「あたしがやおい好きの理由もそこにあるんですけど、結局男が男にやられるのって振り幅が大きいじゃないですか。責める性から受け身の性への転落っていうか。そこにゾクゾクする方で、おいしい思いしてやがんなあって(笑)。あくまでも女の目から見てって視点でしか語れないんで申し訳ないんですけど」
‐いえいえです。最後に、現在は「正義戦士ジャスティスマン」はほぼ忘れられたアニメなんですけど、それについてこのエピソードも含めて何か思うことがあれば
「そうですね。改めて観てもビックリするくらい過激で面白かったです。あの回だけかもしれませんが。存在も知らない人が大半だろうけど、ここだけは少なくともオススメです…こんなんでいいんですか?…薄くてすいません」
‐本日はありがとうございました
筆者が知る唯一の「ジャスティスマンやおい本」の作者ご本人に会って話を聞く機会が得られた。
確かに、題材として取り上げている割には細かいディティールの詰めが甘い上にポリモルフが別人にしか見えないほど外観が異なっている。
最初に読んだ時にはオリジナルSSなのかと思った。だが、ストーリー(余りないが)の基本ラインは43話そのままで違和感があったのだが氷解した。
尚、同人誌のストーリーに於いては女にされた正義は救出されないままひっそりと終わってしまう。あの後どうなったのか…だが、なるほど「耽美と頽廃」の雰囲気濃厚だ。
無粋を承知で「この後どうなるのか」を作者本人に直撃してみた。が、「余り考えていない」とのことだった。
東北B子さん(仮名)は今では同人活動はしていないらしい。
未だに最終回の展開も知らないし、折角なら知らないままでいたいとのことだった。
それほど熱心なファンではないことを前提にお聞きした範囲だと、「ジャスティスマン本」が周囲で製作されていたのを見たことはないという。
誰も何の本だか分かってくれないことも覚悟はしていたというが、案外知っている人は多かった…という感触であるという。
二人目なのだが、正直かなりのカルチャーギャップを感じざるを得ない人物だった。
ドウダさん。インターネット上で「TSアニメ」のファンサイトを経営している。
「TS」とは「トランスセクシャル」の略語で、要は「男が女になってしまう」系のフィクションを総称する用語だそうだ。
まずは総評を読んでみよう。
*****
「正義戦士ジャスティスマン」第43話「卑劣!倒錯怪人ポリモルフ」
分類:変身・不随意・他者性転換・可逆(条件付き)・凌辱あり
強制女装:セーラー服、ウェディングドレス
2/5点
とにかく古いアニメ。セリフ回しもわざとらしくて大げさ。
ストーリー展開もご都合主義。
敵の怪人が主人公を始め民間人を女にしまくる。その上服まで変わってしまうんだからムチャクチャ!(引用者注:服を変えるのは別の怪人なのでこれは事実誤認)
変身した後のキャラも可愛くない。ぶっちゃけキモい。
最後は倒してめでたしめでたし。
誰も覚えてないマイナーアニメだし、無理して観る必要なし!
*****
まだ二十代と若く、生まれる遥かに前のアニメだろうからある程度は仕方がないのだが、とにかく事実誤認が多すぎる。
現在こそマイナーだが、かつては日本の1/3世帯のブラウン管を占拠した人気作だ。
流石に一応視聴はしたようだが、何とも薄っぺらい批評と言わざるを得ない。
衣装に「ウェディングドレス」と言及はしているが、評本体で触れている気配もない。
最初から「古いアニメだからつまらない」というバイアスが掛かりまくった印象でしか観ていないと思われる。
ドウダ氏とはメッセンジャーでのやり取りしか出来なかった。以下、会話調に編集したものである。氏はかなりぶっきらぼうな語尾なので会話っぽく見える様に直しが多々入っていることをお断りしておく。
‐ドウダさんは年齢はおいくつくらいですか
「二十代とだけ」
‐「正義戦士ジャスティスマン」を知ったきっかけは?
「覚えてない」
‐TS展開が含まれるから取り上げたんですよね?
「そうっす」
‐お好きな…TSマンガやアニメなどあれば教えてください
「やっぱ「らんま」っすね」
‐古いアニメは余りご覧になりませんか?
「古いのって観るの大変だし、観ても萌えないことばっかりでちょっと苦手っす」
‐今までで一番「外れ」だったのは?
「『バラバンバ』」
‐「正義戦士ジャスティスマン」の「ポリモルフ」の回はいかがでした?
「あんまり覚えてないっす。批評読んでください」
‐どの辺がイマイチでしたか?
「なんつーか…キャラが可愛くないです。あと、主人公が最初にセーラー服にされるのがダサい」
‐ダサいと言っても…当時の女子高生の定番制服ですから
「でも野暮ったいっしょ。スカートめくられるとかおっさん臭くて意味が分からんし」
‐…?スカートめくりがおっさん臭いというのは?
「なんか、ナウなヤングがどうこうとか、ボインにタッチでイヤ~んみたいなセンスっつーか」
‐じゃあ、今風の女子高生の制服にされたりすれば?
「う~ん…無理っす。キャラデがダサいし」
‐あの後全裸にされたり入浴シーンがあったりしますが
「ありましたっけ?」
‐ありましたよ(本当に観たのか?と訊きたくなるのをこらえる)
「覚えてないっす」
‐子供向けアニメなのにスカートの内側にスリップが描かれてたりパンティまで女物といったあの時代ではありえない描写はいかがですか?
「お姉ちゃんいるんで分かるんスけど、今時スリップ履いてる女子高生いないんでおばちゃん臭いっす。パンティって…今はショーツとかでしょ。いちいちセンスが昭和っていうか…」
‐入浴シーンについてはいかがです?
「キモいっすね。変態的なんで見たくないです」
‐…失礼ですけど、TS(性転換)フィクションの愛好家でいらっしゃいますよね?
「そうっスけど」
‐それは趣味の全否定では?
「う~ん…表現が難しいんスけど、俺ら別に“性的”なものが観たい訳じゃないんスよ」
‐???
「なんつーかもっと遠くにあって思うものというか…隣の綺麗なお姉さん的な」
‐良く分からないのですが…
「アニメでセックスとか観たくないんスよ。そこまで行っちゃうとドギツイじゃないすか」
‐ドギツイというのは、乳首とかですか?
「そうそう。何つーかキタナイ感じがするんスよ。汗臭いっつーか」
‐えっと…それは女性の裸がですか?
「そうっす。折角女の子になったんならもっと可愛くしてほしいっス。ボクら可愛いもの好きなんで」
‐劇中でウェディングドレス着せられてますが
「デザインがダサいっす。作画も崩壊してるし」
‐いや、作画崩壊というのはもっともっとひどい…放送ギリギリというかアウトな場合を言うのであって、あれくらいで作画崩壊なんて言ったら当時のアニメ観られませんよ
「もういいっス。観ないんで」
‐それに記述に事実誤認があります。服を着替えさせるのは別の怪人なんで訂正をお願いします
「え?違いますよ。あのイケメンがTSさせて服も変えるんです」
‐いやいや、後でお送りしますから確認してください
「…はあ」(事実誤認箇所は未だに訂正されていない)
‐街ゆく人が次々に大量に性転換され、女装されたりしますがこの点については?批評にも言及がありませんでしたが
「でしたっけ?」(この辺から明らかに面倒臭そうになってレスも遅くなってくる)
‐まとめの質問です。この時代にあの過激な性転換表現を含む作品が放送されていたことについてどう思いますか?
「ああこういうのもあったんだーって感じっス」
とにかく「暖簾に腕押し」で何を言っても余り期待する応えが帰ってこない。
彼らにとってみれば、溢れかえる「TS」作品の洪水で神経がマヒしているところで、野暮ったいマイナーなアニメを観たとしても、特に何とも思わないのだろう。
さて、この記事の最後を飾る最重要人物の登場だ。
彼こそ日本で、いや世界でただ一人「正義戦士ジャスティスマン」の熱烈なファンの生き残りだ。加えて所謂「TS」ジャンルにも造詣が深い。というよりありとあらゆる方向に造詣が深い。
この記事のデータの多くは彼が刊行した同人誌「正義戦士ジャスティスマン 正義の記録」に寄っている。
ソフトカバーで薄い辞書ほどもあるこの同人誌はわずか2,000円で売られていた。同人誌としては高いとも言えるが、熱意と情報量に比せば安いと言える。
ペンネーム「キップ」氏のお宅で話を伺うことになった。
最初から徹夜態勢を想定した座組みで、お互い翌日が休みであることを確認してのセッティングとなった。
以下のインタビューは大幅に抜粋したものであることをお断りしておく。
‐よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。自称・世界唯一の「正義戦士ジャスティスマン」の熱烈ファン、キップと申します」
‐簡単に自己紹介をお願いできますか
「生業は単なる会社員でライターとかではないです。年代で言うとオタク第一世代の最後辺りですかね」
‐昭和40年代生まれですね
「はいそのくらいで。「正義戦士ジャスティスマン」の本放送当時は大学生でした」
‐子供のころからアニメ好きだったんですか?
「というよりテレビ好きでしたね。戦隊もの、ライダー、アニメもドラマもバラエティも歌番組もみんな好きでした」
‐「正義戦士ジャスティスマン」との出会いのきっかけを教えてください
「確か当時所属してた…今風に言えばオタクの…サークルで情報が回って来たんです。今度特撮の企画流れのアニメが始まるぞって」
‐…情報が早いですね
「当時はオタクじゃなくてマニアって呼ばれてましたね。情報は早かったですよ。先輩の先輩がアニメの会社で働いてるなんてのがゴロゴロいましたし」
‐内部情報ですか?
「まあ、可愛いもんですよ。私は会ったことないけど、セルドロ(セルの泥棒)を自慢してる先輩もいたらしいですから」
‐それは…犯罪ですよね?
「完全に犯罪です。一応彼らにも仁義があって、撮影が終わったセルを盗むそうですけど」
‐そういう問題じゃないですよね
「今はデジタル化してセルの実物が無いでしょうけど、当時のマニアにとってはお気に入りのアニメのセル画はコレクションの対象でしたから。お金どうこうより純粋に欲しかったんじゃないかと」
‐それにしても…
「このセルってのがクセモノでしてね。単純にセルったって、背景までついてないと素人には一枚きりあったって価値も分かりませんわな」
‐はあ
「だから大抵は『背景付き』で売り出されるんですけど、ということは背景を付けられなかったそのシーンで使われた他のかなりの枚数がゴミになる訳です」
‐全部一枚ずつ売ればいいのに。結構なお値段でしょ?
「ピンキリですけど、背景付きなら3千円とか5千円とか」
‐それじゃあ…
「原画マンさんが描いた原画ならともかく間を繋いでる動画マンさんの絵なんかは「外れ」も多いですし、実は口だけとか腕だけなんてセルもかなりの枚数になるんです。目だけとか」
‐そっか…透明だから重ねて使うんですね
「そうそう。好きな美少女キャラが背景つきだったら5千円出すかも知れないけど、何処の誰とも分からないキャラの閉じ口だけなんてタダでもいらないでしょ?閉じ口なんてタダの横線ですよ(笑)」
‐話を戻しますが、「正義戦士ジャスティスマン」はいかがでした?
「面白かったですね。普通あの内容だったら特撮だと思うんだけど敢えてアニメにしたってのが異色でいい感じでしたね」
‐でも、現在では忘れられた作品になってますよね
「まあ…そうかもしれません」
‐どうしてだと思います?
「う~ん、逆にお訪ねしたいんですがどういうアニメなら『現役』だと思います?」
‐「現役」ですか…新作が作り続けられているとか
「確かにそうですね。でも膨大なアニメ作品の中で断続的であれ継続的であれ新作がその後に続いた作品なんてごく僅かです」
‐確かに
「名前が残ってるってことになっているアニメでも別にしつこく顧みられる訳でもないし、時を掛けて淘汰された…としか言い様が無いですね」
‐しかし、キップさんはその忘れられたアニメの唯一の熱烈ファンを自称していらっしゃる
「いかにも(笑)」
‐そうさせる原動力を教えてください
「ライバルが少なかったから…と言うのは冗談ですけど、よく出来ているからです本当に」
‐例えば
「敵幹部の名前はご存じですよね?」
‐ええ。メガネの「ヴェーン」、ムキムキでバカな「ジョアック」、紅一点の「クィッス」
「そうそう!」
‐それから不良の「ドッバ」、マッドサイエンティストの「ナズー」。ヴィランの手前で出て来る「キーグ」…で全部だと思います
「凄い!ウチのサークル以外でそらで全員言えた人間に初めて出会いました!」
‐キップさんに褒められて恐縮です
「こいつらの名前に全部由来があるのはご存じですか?」
‐…え?
「ジョン・ヒューズの『ブレックファスト・クラブ』はご覧になってますよね?」
‐ええ。大好きです。
「敵幹部の名前はスクールカースト(学校の階級)からですよ。ヴェーンは「ブレイン(ガリ勉)」から、「ジョアック」は「ジョックス(体育会系)」、「クィッス」は「クイーン(女王様)」と「ゴス(≒ネクラ)」の合成です」
‐…ほ、本当ですか!?
「残りも分かります?」
‐えっと…「ナズー」はもしかして「ナード(≒オタク)」!?
「そう、その通り。ドッバは分かります?」
‐ドッバ…ドッバ…もしかして「バッドボーイ(不良)」ですか?
「ハイ正解。お見事です。「キーグ」は「キング(王様)」です。ラスボス前の最後の強敵ですから」
‐でもそれって同人誌には書いてなかったですよね?
「ええ。あの分厚いの(筆者注:「正義の記録」)出した後、資金が続かなくて同人誌どころじゃなくなったんです」
‐やっぱり売れなかったんですか
「壊滅的にね」
‐でも、HP作るとか
「これでも案外無精な性格で…やり始めるとキリが無いから逆に手を付けてないんです」
‐キップさんが「ジャスティスマン」HPを作ってたらこんなにWeb上で情報が枯渇することも無かったですよ
「でもその需要って無いでしょ。全国で3人くらいじゃない?」
‐そんなことは無いと思いますが…
「海外でもひっそり放送されたらしいですよ」
‐そうなんですか?初耳です。
「私も最近掴んだ情報なんですがね。いやあ、あちらのファンの方が執念深いです」
‐…話を戻しますけど、「ポリモルフ」についてなんですが。
「あああれ。はい」
‐如何でした?
「…(しばらく沈黙)正直言って『衝撃的』でした。こりゃ一体何だ!?って思いましたよ」
‐ですよね?
「もう80年代に入ってはいるんですが、70年代のアニメなんかでも主人公の女装はそれほど珍しいもんじゃありません。「精神入れ替わり」なんかも…これは実写の方が多いみたいですが…いくつかはある」
‐はい
「学校を舞台にしたドタバタギャグってのは登場人物が学生ばかりなんで制服着てますからね。いざ女装となったら簡単だし、きっかけも作りやすい」
‐きっかけですか
「何でもいいんですよ。ヒロインの女の子の身代わりだとか。とりあえず服が全部濡れちゃったから着ろと言われた中にスカートが混ざってたとか」
‐他愛ないですね
「そうそう。ただ、純粋に『男が女になる』ってダイレクトに押してきたのってこれが史上初なんじゃないかなあ…」
‐マンガなんかでは「性転換薬」とか割と登場するイメージですが。
「それってマイナーなオタク向けマンガとかでしょ?80年代に7時代のテレビ番組でやるかと言われると…ねえ」
‐確かに
「いや、堂々正義くんが女の子にされちゃうのはいいとしましょう。セーラー服を着せられるのも…一か月前の39話でされてるからいいことにします。スカートめくられるのも…ギャグの範囲内に収めることにします。しかし、全裸になるまで服を破り取られるってのは…」
‐えらい絵面ですよね
「これはありえないでしょ。キャラデザインがいい加減なのか何か知りませんけど、顔の造形はまんま正義くんで、髪が伸びたりおっぱい出てるだけです」
‐しかも「倒錯怪人」ですからね
「私は大学生でしたけど、「倒錯」なんて表現初めて見ましたもん」
‐子供向けアニメでは観られない表現ですよね
「そうそう、それで思い出したんですけど「趣味怪人ファイペロ」っていたでしょ」
‐ああ、相手を子供にしちゃう
「あれは「ペドファイル(幼児性愛者)」と「ロリータ」の合成語なんですよ」
‐えええええ!?そうなんですか!?
「当時のスタッフは変態先進国アメリカに相当詳しいのがいたんでしょう」
‐「ロリコン」「二次コン(二次元コンプレックス)」という用語ならある程度一般化してましたけど、「ペドファイル(幼児性愛者)」なんて日本に本格的に浸透するのはかなり後ですよね?
「10年以上は後でしょう。あと、相手の服装を変えちゃう「テペット」っていたでしょ」
‐ええ。ここでポリモルフとコンビを組む
「あいつは「トランスベタイト(異性装趣味者)」からです」
‐えええええええ!?そうだったんですか!
「私も数年前に気付いたんですが」
‐ポリモルフはすぐに分かったんですけど、テペットは知らなかった…
「こう言うことがあるから「正義戦士ジャスティスマン」はやめられないんですよ」
‐これ、今すぐにでも拡散しません?今こそカルトアニメになるかもしれませんよ
「どうかなあ。ま、ともかく「ポリモルフ」回です」
‐そうでした
「ジャスティスマンの敵って実はあらゆる「性癖」モチーフの連中が登場する予定だったのはご存じですか?」
‐…知りません
「結局企画の段階で揉まれる内に割と常識的な(?)路線に落ち着くんですけど、幾つかモロに変態っぽいのが残っちゃってるんですね」
‐それの代表格が「ポリモルフ」だと
「間違いないでしょう」
‐それにしても、典型的な少年主人公が性転換・女装・全裸!ですからね
「この一糸まとわない女体に長くて黒い髪のビジュアルが生々しいんですよ」
‐その後の入浴・結婚式・初夜!の畳み掛けるコンボといい…何が起こったんですかね
「それについては関係者に話を聞いてみたことがあるんですよ」
‐(興奮で何を言ってるのか聞き取れなかったし覚えてもいないので採録しない)
「脚本家に関してですけど、数少ない定説で、助っ人だったのは正解です」
‐はい
「この時代のアニメに限らず子供向け番組の常としてエンディングのスタッフクレジットがムチャクチャなんですけど、脚本家と演出家だけは間違いないそうです。撮影カメラマンと原画マンさんたちは特定は難しいですね。実質不可能でしょう」
‐そうですか
「結局、「倒錯」ジャンルでまあ代表的なのが「性倒錯」と「服装倒錯」でしょう。えらい会話してますが」
‐そういう趣旨なので
「どうも演出家さんによると、最初はアメリカのディープな文化に影響を受けた作品なんだから、女装と性転換は一回はやりたいと思ってたらしいんです」
‐アメリカにどんなイメージがあるんですかね
「いや、ことはそう単純じゃないんです。殺人鬼のヘンリー・リー・ルーカスはご存知ですか?」
‐映画にもなってましたね
「ええ。彼は子供の頃母子家庭で母親に女装させられて過ごしました」
‐…それで殺人鬼になったと?
「そこまでは言ってません。ただ、旧約聖書には「男は女の様に装ってはならない。女は男の様に装ってはならない」とハッキリ女装・男装を禁じる記述があるんです」
‐それは知りませんでした
「ですから、男が女装するのは単なる変態…話の流れでそういうことにします…であると同時に『宗教的禁忌を破る』行為でもあった訳です」
‐話が大きくなってきましたね
「不思議なもので、人間は禁じられるとやりたくなる。言霊の国ではないはずのアメリカであっても「みだりに神の名前を口にしてはならない」とされています」
‐どうしてでしょう
「口にして発するのはそれが呪術的行為だからです。日本の古典は主語が省略されていることが多くて非常に読みづらいんですが、あれは「誰が」何をした、という形式で書いてしまうとその「誰」かが呪われる可能性があるからなんです」
‐はあ
「映画で見たことがあるでしょ?『畜生!』とか『クソったれ!』の代わりに『ジーザス・クライスト!(引用者注:「イエス・キリスト」の英語読み)』と叫ぶのを」
‐あっ!…
「あれは自分から宗教的禁忌を破ることで虚勢を張って強がって見せてるんです」
‐…益々神に縛られている様にしか見えませんが
「『ガッデム!』というのもそうですね。「ガッ」の部分が「ゴッド」だから、無理やり訳せば「神のクソ野郎!」って感じでしょうね」
‐なるほど
「要は『禁じられていること』であればあるほど、それを破る快感もあるってことです」
‐ちょっと待ってください。もしかして、だから敢えて主人公を女装させたんですか!?
「恐らくは」
‐…でも、日本においては女装は西洋ほど禁忌ではないですよね
「建国の英雄ヤマトタケルノミコトからして女装して相手を倒したエピソードが普通に流通してますからね。彼はクマソ討伐の直前におばのところによっておばの衣装を借りて行くんですよ」
‐え…
「これから敵を倒しに行く英雄がちょっと親戚のお姉ちゃんのところに行ってセーラー服借りて持ってくみたいな感じです」
‐…そういう風に言われると…
「でも、事実関係を整理するとそうでしょ?」
‐まあ…
「大体「正義戦士ジャスティスマン」自体がアメリカのパロディなんですよ」
‐…え?
「ジャスティスってのは「正義」と訳されてますが実際はそれほど単純な概念じゃありません」
‐キップさん…普通に論文書いてくださいよ
「ジャスティスマンで?御冗談を。ともかく、割とはやく登場するはずだった「女装」…というか「異性装」怪人は遅れに遅れて放送終了間際の39話においてやっと登場しました」
‐…確かに終わりの方ですね
「最初は「ドッサー」とかいう名前だったそうです」
‐ドッサー?
「クロスドレッサー(異性装趣味者)からの引用ですね」
‐…なんつー番組ですか!
「この時期、スケジュールの遅れはシャレにならない事態になっていました。そこで最終決戦間際の43話だけ、ピンチヒッターを起用することになった訳です」
‐はあ。
「調べていらっしゃるでしょうが、この人がかなりの問題児でして、引き受ける代わりに何をやっても拒否するな!とねじ込んだらしいんです」
‐ほかに脚本家いなかったんですか?
「いません。いや、脚本家というだけならいます。しかし、他の作品に掛かっていたり、実力が足らなかったりして、この時点で間に合わせるには彼に頼むしかなった」
‐そんなに切迫してたんですか
「その様です。こういっちゃなんですが、最終回が46話ですからね。その前の穴埋め回の一つってことで与えられた時間は2時間だったとか」
‐…冗談…ですよね?
「いえ、テレビ創世記の脚本家は30分番組の脚本を30分で書く人とか普通にいたそうですよ」
‐いや、そりゃ無理でしょ
「そこだけ聞くと大天才みたいですけど、そうじゃなくてこの手の番組って「パターン」が決まってるでしょ?それに当てはめてるだけ。職人なんですよ」
‐あ、そういうことか
「番組関係者にインタビューしたんですか?」
‐殆どカラ振りでした。一人だけ制作進行経験者に会えたんですけど「覚えてない」ばっかりで
「そりゃ覚えてないでしょ。テレビ放送されるアニメに作品性が求められるのはもう少し時間が掛かります」
‐そんなあ
「とにもかくにも、半分酔っぱらった状態で主人公が性転換・強制女装・スカートめくり・全裸剥かれ・結婚式にセックスまでさせられる狂った脚本が完成してしまいます」
‐誰も止めなかったんですか?
「悪運が味方した…と言いますか、この後この脚本の責任は宙に浮いてしまいます」
‐?というと
「43話の脚本家のクレジットは?」
‐阿南澄史さんだそうですけど
「それ、アメリカ映画界で余りの駄作っぷりに自分の名前を出してほしくない監督が使う偽名「アラン・スミシー」のパロディですよ」
‐ああああああっ!!
「要するに「名無しの権兵衛」の英語版ですな。「ジョン・ドゥ」みたいなもんです」
‐え?それじゃあ…
「当時「アラン・スミシー」のことを知ってる日本人なんて皆無だったんで、無名の新人が書いたってことになってる脚本が演出のところに回って、これまた1週間は掛かるはずの絵コンテが4日でどうにか完成」
‐…あの内容を?
「実はここに脚本と絵コンテがあるんですがね」
‐(また聞き取れない)
「脚本ではかなり素っ気ない書き方なんですが、絵コンテで大幅に追加ですよ」
‐…スカートめくりと全裸剥かれが脚本に無いんですが…
「絵コンテ切った演出の趣味…なんでしょうな」
‐あの…これってヤバい内容ですよね?当時のテレビの倫理コードとかに引っ掛かったりしなかったんですか?
「何とも言えませんが、引っかからなかったんでしょう。当時のドラマでは普通に女湯で乳首見えてますし、深夜の…といっても夜11時くらいですが…番組でも見せてました。当時のアニメで女の子のキャラの乳首が見えている例はかなりあります」
-そこも問題ですけど、性的アイデンティティというか…
「男…というか男の子が女の子にされてしまう…と言う展開ですね?まあ、少なくともアメリカに於いては考えられませんね」
-アメリカですか
「別にアメリカに限らず全世界で駄目です」
-折角なのでお伺いしたいんですけど、どうして日本のアニメはああも暴力的だとかなんとか言われるんでしょうか?
「世界的な基準で言えばアニメーション…昔は「テレビまんが」と言ってました…ってのは子供向けのコンテンツなんです。日本みたいに大人や大学生まで観る方が異常なんです」
-その話はよく聞きますけど
「あくまで世界的な基準で言えば、アニメってのは「子供向け」というよりは「幼児向け」「乳幼児向け」であると思われていると考えた方がいいですね。…最近見つけた例えですけどこんなのがあります」
-どんなのですか
「アニメは『絵本』なんです」
-『絵本』…ですか
「ええ。幼稚園児までの子供に読み聞かせたりする「絵本」です。そこには過激な暴力もエロティックなシーンも無いでしょ?」
-でも、グリム童話とかアラビアンナイトとか
「グリム童話は誤解されてますけどグリム兄弟が民俗学的に採取した説話集で別に子供向けの童話として書かれた訳じゃありません。それはイソップとかアンデルセンですよ。アラビアンナイトに至っては完全に全年齢対象です」
-そっか…そういうことか…
「アメリカで最初に『ドラえもん』が放送された時は、のび太がジャイアンに殴られるシーンを「暴力的だ」としてカットするからストーリーがまるで分らなかったそうです」
-そりゃそうでしょ
「常にタバコをくわえているキャラのタバコをキャンディにするとかなってくると、日本人からすると『どうしてそこまで過剰に規制するのか?』と思いますが、『絵本』だと思えば納得するでしょ」
-なるほど!
「マジンガーZのあしゅら男爵とか、ガッチャマンのベルク・カッツェは「雌雄同体キャラ」なんですが、こういうキャラもアウトです。普通に女性キャラ扱いだそうで」
-あいつらって雌雄同体というよりオカマですもんね
「何しろ子供に見せるものですから、健全な(?)精神の育成に有害だと思えば遠慮なくカットカットです。多くの日本製アニメの『女装回』なんかは放送されてません」
-え?そうなんですか?じゃあ「らんま」とかは
「(笑いながら首を振って)考えるまでも無くアウトです。あちらではテレビ放送はされてません。ビデオのみの販売です」
-そうだったんですか
「笑っちゃうのは、これはフランスでの出来事だそうですけど、日本人には何とも思わなくてもフランス人には「アニメにしては過激なエロ」で問題になっているアニメがあったそうです」
-はあ
「本編はズタズタにカットされてるのに、間に入ってくるコマーシャルが実写の女性のヌードだったんだそうです」
-…何ですかそれは。ダブルスタンダード?日本コンテンツへの差別ですかね
「多少ないとは言えませんが、そうじゃないでしょ。要するに『アニメでエロはご法度』ってことです」
-…実写ならエロはいいんですか?
「そういうことです」
-エロ一般が駄目なんじゃなくて「アニメでエロをやること」だけが駄目だと
「そうなんです。今日本で問題になってる「児童ポルノ」規制法と東京都の「青少年健全育成条例」においても、実写によるエロが問題になったことはありません。アニメのみの狙い撃ちです」
-なんでそうなるんです?
「…ある程度以下の年齢の子供においては、実写作品よりもアニメーションの方が見やすい時期があります」
-…そう…ですね
「推測なんですが、子供にとっては『実写』の方がより『虚実度』が高いと感じられるみたいなんです」
-…虚実度?
「ええ。単純に考えると実写作品の方が「現実」との距離が近いですよね」
-ええ。実際の人間が演じてる訳ですし
「大人になってくると、アニメーション作品ってのはその画面の情報量の少なさから、感情移入して観るにはちょっとツライものがあります」
-情報量ですか
「ええ。実写作品ってのはカメラを回してそこにある物を映せば何だって映っちゃいますから、画面の情報量を上げることそのものはそれほど難しくありません。対してアニメは描かないことには何も映りません」
-そうですね
「しかも日本のセルアニメでしょ?1秒間に下手すりゃ8コマしか動かなくて、喋ってる間は口と目しか動かないみたいな」
-8コマってことは無いですよね?1秒間は24コマって聞いたんですが
「あはは!確かにアニメの解説本にはそう書いてあります。けど、今のアニメでそんなに動いてるアニメなんてまずありません。それじゃフルアニメーションだ」
-フルアニメーションとは?
「単純に1秒間24コマをまともに描いたアニメですよ。ごく一部の劇場版でそういうのもありますけど、毎週放送してるテレビアニメなんて「3コマ打ち」と言って、同じ絵を3回ずつシャッターを切るのが当たり前です」
-それがリミテッドアニメですか
「枚数が制限されてるんで「リミテッド(制限)」アニメという誤用がどこかでされたみたいですけど、厳密には違います。ざっくり言えば非常に少ない枚数で表現するアートアニメの一ジャンルです「リミテッド」アニメってのは。日本のセルアニメは…普通のアニメですよ」
-はあ
「とにかく、子供にとっては「実際の人間にもかかわらず現実にはありえないこと(お芝居)をやっている」という「構造」が理解出来ないみたいで、アニメの方が「最初から虚構」だからすんなり入って行けるみたいなんです」
-あ!そうか!
「私も『実写の方が現実に近い』なんてことは言いませんけど、確かに『アニメの方により現実味を感じる』程度にまだ現実と非現実の認識が形成されていない子供にあんまりアブノーマルなものを見せるのは感心しない…という言い方は分かります」
-アブノーマルねえ…
「いずれにしても、日本以外においては「アニメ」ってのは実写作品…要は子供の世界から現実(大人)の世界への「橋渡し」であるというような認識です。いわば「離乳食」みたいなもので、いい年こいた大人が観るもんじゃないんです」
-離乳食って…あちらにだって大人のアニメファンくらいいるでしょ?
「もちろんいます。日本アニメがカルト人気があるのは、そういう「まっとうな社会からは見えない」ところにある潜在的な需要に応え得たからです。とびきりニッチなね」
-む~ん
「話を『ジャスティスマン』に戻します。80年代ってことは昭和でいうと若干ずれますが50年代です」
-そうですね
「この時代にアニメ制作の中核として働いていた方々を仮に40歳くらいと仮定すると1940~50年代、昭和10~20年代くらいの方々ってことになります」
-モロに戦後ですね
「ええ。現在のわれわれとは比較にならないほどシビアな時間を生き抜いてきた方々で、そしてもう一つ大きな要素があります」
-なんですか?
「テレビが登場する前の映像娯楽の花形と言えば?」
-映画ですか
「そう、映画です。映画でしか動く映像が観られないんだからその一極集中ぶりったら物凄かったそうです。ハリウッドの全盛期は未だに1920年代だそうです。それくらいお客さんが入ってた」
-はあ
「日本でも同じで、信じられないほどの数の映画が作成されては公開されてみんな映画を観てたんです」
-みんなですか
「たまにテレビに映る「ニュース映像」ありますよね?帝国海軍がどこで勝っただの玉砕しただのって。あれは映画館で映画が始まる前に流れるんです。当時テレビが無いから」
-あっ!そうか
「テレビの登場はその情勢を一変させます。あっという間に娯楽の中心としてとってかわられる」
-栄枯盛衰ですね
「そうなると映画の作り手がみんなテレビに流れるんです」
-なるほど
「80年代くらいまで、『子供向け』とされている特撮番組において、刑事ドラマや映画で日の目を見なかった脚本がリメイクされて使われる例は珍しくなかったそうです」
-え…?「ナントカ怪人許さん!変身!」とかやってる特撮に刑事ドラマの脚本を流用?
「ええ。とにかくやる気だけはある野武士集団みたいなのが大挙してあちこちの映像現場に潜り込んじゃあ、やりたいことをやるもんだから恐ろしく実験的な作品なんかも生まれました」
-…子供向けですよね?
「日本のアニメにおいてはそういう境界線は希薄です。人が残虐に殺されたり、人体破壊・人体変形でもやるときゃやる」
-アメリカでも「シンプソンズ」とか「サウスパーク」では盛んにやってますよ
「あれは大人向けの風刺アニメです。キャラクターに感情移入して観るといったものじゃありません。言ってみれば新聞の4コママンガみたいなもんです」
-失礼しました。それで?
「やっと話が戻ってきましたね。恐らく大元の元は「レイプされる男」の実写映画の企画だったんじゃないかと思うんです」
-「ポリモルフ」回がですか?
「ええ。具体的な映画があった訳じゃなくてアイデア程度だったとは思うんですが。隠された真実として「ジャスティスマン」は「性癖」をモチーフにした特撮系アニメという側面があるんですが、ならばそう言う話があってもおかしくない」
-少年向けアニメで
「日本だからこそ可能な話です。とにかく脚本も絵コンテも出来ました。『積極的に推奨する理由も無いけど、止める理由も無い』んだから暴走するだけです」
-当時のスタッフにお話を聞きたいですねえ
「恐らく聞いても何も覚えていらっしゃらないと思いますよ。当の脚本家であってもね」
-それはどうしてでしょう?
「この頃のアニメーションスタッフって、アニメブームの頃に子供時代を送って憧れて入ってきた人たちじゃないんです。あくまで職業としてアニメを作ってる職人さんたちだから、「過剰な感情的思い入れ」は無いんですよ」
-感情移入してないと
「してないとまでは言ってませんが、このアニメを観ていたいたいけな小学生…人生経験のまだまだ少ない…の男の子よりは突き放した視線で見ていたでしょう」
-そりゃそうですが
「毎回毎回被害者に感情移入してられませんからね。ドロドロに溶かされる人に感情移入するのは視聴者の仕事であって、作る側のやるべきことじゃありません」
-作る側が「こういうショッキングなシーンを入れてやろう!」と思っていたってことは無いですかね
「そりゃあったと思います。たまたまそれで選ばれたのが「強制性転換」であり「強制女装」だったってことでしょ」
-それにしてもその後の「スカートめくり」「全裸剥き」「結婚式」「セックス」のコンボは強烈過ぎます
「確かに、子供向けアニメの主人公としてはかなりね」
-どうしてせめて「スカートめくり」くらいに留めなかったんですかね?それも「押さえてきゃー」くらいだったらシャレになるのにモロにパンティまで映して
「う~ん、逆に余り真面目に感情移入がどうとか考えて無かったんじゃないかなあ」
-といいますと?
「あなたゾンビ映画とか観ます?」
-まあ、人並みに
「子供の頃って、ゾンビに食い殺される人を見て恐ろしくありませんでした?」
-そりゃ恐ろしかったですよ。あんな目に遭ったらどうしよう!とか
「今はどうです?」
-そうですねえ…
「それほど何とも感じなくありませんか?」
-…そういえば…
「要するにあの「ポリモルフ」回を観て『女にされるなんて恐ろしい!』とか『無理やり女装させられるのは嫌だ!』とか感情移入しちゃう人ってのは、その時の映像体験とか人生経験とかで、『感情移入スイッチ』がオンになってる人なんですよ。だから恐ろしい」
-はあ
「作ってる側の『大人』は少なくともそうじゃなかったんだと思います。例え子供の主人公だろうがなんだろうが、性転換されようが女装させられようが、それを自分に置き換えるということを全くしない。だからなんだって出来るんです」
-感情移入全くしないなんてことが出来るんですかね
「意識的にコントロールしてしないんじゃなくて、そう感じないというか…例えばテレビで良く海外の面白動画で雪で滑って転んだりするでしょ?」
-ええ
「ああいうの観ておかしいから笑うじゃないですか」
-そうですね
「でも、当人からすれば痛いしたまったもんじゃないでしょ」
-はい
「別に感情移入しないでしょ?」
-…そうですね
「そんな感じです」
-そういうもんなんでしょうか
「今はどうか分かりませんけど、昔の映像作品なんてその辺結構アバウトですよ。今の基準からすると「これどうやって収拾するの?」ってな展開が多いです」
‐具体例を教えて頂ければ
「封印作品として有名な「サンダーマスク」にはシンナーマンと言う怪人と主人公が脳を交換される話があります」
‐!!!
「スター・トレックでカーク艦長が改造されるエピソードも有名ですね。あ、ちなみにこれは小説版ですけど、メンバーが全員性転換するエピソードもありますよ」
‐え…
「ウルトラマンが全身バラバラにされる展開は語り草ですし、アニメ版のゲゲゲの鬼太郎に至っては練られてカマボコにされるエピソードなんかあったりします」
‐か、かまぼこ!?
「何故かトラジマ柄のね(笑)。勿論最終的には戻れる訳ですが」
‐そんな状態から戻れるって…普通に猟奇殺人ですよね
「冷静に考えればね。ドリフターズの人形西遊記はご存じですか?」
‐ええ知ってます
「あそこで志村けんが敵の怪物に食べられてウンコになって排出される…なんて馬鹿馬鹿しい展開もありますよ。人形ですけど」
‐…咀嚼されて消化されてるんですかね
「さあ。まあドクタースランプアラレちゃんでお馴染みマキグソの形に顔と手が生えてる形状…という馬鹿馬鹿しさです」
‐当時は自由だったんですね
「ええ。こんなのにいちいち感情移入してたら身が持ちません。色んな意味で適当にやってるんですよ」
‐なるほどねえ…
「これって例え話になるのかどうか分からないんですが、とある結婚式での余興があったそうです」
-結婚式ですか
「恐らくお調子者の大学の同級生グループとかなんでしょうが、ともかく新郎の友人四人が二次会だか三次会だかで、レンタル落ちで安売りしていたウェディングドレスを買ってきて女装して歌ったり踊ったりして大騒ぎしたんだとか」
-まあ、よく聞く話ですね
「はい。で、彼らはその後どうしたか?その余興が終わった後はドレスを処分するでも転売するでもなく、丸めて押入れの隅の箱に放り込んだまま何年も放置して虫食いになったのを発見して捨てたそうです」
-…はあ
「私も読んだ知識なんであやふやなんですが、それこそ女装趣味者にとってみれば純白のウェディングドレスなんて憧れでしょ。最終到達目標みたいなもんです。大げさに言えば「そんなもの(純白のウェディングドレス)が手に入るなら死んでもいい!」ってなもんです」
-何となく分かります
「何年かに一度、女物を万引きしようとして逮捕されるエリートサラリーマンの話題がニュースに載りますもんね。きっとそういう人って「そういう願望がある」ということを周囲に察知されただけで死ななくてはならない!位に思ってたんでしょ。じゃなきゃ超ハイリスク犯して盗んだりしません」
-通販で買えばいいだけですからね
「今ならね(笑)。でも、一昔前だと男性が合法的に女物を入手することが不可能に見えてたんですよ。後学のために『女装雑誌』を買って読んだことがありますけど、さながら違法薬物みたいな扱いでした」
‐そんなものあったんですか?
「ええ。『雑誌』と便宜上言いましたけど、正規の雑誌コードを取得してないので商品上はおもちゃ扱いです」
‐おもちゃ?
「大人のね。ちなみにホモとかSM雑誌は雑誌コードを取得しているので普通の本屋さんでも見かけます。これが最大の違い」
‐はあ…本当に何でも良くご存じですね
「本当はそういう時代だろうと男性が女物をおおっぴらに購入することは不可能でも何でもありません。今もやってる大手百貨店のレンタルドレスの払い下げセールには業者の男性がぞろぞろいますし、そもそもブティックの経営者なんて男性も半々はいるでしょ」
‐そりゃ、商売なら
「とある漫画家さんは、絵の具をふき取るのに安物のストッキングが一番だというんで近所のおばちゃんたちと先を争って大量買いしてたそうです」
‐…
「クリック一つで男性が合法的に女物だろうが何だろうが買える時代になる遥かに前からお気楽に入手し、その上こうもぞんざいに扱って、しかも着たことそのものも全く覚えてもいない。アイデンティティに何の揺らぎも見せない…こういう人間も存在するって話です。一方で入手と同時に人生を破滅させちゃうほど思い詰めてる人もいる」
-なるほど、ちょっと分かってきました。個人差が激しいってことですね
「そういうこと。子供向けテレビアニメでも女装くらいは普通。入れ替わりならちょくちょく見かけます。その後スカートめくりだの全裸剥きまで行くとなるとちょっと世界的にも例が無いかもしれませんが、別に「画期的なことをやってやろう!」だとか「空前絶後のことをやってやる!」とか思った訳じゃなくて「ここまでやったんなら行き着くとこまでやってしまえ」というだけでしょ」
-作ってる側がとびきりそっち方面の価値観が鈍感だったってことですね
「間違いなくそうでしょう」
‐それにしても過激です。当時のPTAとかは問題にしなかったんですかね
「ジャスティスマンをですか?」
-とりわけこのエピソードをです。個人的にはシャレにならないほど倒錯的だと思うんですが
「テレビ放送されているコンテンツは内容問わずにクレームは付き物ですが、これについて特にそうした方面からクレームがついたという情報は得てませんね」
-キップさんの周囲では反応はいかがでしたか?
「サークルの中でとかですか?」
-サークルでなくてもお知り合いのアニメマニアさんとかでもいいんですが
「…特にない…ですね。ウチのサークルにはジャスティスマンを観ていたのがあと2人いましたけど、翌日そいつらと何かを話した覚えはありません」
-後で振り返ったりは
「ジャスティスマン一般についてはありますけど、この回を特に振り返って…は無いです」
-そうですか
「逆にお聞きしますが、私は当時大学生でしたけど、あなた(筆者)は当時小学生ですよね?」
-ええ
「むしろリアルタイムに想定した視聴者の立場と言うことで言えばあなたということになる。当時の『少年』としていかがでした」
-そりゃもう衝撃でした。何が何だか分からないくらい
「クラスで『正義戦士ジャスティスマン』の人気はどうでした?」
-…小学生ですからね。どうしても実写の特撮物の方が人気でした。隊員の姫野恭子が可愛かったのも小学生の男の子には気恥ずかしかったというか
「ですよね。ヒロインが可愛いどうこう言い始めるのはそれこそ大学生にもなってアニメ観てる連中とかですよ」
-そうだと思います。友達とヒロインの話をしたことは無いです
「じゃあ、作品そのものの人気はあったんですね」
-そこそこありました。ああそういえば新しい武器とか出てきた回とか、「これまでで最強怪人はどいつか?」とかで盛り上がったことがありました
「じゃあ、普通に人気だった訳だ」
-そうですね。ええ
「ジャスティスマンごっことかもしていた?」
-したことあります。ヒーローが一人なんで結構難しかったんですが
「じゃあ、放送の翌日に友人と「ポリモルフ」回について話しました?」
-…いえ
「いつもの友達とも会ってたんでしょ?」
-はい
「どうして話さなかったんです?」
-…どうしてでしょう
「テペット回はどうです?かたっぱしから女装させられるあの」
-してないですね
「どうしてでしょう?」
-分かりません
「恐らく、ただでさえマイナーアニメとなってしまっている「正義戦士ジャスティスマン」の更にアブノーマルな回が振り返られない理由ってこれだと思います」
-気恥ずかしいと
「そうですね。仮にあそこで倒錯的な魅力を感じたとしても…性的なことというのは究極のプライベートなので…それをおおっぴらに言うことなど無いでしょう。ましてやそう言うのに一番敏感な年頃の男の子が」
-確かに
「今やTSアニメとか男の娘アニメなんてのも市民権を得てますけど、一昔前…それこそ90年代の終わりごろまで…は肯定的な文脈でアニメだ特撮だのを語ることは難しい時代でした」
-90年代ですか?
「そりゃ別冊宝島みたいな書籍はありましたけど、あれもたいがいアンダーグラウンドっていうか」
-まあ、怪しい雰囲気はありましたけど
「女装だの性転換だのは…それこそ「性欲」の延長線上にある物だと思ってるので…ある程度は一般の男性にも需要はあるんですよ。あくまで想定の範囲内でね。ただ、それが「許容範囲」を越えると、意識の方が無意識でブロックするんですよ」
-ブロックですか
「ええ。恐らく一般人の方の許容範囲って「女装」くらいだと思うんです。要は「テペット」回ですね。ところが「ポリモルフ」回は何もかもぶっちぎって行き着くところまで行っちゃった」
-ええ。あれ以上やるなら10年以上の結婚生活を描くしかないんじゃないかってくらいに
「フェチのフルコースですからね。ただ、明らかにやりすぎです。やりすぎて大問題になればまだ良かったんだけど、やりすぎたんで受容する側が意識をブロックしちゃった」
-スルーしたと
「ええ。これだけの内容が含まれているのに結果としてはほぼ『無視』された形です。妙な話ですが、もう少し抑制の効いた描写だったなら大問題になった…なれた…かもしれません。ところが“やりすぎ”たために『無視』です。現在はこのアニメ自体が余り語られることも無いのですが、語られたとしても「ポリモルフ」回に言及されることはまずありません」
-やりすぎが原因なんでしょうか
「それもありますが、なら「適正に」やれば良かったかと言われるとそうとも言えない。正直、この方向性で「適正」というか「適当」…この場合は「いい・加減」と言う意味でね…な描写なんてありえないんですよ」
-それは「性転換・女装」方向ってことですか?
「いや、それは二次的なものです。一番マズいのは主人公が「襲われる」ことです」
-「襲われる」…
「はい。殴られたり殺されたりし掛かる主人公は幾らでもいますが、『女としての貞操の危機』に陥った主人公はちょっといません」
-そりゃいないでしょ
「これ、別に主人公が男のままでも男装のままでも同じなんです」
-え?
「「襲われる」部分が一番問題なのであって、それ以外はオマケです」
-ああ…なんとなく分かった気がします
「ただ、ならばこれが問題になったりしたかといえば特になってないんですよ」
-そうですね
「それどころか後続の作品…所謂TSものとか男の娘ものに受け継がれた影響などもほぼなし。大体存在すら知られていないんだから影響も何もないでしょ」
-どうしてでしょうか?
「まあ、はっきり言って大多数の人々の好みに合わなかったってことでしょう」
-好みですか
「ええ。今も定期的に『次に生まれ変わったら男に生まれたいですかそれとも女?』式のアンケートをちょくちょく見ますけど、明らかにみんな真面目に答えてない」
-そうですね
「それに、これだけ女尊男卑だのなんのと言われてるご時世なのに、6~8割は男は男に投票するんですね」
-それって、現状肯定しているだけでは?
「だとしても同じです。一部の『感受性の豊かな』…と敢えて言っておきましょう…観客は画面上で男が女にされたり色々されるのを観てビックリ仰天してるんですけど、大多数の視聴者にとってはどうでもいいことなんです」
-しかし、ゴールデンタイムで1年間に渡って放送されたアニメですよ?
「関係ありません。響かなきゃ何やっても同じです」
-それにしても覚えている人そのものがこんなにいないってのは考えられません。本放送時の視聴率は20%だから、少なめに見積もっても2千万人が観てます。再放送を含めればもっと
「一方で『らんま』なんかは非常にポピュラリティがありますよね」
-…ええ
「あと映画『転校生』なんかもね」
-そうですね
「結局、このくらいまでソフィスティケートされてないと大衆の心は掴まないんです。少なくともらんまは真の意味で「襲われた」ことがありません。99%の視聴者は「被害者」の疑似体験を娯楽として楽しもうとは思っていないんですよ」
-でも、絶叫マシンやホラー・スプラッタ映画は人気ですよね?
「確かに。でもあれは生存を脅かされるという生物としてより根源的な恐怖が前提です。貞操の危機というのはかなり感情としてねじくれてる。…どうやら私より「ポリモルフ」回にご執心の様なんで気を悪くしないでいただきたいんですが…それこそ「フェチ」の領域でしょう」
-フェチですか
「でしょうね。99.9%の視聴者は生理的に拒否反応を示すか、そもそも最初から無視して無感情になるかどっちかです。まともに受け止めたりしない。どっちにしてもマイナーなものはマイナーなんですよ」
-時代もあるんじゃないですか?
「確かに。一部の劇場映画などは80年代にはもう評価が始まりますが、子供向けテレビアニメのまともな批評が出て来るのは90年代でしょうね」
-それなら…
「仮に『正義戦士ジャスティスマン』の「ポリモルフ」回が今放送されたとしても大した反響は呼ばないでしょう。本放送時と同様に」
-そうですか?
「まあ、今風の“萌え絵”になってることが前提ですが、翌日にはスクリーンショットが張られてTSクラスタには多少受けるかもしれませんが…すぐに鎮静化するでしょう」
-それは何故です?
「う~ん、何でと言われても…一つ言えるのは、今の消費のされ方ってファッションなんですよ」
-ファッション
「男の娘とかって要は女装じゃないですか」
-そうですね
「探せば幾らでも気色の悪い女装の写真なんて見つかります。でも間違いなくオタクが求めているのはそれではない。生物学的にも物理的にも「気色悪いハゲでヒゲのおっさんの毛脛女装」と「男の娘」は同じもののはずなのにね」
-でしょう
「快感原則なんですよ。可愛いとか萌えるとか。どっしり重くコタエる重厚な作品の味わいとかだとピンと来ない。恐らく私やあなた(筆者)は「ポリモルフ」回を観てまともに受け止めてしまってショックを受けた訳です」
-ええ
「こういう楽しみ方って“後を引く”んです。言ってみればいつまででも楽しめる」
-そ、そう!その通りです!
「今のカジュアルオタク諸氏は「次よこせ!次よこせ!」ですからね。かる~い刺激をパンパンパンパン消費するスタイルなんです。正直私みたいな古いタイプのオタクは「それで楽しいのかな?」と思ってしまうんですが、生まれた時からそうなんだから仕方がないんじゃないかな」
-では最後に「ポリモルフ」回も含めて「正義戦士ジャスティスマン」に対して一言いただければと
「そうですね。ぶっちゃけ早すぎたフェティッシュアニメだと思います。らんまを例にとるまでも無く現在のTSものって、『お気軽に女の子の可愛さを味わう』娯楽なんですよ。だから自分の意思で女の子になれるし、戻れるんです。それに対して「ジャスティスマン」の「ポリモルフ」回が狙ったのは『貞操を奪われる恐怖』の娯楽化だったと思います。少なくともギャグではない」
-そうですね
「映画の『エイリアン』は男が異形の怪物に犯されて妊娠し、子供を産む映画です。エイリアンの造形モチーフがペニスであることからも露骨ですよね。それだけだったら「エイリアン」路線の恐怖映画…恐怖アニメ…として認識してもらえたと思います」
-はい
「ところが「ジャスティスマン」はそこに「甘さ」が入ってる。キュート成分も無理やりぶっこんでるんです」
-といいますと?
「セーラー服とスカートめくり、そしてウェディングドレスですよ。それこそ『犯される恐怖』の演出なんだったら服装に拘る必要はない。でも、業界用語(笑)で言うところの「これが…オレ…?」要素も入れる形になったんです。直接そういう場面はありませんが」
-はい
「膝下丈スカートのセーラー服にスリップ、結婚行進曲での結婚式となんとも前時代的なんで今見るとちょっと笑いもこみ上げちゃうんですけど、冷静に考えるとここでの結婚式って相当ヘンですよ」
-…言われてみればそうですね
「結果『寸止めの笑い』じゃありませんが、観てて非常に反応に困るものが出来上がってしまった。何もかもごった煮で全部ぶち込んだ結果、作ってる側が「嫌がってるのか嬉しいのか」分からなくなってる」
-はい
「そこで観てる側も「忘れたい記憶」に押し込んじゃって観なかったことにしちゃったんじゃないかな」
-忘れたい記憶…
「早すぎた意欲作と言っていいと思います。パッと見の印象だと普通のアニメとそれほど違いは分からないでしょうけど、一話一話全てに何らかの裏モチーフがある。特撮からアニメに企画が流れた非常に珍しい誕生経緯を辿ったことで奇妙な化学変化を起こした興味深い一作ですよ」
-なるほど
「残念ながら現在では観る機会が非常に限られてしまっています。面白い最新アニメがバンバン登場して来ていて、それらを消費するだけで精一杯の現在のオタクの皆さんに「是非観てください」と胸を張って言うのは勇気がいるんですが、レトロな気分に浸りたい人と、39話と43話の時代を先取りしまくったフェチ回目当てに観る方、TSクラスタの皆さんにはオススメです」
-本日はありがとうございました
この他にも興味深い話を多数伺った上、貴重なライブラリーを惜しげも無く披露してもらった。
なんと、一体どういうルートで入手したのかサッパリ分からないのだが、「女正義」の「設定資料」までをも見せてもらうことに成功した。
アニメーション作りは集団作業なので、大げさに言えばたった1場面であろうが登場するキャラには「設定」が必要になる。
当然、「女になった状態の堂々正義(主人公)」の「設定資料」は存在していなくてはおかしい。おかしいんだが、これはモロに内部資料だ。関係者…原画・動画マンに配られるものであって一般販売されるようなものではない。現物を観る機会に恵まれるなんて思っていなかった。
穴が開くまで見せてもらったが、なるほど間違いなく「ポリモルフ」回で登場した堂々正義の女の子姿だ。対比を取るため、倒錯怪人ポリモルフと姫野恭子と並べて描かれている。
しかもちゃんとセーラー服姿で前と後ろ、横まで描かれており、めくって露出する関係上、スカートの内側までしっかりと設定され、色指定までされている。当たり前と言えば当たり前なのだが感動してしまった。
当然ながらウェディングドレス姿もある。
こちらは流石にスカートの中まで設定はされていないが、それでも前後横にアクセサリーとメイクまでしっかり設定されている。
こうして見ると非常にシンプルだ。ただ、スカート表面こそシンプルだが、その三角(△)状に広がったスカートの形状はしっかりキープするように念を押してあるのが面白い。
終わりに
80年代に一世を風靡するほど流行していながら、特に封印されたと言う訳でもないのに「幻の」作品と化した「正義戦士ジャスティスマン」。
当然ながら「再評価」の機運も無く、続編も製作されていないばかりか一切のスピンオフも存在しない。
時代もあって学年誌などには盛んに掲載された様だが前日談・後日談・サイドストーリーなどに発展した訳も無い。世界観の広がりが無いのだ。
当時発売された「フィルムブック」(アニメのコマをマンガのコマに見立てて吹き出しをあてた書籍。ある程度人気のあるアニメにはしばしば出版された)を手に入るだけ手に入れてみたが、当然ながら「ポリモルフ」の回は収録されていなかった。
筆者は本稿を書きおろすにあたって、改めてLDボックスの封を解き、最初から最後まで見通してみた。
典型的なセルアニメをそのままLDにしただけでデジタルリマスターされた訳でもないので画面が常にプルプルとがたつくし、お世辞にも美麗な画面とは言い難い。
しかし、観れば観るほどスルメの様な味わいがあると感じる。
特に隠された裏モチーフに関しては、辞書と首っ引きでこじつけてみると「なるほど!」と思う発見が幾つもあった。煩雑になるのでいちいち記さないが、子供に「グアルティエロ・ヤコペッティ」とか「ピエロ・パオロ・パゾリーニ」だのは分からんだろとだけは書いておく。
そして問題の39話、そして43話だ。
39話はまだしも、やはり43話は異色だ。
反面、久しぶりに時間を置いて観たせいなのか、子供の頃に観た時ほどの衝撃は受けなかった。下手すると「すーっ」と見逃してしまいそうだった。
ああ、当時の自分以外の視聴者はこういう気分だったのか!と改めて思わずにはいられなかった。30年近くを経てやっと大人に成れたのかも知れない。
だとしたら大人なんてつまらんもんだ。
最後に、キップさんとのやりとりの中で一番印象に残った下りを採録してこの原稿を締めようと思う。ここまで読んでいただいて感謝。
「そこで観てる側も「忘れたい記憶」に押し込んじゃって観なかったことにしちゃったんじゃないかな」
-忘れたい記憶ですか
「実はさっき私以外に『ジャスティスマン』を観てたって2人のことを言ったでしょ」
-ええ
「あいつら以外にもほぼ全員が観てたことが後に発覚するんですよ」
-そうなんですか?
「といっても大学を卒業して10年ぶりの同窓会をやって、しかもドロッドロに泥酔した明け方にやっと分かったんですけどね」
-何でそんな状況に?
「観ていたといっても「ポリモルフ」回だけなんですよ」
-え?それじゃ「ポリモルフ」回って一部でカルト化はしてたんですか?
「はい。実はね。ただそれって「カルト化してた」ことそのものもアンダーグラウンドだったんです。私もそんなビデオがこっそり回されてたなんて知りませんでした」
-ビデオテープですか…
「私のところに来たのってダビングを結構繰り返してて画面に常にチラチラノイズが入るくらいには劣化してましたね」
-ご自身で録画はされてなかったんですか?
「してないですね。何しろ当時ビデオテープそのものが貴重だったので。私もLD組なんです」
-それで?
「これはあくまでも都市伝説の類なんでその積りで聞いて下さいね」
-…はい
「放送当時は半ば無視された形の「ポリモルフ」回なんですが、あちこちで再放送されたりするうちにその魅力にどっぷり嵌る視聴者がまま現れ始めたらしいんですよ」
-そんな話聞いたことが無いんですが
「大手マスコミも好んで扱う話じゃないし、なら写真週刊誌みたいな芸能ゴシップ誌だって扱わないでしょ。「ジャスティスマン」が何かって説明から入らないといけないし。ならアニメ雑誌が扱うかって言ったら扱う訳が無い」
-まあ…そうでしょうね
「余りにもディープな内容ですからね「ポリモルフ」は。それまでの42話…ほぼ1年間に渡って明朗快活にやってきた少年が女にされてレイプされ、花嫁にされる訳だから、今時のディープな同人誌よりもキツいでしょ」
-そうだと思うんですけどねえ…
「それでいて翌週からはケロッと今まで通りやってんだからいい気なもんですが…ともあれ、バイオリズムが一致したごく一部の選ばれた視聴者…と言う言い方にしますが…は余りの衝撃にあっちの世界に行ってしまう人もいたんだとか」
-あっちとは?
「まあ、SMとか女装とかですかね」
-…本当ですか?
「だから都市伝説なんですって。それにもし仮にそんな人が実在したとするなら、あのアニメで変えられたというより、元々そういう素養はあったんでしょう」
-はあ…
「70年代80年代に子供だった子なんて、アニメなんぞ「途中から観始めて、途中から観なくなる」もんだったもんです」
-そうそう!そうでした
「ましてや十把一絡げのロボットアニメ…これはヒーローアニメですが…なんてね。ところがその中の一話にトンデモナイ「毒」が潜んでいた訳です」
-それが「ポリモルフ」回であると
「ハッキリ言えばそうです。さっきも言ったように人間は『余りにも観たくない』物からは目を逸らし、心理を閉ざすことで『観なかったことにする』生き物ですからね。恐らく最初の放送でも大半の視聴者は「観なかったこと」にしたんじゃないかと」
-意図的に無視したと?
「潜在意識的に無視したってことです」
-それでどうなりました?
「初回の放送でもほぼ話題にはなりませんでした」
-でも、子供向けアニメですよね?
「その言い方は実は欺瞞で、タイムボカンシリーズヤッターマンの「豚もおだてりゃ木に登る」とか「巨人の星」とか「ドクタースランプ アラレちゃん」の様に社会的ブームになったアニメなんて幾らでもあるんです」
-つまり、どういうことです?
「話題になっていなさすぎるのがおかしいんですよ」
-話題になっていなさすぎる?
「ええ。もしこれが当たり障りのない内容だったならば、話題くらいにはなってるはずなんです」
-昨日の「ジャスティスマン」観たかお前?スゲエよなあの性転換能力!…みたいな感じですか
「そうです。しかしそれすらなかった。いや、“敢えて話題にさせない”だけの理由があったんじゃないかと」
-確かに「ジャスティスマン」の話をする時には…って滅多にないんですが…意識的に「ポリモルフ」回のことは避けてますね
「でしょ?恐らく千葉県での5回目の再放送が途中で終わってることをご存じでしょうが、奇妙なことに38話までなんですよ」
-テベット回の直前ですね
「問題のあたりに差し掛かるのを避けたとしか思えません」
-む~ん…それはどうかなあ…
「この頃のアニメなんて内容までちゃんと把握・研究はされないんですが、じわじわと時間を掛けて「正義戦士ジャスティスマン」の中に「ポリモルフ」回が含まれることが判明していきます」
-はあ
「何しろインターネットが無い時代なのでお互いが情報で繋がることが出来ません。視聴者の生の声を聴けるのはテレビ局関係者だけです」
-そうでしょうね
「これまた都市伝説なんですが、本放送1回、全国ネットでの再放送が2回、地方での再放送が不完全なものも含めて11回、合計14回行われました。「ポリモルフ」回は都合13回放送された訳ですが、その都度放送局には「奇妙な電話」が必ず掛かるんですよ」
-奇妙な電話?
「ええ。別に抗議ではないし、称賛でもない。意見とも何ともつかない奇妙なものだそうで」
-粘着質のファンじゃ?アンチかも
「別の人だそうです。大体地方での再放送は地域もバラバラなんで同一人物と言うのは難しいでしょう」
-熱狂的なファンが再放送を追いかけて全国を移動したとか?
「あり得ないとは言えないですが証拠はないですね。とにかく全国のテレビ関係者に「このアニメはヤバい」という情報が共有されるに至ります」
-ホントですかそれ?
「あくまでも都市伝説です。内容を観ればヤバいどころか他愛のない子供向けアニメなんでね。1エピソードを除いてですが」
-その割には再放送されてますよね?
「その再放送も80年代のみ。90年代になるとパタリと止むのはご存じでしょ?」
-でも、LDも発売されたし
「そのLDもちょっとした問題含みでね」
-え?税金対策で売れ残りを破棄したって話は聞いてますけど
「私が掴んでる情報はちょっと違いますね」
-教えてください
「ご存じの通り、80年代末期は日本はバブル時代の真っただ中、狂乱の消費時代でした」
-ええ
「そんな中、小金を持ち始めたかつてのオタク連中に対して、安価ででっち上げられて単価が高い商品として登場し始めたのが「LD-BOX」なのはご存じですね?」
-もちろん。随分騙されました(爆)
「そんな中、言ってみれば『自主的封印』の「回状」が回ってるも同然だった「正義戦士ジャスティスマン」がなんとLD-BOX化されると言うことになる訳です」
-本来、されるはずじゃなかった?
「私の掴んだ情報では、そうです。その関係者もヤバいという噂は知ってたんでしょうが、テレビ放送する訳じゃないから大丈夫だろうと企画を進めてしまいます」
-ふんふん
「どうにか発売は出来たんですが、新規描きおろしジャケットだの豪華映像特典だのといったものを添付することは適わず、なんとノンテロップOP・EDやCM集すら入っていない前代未聞の商品として世に出ることになります」
-製作会社やスタッフが非協力的だったということでしょうか
「そういうことになりますね。まあ、単純に古い作品だったので余計な映像素材も残ってないし、スタッフの多くはご高齢で引退されていたりするという理由もありますが」
-妙だとは思ってたんですよ。そもそも原版とかは残ってるんですかね
「恐らく残ってはいるでしょ。結局この時もLD-BOXの販売元に奇妙な電話や投稿が相次いでしまったそうです」
-それって何なんです?奇妙とだけ言われても良く分からないのですが…
「私も何とも言えないんですが、要は「ポリモルフ」回の余りのショックに…どうにかなってしまったというところじゃないかと」
-どうにかねえ
「期待したほど売れなかった…というより壊滅的に売れなかった上に、在庫があることで薄気味悪い思いをするならということで一斉に在庫が破棄されます」
-そういう理由だったんですか
「「正義戦士ジャスティスマン」自体は当たり障りのないアニメだと思いますよ。そりゃあちこちに凝りに凝りまくった意匠が認められたりもしますが、まあオーソドックスなアニメと言えます。ただ、…ありていに言えば余りにもディープに変態…倒錯的…エピソードが入っているもので、自然と人々の「口の端に登らなく」なって行く訳です」
-…もしかして、作品全体が「忘れ去られて」いるのは「ポリモルフ」回を思い出したくない大衆の心理がそうさせていると?
「あくまで推測です。推測。ただ、「気軽に名前を挙げていい」作品じゃなくなってしまったんですよ。これを挙げるとなると必然的に「ポリモルフ」回みたいなのもあったよね…と展開しかねません。というか「ジャスティスマン」の名前が出る度に潜在意識に「ポリモルフ」回が浮かんでしまう。それを避けようと思ったら…「ジャスティスマン」自体を記憶から抹消するしかない…」
-とはいえ、都合13回も放送されてるんですよね?
「それが余計に良くなかった。目立つスキャンダルは無いアニメです。それこそ製作中に誰かが死んだとか…というかそういうアニメは割とありますがスキャンダルになんかなりませんからね。或いは封印されてるだとか呪われてるだとか…そういうのが一切ないんです。ただただ内容がディープに倒錯的であるというだけ。それが再放送を経るごとにじわじわと染みわたる様に認識が広まって行きました」
-私もこのアニメの先進性を高く買う方ですが、そこまで警戒されるようなアニメなんでしょうか?
「恐らくこのアニメについて取材を重ねてこられたのなら「良くある不人気アニメ」とか「その時代だけ人気のある典型的アニメ」に過ぎない…と言う話を多く聞かされたと思います。私も概ね同意見なんですが、それにしてはあたかも『存在しなかった』かの様な扱いは奇妙です。まるでそんなアニメなんか存在しなかったと言わんばかりです。だからこそ私は「世界で唯一のファン」を自称する様な有様になってるんですが」
-要は「ヤバすぎて人々の記憶から封印された」…と
「ある時期までは間違いなくそうだと思います。時代が下って、この程度…というのも妙ですが…の変態性は珍しくなくなりました。恐らく現代のアニメファンが観たとしてもそれほど心は動かされないでしょう。TS免疫が無い人には相当ショックだとは思いますが」
-時代が追い抜いたんですね
「晴れて「単なる古いアニメ」になれたとは思うんですが、「触れてはいけない」時期が長すぎて存在すら知られていない幻のアニメになってしまいました。あれだけの人気作だったのにね。純粋に人気が無いのでこれからも脚光を浴びることは無いでしょう」
-時代が追い抜いたのなら、これからCSや専門チャンネルなどで日の目を見ることがあるのでは?
「どうでしょう。需要が無いと思いますけどねえ。ま、その際は新しい世代に犠牲者を増やさない様に祈るのみです」
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*注意*
当原稿は「存在しない作品の批評」と言うスタイルの作品です。内容は全て創作であり、実在の作品や作者とは何の関係もありません。
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