だいごわ 勇者の街歩き
遅くなりました申し訳ございません。
メインの方も大分滞っておりまして、これからは更に遅れるかもしれませぬ。
『レベルが上がりました。
全能力値が回復しました。
ステータスが上がりました。
1100JP貰いました
新しいスキルが開放されました
新しいアビリティが開放されました
職業レベルが上がりました
職業スキル『刀剣卵舞』を覚えました
』
もう、この流れで始まるのが定番になるんじゃないかと。いや、させないけど。
私は今、草原に寝そべっている。
視界には真っ青な空が映り、たまに大きな鳥が太陽と重なる。
でも、勘違いしないで欲しい。
穏やかな草原で爽やかな風を浴びるような、ロマン溢れる情景なんかじゃないんだよ、今は。
「いったぁ……くぅ……背中はきついよ、背中は」
なんたって私は、焼け爛れた右手に卵を垂らしながら、左腕を背中に回し、届きそうで届かないウサギの残骸を抜こうと必死になっているからだ。
お腹と違って見えないし手が届かないし、最悪だ。
それでも30分掛けて全ての残骸を取り除いた私は、痛みが引いた事を確認してから立ち上がる。
……私が倒れていたところを中心に、半径8メートルのクレーターを作っていた。
……前より大きい。これは、生産した卵の質の違いによるものかな?
この前の卵が+いくつかは知らないけど、今回のは+3。つまり、私が作れる中では、真ん中くらいの強さ。
……これ、+5とか、かなり遠くから投げないと駄目だよね。……気を付けよ。
さて、そんな事より、またJPを貰った。前回よりも100JP多い。
というわけで、もう死に掛けるのは嫌なので、この場で使っちゃいましょう。
まずは、『魔力Lv1』:600JP。卵の生成には、魔力が必要だ。だからこのアビリティで魔力の底上げをしなければ。
ランクの都合上、『器用値上昇』は外れる事になるけど、特に支障は感じない。
次はスキル! なるべく10個ある枠は全部埋めておきたい。
さっき見つけた私の弱点。離れて投げないといけないという事。
でも、球技なんか授業でしかやったことの無い私が、十数メートル先の的に小さな卵を当てるような、プロ野球選手ばりの投球技術を持っているわけが無い。
というわけで、その辺りの力量不足は、スキルで補う。
『投擲Lv2』:400JP
これを覚えた瞬間、投擲の中から、さらに派生して、技が出来た。
『遠投』。筋力に関わらず、物を遠くまで投げる事が出来る様になるというもの。
この『技』は、スキルレベルに応じて増えるらしい。
私の手札になるのなら、どんどん増やしていこう。
次に、残った100JPの使い道を考える。
今取れるスキルは、『色彩変化』。でも、戦闘力にはあまり貢献しそうに無い。
スキル枠を埋めるのは次のレベルアップまで待って、今はこれで我慢するべきかな。
というか、何で初期からこんなに必要ポイント高いの? 全然習得出来ないじゃん。
不満タラタラにしつつも、ステータスを閉じる。
命中精度が上がって、遠距離攻撃も強化。まあ、今日はこのくらいで勘弁してやろう。
というわけで、ウサギ狩りの続き行くよー!
「第一投、投げましたー!」
――――ズドン!
「デッドボール! バッターアウト!」
痛いのなんて我慢! テンション上げてバリバリヤるよ!
その後、無茶苦茶爆弾投げた。
……そう言えば、なんかのレベルが上がったとか何かを覚えたとか言われた気がするんだけど、スキルは増えてなかったし……なんだったんだろう?
★
「すみません、1番安い服下さい」
「あんた……昨日の今日で何やってきたんだい」
「死闘を繰り広げてきました」
主に誤爆と。
「どんなとこに行けばこんな服を焦がす魔物に出会えるんだい?」
「ははっ、いやぁ……」
主に草原に出没します。
「まあ、いいよ。そこにある服は全部売れ残りで、捨てる直前だったから、20Gで持っていきな」
「ありがとうございます!」
麻布の服を広げ、サイズを確認する。……よし、着れる。
お昼ご飯がてら戻った街で、新しい服を買った。
うん、この親切なおばちゃんとは仲良くなれそうだ。
「おばちゃん! ありがとね。また燃やしたら買いに来るよ!」
「もう無茶するんじゃないよ!」
優しい服屋のおばちゃんに見送られながら、私はウキウキと商店街に乗り出した。
今は昼。丁度おなかが空き始める頃合だからか、串焼きや、果物を売っている露店には様々な人が行ったり来たりを繰り返している。
私も、何か頼んで食べておこうかな。
という訳で、何かの肉を焼いているあんちゃんの所へ。
「これ、なんですか?」
「ん? 見ない顔だね、お客さん。もしかして、噂の勇者様かい?」
鉄板の熱に当てられてか、顔を真っ赤にして大粒の汗を浮かべている、野性的な顔立ちをしたワイルド系ハンサムのお兄さんは、綺麗に生え揃った歯を見せて笑いかけてくれた。
「まあ、そんなところです」
「へぇ、勇者様に来て貰えるなんて光栄だね。これはツノウサギの焼肉だよ。うちの自慢の秘伝のタレか、あっさりとした塩味の二種類。骨なしと骨有りがあるんだけど、どれか買ってくかい?」
「じゃあ、塩の骨なしでお願いします」
「はいよ! 一個10Gだ」
私は代金を払い、串に刺さった大ぶりの肉を受け取る。
滴る肉汁が地面にポタポタと落ちているため、横向きに持たなければ手が汚れてしまう。
「うわ、うわわ」
「あっはっは! うちは上等な肉しか使ってないからな! 食べにくくてすまない」
「い、いえ。それだけいいお肉なら、仕方ないですね。では、いただきます」
他のお客さんの邪魔にならないように、少し脇に退けて、その大きなお肉の端に齧り付く。
……うま。
うまい……美味しい! ナニコレすごく美味しい! 普段お肉とか食べない小食な私だけど、これは一本ペロッと食べられちゃうくらい美味しいよ!
ハムっ
ハムっ
ハムっ……
「お客さん、いい食べっぷりだね」
「んぅ?」
二口、三口と口が止まらない。塩加減が調度良く、肉汁が滴るほどなのに、かなりあっさりと味わえる。
これは、今まで出会ってきたお肉の中でも指三本には入るぞ!
「気に入ってくれたら嬉しいね。またおいでよ、今度はサービスしてあげるからさ!」
「え、いいんですか?」
「ああ、勿論。次回からは……そうだなぁ、半額でどう?」
「ぅええ!? ……はい!」
いやぁ、10Gなんてお得な値段をさらにサービスして貰えるなんて、嬉しい誤算だ。
明日からも毎日通うことにしよう。うん、それがいい!
それから数日後に知ったことなのだが、どうやらあまりにも美味しそうに兎肉を食べる私の様子に釣られ、その屋台のお客さんが増えていたらしい。
私は体のいい看板……というか広告に使われていたらしいのだけれど…………美味しいから許す。
それからも、私は街を巡った。
いかにも頑固者そうなドワーフの営む武器屋を冷やかしたり(買えないんだからしょうがない)
いかにも陰気そうなお姉さんの営む薬屋を冷やかしたり(使えないんだからしょうがない)
私と同年代くらいの子が働いている旅道具店(テントとか水筒を売っている)で物色したり、
広場で露天を開いている宝石店の猫獣人娘をからかったり(すごく可愛かった)
街の中には色んなものがある。私の楽しみは尽きない。
ウサギ狩りでお金を稼ぐのもいいけれど、たまにはこうして街をブラブラするのも良いかもしれない。
今日は成果は得られなかったけど、突然の異世界転移や二度死にかけた経験で色々参っていた私の心を癒すのには、十分な時間を過ごす事が出来たと思う。
「店主さんただいま!」
「……」
「いやー、もうお腹ペコペコだよ。あ、夕ご飯は……うわぁ、卵焼きだ! 美味しそう!」
「…………」
「あ、今日ね、ウサギ肉を1つだけ手に入れたんだけど、店主さん、明日のご飯の食材に使わない?」
「……」
「ほらこれ……かなりボロボロだけど、一応食べられるから安心して?」
「…………」
「あ、私、明日も早いだろうからもう寝ることにするね? じゃあ、おやすみなさい!」
「……」
私の異世界生活はまだ始まったばかりだけど、せめてこの安心できる時間だけは、守っていきたい。
――――タチサレ……タチサレ
――――ノロッテヤル……
――――クルシイ……クルシイ……
――――タスケテ……
「うるさい」
――――…………
夜中に響くこの声だけはなんとかならないかな。
そう思いながらもぐっすり眠る私でした。
なお、この作品には店主とのラブコメ要素は一切含まれておりませんのでご理解とご了承の方をよろしくお願いします。