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私は勇者の卵……いや、卵の勇者  作者: どげざむらい
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だいよんわ 勇者は感傷に浸る

いつの間にか、国華と私の別作品のコラボを考えてしまう1日。

しかし、何故だろう。国華が苦労する未来しか見えない。

 とてもいい朝である。


 巡り巡る事13件。ようやく空き部屋を見つけた私は、即座に『10G』を支払って、硬い布団にその身を埋めた。


 これで一安心。そう思った私は、1秒もなく、深い眠りに着いた。



 ……それにしても、普通の宿屋の宿泊料が、『一泊100G』程度にもかかわらず、この宿屋『幽鬼の眼』はとても良心的な値段である。



 ――――ノロッテヤル……


 ――――コロシテヤルゥウ……


 ――――ユルサナィ…………



 夢の中で何かが出てきた気がするが、疲れていたのか、全く覚えてない。


 さて、目が覚めたならやることは一つ……。




 朝ごはんだ!!



「店主さん、おはようございます」

「…………」

「朝ごはんあります?」

「…………」

「あ、美味しそうですね。いただきます」

「…………」


 ギシギシと音を鳴らす、立て付けの悪い扉を開けて部屋を出ると、ボロボロのテーブルが並ぶホールに出た。カウンター席もあって、カウンターの向こうでは、ボサボサの伸ばし放題の髪で顔を覆い隠してしまっているこの宿の店主さんが、料理を作っていた。

 本来、店の衛生面的な問題で、あの髪は切るべきなんだろうけど、私は気にしないので問題ない。

 というか、この宿のお客は私だけみたいだ。気が楽でいいね。

 そう思いながら、木製のスプーンで色の薄いスープをすくう。


 ……うん美味しい。


 薄い塩味のスープと固いパンに、葉野菜のサラダだけだけど、元々小食で、薄味が好きな私にはこれで十分。タンパク質は、自分で卵が出せるし。



「ふぅ、ご馳走様でした! 店主さん。美味しかったです。あ、もしよかったらこの卵、使いませんか?」


 そう言って、空の食器と共に、朝一で生成した新鮮卵を1つ渡す。



「…………」


 無口で表情もよくわからないが、喜んでくれているような気がしなくもない。


「では、私は冒険者の仕事をしてくるので。また夕方頃に戻りますね」

「…………」


 反応はない。無言で皿を洗っている様子は、若干不気味さを覚えるけれど、あまり悪い人には見えないので、気のせいだろう。



 店主さんの後ろに、なんか黒い霧みたいな何かが見えるのは気のせいなのだ。





場所は変わって冒険者ギルド。本当は『依頼受諾所及び冒険者集会所』みたいな名前何だけど(正式名称忘れた)、長いからギルドって呼んでいる。なお、受付さんもギルドって名前を使っている模様。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「今受けられる依頼の確認を」

「討伐依頼であるなら、『ホーンラビット討伐』『ワイルドハウンド討伐』の2つは常駐として、森の『ゴブリン』や『マンイータープラント』などの討伐も出ています」

「森かぁ」

「森は新人達の最初の鬼門ですからね。向かうとなると、野営もありますし」

「……遠いの?」

「遠いです」


なるほど。森は日帰りできないのか。……じゃあ、今回はパスかな。店主さんを心配させるわけにはいかないし。


「納品依頼はある?」

「ツノウサギの皮ですね。多少の傷は構わないらしいです」

「え、皮って剥ぎ取れるんですか?」

「剝ぎ取る……というか、ドロップします」

「ドロップ!?」


今、新事実が発覚した。

ドロップってなんだ。私、知らない。


「魔獣を倒すと、死体が消えてその魔獣の部位の一部が残るんですよ。ツノウサギの場合は、『兎の角』が確実に1本と、皮や肉などがどれか1つの、計2つ部位がドロップします」


知らなんだ。というか、あの爆発の中、角だけが綺麗に残ってたのってそういう理由か。あれ、じゃあ他の部位は?


「あ、そうです。あまりに魔獣の損傷が酷いと、ドロップ数が減ったりするらしいですよ? 剣で倒すと皮に傷がついていたりもしますし」

「そうなんだ」


そういえば、毎回爆発四散させてたね。損傷の酷さの基準は分からないけど、アレは明らかにアウトだよね。


でも今の私に爆破以外の攻撃手段は無いし、納品はまだお預けかな。


「今日はおとなしくウサギでも狩ってます」

「あ、そうです。実は昨日、ツノウサギの討伐数があまりに増えてまして、買取価格と報酬金が暴落してるんですよ」

「おぅふ」


私はとことんついてない。





場面は変わって広大な草原。

早急に強くなった人達は森に向かったのか、昨日よりいる人は少ない。私は狩場が被らない様に移動を開始。この場において、無用なトラブルは避けるべきだ。


……さぁ、いつも通り爆☆殺の時間だよ!



と、その前に、今回は新兵器『硬卵爆弾』のお披露目をするんだった。

アイテムBOXから、直接手の上に出してみると、見た目はほとんど変わり無い普通の卵だった。


試しに握ってみると……うん、硬い。

私のか弱い握力じゃ、ヒビも入らない。殴ると普通に痛いレベルだ。

どうやら、硬くなっているのは中身じゃなくて殻の方みたい。


じゃあ、爆発させるとどうなるのか……早速実験と行こう。







目前3m地点に敵を発見。

現在、スニーキング中であります。


中腰になり、体を長い雑草に埋めながら、私は静かに移動する。

右手には『硬卵爆弾』。左手には保険の『卵爆弾』。倒し損ねた時に投げるのだ。



目の前には、チロチロと見える長い角。流石暴落しているだけあって、見つけるのに苦労した。勇者共自重しろ。

絶対に外さない距離まで近づき、そして……ついに私は硬卵を投げた!!



ーーポンッ



『ピキャッ!』


ウサギの可愛らしい悲鳴。と、同時……。



『何かが私の頬を掠めて飛んで行った』



何が起こったのか全く分からなかった。

ただ、細長い草を切り裂きながら何かが私に向かって飛んできたと言うことしか。


まさか、ウサギの新技!? 恐怖に慄きながらも、ウサギの音がしない事を確認し、様子を見るために近づいた。



すると……そこには予想だもしない光景が広がっていた。



まず、卵爆弾としての能力は下がっていた。硬い殻が邪魔で、中身の爆発の威力が抑えられてしまったのだ。だから、あの木っ端微塵にする威力は無くなっていた。


しかし、その殺傷力はむしろ上がったんじゃ無いだろうか。


なんと、目の前には……相変わらず綺麗なままの兎の角と……無残にも切り刻まれた、兎の皮が残っていた。



硬い殻に阻まれて、爆発自体は抑えられたが、その殻を破る程度の爆発力はあったのだ。なので、その爆発は卵の殻をぶち破り、爆風により遠くへ飛ばした。

そして、飛ばされた殻は熱で断面を溶かされ、飛ばされた衝撃で鋭く尖る。

そして、風圧で冷え固まり、元の硬さを取り戻せば……それはもう、敵を突き貫く凶器となる。


拡散弾……いや、徹甲弾? この威力なら、ある程度のものならブチ抜けるだろう。


……まぁ、今回はウサギに直接卵を当てたから、鋭くなる前に皮膚を貫いてしまったため、若干皮のあちこちが押しつぶされてしまっている。

そもそも、何かにぶつけないと爆発しないんだから仕方が無い。


……だけど、さっき私の頬を掠めたアレが、最大威力の刃だったとして、あと数cmズレていたらと思うと……ゾッとしないね。


頬を伝う暖かい液体を拭いながら、私は皮と角を回収する。


これは、もっと離れた位置から投げないと、私が危ないね。



それにしても、また傷が残ってしまう。命懸けなんだから仕方が無いとしても、顔は女の命と言うし、あまり残したく無いんだよね。

そう思いながら、『卵薬』を飲み、傷口に塗る。……沁みる。


この使い方が正しいかは分からないけど、なんとなく癒してくれそうだから、やる。

実際火傷は抑えられたし。……少し残ったけど。



私は、ふと右手には視線を下す。この世界で初めての戦闘。初めての負傷。


名誉の負傷なんかじゃなくて、ただ私がバカやらかしただけなんだけど、それでも、この傷痕には何か思い入れが出来てしまった。

きっとこれからも、沢山傷ついていくだろうけど、きっとこの傷の痛みだけは忘れない。


これは私が生きている証だから。




『ピキー!』

「ふえっ!?」


感傷に浸っていると、背中に衝撃。しまった、いつの間にか見つかっていたらしい。

のしかかられて逃げられない……このままじゃ……!!


「これはもう……いいっての!」


保険用に握っていた卵を右手に持ち替え、私は……背中目掛けて思い切り振り上げる。




ーードッ!!





『レベルが上がりました』



「……ははっ」


これは、忘れたくても忘れられないな、と。激痛の走る右手を握り締めた。

何度も言いますが、この作品はギャグテイストで行きます。

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