だいさんわ 勇者は水面と黄昏る
みなさんこーんにーちわー。
卵は食べてますか? 焼いてもよし茹でてもよし煮てもよし生でもよし。万能食材の最前線をゆく食べ物はやはり卵ですよね。
メインに、副に、デザートに、調味料に。
……あれ、卵って神様ですか?
60Gを見事受け取った私は、日が落ちるまでは街の中の散策をすることにした。
もうすぐ門がしまってしまうので、今出たら野宿になってしまう。
MPもまだ回復しないし、服も買わなきゃいけない。
だけれどもお金がないから遊べない。
ないない尽くしの人生だけど、せめて誇りは捨てたくない。
これ、私の生き様。
「1番安い服下さい」
「50Gだよ」
「高いですまけて下さい」
「ほぼ原価だよ!? これ以上安く出来ないよ!」
「じゃあ1G。1Gでいいから」
「……49Gだよ」
「ありがとうございます」
ん? 誇り? なにそれ私知らない。
人間、生き汚いくらいが丁度良いのよね。
「ありがとうございました。また来ます」
「もう2度と来ないでおくれ」
さて、無地で荒い作りのワンピースタイプだけれど、新しい服は手に入れた。
袖なしでも、上からボロボロの制服を羽織ってなんとか誤魔化す。……お、これも中々、ダメージジーンズ的なファッションセンスが……無いな。
ダサい? 女を捨ててる? だからどうした。金がなければ余裕もなくなる。世界の真理だよ。
さぁ、奇異の視線に耐えつつも街の中で一番広い空間、中央広場に出た。
夕方だからか、人はまばらだ。
中央広場のさらに中央、円形の水槽の、真ん中に立つ塔から水が吹き出て、塔の半ばからお皿の様に広がった傘の中に溜まって、端から落ちていく、チョコレートフォンデュみたいな噴水(この世界では魔力で技術を補っているらしい)の石レンガでできたふちに座る。
さて、あとはここで日が落ちるまで待たないとね。
ん? 何で待っているのか? それは、少しでも安く宿に泊まるため。
今から宿屋に行って「一番安い部屋で」と言っても、相手も商売。きっと案内されるのは、「二番目に安い部屋」だという事が予想できる。
異世界の宿屋といえば、何かと値段を釣り上げたりと、ガメツイ所があるイメージが強いからね。
それで、なぜ日没だと安くなるのか。それは、ほとんどの宿の部屋が埋まるからだ。
宿に泊まりたいほとんどの人が、高い部屋に案内されているうちに、余った部屋は一番安い部屋になることは必然。
つまり、誰よりも遅く宿に入る事こそ、節約の秘訣というものなのだ(ドヤッ)。
もち、値切りも忘れない(ドヤドヤッ)
しかしまぁ、それまで1時間くらいかな……何しよう。
……あ、そだ。
「ステータス」
JPでスキルとか習得しよう。
私の持っているJPは1000。レベルアップ特典で手に入れたものだ。
このJPの使い道はいくつかある。
まず、『スキル』を習得する事。
スキルは、自分の意思で発動する事で効果が及ぶ能力。自動的に発動する事はない。MPやHPを消費して発動するものが多い。装着最大数は10だけど、1000JPの消費で『スキルスロット』を1枠開放できる。
次に、『アビリティ』を習得する事。
アビリティはスキルと違って、永続的に発動する能力。アビリティにはそれぞれランクがあり、装着したアビリティのランクの合計が、10を超えてはいけないという事になっている。
次に、能力値に変換する事。
1000JPでHP、MPを10アップ。それ以外を1アップできる。
主な仕様法はこのくらい。さて、じゃあ早速、新しい能力を覚えていこう。
まずは、ファンタジーゲームの基本。能力値の底上げを行う意味で、アビリティを優先して覚えようと思う。
今、覚えられるアビリティから、めぼしいものをまとめてみた結果、こんな候補が上がった。
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【アビリティ】
『HP上昇Lv1 ☆2』:400JP
『MP上昇Lv1 ☆2』:400JP
『攻撃力上昇Lv1 ☆2』:200JP
『防御力上昇Lv1 ☆2』:200JP
『知力上昇Lv1 ☆2』:200JP
『精神力上昇Lv1 ☆2』:200JP
『敏捷力上昇Lv1 ☆2』:200JP
『器用度上昇Lv1 ☆2』:200JP
『体力Lv1 ☆3』:600JP
『魔力Lv1 ☆3』:600JP
『攻撃Lv1 ☆3』:300JP
『耐久Lv1 ☆3』:300JP
『智学Lv1 ☆3』:300JP
『瞑想Lv1 ☆3』:300JP
『走力Lv1 ☆3』:300JP
『手芸Lv1 ☆3』:300JP
『節約Lv1 ☆4』:500JP
『職人Lv1 ☆4』:500JP
『爆弾魔 ☆1』:600JP
『破壊技巧Lv1 ☆4』:500JP
『薬剤師 ☆1』:600JP
『狙撃手 ☆1』:600JP
『堅実 ☆4』:1000JP
『賭博師 ☆5』:1500JP
▲
色々省いたらこうなった。省いたのにこうなった。
そして、名前しかないので効果が一切分からない。何この鬼畜っぷり。
あれか、直感だけで選べというか。
とりあえず、☆の数がランクなので、これが10を超えないように選ばなければならない。
多分、上の方にあるのが、基礎能力の底上げをする効果のアビリティだと予想。
……しかし、『HP上昇』とか、『体力』とか……。一体どんな違いがあるのかと……。
こういう時は研究するのが一番。という訳で、私の持ってる能力値の中で一番高い器用を上げる、『器用度上昇Lv1』と、それと対応していそうな、『手芸Lv1』を取ってみる。
手芸は趣味でもあるので、若干私情が入っている感じもあるけど。
その結果、分かった事。
まず、『上昇』系アビリティは、『固定値上昇』だ。
Lv1だと、10上昇する。
次に……何系って言うんだ? 『トレーニング』系? ……こっちは、『割合値上昇』と、『成長補正』がある。
これは、基礎能力値の5%、能力値が上昇する。それと、レベルアップ時に、能力が上昇しやすくなる。
割高、高ランクなだけあって、重要な効果を持っているみたい。
なるべく序盤に取っておきたい。
と、いうわけで、『走力Lv1』を迷わず選択。力及ばずとも、逃げれば勝ちである。
これで残りJPは200。基礎能力『上昇』系アビリティしか取れないけど、『トレーニング』系の効果を知った手前、こちらを手に入れる事ははばかられる。
『上昇』系でランクを埋めるのが勿体無いというのもある。
なので、残りはアビリティではなく、『スキル』の習得に使う事にした。
▼
『卵の愛し子』:10000JP
『卵生成Lv2』:800JP
『爆弾化Lv2』:500JP
『薬化Lv2』:600JP
『投擲Lv2』:400JP
『諸刃の剣Lv2』:1000JP
『起死回生Lv2』:1000JP
『硬化Lv1』:200JP
『軟化Lv1』:200JP
『色彩変化Lv1』:100JP
『卵鑑定』:300JP
『重量変化Lv1』:2000JP
『質量変化Lv1』:3000JP
『卵料理Lv1』:1000JP
▲
めんどくさいからここまで。あと、取れるのが『硬化』と『軟化』、『色彩変化』しかない不思議。
……わかんないから『硬化』でいいや。
こうして私は、新しいアビリティとスキルを引っさげ、更なる強みへと一歩踏み出したのでしたー。パチパチ…………強くなってるの? これ。
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【玉藤 国華 Lv2】
『種族:人間(勇者)』
『職業:卵戦士 Lv1』
『称号:九死に一生』
【能力値】
HP:165/110
MP:108/110
筋力:6
防御:14
知力:16
精神:12
敏捷:27
器用:54(+12)※単数切り捨て
【スキル】
『卵の申し子』『卵生成Lv1』『爆弾化Lv1』『薬化Lv1』『硬化Lv1』『投擲Lv1』『諸刃の剣Lv1』『起死回生Lv1』
【アビリティ】8/10
『器用度上昇Lv1』『手芸Lv1』『走力Lv1』
【装備】
頭:
頭アクセ:ヘアピン
胴:布の服
胴アクセ:ボロの制服
腕:腕時計
腰:布の服
腰アクセ:
足:ボロのスニーカー
足:ボロのハイソックス
アクセ:ヒビ割れたネックレス
武器:なし
▲
さあ、これが今の私のステータス。……うん、強くなってる気がしない。
っと、いつの間にかMPが回復している。早く使わないと勿体無い。
取り敢えず、戦闘中に弾切れとかシャレにならないから、爆弾を多めに抱えておこう。
幸い、アイテムBOXに入れられるから、置き場には困らな…………げっ!? 卵って『品質』毎に分類されるの!?
『品質』とはなんぞや、と思う方のためにご説明。
『生産スキル』などで生産したアイテムには、それぞれ品質というものがあり、うまく作れた場合、品質ボーナスとして、アイテムの出来具合に「+1」~「+5」が表される。この値が高いほど、良いものという認識で合っている。
そして、品質は上のものの方が効果は高くなる。例えば『卵爆弾』なら攻撃力が上がるし、『卵薬』なら回復力が上がる。『卵』のままなら美味しくなるなどだ。
そして、今私のアイテムBOXの中身は、こうなっている。
▼
『卵爆弾』×3
『卵爆弾(+1)』×2
『卵爆弾(+2)』×6
『卵爆弾(+3)』×4
『卵爆弾(+4)』×4
『卵爆弾(+5)』×3
『硬卵爆弾(+5)』×1
『卵薬(+3)』×2
『卵薬(+4)』×5
『卵薬(+5)』×2
▲
これはひどい。
まさかの卵が枠を圧迫してるでござる。
『生産』は、『器用値』の高さに依存しているようで、私は異常なほど器用値が高い事もあってか、高品質の卵が作りやすい。
よって、+4とか+5がゴロゴロ(卵だけに)あるんだけど……これは、そのうち地獄を見る予感しかしない。
なんとなく作った『硬卵爆弾』もちゃんと入っている。これ、思いつきで作ってみたけど、強いのかな?
まあ、BOX圧迫問題は今更どうにもできないし、新兵器もお披露目も明日のお楽しみ。
……いつの間にか辺りは真っ暗。まばらにいた人影も、今は一切見る影なし。
……そろそろ、今晩の宿でも探しますか。
なるべくぼろ宿がいいよね。うん。
「うちはもう満員だよ」
「あ? ダメダメ。この時間からは入れない事にしてるんだ。そもそも、部屋がないしな」
「ごめんね~、うちにはもう空きがないのよ~」
「満員です。申し訳ございません」
…………前途多難(自業自得)の旅は、続く。
レベルアップは勇者の楽しみの一つ。
しかし、報われない勇者の卵には、成長が自覚できていないようです。お労しや、南~無~。人