だいいちわ 勇者のすべき事
アホみたいな話がまだまだ続きます。
「……さて。これからどうしよ」
まずは戦うべき。戦うべきなのだが……。
……どうやって戦えばいいんだ……!?
武器もない、力もない、スキルも見事に光ってない。
あれか? 卵作って爆弾にして投げろと申すか?
アホくさ……でも、方法がそれしかないのも事実。……卵ってどうやってつくんの?
……いや、でも……まさか……いや、考えるのはよそう。
……そもそも、卵戦士て何さ。それはジョブとして成立してて良いものなの?
まあ、いい。己を知る事は大切だ。バトル漫画で誰かが言ってた気がする。
まずは、スキルを検見するのだ。なにか活路が見つかるかもしれない。
まずはそう……この、一際異彩を放つスキル……『卵の申し子』からだ……。
恐いけど……怖いけども……っ!!
「詳細説明……! な……なんだ……コレは」
私は、このスキル効果を見て絶望する事となる。いや、ほとんど予想通りなんだけどさぁ……。
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【卵の申し子】
卵に選ばれし者のみ持つ事が許される栄誉の証。
卵が関するスキルに超特大補正。
卵以外作れない。卵以外爆発しない。卵以外効能ない。卵以外投げれない。
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はい、詰んだ\(^o^)/
なんですか? これ。完全に爆弾化と薬化と投擲を縛ってきました。戦い方は決定しましたが、その分手は限られました。
いや、逆に考えるんだ。素人の私に応用の効く能力などいらないと……!
開き直るんだ、私。むしろ、持ち慣れない剣を持たずに済んで良かったじゃないかと。
これでオオカミに牙を突き立てられても、ウサギに貫かれても本望だ……アホか。
とにかく、今は手元に卵がなければ何もできないという事は確か。
まずは、卵を生成するのだ!
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【卵生成 Lv1】
魔力を消費し、卵を作る。作った卵は孵化しない。レベルが上がると、卵の質や生成できる種類が増える。
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まずはスキルを発動したいって念じるんだよね。うーむむむむ……むん!
瞬間、ポカポカと手のひらが暖かくなってきた。
手のひらを上に向け、水をすくう様な形で手を合わせる。すると……。
手の上には、皆が知っている、お馴染みの楕円形をした白い卵が一個、乗っかっていた。
「うわっ」
気持ち悪がって落としてしまった私は悪くない。
ーーツンツン
ーーコロコロ
草のクッションの上で転がる卵に、怯むことなくアタックする私。
敵はビビって動かないでいるぞ! 今のうちに畳み掛けるんだ!
……お遊びはここまでにしよ。
さぁ、遂に武器を手にした私に死角はない。
この卵を生み出すのに、MPを10消費してしまった。
最大MPの10分の1だ。魔法使いの使うファイアーボールが、5MP消費と考えると、圧倒的コスパの悪さだ。きっとその分強力に違いない。
さあ、今こそ決戦の時。
打倒ウサギを目指してガンバロー。
草原のど真ん中から1キロくらい歩いた所にある、草原のど真ん中。
ここなら勇者があまりいないため、邪魔が入らず、心置きなく戦える。
主に、卵を投げつけて戦うなんて発狂ものの痴態を誰にも見られないと言うのが大きい。
数メートル手前には、背の高い草の間からヒョコヒョコ見えている一本のツノ。
この草原では一番弱い魔獣の、ツノウサギである。
さあ、ここが貴様の墓場となるのだ。
くらえ、たまごばくだん!
てやー!
ーーひゅー…………ペシャッ。
……およ?
『……ピ』
ピ?
『ピキィイイイ!!』
「ピィイイ!?」
オコデスカー!?
『ピキッ! ピキッ! ピキィイイ!!』
「わ、ちょっ! タンマ! ストップ!!」
なんで爆発しないの!? 私には爆発スキルが……あ。
これ、自動発動じゃない……とか?
「なーんーでーぇええええ!?」
『ピキキィ!!』
「オゥフ!」
まずい! のしかかられた! これじゃ身動きが……意外とデカイよこの子! 大型犬位あるよ!
このままじゃ……串刺し……っ!
嫌だ……私は、まだっ!!
「死にたく……ないっ!!!」
無意識のうちに手の中に生成していた卵を、強く握る。
ピキピキと音を立てて罅が入るが、私は気にもせず、卵を握ったままの右腕を、大きく振りかぶった。
「爆……弾……化!!」
そして、ウサギの頭に向けて振り下ろし……。
ーードッ!!
草原の真ん中で、小さな爆発が起きた。
草原の一角。そこは、まるで小さな爆発でも起きたのではないかと思えるクレーターが出来ていて、その中心には、哀れにもクレーターの原因に巻き込まれたツノウサギの長いツノが根元から折れた状態で発見された。それと、もう1つ。原型もわからぬほどにボロボロになった、赤いスカーフも、現場には残されていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……生き……てる? 」
私は今、爆心地から5メートル程離れた草むらの中で寝転がっています。服はボロボロですが、運のいいことに、機能は失っていません。また街に戻ったら新しい服を買わなければ……。
「そう……買い物しなきゃ。だって……生きてるんだもん」
食べ物も、買わなきゃ。
「生きてる……」
宿、どうしよう。
「生きてる」
あぁ、倒したウサギの素材、剥ぎ取らなきゃ。
「生きてる……生きてる!」
あの爆発の中、どうして生きているのかは分からない。でも、火傷でグズグズになっている右手と、体中に刺さったウサギの骨。そして何より、この全身の痛みが、私がまだ生きている事の証明に他ならなかった。
「あはっ、あははははっ!! あはははははは!!!」
この日、私は生きる事の素晴らしさと、難しさを知った。
この話はなるべくソフトにギャグテイストでいきたいと思っています。




