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幼馴染だった過去

病室にて。2

作者: 鞠谷 編花

 光が跳ねて、葉を伝う。

 雫が落ちて、砕け散る。

 風が舞い、熱気を運ぶ。


 そんな季節に、いつしかなった。


 陽は暫く、姿を見せなくて。

 窓には滴が伝い、線になり。

 風はすべてを、唆す。


 あの時は、そんな季節だった。




 あの時、突然電話がかかってきた。

 不本意だが馴染みになっている、大きめの病院からだった。

 ちょうど仕事にキリがついて、一旦休憩にしようとしていたところだった。


「……くん──?」


 そこはオルのかかりつけの病院でもあり、サキちゃんが運ばれたのも、たまたまそこだった。

 ハナちゃんの知り合いが先生をしている精神科も近くにあって、毎週見ている場所だった。

 私にとってそこは、今では『死』の臭いが充満している嫌な場所だ。

 昔はそうではなかったんだけど。


「……本当──ですか」


 信じたくなかった。

 また、あの臭いが濃くなる。

 密度が高くなる。

 また、大切な人が。

 また──


「……すぐに──向かい、ます……──。」


 ハナちゃんじゃなくて私に電話が来たのは、病院に運ばれたキョーくんが写真を持っていたかららしい。

 オルとサキちゃんがキョーくんを無理矢理連れ出して挟んで撮った、あの頃の象徴ともいえるような。

 それを見た看護師さんがオルのことを覚えていて、私に電話をくれたらしい。


 すぐに病院に向かった。

 車だと何かあってはいけないから、バスを利用して。

 定期券と鍵が入れっぱなしになっている鞄を掴んで、家を出た。


 病院に着くと、案内された部屋のベッドでキョーくんが眠っていた。

 外傷は、擦り傷程度。

 魘されることもなく、穏やかに、寝息をたてていた。


「──キョーくん」


 少なくとも見た限りでは大きな怪我がないことにひとまず落ち着いて、ハナちゃんに電話をかけた。

 たまたま家にいたらしい好一(コー)くんに車で送ってもらったらしくて、久しぶりに目にするキョー君のお兄さんは背が高くなっていた。


 キョーくんが発見されたのは、彼らの母校の中学校の中庭らしい。

 巡回していた警備員さんが見つけ、救急車を呼んだ。

 おそらく、屋上から飛び降りたんじゃないかと私は思った。

 外は雨が降っていたから、足を滑らせたんじゃないかって警備員さんは言っていたって看護師さんから聞いた。

 でも屋上は、どんな時でも立ち入り禁止。

 鍵は職員室に保管されているし、いつも施錠されているかどうか確認しているはず。

 昔、屋上が解放されていた頃、昼休み、誰かが屋上から落としたものが下を歩いている人にぶつかって、あわや死ぬところだったって事故があったかららしいけど、落ちたものが何だったのか聞いたことがない。

 だけど施錠されていても、キョーくんには関係ない。

 キョーくんには変なコネと無駄スキルがあるから。

 鍵をあける仕事の人も知り合いにはいたし、錠を見てぴったりな鍵を作ることができる人もいた。

 それに、簡単な鍵ならヘアピンとか針金でピッキングできる無駄スキルも持っていたから。

 キョーくんはいつも、そのためにヘアピンを常備していたし。


 立ち入り禁止の屋上に侵入する方法なんて、彼にはたくさんあっただろう。

 勝手知ったる母校だから、そこまでいくのは簡単だったはず。

 雨の日に手間をかけてまで屋上に行く理由なんて、多くは思い浮かばない。

 彼はたぶん、もう、昔のキョーくんだから。



 それから数か月、眠り続けている。

 一度も目を覚まさずに。

 脳にも神経にも、その他臓器にも、どこにも目立った異常はなかった。

 何度検査しても、結果は同じ。

 血圧とか脈拍にも異常はない。

 おそらく精神的なものだろうと、医師は言った。


 お見舞いにくる度に痩せていく。

 手を加えられない長い髪が、不健康さを際立たせている気がした。

 彼の目が覚めたら、まずは髪を切ろう。

 気分を変えるためにも、まずは外見から入らないと。


 いつになったら、起きるかな。

 沢山の人に迷惑をかけて、支えられて生きてきて、まだまだ世話の焼ける子供みたいだ。

 もう大きくなったのに。

 大きくなったのは体だけなの?

 いままで助けられたぶん、今度は君が、助けていかないといけないんだよ?

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