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sub episode 参謀と技術屋の日常の日常

作者: 28K。

 「それで、ナニコレ」

 目の前にはボール紙で包装されたひとつの小包があった。

 大きさにして、だいたい両手に収まるくらいだ。

 「グレーに貰ったんだけどさ、中身が何なのか聞くの忘れちゃって」

 「はぁ?」

 意味が分からない。

 しかし、当の本人は特に気にした様子もなく、くたびれたソファーの上で薄っぺらい謎の機械を弄りまわしていた。

 「全く話が見えてこないんだけど…」

 「ん?えっとね」

 レッドラムがこちらを一度も振り向かずに説明してくれた内容を要約すると、先日、グレーが商売客からもらったプレゼントをそのままレッドラムの家に放置して帰ったらしい。

 グレー曰く、レッドラムが持っていた方がいいとかなんとか。

 「それで、貰ったのはいいんだけど、中身がなんなのか聞くの忘れちゃったからさ、開けるのメラにも手伝ってもらおうと思って」

 薄っぺらい機械から目を離さずにレッドラムは続ける。

 「そのためだけに私を呼んだの?」

 目の前の小包を開けるのにそんなに労力がかかるとは思えない。

 わざわざ私を呼んだ意味が分からなかった。

 「帰っていい?」

 自然と口からあくびが漏れる。

 今から帰れば日没までにあと数時間は眠れるだろう。

 「ちょ、ちょっと待てって」

 そんな私の気配を感じ取ったのか、レッドラムが慌てて振り返った。

 「いや、よく聞いてなかったアタシも悪いんだけど、グレーからコレ貰った時にさ、なにかに気をつけてって言われた気がするんだよね」

 「気をつけて…?」

 またよくわからないことを…。

 「そう、"何に"だったのかは忘れちゃったんだけど、もしこれで中身が爆弾とかだったら大変じゃない?だからもしもの時のためにメラにもいてもらおうかと思ってさ」

 身振り手振り説明するレッドラム。

 なんで急に物騒な話になった。

 「いや、爆発物って…。第一、普通プレゼントに爆発物なんて送らないでしょ」

 「普通はね。でもグレーだし、ありえなくはないかなって」

 「あー…」

 そう言われると確かに怪しくなってきた。

 グレーのことだ、別に欲しくもないモノ、しかも扱いに困るモノを他人を困らせるために欲しがった可能性は高い。

 というか、グレーならやりかねない。

 「だとしても、爆発物なら私よりラムの方が詳しいでしょ」

 「物自体はね、だけどとっさの判断ならアタシよりメラの方が断然早いからさ」

 ああ、なるほど。

 そういうことか。

 得心し、包みへと手を伸ばす。

 「爆弾かもしれないものを友人に開けさせる?普通?」

 「頼むよ~、こんなことメラにしか頼めないし」

 はいはい、と悪態をつきながらボール紙のふちに手をかける。

 同時に体内のナノマシンを活性化、動体視力と瞬間的な身体能力を限界まで引き上げる。

 tipsから得られた視覚データからでは包みの中身がなんなのかははっきりとはわからない。

 ただ、箱状の機械のようなものだとしか情報は得られなかった。

 これで本当に爆弾だったりしたらどうしよう。

 まさか、という気持ちとグレーならやりかねない、という気持ちが頭で渦巻く。

 「全力は尽くすけど、最悪家具程度は覚悟して」

 「う、了解」

 レッドラムは既に机の下へと避難していた。

 短く息を吸う。

 ボール紙のふちに指をかけ、口から息を吐き出すのと同時、一気に紙を引きはがす!

 「南無三---!」

 視覚から得られる情報を解析し更新。次に取るべき行動パターンを構築し、最善の方法を瞬時に選択する。

 並列的に脳を稼働させたおかげで、最終的な判断を導き出すまでに1秒と掛からなかった。

 「くだらねー…」

 「なに!?やっぱ爆弾!?」

 私が包みに手をかけた瞬間から頭を覆っていたレッドラムはまだ事態を把握できていないようで、来ることのない爆風に備えて体を硬直させていた。

 「いや、爆弾だったらこんな呑気にしてないでしょ。ほら、これ」

 包みの中身は時代物の古いカメラだった。

 「私はこういうの詳しくないけど、好きでしょアンタ」

 レッドラムが持っていた方がいい、というのはその通りの意味だったのだろう。

 グレーも私も、アンティークとしての価値しか持たないモノにはあまり興味はない。

 「うわっ!一眼レフじゃないか!すごいよそれ!」

 包みの中を見せた途端、机の下から飛び出し、私の手からカメラを奪い取った。

 「すごいな、当時の技術者の魂を感じるよ!ロマンだな…」

 うわごとの様につぶやきながら食い入るようにカメラを見つめる様は、若干気持ち悪い。

 「一眼レフってなに?そんなに凄いもんなの?」

 その一眼レフを手にしたレッドラムは、若干息を荒くして、カメラのレンズを私の目の前に突き出した。

 「凄いというか、感じない!?こう!」

 「いや、言ってる意味わかんないけど…、でもラムがそんなに興奮するなんて珍しい」

 「あはは…。いや、アタシじゃ欲しくても手が出なかったからさ」

 少しテンションが落ち着いたのか、恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。

 「手が出ない?」

 ちょっと意外だった。

 普段から大枚をはたいてよくわからない機械を買ってくるレッドラムらしくもない。

 「うん。こんなに状態のいい一眼レフ、今買おうと思ったら10万W$はくだらないからなぁ」

 「ふーん。わーるどどる?って日本円にしてどのくらいなの?」

 恥ずかしながら為替レートや世界経済については全く詳しくない。

 というか為替レートなんかを気にしなくても決済ができてしまうので特に今まで気にする必要がなかったというのもある。

 「一千万円くらい?」

 「げふッ!?」

 むせた。

 「ちょっ、ラムそれ寄越して!骨董市行ってくるから!」

 「ダメに決まってるだろ!」

 両腕で一眼レフを覆うようにするレッドラム。

 「いいから早く!大丈夫、悪いようにはしないから!」

 「骨董市って、売るつもりだろ!ダメだダメだ!これだけはメラといえども譲れない!」

 骨董品を巡る争いは一夜を通して続き、翌日、グレーに仲裁されるまで続いたという--。

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