04 事実
「大犬さんへ
まずあなたに謝らなくてはいけないことがあります。姫さまからだと渡した手紙は実は私が書いたものなの。ごめんなさい。本当に申し訳なく思ってるわ。
最初はあなたのために何とかするつもりだったけど、ある人の助言でそうすることにしたの。最初のうちはびくびくしてたわ。姫さまの名をかたり、あなたをだますんですもの。でも、そのうち少し楽しくなっちゃった。
だってあなたのことが好きだから。小さいころから好きだった。あなたは気付いてなかったでしょうけど。
もちろん、あなたをだますのは心苦しかった。だから、あなたに会わないようにしていたの。
昨日会った時は辛かった。それで私、決めたの。
さようなら。
シキより」
信彦にはさまざまな思いが駆け巡っていた。『怒り』、『悲しみ』、『絶望』.......。
しかし、信彦はしばらくたつと医師の顔になった。信彦は、「おそらくシキは自殺するだろう。防ぐなり、それが無理でも手当てするなりして、最悪な状況は防がなければいけない」と思っていた。
それに彼にとって彼女は幼なじみで、とても大切な人たちの一人。そして長年、彼女の想いに気付かないだなんて、信彦は情けなかった。そうすればこうはならなかったかもしれない。
「ぼうや、この手紙を渡した人はどこにいるか知らないかい?」
手紙を届けた少年が近くで遊んでいたので、信彦は尋ねた。
「今、どこにいるなんて知らないよ。だって朝方、渡されたんだ」
「えっ!朝方?」
「先生はそんなことも忘れたの?先生がそう女の人に言ったんでしょ」
少年はくすくす笑っていた。
信彦は少年のあざけりも耳に届いていなかった。もしかしたら彼女は助からないかもしれないという思いで、いっぱいだった。
「彼女にはどこで会ったんだ?」
と信彦が聞く。
「朱雀大路と七条通りがぶつかったあたりだよ」
「そのあとは?」
「知らないよ。見てないからさ」
「くそっ!」と信彦は思わずつぶやいた。
「うわー、きっとフラれたんだ!―――次は何して遊ぶ?」
少年は仲間のもとへ駆けて行ってしまった。
信彦の父親が患者を見送りに出てきた。そのあと息子を見て、あまりにも顔色が悪かったので
「信彦、どうしたんだ?何かあったのか?」
「父さん、シキが自殺しているかもしれない」
「シキ?......近所に住んでたシキちゃんが?」
信彦はこくりと頷いた。
「どうして?」
「後で話すよ。まず心当たりがありそうな人のところに行くから」
信彦は父とともに五条のお屋敷の方へ向かった。小春がちょうど出てきたところだった。
信彦は駆け足で小春のもとへかけよって
「小春、お前知らないか?シキの居どころ?彼女、自殺してるかもしれない」
信彦は早口でまくしたてた。
小春は「うそっ!」と言いながら、その場に崩れ落ちた。
「これを読んで」
と信彦はシキからの手紙を差し出した。
「私、字なんて読めない。......だけど、きっとあのことね。あなたを騙したことがたえられなかったのね。私がいけないのよ。あんなこと勧めるから」
小春はよろよろと立ち上がって
「家へ案内するわ。もしかしたら、そこかもしれない」




