02 恋文
信彦がシキに恋文を託してから2日たった。信彦はずっとそればかりが気になっている。ちゃんと読んでくれたのだろうか、父親(五条の大夫)に見つかっていないか、姫君は気に入ってくれるのかと....。
信彦はそんなことを想いながら、怪我人の治療にあたっていた。今、父親の善行は出ていていなかった。といっても簡単な処置だし、信彦も腕は悪くなかったので心配はない。
「これで大丈夫ですよ」
「先生、どうもありがとうございます」
と怪我した若い男。
「大犬さん、います?」
とそんなとき、若い女の声がしてきた。シキとはまるで別の声だ。
信彦はちょうど治療が済んだところだったので、外に出てきた。女はどこか勝ち気そうな雰囲気で、背中に手を回して何か隠していた。
「初めまして。私はシキの遠縁の小春よ」
確かに言われてみれば、似ている気がすると信彦は思った。
「どうも。初めまして」
「もちろん、あいさつのために来たわけじゃないの。これを預かってきたのよ」
小春は背中から、フジバカマとそれに結んだ手紙を差し出した。
「返事が来たんだ!」
信彦は急いで手紙を開いた。
信彦から姫君へ
~~ほととぎす 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな~~
(意味 ほととぎすの鳴く五月に咲くあやめ草、その名のように、物事の「あやめ(=分別)」もわからないような恋をすることだ)
引用 古今和歌集(よみ人知らず作)より
姫君から信彦へ
~~玉の緒よ 絶えねば絶えぬ ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする~~
(意味 私の命よ。絶えてしまうものなら、絶えてしまっておくれ。これ以上生き長らえたら、忍ぶ恋心を抑える気持ちが弱ってしまい、人目について困るから)
引用 新古今和歌集(式子内親王作)より
信彦は姫様からの手紙を見て、身震いがした。内心ではおそらく来ないだろうと、思っていたからだろう。そして、それほど自分を思っていると考えると涙が出てきそうだった。
「小春、ありがとう。シキにもよろしく伝えておくれ。また手紙を書くから、次は届けたほうがいいかな。今日の昼八つ(午後3時ころ)なんてどう?」
「そうね....お屋敷の東の門に届けてよ。私が受け取るわ」
「君がか?」
「えぇあの子、忙しいみたいなのよ」
「ふーん」
信彦は少し残念だと思った。
信彦はそれから小春を通じて、何回か手紙のやり取りをした。不思議とシキには会えなかった。




