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少女と戦争  作者: 長月あきの
第二章 第一部
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第十九話 談話2 戦争概念

 ヴィレムは弱々しく微笑み、視線を落とす。


「争い事が嫌いならば何故人は争うのでしょう。戦争など起こらなければいいのに」


「もしかして戦争は人が憎みあって起こっているなどと思っていませんか? 戦争が起こらなければ平和になると思っていませんか?」


 ヴィレムの表情が疑問に染まる。


「だとしたらずれています。戦争とは正義と悪が戦っているわけでも、一方の正義と別の正義が戦っているわけでもありません。戦争の本質はただの外交手段の一つです。その底には貧困や主義や宗教の対立など色々ありますが、国同士の場合それらが話し合いで解決する事は稀です。そっちの国の資源が欲しいからくれと言われてあげる馬鹿はいないでしょう? 多くの場合取引が伴います。その交換条件をすり合わせてお互いの利益を見出だせばそれで解決します。それが成立せず片方の外交手札に相手より優位な軍事力があった時、戦争というものが発生します。一番下らない戦争が宗教戦争ですね。何故ならどちらが勝っても得るものがなく消耗した国だけが残る。そういう意味では今回の戦争は真っ当ですよ。何せ相手の狙いは土地と物的資源と人的資源だと判っている」


「外交……。戦争が外交ですか」


 ヴィレムが眉を顰める。汚いものに触れてしまったがそれを認めたくないといった顔だ。


「騎士の一騎討ちのようなものです。今回グラーフ王国に対しゼイウン側は連合を組み軍事力を大きく見せ、これ以上の侵攻はやめろと威嚇した。鎧を着こみ武器を翳してみせたわけです。ところが相手は怯まず向かってきた。あとは重鎧に対し刃の潰れた剣で、相手を殺してしまわないように叩き合うわけです。膝をつかせ、切っ先を突きつけて参ったと言わせる。殺してしまっては身代金が取れませんからね」


 実際相手を殺し尽くすような戦争は歴史上でも稀だ。多くは士気を挫くことによって勝利する。民間人を殺し尽くしてしまってはその土地をとっても旨味は少なく、賠償金を払わせることすらできない。それでは目的と手段が入れ替わってしまっている。

 稀、とは逆に言えば起こる事もあるということである。セラムはこの世界でポエニ戦争のような事態が起こる事を恐れている。

 かの戦争ではローマがカルタゴに対し二度の戦勝でそれぞれ賠償と従属に近い講和を結んでいる。しかしローマは第二次ポエニ戦争時に多大な損害をローマ本土に与えた将軍ハンニバルを、多額の賠償金を繰り上げ返済し急速に復興するカルタゴを恐れた。ローマ至上主義の元老議員大カトーは全ての演説を「ところでカルタゴは滅ぼされるべきである」と締めくくった。第三次ポエニ戦争ではその意見の通りに残り一都市となったカルタゴを焼き払い、虐殺し、作物が育たぬようにと塩を撒き呪いをかけた。カルタゴという国家は消滅し、残ったのは五万人の奴隷だけだった。

 そこには国家大戦略もあっただろうし世論もそのように傾いたのだろう。だがそんな事をおこしてはいけない、外交と言い切れるうちに終息させることが必須だと思っている。


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