第十八話 談話1
客人を見送った後再びヴィレムの元を訪ねる。予定外とはいえこちらも無視できない客人だ。
「お待たせしました。さて、ヴィレムさんはこれからどうしますか? 領内を案内することもできますが」
「いえ、少々疲れました。明日時間があればその時にお願いしたいですね。もしよろしければ僕とお話をしてもらえませんか?」
「いいでしょう。応接間に行きますか?」
「いえ、公的な話でもありませんし、この部屋のほうが気楽です」
「わかりました。ベル、小さい机と椅子、それとお茶を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
程なくベルとメイドが言われたものを持ってくる。机の上には紅茶と菓子が並び、呼び鈴が置かれる。
公子とのお茶会、鈴を鳴らせばメイドがやってくる。
今の境遇にある程度慣れてきたとはいえ、セラムは物語の中でしかあり得ないような状況に改めてクラクラしてしまう。自分は一体どこのお姫様だろう。
「目眩ですか? どこか具合でも……」
「いえ、少々緊張してしまっただけです」
ゲームの世界で女の体になっただけでもアレなのに、今度は公子様と婚約で和やかにお茶会だ。そりゃあ目眩もするさ。
心の中で毒づく。
「貴女からしてみればいきなり見たこともない年上の男と結婚ですからね。気持ちはお察しします。ですが誤解のないように申し上げます。確かにこの結婚は政略的な意味合いが強い。しかしながら貴女を大事にしたいと思う心が僕にあることはどうか信じていただきたい」
(何を歯の浮くような台詞を。こっちはそういう問題じゃないんだよ)
何せ精神的には男同士である。
「これからお互いを分かり合っていきたい。その為にもまずは僕の話をしましょう」
ヴィレムは柔和な笑みで話し始める。
「僕はリーンハルト銀翼公の第三子、三男として生まれました。武人として立派な父や兄達とは違い僕は戦いが苦手でして。情けないことに父からは『お前は戦の役には立たぬ』と言われる始末。日々本を読み暮らしていたのですが、此度この縁談を成功させるよう仰せつかった次第」
「見も知らぬ人との政略結婚など嫌だという気持ちは無かったのですか?」
「家の為とあれば否も応もありません。こんな僕にも役に立てる事があるのは嬉しいものです」
この辺りは現代人との意識の差だろうか。日本でも少し前は見合い結婚が当たり前だったのだから恋愛を求める方が贅沢というものかもしれない。
「それに戦場に立ち第一線で活躍している貴女に憧れもあったのですよ」
「ヴィレムさんは戦はお嫌いですか?」
「……はい」
「僕もです」
セラムが少し意地悪な笑顔を見せる。
「争い事が好きな人間なんて殆どいませんよ。ましてや生き死にがかかった事なら尚更。それでも戦場に立つのはそうしなければ生き残れないからです。戦争に負ければ良くて戦犯として投獄、最悪処刑です。自分だけではない、僕が好ましく思っている人達にも咎が及ぶ。僕は自分に出来る事をやっているだけです」
「……本当に自分が情けなくなる。僕には真似出来そうにない。僕に出来る事なんてあるんだろうか」
「何も直接闘うことが全てではありません。勉強が好きなら自分の得意分野で役に立てば良い。ヴィレムさんに出来る事を探して下さい。貴方に出来る事、貴方にしか出来ない事があるでしょう」




