第十七話 マエリス・カールストルム3
「わかりました、約束しましょう。しかし武器に興味がおありかと思えば次は料理ですか。噂以上に面白い御仁のようですね」
「そうですか? 僕は大した取り柄もない、つまらない人間ですよ」
本音だった。
趣味といえばゲームと読書くらい。特に面白い話もできない、ありふれた人間だった。ただ生きるために生きているだけの人間だった。
過去を思い出すのはあまり面白くない、これ以上は考えるのをやめて話を切り出す。
「ところで態々来られたのは商談のためではないのですか?」
「いえ、一通りの物は確かに揃えておりますが、顧客を尋ねる時はその顧客が欲しい物を見極めてから売り込む事にしておりますの。ですから今日の用向きは本当にただご挨拶に伺っただけですわ。勿論何か欲しい物がございましたら有る物はすぐにお売りしますが」
「うーん、今は特に思いつかないな。だけど今後世話になるかも知れません。その時のために連絡手段を教えて欲しいくらいかな」
「それでしたら王都にあるカールストルム商会の支店の受付にご伝言くださればすぐに参りますわ。もっともその時ヴァイス王国にいるとも限りませんが、貴女のご要望は優先します。……ああ、ところでふと思い出したのですが、道の看板に書いてある『通行時のすれ違いは左に避けること』というのは何でしょう。領内のいたる所で見かけたのですが」
「その事でしたら、流通が多くなると事故も増えるでしょう? 歩き同士ならいいんですが馬や馬車は重大事故に繋がる。なので避ける方向を定めておけば事故も減るし流れも澱みなく流れるというわけです」
「……確かに道理です。こんな簡単なことが考えつかなかったなんて……。その決まり、国中……いえ、大陸中に根付くと良いですね」
マエリスは深く考えこむように頷いた。
「では私はそろそろお暇しましょう。長々とお時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。今後ともカールストルム商会を是非よろしくお願いします」
「おや、もう行かれるのですか。手土産の品、ありがとうございました。またいつでも寄って行って下さい」
「近いうちに是非。本日は思いがけず楽しい一時を過ごせました。では」
そう言って女商人は金髪を揺らしながら屋敷を後にした。




