第十六話 マエリス・カールストルム2
「これは?」
「何分初めて会うお客様ですので好みがわからず、武人の方の邪魔にならずかつ珍しい物にしました。ここまでは使用人に持ってこさせたのですが、男が二人がかりで持つ程に重くて私では持ち上げられませんのでこのままで失礼します」
そう言いながら板の上に乗せたまま布だけを苦心して外す。豪奢な紐飾りが付いた、薙刀の刃の部分をごつくしたような武器が曝け出された。
「異国で造られた青龍偃月刀という珍しい武器です。刃に龍の装飾が施されていてとても綺麗でしょう? これは勿論美術品としても価値がありますが間違いなく業物で実戦でも使えます。是非お納め下さい」
青龍偃月刀といえば三国志演義で関羽が愛用した事で有名な武器だ。もっともこの武器ができたのは宋代以降であり三国志の時代にはまだ存在していない。当然正史にも出てこないのだが、青龍偃月刀といえば関羽、関羽といえば青龍偃月刀である。戦史好きのセラムは当然どちらも大好物である。
そんな武器が目の前にある、そりゃあ喜ぶ。セラムは駆け寄り眺め、感嘆の声を上げる。両の手で持ち上げようとするが非力な腕では少し浮いただけであった。
「重いね」
「ふふ、これは十八キロもあるそうです。大の男でも振り回す事はおろか持ち上げるのがやっとでしょう。実戦でも使えるとは申しましたがこれを扱える者はそうそういないでしょうね」
なるほどー、と嬉しそうに頷くセラム。その様子にマエリスも満足そうに微笑んだ。
「思った以上に喜んでいただけて何よりです。貴女の笑顔は特に好ましい。今度来る時はご所望の物をお持ちしましょう。何がよろしいですか? やはり武器の類いでしょうか」
セラムは少し考えた後、言った。
「いえ、でしたら干し昆布をお願いします」
「こんぶ? こんぶとは海藻のアレでしょうか?」
「はい、その昆布です」
「構いませんが……昆布など何に使うのですか? あんなものは地元の漁師くらいしか食べない物ですが。しかもそれを干したものとは」
「まあ食べるのに使うのですが……内緒にしておきましょう。次来る時のお楽しみということで」
セラムはこの世界の食というものに少し不満を抱いていた。冷凍保存がないので多彩な食材がないのは仕方がないとしても、料理のバリエーションが少ないのだ。調理法は焼く、煮る、炒めるくらいで、食事は主にパンと豆のスープを中心に数種類のローテーション。出汁という概念が無いので味に深みがない。
日本人としては食の問題は怒りすら覚える。




