第十五話 マエリス・カールストルム1
応接間に居たのは二十代半ば程の美しい女性だった。
「はじめましてセラム・ジオーネ侯爵。私はマエリス・カールストルムです。カールストルム商会の副会長を務めております。本日は会えて光栄ですわ」
長い金髪を揺らしてお辞儀をするその女性こそがカールストルム商会の窓口役として世界中を駆け巡る大商人の正体であった。
「はじめまして。どうぞお掛け下さい。しかしカールストルム商会の副会長が貴女のような若い女性だとは思いませんでした」
「ふふ、意外性ではヴァイス王国の少将殿には敵いませんわ。会長であるお祖父様も高齢になり本店に腰を落ち着けましたので、まだ若い私が代わりに遠くの顧客に会っていますの。カールストルム商会も元は旅商人、色々な国を巡って様々な品を提供するのが信条ですわ」
「いやこれは失礼、ところで本日はどういったご用向きで? 態々僕に会いたいとは、僕は商人ではありませんし珍しい品物も持ってはいません。侯爵家ではありますが我が国の商権関係が目的なら他に最適な方もいるでしょう?」
「それはもちろん商売になるからですわ。商売をしていると色んな噂が耳に入ってきます。最近の出来事の中では貴女の活躍が目覚ましい。わずか十二歳で初陣を勝利で飾り、ジオーネ侯爵領は産業が発展、領内の鍛冶屋がボルトを発明。その領地では各家庭で手軽に水を汲み上げる事ができ、曰く『実験都市』。貴方が軍隊に入ると同時期にヴァイス王国は革命的に動き出す。既存の階級制度を廃止し、年金制度や給金の見直し、市井からの幅広い登用制度などを盛り込んだ軍制改革、新型の攻城兵器の開発、規格が統一され馬車と一体化できる『コンテナ』の発明、これらの事柄を貴女の活躍時期と赴任場所とに照らし合わせれば……ほら、意外な事実が見えてくる」
マエリスは立てた両の人差し指をちょんとくっつけると、その指越しにセラムの目を見る。
商人ならではの視点でその奥、心中まで見抜こうとするように。
「成る程、貴女が見出だした利は僕自身というわけですか。これはまた過分な評価をいただきましたね」
「では貴女はこれらの事に一切関わっていないと?」
セラムはそれに即答せず考える。彼女に評価を高く見積もってもらう利と低く見積もってもらう利とを比べる。
「いえ、確かに全てに僕が関わっています。僕だけでやったなどとは言いませんが発案、発明したのは僕です」
マエリスはビンゴゲームで四十二インチの薄型テレビが当たった時のようにニンマリと口角を上げた。
「やはり……いえ、予想以上ですわ。今日こちらに来た甲斐があったというもの。おっと、忘れておりました、これは挨拶代わりの手土産です」
マエリスは足元の板の上に乗せて布が巻かれた長物を掌で指し示す。




