第九話 首脳会議4
「現在までのゼイウン公国との関係性だが、我が国とは友好国……というより我が国は保護されているといったほうが近い。これは単純に彼の国の軍事力が圧倒的に高いからだ。その高い軍事力は肥大化したグラーフ王国との戦いにおいても十二分に発揮され、つい最近までは一進一退を繰り返していた。そう、最近まではね」
ガイウスの溜息一つ。セラムが唾を飲み込む音すら響くほど室内が静まり返る。
「戦況がここまで悪化したのはグラーフ王国の六将軍の一人、通称隻眼の軍師ホウセンがゼイウン戦線に参加してからだよ。奴は合流するやいないやゼイウン公国の泣き所を突いてきた。……ゼイウン公国は正しくはゼイウン爵位名家連合国家といってね。元々は皇族と呼ばれる者が治めていたのをクーデターによって各名家が統治するようになった、所謂豪族の集合国家なんだ。今では「公」の位を持った三つの名家がまとめ上げ大国を統治している。その頃から対外的にもゼイウン公国を名乗っているね。ところがその歴史的背景、国家体系ゆえ家ごとの独立意識が高く、常に内部不安を抱えている。今迄は三名家が協力して抑えていたんだが、どうやったのかその三名家を互いに疑心暗鬼にさせた」
「つまり我々が食らったような計略を……」
リカルドがバツの悪そうな顔をした。しまった、とセラムが口をつぐむ。
「恐らく同一犯じゃな。我々を嵌めたような手口で煽ったんじゃろう。結果三名家の一つ、マトゥシュカ家は補給も援軍も受ける事が出来ず押し込まれた。他の二家は恐らくマトゥシュカ家に二心ありと疑いを持っているんじゃろう。気づいた時には遅く、しかも未だ名家同士で牽制しあっているらしく……いや、マトゥシュカ家があっさり負けたからこそかもしれないね。もう一方が本当に裏切っていると疑いを深めている。だからこその縁談じゃ。ヴィグエントを奪還し徹底抗戦の意思を示している我が国との同盟関係をより強固なものにし、他の二家の目を覚まさせる一手となる」
「ですが何故そこで僕なのですか。僕はまだ十二歳ですよ?」
「まったくだわ、あのロリ……」
「相手の方は十五歳じゃ。それ程歳の差はない」
殺気立つアルテアをガイウスが遮る。アルテアも少し落ち着いたらしく深く息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「実際のところ第一王位継承者の私はないにしても親戚連中の王族だっているのにねえ」
「王族という名よりも軍事の中心という実を取ったのでしょう。それにセラム殿も侯爵家。家柄としては十分ですからな」
そう言ったリカルドにセラムが噛み付く。必死である。
「それを言うならリカルド公爵こそ僕より位が上の侯爵家、しかも階級も中将ではないですか」
「私には娘がおりません」
「……だったら向こうの家には姫はいないのですか?」
「マトゥシュカ家にも公女はいますがまだ九歳と聞きます。婚約だけならその歳で前例がないわけではありませんが、我が国の内部で政治的判断を下せる人間でないと意味が無いということでしょう」




