第六十一話 ヴィグエントの中では
ヴィグエントではヴァレリーが信じがたい報告を受けていた。
「キルサンが討ち死に、部隊は全滅だと……!?」
軍隊における「全滅」の定義は軍事行動が不可能なほど壊滅的な打撃を受けた場合に使われる。現代戦では大まかに軍の三割程度が損耗した場合に使われるが、準戦闘員の割合が少ないこの世界においては約半数が死傷、脱走した場合に使われる。
半分以下の人数を相手におよそ信じ難い報告であった。
ヴァレリーは来たる敵軍に備え籠城の準備を始める。だが予想外に兵を消耗させてしまった。こうなってくると左右に砦を持つヴィグエントの特徴的な防御線が悩ましい。砦はグラーフ王国側から見て斜め後ろに作られている。つまり反対側から来る敵の場合、進軍経路によっては砦が突き出た形になり本来の相互防衛が出来ない。しかし砦が陥とされてしまえば敵に腹を見せてしまう。とはいえ三箇所を満足に守る程の兵力は最早無い。
「取り敢えずは分散させる他ない」
そんなヴァレリーに追い打ちをかけるように新たな報が舞い込んだ。
「敵本隊合流、西の砦で交戦!」
やはり来たか、とヴァレリーは身構えた。自分が敵の立場でも一点集中でどちらかの砦を陥とす。となれば街の兵をすぐさま増援に向かわせるべきだろう。
そう指示を出しかけたところで敵は思わぬ一手を打ってきた。
「敵部隊、前方に展開!」
ヴァレリーは最初街からの増援を阻む為の足止め部隊だと思った。だが敵はそれ程大軍というわけでもなく、何やら様子が違った。最前線には矢盾の隙間から覗く見慣れぬ兵器。
防壁の上から見やるヴァレリーに傍らの兵が問いかける。
「如何致しましょう」
「あんなに離れていては相手側からは矢も届かんだろう。だが狙いが分からん以上打って出るわけにもいかん。しばし待機だ」
それこそが敵の狙いかも知れないが、だとしてもあの妙な筒の意味が分からない。後手に回るのは敵の思惑にはまるようで心地悪いが、動くのは軽率だとヴァレリーは考えた。
轟音が鼓膜を揺らした。それが百メートル以上離れた敵陣地からの音だと分かったのは、黒い塊が城壁に突き刺さり足元に地響きを感じてからだった。




