第五十六話 隘路の村攻防戦
セラム隊が村を発ってしばらく、密に出していた斥候が敵部隊を発見した。
「いよいよ仕事だぞ、カルロ君」
「はい。しかし敵は我が隊の倍以上とのこと」
「それを我々だけで止める、どころか殲滅しなければならない」
「出来るでしょうか」
「出来る出来んは軍隊で一番使っちゃいけない言葉だぞ中佐。やるのさ」
セラムは口元を捻じ曲げて付け足す。
「なあに、失敗しても新造の実験部隊一個旅団が無くなるだけだ。ヴァイス王国に何ら痛手は無い。僕達が全滅した後リカルド中将が第二案で奴等を殺せばいい。何も心配する事は無い。結構な事じゃないか」
こんな時は煙草でも吸いたくなる。元の世界でも吸わなくなって久しいが、なるほど、旧軍の支給品に煙草があるのも頷ける。
「さて、悲劇のヒーローになるのも悪くないがその前に一仕事だ。僕は一足先に戻って準備をしてくる。中佐は一当てして敗走してくれ。奴等が食らいつきたくなるくらいセクシーな尻を見せてやれ」
「はっ」
部隊を二つに分け、カルロは敵に、セラムは村に向かう。村に向かう部隊の主力は工兵。そう、戦闘前の村こそが彼らの戦場なのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
戦闘はすぐに追撃戦の様相を呈してきた。ヴァイス兵は最初こそぶつかってくる気概を見せたが、数の差を見るや瓦解して荷物も武器も放り出して逃げていく。
キルサンは噂以上に情けないヴァイス兵に快感と怒りを同時に感じた。
「見ろ、奴等全て捨てて逃げていくぞ! 追いついて踏み潰してしまえ!」
敵の悲鳴が聞こえる。だが段々と平地が狭くなり軍が展開する場が無くなる。そのせいで数が少ない敵は足が速く、横に展開していた兵を狭めざるを得ないこちらは足が遅くなり、なかなか追いつけない。
「奴らめ、鼠の如く逃げよる」
苛立ちながら追っていくとやがて小さな村が見えた。どうやら敵もここまでらしい。
軍が村を素通りして逃げるわけにはいくまい。追い詰めた敵を食らうついでに今日は村が一つ失くなる事になるだろう。実に不運な事だ。
村の入り口を視認したところで妙な物がキルサンの目についた。
村の通りのいたる所に四角い陰影が見える。
「あれは、馬車……か?」




