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第五十五話 グラーフ側
「何? 敵軍がこちらに向かってきているだと?」
ヴィグエントの街、一際立派な建物の中でヴァイス方面軍司令代理、ヴァレリーは余裕の表情でその報告を聞いた。
ダリオとかいう降将からの情報では敵の大将は不具、宰相と貴族達は不仲で軍の上層部に十二歳のメスガキを飾る有り様。その父親であるエルゲント将軍は厄介であったが今のヴァイス王国に恐れる要素は無かった。
ただ一つ、貴族の扇動が上手くいかなかったのは予想外だが、真正面からぶつかっても負ける気はしない。
「数は?」
「二千程かと思われます」
都市攻めには少ない。威力偵察といったところか。
「キルサン、五千を率いて叩き潰してこい」
「はっ、しかし良いのですか? 司令には不在の間籠城して守れと言われていた筈」
「阿呆。二千の兵に籠城しても敵にむざむざ情報を渡すだけだ。何事にも程度があろう」
これで敵を完膚無きまでに叩き反撃する気も起きなくさせてしまえばヴァイス王国も降伏する。
「そうすれば俺の出世は確実だな」
ヴァレリーは思わずこみ上げる笑みを抑えられなかった。




