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少女と戦争  作者: 長月あきの
第二部
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第四十三話 代替技術

 セラムは仕事が終わると研究室に篭もるか工房に顔を出す毎日になった。

 魔法に代わる技術、真っ先に思い付いたのは火薬である。黒色火薬の原料は硝石、硫黄、木炭。硫黄と木炭は用意出来る。問題は硝石だった。

 セラムは戦国時代の本願寺が便所の下の土から硝石を造ったと本で見た事があるので、先ずはくみ取り式の民家から土を貰ってきた。だがそこからどうやって硝石を取り出すのかを知らなかった。当然そのまま混ぜても火薬はできない。試行錯誤の末できたのは何とか燃える物でしかなく、火薬と呼べるような代物は造れなかった。

 そんな物に頼らなくても魔法があるこの世界では火薬は発展しないかもしれない。このままだと造れたとしてもその時には陳腐化していそうだ。


 結局火薬の研究は私財で雇った錬金術士に任せて鍛冶場に向かう。並行してもう一つ研究しているのだ。こちらは現実世界で既に実証済みの原理である。というか、料理中の失敗を基に考えついた方法だった。

 現実世界で圧力鍋を使って煮込み料理を作っていた時の事だ。不注意で鍋の蓋をしっかりロックせず火にかけてしまった。その結果、暫くして料理が爆発、鍋の蓋は天井に激しくぶち当たり鍋の中身はキッチン中にぶち撒けられた事があった。幸い離れていた為その後の掃除が大変程度で済んだが、運が悪ければ大怪我を負っていただろう。

 つまり作ろうとしているのは蒸気圧力式大砲とでも呼ぶべき物である。設計図は既に工房の親方に渡しており、今日はその進捗状況を見に行く予定だった。

 いつも通り鍛冶場で作業している工房の主を見つけるとセラムは気さくに声をかける。


「親方、調子はどう?」


 親方と呼ばれた男、ロモロは声の主がセラムだと気付くと作業の手を止め笑顔で応対する。


「ああ、これは領主様。おかげさまでボルト作りも軌道に乗り、工房もかつて無い程賑わっておりますよ。そろそろ手狭になったので第二工房を作ろうかと思っとるくらいです」


「そりゃあ何より。僕も売上の一部を貰っているからね。商売繁盛なのは良いことだ。ところで頼んでおいた大砲なんだが、どんな感じだい?」


「それでしたら、丁度昨日試作品があがったところです。見ていきますか?」


「早いな。流石親方」


「へえ、ボルトとナット作りで我々の技術もメキメキと向上しておりまして。正直自分でもびっくりするくらいですよ」


 親方の案内で倉庫に行くと、その中央に出来上がったばかりの大砲が鎮座していた。全長二メートル、全幅一メートル程。口径は七十五ミリだから実物を見ると大砲というには少し小さい気がする。もっともセラムのイメージの大砲は戦艦に積むような砲塔の事なので、野戦砲としては十分かもしれない。

 砲身とこの大砲の肝である炉の部分を車輪付きの台座に乗せてあるだけの物であり、仰角や方位角を調節する事は出来ない。まだまだ改良の余地があるが、取り敢えず撃てるかどうかが問題である。


「にしても苦労しましたよ。特にこのロック部分の角度と砲の溝! ナットの構造そのままとはいえこのでかさだ。こんな溝を彫るにはどうすればいいか皆で夜通し考えましてね。溝堀ボルトを少しずつ太くしてやっと……」


 興奮するロモロの言葉を聞き流しながらセラムは構造をチェックする。

 蒸気圧力式大砲の構造は概ね以下の通りだ。

 砲弾は先端が尖っていて中央は十字に溝が彫ってあり、横方向は鍵溝になっている。砲塔の先端から砲弾を入れ、砲身に付いている突起状のロックを差し込んで回すと鍵溝に突起がはまり固定される。砲身は二重構造で、ロックを回すとロックに繋がった内側の筒だけが回る仕組みだ。また、砲弾の底辺部と砲身の底はボルトとナットのような構造になっており、ロックを回しきれば砲弾ごと回り、ペットボトルのキャップのようにしっかりと密着し更に固定される。これで蒸気を逃がさない。その下の炉の中に水を入れ、ひたすら火にかけ沸騰させる。頃合いを見て砲身のロックを回せば圧縮された蒸気に押され砲弾が飛んでいく。

 まさにこの時代における鋳造技術の最先端と言える物だった。


「これが実際に使えるかだが……」


「問題はロックを回す力ですね。砲身ごと回るのでかなり重く」


 セラムが体重をかけてもピクリとも動かない。


「男五人がかりでやっとでした」


「そうか……」


 動かないわけである。セラムはその場で紙にペンを走らせる。


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