第四十二話 ファッキントレーニング
ある日の練兵場に似つかわしくない少女の怒声が響く。セラムが尉官に対して調練を施しているのだ。
「再編成に伴い調練を見直す」
アドルフォの言葉が事の発端だ。白羽の矢が立ったのが何故かセラムだった。もっと他に適任がいるだろうと思ったが、新体制になり他の佐官クラスは皆多忙を極めていた。まだ子供のセラムは比較的仕事が少ない。その上アドルフォが今までに無い調練方法はないかとセラムに振ってきたのだ。
セラムが映画の知識を元に軍隊方式を話すとアドルフォは、
「面白い。いくつかの案を競技して評判が良かったものを採用するから尉官相手にやってみてくれ。先ずはセラム少将から」
と言った。採用されればこの研修を受けた尉官が下士官に示教し、下士官が兵卒にその方式で調練する事になる。
その結果が……
「そのしゃぶるしか脳の無い口でクソ垂れる前に『はい』を付けろ!」
「「はい、少将殿!」」
「声が小さい! タマ付いてんのか!」
「「はい! 少将殿!」」
「ジジイのファックの方がよっぽど気合が入ってる!」
「「「はい! 少将殿!」」」
……これである。
一体どこで間違えたというのか。
「いいか! お前達はこれからケツを拭いた後の紙程の価値も無い兵士共を戦場の死神にする為の方法を学ぶ! それを修得するまでお前達は只のクソだ! クソがカス共を教える事が出来るか?」
「「「いいえ、少将殿!」」」
「ふざけるな! お前達の耳はブタのケツの穴か? 『はい』を付けろと言ったろうがこの顔面便器が!」
「「「はい! 少将殿!」」」
「そのクソが詰まった耳の穴かっぽじってようく聞け、お前は道端に落ちているクソか?」
「はい、いいえ! 少将殿!」
「お前は少尉か?」
「はい! 少将殿!」
「そうだな。だがお前はまだその価値を見せていない。お前は少し上等なクソだ!」
「はい! 少将殿!」
「……とまあこんな感じで人格否定から入ります」
「「「はい! 少将殿!」」」
セラムが普段のテンションに戻っても尉官達は教えが抜け切らないようだった。というか顔を赤らめながら若干ニヤついている人がいるのがちょっと気持ち悪い。
結局このスタートラインから踏み外している講義は盛況を極め、尉官達の圧倒的な支持の元見事採用されることとなる。
セラムは兵卒達に恨まれるんじゃないかと心配になったが、兵卒の中で「偉くなればセラム少将からこの扱いを受ける事が出来る」と噂が広まり、予想外に士気が高まる結果となった。
「……この軍隊大丈夫だろうか」
セラムの呟きはブタのケツの穴には届かなかった。




