第三十七話 自室にて
リカルドはこの国の為に尽力すると約束してくれた。これで国の地盤が固まり反撃の態勢を整えることが出来る。
セラムは家で次の一手を練っていた。
「ルイス侯爵とヴィゴール侯爵の処遇はどうなさるのですか?」
ベルが紅茶を机に置きながら聞いてくる。
「ヴィゴール侯爵は表向きは謀反に係わっていない。グラーフ王国からの賄賂を受け取っていたという証拠はあったが、謀反の計画に加担していたかは分からなかった。恐らくのらりくらりと有利な方に付くつもりだったのだろうな」
「あまり生かしておいて良い人物とは言えないように思えますが」
「いや、ガイウス宰相はこれを弱みにして他の貴族の懐柔をさせると言っていた。奴の顔の広さは確かだからな。しかしルイス侯爵は暗殺未遂の首謀者として処刑される。謀反の証拠があったからな」
誰か一人は責任を取る者が必要だ。リカルドを誤認逮捕で無罪放免とするにはルイスには死んでもらわねばならない。綺麗事が通るのは平和な国だけなのだ。
「何故リカルド公爵は助けられたのですか? 彼はグラーフ王国との密約の証拠があったのでしょう? 消極的な不可侵条約だったとしても」
「納得いかんか? そういえばベルはゼイウン公国出身だったな」
「はい。十歳までは暮らしていました」
ゼイウン公国には生き恥を晒すより名誉ある死を美徳とする文化がある。それ故納得いかないところもあるのだろう。
「書類を洗い出した結果、リカルド公爵はグラーフ王国に対しあくまで消極的な協力に留まっていた。それに貴族の中で一番偉い公爵家であり、貴族に対する影響力も動員できる兵力も大きい。領内を良く収めており有能な御仁だ。とまあ、理を説けば幾らでも言えるがそんな事は解っているのだろう?」
セラムはベルの入れてくれた紅茶を一口飲み息をつく。
「死ぬというのはある意味逃げなんだよ。まあ弱い人間なら誰かのせいにするか、何か尤もらしい理由を見つけて罪を自分以外に押し付けて生きていくだろうが、彼はきっとそれを良しとせず苦しみながら生きていくだろう。それこそが罰になる。彼は自領内の民を守る事こそ至上の責務だと考えていたが、だからこそ視点を変えてやれば国の役に立つと思ったんだよ」
ベルはそれを聞いて納得したように目を伏せた。
「厳しいものですね、生きるというのは」
「そうだな」
暗い雰囲気になりそうだったので別の話題を探す。セラムは以前から聞きたかった事を思い出した。




