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少女と戦争  作者: 長月あきの
第二部
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第二十六話 急転、暗転

 ある日セラムが部屋で休んでいると、ベルが数枚の資料を持って入ってきた。


「セラム様、かねてより調査していたリカルド公爵、ヴィゴール侯爵、ルイス侯爵についてですが、いくつか重要な情報が手に入りました」


「報告を頼む」


「まずリカルド公爵とルイス侯爵ですが、共通の相手と連絡を取り合っている所を確認しました。後をつけてみたところグラーフ王国の手の者と分かりました」


「やはりクロか」


 彼らはグラーフ王国と繋がっている。それが直接的な裏切りなのか、消極的な不可侵の密約なのかまでは分からないが。


「もしかしたらそれにつけ込まれているのかもしれんな」


「と言いますと?」


「公爵には自分の領地を荒らさない代わりに戦争に関与しないとする密約を交わし、伯爵には公爵も了承していると嘘をつき野心を煽り反乱を扇動させる。周りが決起してしまえば公爵の意図とは関係なく反乱軍の盟主とされてしまうだろう」


「確かにリカルド公爵に悪い噂はありません。領主としての評判は上々で人気も高い仁徳の人です。加えて長きに渡って国を守ってきた忠臣でもあります。ガイウス宰相との軋轢はあれど彼の御仁が裏切るとは、私も報告を聞くまで信じられませんでした」


「この資料によると公爵は領民を第一に考える御仁なのだろう。となると今の国情ではとても領民を守れないと見限ってしまったのかもしれないな。グラーフ王国との密約が領地への不可侵条約だとすれば彼の行動に辻褄が合う。このシナリオを考えた奴は相当に性格が悪い」


 さてそうなると今後の行動には王国崩壊の危機が伴う。慎重に行動しなければならない。ゲームであれば反乱分子を粉砕したところだが、今のセラムは将軍でもなければ軍才溢れる偉人でもない。


「他には同じような貴族はいなかったか?」


「その間者はやはり他の何人かの貴族にも連絡を取った形跡があります。しかしこちらの情報網では手が回らず、具体的にどの方にどれ程の頻度で連絡を取っているのかは分かりません。また、秘密裏に証拠の手紙を押さえるのは難しいでしょう」


「そうか。それで、ヴィゴール侯爵の方はどうだった?」


「彼にはあまりよろしくない噂があります。曰く女癖が悪くその手のトラブルが多く、その火消しに税金の使い込みをして度々問題になっているとか。趣味も悪く、……あまりセラム様のお耳には入れたくないのですが」


「かまわん、言ってくれ」


「女好きの度が過ぎていると言いますか、様々な理由で召し抱えられた女性には年端もいかない娘から結婚前夜の女性、部下の未亡人まで幅広くその毒牙にかかっているとの噂です。また野心家であるようで、リカルド公爵さえいなければ貴族の頂点に君臨出来るのにと分を弁えず……失礼、わめきちらしたところを侍女が聞いています。これらに関しての確度は四です」


「! いい情報だ。彼にしよう」


「何がでございますか?」


 セラムの考えを察する事が出来ずベルは疑問を投げかける。


「彼ならば都合良く動いてくれそうという事だよ。彼に取り入り貴族を一枚岩にして国と繋ぐ」


「私は、反対です。セラム様に危険が及ぶ可能性がございます」


 セラムの害悪にしかならなそうな豚に大事な主人を近づけたくないという気持ちがその顔には表れていた。


「だがやるしかない。あまり時間も無い。早速ヴィゴール侯爵に連絡を取ってくれ。セラム・ジオーネが侯爵就任の挨拶に伺いたいと言っていると」


 ベルはしぶしぶではあるが頷くしかなかった。少し時間を空け、言いにくそうにセラムが口を開く。散々逡巡したがやはりやるしかないという感じの切れの悪さだった。


「それともう一つ、メイド隊に頼みたい事があるんだ」


「何なりと」


 ベルは今さっき明らかに自らの身を危険に晒すような命令を下した後で何をそんなに迷うような頼みごとがあるのかと不思議に思った。


「リカルド公爵達と繋がっている間者は捕捉してるんだよね?」


「はい」


「秘密裏に捕まえてとある手紙を書かせてほしい。貴族邸に侵入し密書を盗むのは難しくともこれならば出来ないかな?」


「かしこまりました。手段は問わないという事でよろしいですか?」


「……ああ。どうか頼む。すまない」


 漸くベルは腑に落ちた。この主君はどうにもズレている。自分の危険は厭わずとも部下を危険には晒したくない、自分の手は汚れても部下の手は汚したくない、そんな葛藤を抱いていたのだ。


「……セラム様はお優しいままですね」


「え?」


「随分変わられたと思っていましたが、根の部分はお変わりないようで安心しました。ですが私共の事はどうかお気遣いなく。元々暗部を担っていた者達故このような事は慣れております」


「だと思ったからこそ出来ればさせたくなかったんだよ」


 そう言ってセラムは弱々しく笑った。


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