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少女と戦争  作者: 長月あきの
第三章
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第八十三話 暴勇、散る

 闇の中、瞬きの間だけ男達が照らされる。鉄と鉄が打ち付けられるその一瞬、火花が激戦を映し出す。篝火と星明りを頼りにその戦いを見たいのならば、交錯する肉と肉に触れられる位近づけば良いだろう。但しその時には何人たりとも肉塊になっているに違いない。

 バッカスとロスティスラフの戦いは二十合を数えた。その間に周りでも剣戟が起こり、そして再び静寂が訪れても、二人の動きが止まる事は無かった。

 普通ならば武具ごと潰れる一撃を受け止め、バッカスが息を弾ませる。


「ほんっと、体力と腕力はオーガ並みだな!」


「てめえこそ、こんっな、しぶといのはっ、初めてだぜ!」


 更に大きな火花が散る。二人は狂笑とでもいうべき貌を浮かべていた。


「すまねえ、その面もだったな!」


「っぬかせ!」


 ロスティスラフが鉄棒を振り下ろす。その一撃を見透かしたかのようにバッカスは半身引いて躱すと同時に青龍偃月刀を滑り込ませた。


「何っ!?」


 一瞬遅れてロスティスラフの脚から血が流れ出す。浅い、だが狙いすました一撃。人並み外れた膂力から繰り出される鉄棒の一撃はどれも必殺の威力。掠めただけでもその部位が使えなくなる程の危険性を孕んでいる。躱せる自信があったとしてもそうそう攻撃に意識を向けられるものではない。その上夜中という悪条件なのだ。


「ふいー、やっと目が暗闇に慣れてきたぜ」


 篝火や星明りで全く見えない訳ではないとはいえ、距離感や細かい動きなどは分かりかねる。となれば単純な破壊力で上回るロスティスラフに分がある筈だった。そう、二十合も耐えるだけでも驚嘆すべきなのだ。


(こいつ……俺の攻撃に合わせてきた……っ?)


 ロスティスラフは牛骨の兜の中で冷えた汗を感じた。


「何かの、っ間違いだ!」


 力任せに鉄棒を振り抜く。暴の塊が空を切るに構わず、凶悪なまでの力の流れに逆らうべく腕力(かいなちから)を反対側に振る。


「うおおおおおおああっ!」


 筋肉の繊維が千切れる音がした。刹那、虚空に旋回する筈の鉄棒が異様な軌道で再びバッカスの体目掛けて振り下ろされた。


「てめえと遊ぶのも飽きたぜ、ロスティスラフ」


 通常あり得ない必殺の威力を込めた虚撃、そして物理法則を無視したような軌跡を描く巨撃をどちらも紙一重で躱しながら、バッカスは軽い力でロスティスラフの大木のような腹筋を貫いた。

 信じられない、とロスティスラフが目を剥く。自らの歯を砕く程に噛みしめ、渾身の力を持って鉄棒を振りかぶる。


「ごおおおおおおお!」


「そんな兜を被ってちゃ見にくいだろう!」


 超重の一撃が繰り出される前にバッカスの青龍偃月刀が牛骨の兜を砕いた。破壊音と共に脳が揺さぶられ、ロスティスラフの景色が歪む。それでも全身の力を緩める事無く、全ての思いを込めた一撃を振り下ろした。

 その思いの返礼は、まるで雷光のようだった。気が付けば斬り結んでいた相手は遥か後方に踏み入っており、体の中心から支える力が失われた。まさに敵を倒す、その一心を込めた一撃が砕かれたと理解出来た。

 崩れゆく肉の城が地面に投げ出されたと同時に血の噴水が辺りを濡らす。ロスティスラフの体は横一文字に骨ごと断たれ、辛うじて繋がっている状態だった。

 ロスティスラフの目は、有ってはいけないおかしな角度で自分の足と敵の姿を視界に捉えていた。自分を斬った相手は深く息を吐き隙無く自分を見下ろす。ロスティスラフはもう自分が立つ事は出来ないのだと悟った。


「……あばよ、強敵」


 最後の力で口の端を歪め呟くその男を戦士として見送るかのようにバッカスは力強く軍令をし、仲間達の元へ向かうべく拠点の奥に足を向けた。


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